〜蝶の夢・5〜

ホビット達はフェリシエラ の部屋に通され、侍女からベッド脇に小さな椅子を用意してもらった。

「二日酔いが酷くて、こんな格好でゴメンね」

と、フェリシエラ は笑ったが彼らは顔を赤くしながらブンブンと首を振る。
そういう問題ではない気がした。


ハルディアは彼らの事など目に入っていないようにフェリシエラ だけを見つめ、その長い髪を丁寧に梳いてやっている。
フェリシエラ も彼の仕草に心地よさそうに身を預け、ごく当然のように膝の上に頭を乗せて視線だけこちらに向けて微笑んでいる。


その甘い空間に、居心地の悪さを感じて逃げ出したい衝動に駆られたが、ここで負けては男がすたると、メリーとピピンは口を開く。

「質も〜ん!!」

「ずばりハルディアさんとフェリシエラ 様はどういうご関係ですか??」


その言葉にハルディアは顔を顰めて彼らを見つめる。

あの、気まず過ぎる出会いの時より彼に苦手意識を持っているホビット達は一瞬びくッと身を震わせるが、
フェリシエラ はそんな様子などお構いなしで綺麗な笑顔で答えると。


「・・・愛人よ」


爆弾を投下した。


「あぁ、なんだ愛人かー。てっきりレゴラスの言ってた婚約者かと思ったよ」

「ハルディアさんがそうなら僕らに勝ち目なんて欠片もないもんねー・・・」


二人は一瞬安堵するが、何かおかしいなぁと首を傾げる。


フロドとサムはすでに遠い世界に旅立っていて、目が虚ろだった。


「「ええーー!!!愛人――――ッッ!!!??」」


ロリアン中に響き渡るような声で叫ぶホビット二人。


「そんな!!ロリアンって一夫多妻制ならぬ一妻多夫制だったのーー??」

「ていうか、それじゃあ僕なんて何号さん?2号さん?3号さん??」

「と言う事は、フェリシエラ 様はすでに人妻??」

「しかも白昼堂々愛人と会ってていいのかー??」


パニックになって訳の分からないことを口走っているピピンとメリーに、フェリシエラ はハルディアの膝の上に顔を埋めて
肩を震わせベッドをばんばん叩いている。


その様子に恋人はため息をついた。


「・・・フェリシエラ 」

ハルディアにじろりと睨まれ、少女は涙目になりながら訂正する。


「ゴメンゴメン、ほんの冗談よ。ハルディアはれっきとした私の恋人。まぁ、両親公認だから婚約者とも言うわね」


「あ、なぁんだ。いやだなぁ、僕てっきり本気にしちゃったよ」

「フェリシエラ 様ったらホントにおちゃめだなぁ・・・」


取りあえず二人はホッとしたが、また別のところで落ち込んだ。

結局ハルディアさんとは婚約者なんじゃないか・・・・・・。


心の声までハモっている名コンビである。


その横では今だショックから立ち直れないフロドとサムが魂が抜けたように椅子に座っている。

二人の目には遥か遠いヴァリノールの地が見えていた。


「ねぇ、サム。愛人持ちなんてさすがお姫様だね・・・」

「やはり高貴な方は違いますだ・・・」

「僕らはただの平凡な一ホビットだからね。世界が違うよ」

「平凡が一番ですだ。通行人Aとか第三者の方が幸せというときもありますだ」


うんうん、と頷きあっている二人に、フェリシエラ はでこぴんをかました。

「だーかーらー、違うって言ってるでしょう?ただのジョークよ、ちょっとふざけただけでしょう」


額を擦りながら現実に戻ってきた二人に、彼女はメリーとピピンを見習いなさい、と指差した。

「ユーモアがなくちゃ人生面白くないわよ」

メリピピはそうだとばかりに頷くが、ハルディアは額を押さえてベッドの背にもたれる。


「あなたはふざけ過ぎだ。もう少し落ち着きを持ちなさい」


窘める言葉は綺麗に無視された。


フェリシエラ とホビッツはいろんな話に花を咲かせている。


ただフロドだけは、なんだかハルディアの苦労に同情していた。


「それでね、ロリアンには水面の真ん中に月が映って輝く泉があって、それはそれは綺麗なのよ」

「えぇ見てみたい!フェリシエラ 様連れて行って〜」

ロリアンの名所案内をしているフェリシエラ に、ホビット達は聞き入りながらも口々にせがむ。

まだこの森を全然知らない彼らは、彼女の話す美しい森の様子に好奇心が刺激されまくってうずうずしていた。

そんな彼らを面白そうに見つめながら、フェリシエラ は思いついたように目を輝かせる。


「じゃあ、明日はみんなで“ルシーアの泉”にピクニックに行きましょう?」

その提案にメリーとピピンは歓声を上げて飛び跳ねたが、フロドとサムは心配そうに首を傾げた。


「あの、フェリシエラ 様、体の具合は大丈夫なのですか?」

「おら達はもちろん嬉しいですだが、フェリシエラ 様は・・・」


躊躇いがちに尋ねる二人にフェリシエラ は首を振って艶やかに微笑む。

「大丈夫よ!ただの二日酔いなんだから。明日になれば影も形もなく完全復活だわ」


起き上がって拳をグッと掲げた彼女に、ハルディアの声が振ってくる。


「フェリシエラ !無理はしないと約束したばかりだろう?また何かあったら・・・」

眉を寄せている姿にフェリシエラ が面白くなさそうに脹れると。

ハルディアは少女の腕を掴んで引っ張り、フェリシエラ は後ろから抱きしめられる形で倒れ込んだ。


「大丈夫だよ、無理はしてません。夕暮れには戻るって約束するわ。遠くにも行ったりしないから・・・」


お願い、と潤んだ瞳で見つめられ、彼はホビット達が見ているのにも関わらず彼女の額にキスをする。

「約束は、きちんと守るのだよ?」


その言葉にフェリシエラ は向きを変え、嬉しそうに彼の胸に抱きついた。


「夜には会いに来てね?ハルディアもお仕事頑張って」


頬をすり寄せて可愛らしく囁く彼女に目を細めながら、ハルディアは食い入る様なホビットの視線に気付き、そちらをちらりと見遣ると。

「手を出したら殺す」

というような圧力をかけて、またフェリシエラ を愛しそうに見つめた。

二人の世界に行ってしまったハルディアとフェリシエラ 。

ホビット達はのろのろと立ち上がり、帰り支度を始めた。


翌日。
今日も清々しいほどの晴れ間が広がっていた。
実際カラス・ガラゾンは樹齢何千年もの大木に囲まれていて、枝や樹の葉に遮られ陽光は直
接届いてこなかったが、暖かい木漏れ日が所々降り注いでいる様がとても美しかった。


今日はフェリシエラ とピクニック。


皆、早々から着替えて出掛ける準備をしていたが、昨夜遅くまで物思いに耽ってなかなか寝付けなかったボロミアだけは、まだテントの中にいた。


何度かサムが声をかけてみたのだが一向に出てくる気配はない。

「ボ・ロ・ミ・アvv」

甘やかな可愛らしい声が彼の耳元で囁き、フーッと息を吹きかける。

ホビット達にしてはやけにハートが飛んでいるなと、半分夢の中の彼は寝返りを打った。

「お寝坊さん、起きなさいvv」

柔らかく鼻をくすぐる花の香りと、頬に優しく触れる指の感触。

どこか懐かしくも感じる心地よさに僅かに微笑むと。


小さく溜息をつく気配。

そして、何かが覆い被さってくるような重み。

「いい加減にしないと、襲っちゃうぞvvv」

・・・・・襲う・・・??


まだ覚醒できていない頭が何故か警戒音を鳴らしている。


くすくす、と笑うどう聞いても少女の声・・・・・仲間達じゃない・・・?


不思議、というか不審に思ってうっすらと目を開けると。

自分を覗き込んでいる大きな緑色の瞳が僅か10cmにも満たない距離にあった。


ボロミアは状況が把握できずに石化する。

その不自然な固まり様は、かの有名な「考える人」もびっくりである。


太陽の光を集めて編んだような見事な金髪を揺らし、一瞬天使かとも見紛うような美しい少女は極上の笑みを彼に向ける。

「おはよう、いい夢は見れて?」

小首を傾げて悩殺的な仕草で尋ねるが、ボロミアは口をパクパクさせて言葉にならない。


ちなみに、その第三者が見れば間違いなく卒倒してしまうだろう綺麗な笑顔は、恋人である某ロスロリアン警備隊長に言わせれば悪魔の笑顔である。


「やだ、おもしろ〜い。ボロミア魚みたい。ねぇ、みんな見て見て!!」


フェリシエラ は面白そうに後ろへ声をかけると、テントの端から見慣れた顔が覗いた。


「ほんとだー、ボロミアってば間抜け〜!!」

「金魚みたいだよ、可笑しい!!」

昨日の自分達の事など棚に上げて大爆笑するメリーとピピンの後ろで、笑っていいものかと顔をおかしな具合に歪めているフロドとサム。

その更に後ろではレゴラスが肩を僅かに震わせながら手で口元を覆っていて、ギムリは軽く鼻でフンと笑い飛ばした。

アラゴルンだけは同情の眼差しを向けていたが、その口元がしっかり笑っているのをボロミア
は見た。

「う、うぎゃーーーーーッッ!!!!!!」


奇妙な野太い叫び声と、複数の笑い声が静かなエルフの森にこだました。


悪戯好きな王女の被害を軽減させられる唯一のエルフは、今日は夕方まで国境警備の仕事についている。


果たしてどうなる、ピクニック・・・・・・。

 
 
 
 


〈あとがき〉
もう止められません。
誰か助けてくださいUuしかも全然王子と絡んでないし・・・。
シリアスは何処へ??
突っ込みたい方はBBSでどうぞ〜。

次回は必ずシリアスにします!!(ホントかよUu