〜蝶の夢15〜
懺悔や後悔だけじゃ
この想いを支えられない
たゆたう水の流れのように、止まらぬ出会いと別れ。
「また、貴方に会えるでしょうか?」
「勿論よ、フロド。近いうちに必ず・・・」
フェリシエラ はにっこり笑いかけた。
「貴方ともっと話したかった・・・もし、使命を終えたらまた此処を訪れてもいいですか?」
「ええ、でも今度は私が貴方を訪ねて行くわ」
フェリシエラ が白く細い手を差し伸べると、フロドは一瞬躊躇いながらも服で軽く擦った手を重ねた。
過酷な旅の中で出来た傷や肉刺の鈍い痛みを、柔らかく包み込む彼女の感触。
二人は言葉少なに柔らかく微笑み合うと。
フロドは船に乗って待ち侘びる仲間の元へ、フェリシエラ は少し離れた木陰で佇む恋人の元へと向かった。
「寂しいか?」
肩を抱きながら問い掛ける優しい声に、フェリシエラ は首を振りながら離れていく船に手を振る。
綻んだ口元にどれほどの想いがあるのだろう。
「楽しかった思い出があるもの。彼らはまるで、四季の花が一斉に咲き乱れているみたいだったわ」
彼らを取り巻く光はとても鮮やかだった。
その愚かさすら眩いくらいに。
「とても魅力的だった」
自分には初めから切り取られていたものだから。
小さくなっていく彼らを見守る中、ふとレゴラスと視線が絡んだ。
視力の良いエルフだからこそ、お互いにはっきりと認識できる距離。
二人の中で流れ過ぎ行くのは、初めて出会ったときからの会話、表情、景色、空気。
短いロスロリアン滞在期間の中で、さらにほんの一握りだけ共有した時間。
レゴラスはその愛しさに肩の力を抜いて、僅かに唇を動かした。
「”さようなら”」
紡がれた挨拶に声はないけれど。
満ちる想いが空気を震わすようで。
「”また会えるわ”」
同じように音のないフェリシエラ の微笑みに、胸が熱くなった。
おそらくそれは、初めて彼女が彼に向けた心からの笑顔。
彼が願って、欲して止まなかった笑顔。
最後の最後でやっと見せたのは、存在を受け入れてくれた彼へフェリシエラ からの精一杯の愛情。
「それだけで、私はこの想いを胸にいつまでも生きていけるよ」
青い鱗の魚が一匹、キラリと輝きながら彼の目の前を跳ねていった。
静かになった岸辺には風すら水面を波立たせることはない。
旅の仲間達を見送ったエルフ達はぽつりぽつりと都に足を向ける。
しかしフェリシエラ はいつまでも遠く川の向こうに目を向けていた。
「フェリシエラ ?」
「何?」
消えそうな儚い立ち姿に、ハルディアは妙な感覚に捕われて名を呼んでみた。
返ってくるのは揺るがない凛と整った声音。
いつもと同じ。
「・・・あぁ、いや・・昨日の事があまりにも夢のようで、一瞬不安を覚えたよ」
だが、言い表せない不安定さに、彼は曖昧に答えた。
抱きついて胸に頬を摺り寄せるフェリシエラ は嘆息する。
「こうして貴方の傍にいる私は、夢ではないと思うのだけれど?」
その翡翠の瞳はどこまでも深くて吸い込まれそう。
「そうだな。では私の姫君、これから貴方のご両親に正式な結婚のお許しを頂きに参りたいのですが?」
からかうような声音を混じらせて、ハルディアは過る不安を払った。
細い身体を抱きしめる腕に、力を込める。
「ええ。ご一緒しますわ、私の騎士様。とても嬉しい事だもの、早くお父様とお母様にも知らせなくてはね」
にっこり笑いながらほんのりと頬に朱を昇らせたフェリシエラ に、彼は穏やかな表情を浮かべた。
お互いに少し身体を離しながら、手に手を取り合って歩き出す。
「フェリシエラ 、貴方に永遠の愛を」
「貴方にも、それ以上の愛を」
心から、そう願っている。
もう何度目かも分からない祈りを繰り返しながら。
足取りは軽く、フェリシエラ は泣きたい思いを胸に秘めて微笑んだ。
幸せの絶頂を噛締め、それでも変えられぬ別離のとき。
全てが終わったとき、貴方は私を許してくれますか?
勝手な私を叱ってくれますか?
それでもずっと、思い続けていてくれますか?
そんな日が、早く来ればいいのに。
>>>to be continued
<あとがき>
次はいよいよ一部完結です。。
最後の方、レゴラス以外の旅の仲間は出てきませんでしたがUu
なんだかここら辺は主要キャラだけでシリアスにまとめたかったので。。
温かい目でお許し下さいv>またそれかUu
二部「胡蝶の乱」までお付き合い戴けると嬉しいですvv(二部は短いですがね。。