〜蝶の夢14〜
 
 
 
 
 


ロスロリアンの森に緩く冷たい風が流れていた。

揺れながら散っていく花々を見ている、レゴラスの口元から小さなため息が洩れる。

「・・・憂いの表情でため息なんて、何か悩み事かしら?」

声と共に背後から現れた気配に彼は振り返り、微笑んだ。


「こんばんは、君の事を考えていたんだよ」


「あら、私の何を考えるの?ご丁寧に招待状まで頂けて」


フェリシエラ は悠然と微笑みながら一枚の上質そうな紙を取り出す。


『  今宵、蝶の夜の庭園にて  レゴラス  』


ひらり、一陣の風が通り過ぎ、簡潔な手紙は星空に舞い上がって消えていった。

レゴラスは微笑んだまま、軽くて招きして隣に誘う。


「こちらにおいでよ」


「いや」


「もう、この前のような事はしないから」


距離を置いて佇む彼女に、レゴラスは困ったように眉を動かした。

フェリシエラ はそれを無視して薄い月を仰ぐ。

冴えた光が金髪に深い銀を散らした。


「ゴメンね」


脈絡のない言葉を聞いて、フェリシエラ はレゴラスに顔を向けた。

無表情に近い冷たい影を帯びたそれに、彼は愛しげに目を細める。


「君の気持ちを無視して、自分の欲求だけ満たそうとした」


「別に、もう気にしていないけれど・・・」


素っ気無いながらも、フェリシエラ は内心当惑する。

彼の話したい事はこれだけなのか。

あの、深く暗い呪いを目の当たりにして、自分を強く拒絶していた彼は一体何処へ行ったのか不思議。


「それだけの為にここへ呼んだの?」


「君に会いたくて」


「・・・・・・・・・さようなら」


ため息を吐いて踵を返した彼女をレゴラスは慌てて止めた。

夜の闇に、金色の細い粒子が幾重にも散る。


「私達は明日ここを去るんだ。だから、最後に二人だけで会いたかった」


掴まれた細い腕を眉を潜めてフェリシエラ は見た。


「私に触れないで。穢れるわよ?」


皮肉めいて唇を歪める彼女に、レゴラスの瞳が悲しそうに揺れる。


「ゴメン。私の行動でどれだけ君を傷つけたのか分からないけれど
・・・許してなんて言えた立場でもないけれど・・・それでも、私は君が好きだ」


折れそうな身体をそっと抱きしめる腕が震えていて、フェリシエラ は抗議の声を上げようとしてやめた。


「ねぇ、どうすれば君は私を見てくれるかな?」


切実な想い、真摯な願い、少なからずそれと同様のものを求めていた頃の自分と重なる気がして。

揺れる噴水の水面を見つめながら、彼女は広い背に腕を回す。


「・・・私が見ているのは、ただひとりの存在だけよ」

優しい抱擁とは逆に、その言葉はレゴラスの胸に柔らかく刺さる。

「今も、そしてこれからもずっと」

甘く涼やかな鈴の音。

澄んだ瞳が語るのは、想い人への溢れる愛しさだけ。


「そうだね。それでも私は・・・そんな君も好きだよ。これからだってずっと」

身体を離し、穏やかに微笑むレゴラスを、フェリシエラ は困ったように見上げた。


「君は、月の女神のように美しい」


レゴラスは彼女の細くしなやかな手を持ち上げ、その胸の前で口付ける。

誓う愛の深さと熱に、フェリシエラ の視界が僅かに滲んだ。


「それで?」


「それだけよ」


フェリシエラ は自分の部屋で恋人と深夜のお茶会をしていた。

両手でカップを持つ仕草を眺めながら、ハルディアは難しい顔をした。


「フェリシエラ 、結局貴方は彼のことをどう思っているんだ?」


「どうって?」


「恋愛の対象として見ているのか、そうではないのか」


「・・・恋愛対象って・・・そんな訳ないじゃない・・・」


それは、恋人に対しての言葉なんだろうか。

不快そうに眉を寄せる彼女に構わず、ハルディアは続ける。


「貴方が幸せなら、彼を愛して私の元から去ったとしても構わない」


「私の幸せは、貴方失くして有り得ないの。分かってないのね」


はぁ、と深いため息をつきながらも、フェリシエラ は微笑んで彼に抱きついた。

力強く受け止める腕の暖かさに、そっと目を閉じて。


「貴方がいるから、私は生きていける」


ハルディアの手が、ゆっくりとフェリシエラ の髪を撫でた。


彼女は顔を上げて彼を見上げると、鮮やかに澄んだ瞳と視線がぶつかる。


「貴方を誰よりも愛しているの。だから私を何処へもやらないで。誰にも渡さないで」


無意識に、胸にそっと手を添える癖。


「すまない。貴方を思っていったつもりが、逆に悲しませてしまった」


謝りながら、自分の手も彼女の白い手に添えた。

包み込む温もり、二人の体温がゆっくりと溶け合う。


「いいの、それが貴方なりの優しさだって事も知っているもの」


触れ合うだけで幸せになれるから、他には何もいらない。


「フェリシエラ 」


「なぁに?」


のんびり尋ね返した彼女を、ハルディアはそのまま抱き寄せた。


「私の傍にいることで、貴方の幸せに繋がると自惚れてもいいのなら、永遠を共に生きてくれるか?」


「・・・・・・ハルディア・・・」


瞳を瞬かせているフェリシエラ に、彼はどこまでも穏やかだった。


「フェリシエラ 、私の妻になってほしい」

一瞬言葉を失いながらも、フェリシエラ は綺麗に微笑んだ。

>>>to be continued

<あとがき>

王子が、ハルさんが、とっても偽者。。
しかもプロポーズですか。。報われないわよ、ハルさん。
ヒロインの旅に出る決意は変わりませんので・・・結婚式はやっぱり最終回で。生きてたら・・・>まて
今回王子がヒロインに「月の女神の〜」ってくっさい台詞吐いてたと思うんですけど、それが実は彼女を受け入れた一番のキーポイントかと。
今まで彼はヒロインを太陽だと例えてて、陽の部分でしか彼女を見ていたなかったんですけど、
この台詞で一応受け入れられて、尚且つ彼女を愛すると心に決めたらしいです。。
いい人だね・・・王子・・・でもゴメン、これはハルディア連載さv
取りあえず、話はまだまだ終わりそうにない事をここで予告しておきますUu