〜蝶の夢13〜
 
 
 
 
 


フェリシエラ は目覚めてから旅の仲間達とあまり関わろうとしなかった。

彼らがフェリシエラ の部屋を訪ねても不在のときが多かったし、偶然すれ違ったり、
ホビットたちが彼女会いたさにロスロリアン中を探し回ってやっと見付けても、「忙しい」と一言残してさっさとどこかへと消えていってしまう。

彼女に一番懐いていたホビット達は大いに不満そうにしていたが、本人はそれに特に構わなかった。


忙しい筈の彼女は今、グロールフィンデルの部屋にいた。

窓際の二人がけのソファに座り、グロールフィンデルは読書、フェリシエラ は何をするでもなくぼんやりと外を眺めている。


「ここでそんな暇してるなら、ホビット達と遊んできたら?」


グロールフィンデルは手元の本から目を離さないまま、フェリシエラ に話しかけた。

少し前に突然部屋にやって来て、用がある訳でもなく何かを話すでもなく、ただ傍にいて付き纏う彼女が不思議だ。

しかし彼女は黙って首を横に振り、また静かに外に目を向ける。


「眠ってる間に、彼らの近い未来が見えたの」


「そう」


彼は深くは聞かない。

話したければ、話す必要があるなら、彼女はグロールフィンデルに隠したりはしない。

彼は本のページをぱらりと捲って次の章に入ったが、フェリシエラ の次の言葉を聞いて目の動きが止まった。


「ゴンドールのボロミアは、死ぬわ」

彼は眉を寄せ、フェリシエラ との距離を詰めた。

傍目には親密に寄り添うようにしか見えなくもない。

もっとも、彼らの関係にそんなもの有りはしないが、フェリシエラ は抑えていた哀しみを僅かに滲ませグロールフィンデルを見つめる。

「私の未来を見る力はとても気まぐれで、いつ、どこで、誰が関わっているのかさえ曖昧だけど、当たる確率はとても高いことを知っているでしょう?」

彼は一瞬戸惑うが、その表情はいつものままで、何処か冷たくさえ感じた。

「それは、彼が指輪の魔力に魅入られて?」


「いいえ、確かに名目はそれだけど。実際には違うわ」

グロールフィンデルは無言で先を促した。

フェリシエラ はため息混じりに微笑んでそれに答える。


「彼の死は、アラゴルンに王位を継がせる決意をさせるもの。それは覆されることなく、彼の受けた生に組み込まれた運命だわ」

彼の死は中つ国の行く末を握っている。

それが神の決め与えた、絶対的な意味を持つ使命。

「だから、私は・・・今はまだ、彼らに会いたくないの」

会えば、顔を見れば言ってしまいそうになるような自分が怖くて、教えてその未来から遠ざけたくなる自分が居て、フェリシエラ は震える肩を抱いた。

せめて気持ちに区切りがつくまでは・・・・・・。

「それは・・・また皮肉な未来を見たものだね」

彼女の想いが手に取るように分かり、グロールフィンデルは複雑な気分だった。

長すぎる時を生きてきた彼にとって、短すぎる人間の生に執着することは当の昔に無くなっていた。

ボロミアが今死のうが、長寿を全うして死のうが、彼にとっては変わりなく、きっと淡々と受け入れるのだろう。

しかし、目の前の少女は自分とは違う。

心優しく周りの感情を鋭く読み取るフェリシエラ は、教えられない罪悪感に一人苛まれているのだろう。


「それは君とは関係ないことだ。罪の意識を感じることはないと思うけれど」

「でも、私は知っているのに彼らには教えられないから」

揺れる瞳に、グロールフィンデルは切なさを感じた。

いつでも、彼女を救えるのは自分ではないと知っていながら、心の何処かで引きずる自分がいる。


「ガラドリエル様は、中つ国がモルドールに支配される未来を水鏡に映したが、彼らに教えてはいないよ。
あぁ、フロドにだけは見せたみたいだけど」

「それは・・・お母様も、まだ旅の仲間達にこの世界の行く末を託したいからではない?」

「けれど、彼はその未来を受け入れた上で変えようとする意思を持てるだろうか?
たとえその器があったとしても実際成し遂げられるという保障はないしね」


グロールフィンデルは唇を歪めて暗く笑った。

それはいつもの物腰柔らかな彼からとは全く違った色濃い魔を秘めた表情。


「私の読みでは限りなくゼロに近いと思う」


「それでも、皆無ではないわ」


強くはないがっかりした声でフェリシエラ は答えた。

「可能性は充分ある。私はそれに賭けてみたいのよ」


グロールフィンデルは顎に手を当てて考えるような仕草をする。


「・・・それで、君はどうしようと思うの?」

問いかけに、フェリシエラ は微笑んだ。


「私が、ミスランディアの代わりに彼らの導き手を担うわ。
ボロミアの死は変えられないけれど、出来る限りのこれからの不幸を防ぎたいから」

その言葉に、グロールフィンデルは厳しい視線で彼女を見据える。

「余計な関わり合いは止めた方がいい。知らない方が幸せだというときも、世の中にはあるんだよ?」

お互いに。と、深い意味合いを込めて諭す彼に、それでも彼女は首を横に振った。

「気付くのが遅すぎたかもしれないけれど、やっぱり私はここにいるべきではないわ。呪いに立ち向かう為に、彼らと共に行く必要がある」

伏せていた顔を上げ、見つめ返したフェリシエラ の瞳には、変えることの出来ない決意が秘められていた。

「これは、私自身の為でもあるのよ」

逃げることはもうしたくなかった。

周りに甘える事もいい加減やめようと思う。

例え受け入れられずに一人になったとしても、守りたいただ一つの存在があるから。


「行って来るから。貴方だけは笑って見送ってね?」

にっこり笑う彼女には昔から弱かった。

諦めたようにグロールフィンデルはため息を吐く。

「・・・誰にも言わないで行くのかい?」

「お母様には一言断わって行くわ」

「・・・・・・気をつけて・・・・・・」

ふぃと横を向いて、グロールフィンデルは素っ気無く、けれど彼女の無事を強く願って呟いた。

「ありがとう・・・ごめんなさい」

フェリシエラ は椅子に座ったまま彼の身体を抱きしめて小さく囁く。

グロールフィンデルは目を閉じて、仄かな香りに身を委ねた。


>>>to be continued


<あとがき>

これは間違ってもグロールフィンデル夢ではないはずv
しかもハルディアさんのハの字も見当たりませんね、今回Uu
国境警備の仕事で忙しいのよ、マイダーリンvv・・・のノリで読んでいただければ幸いです>まて
次回・・・は、出てくるかな。。出てこないかも。。>ぇ