〜この青い空の下〜



ある晴れた日の午後。
闇の森の友好大使としてロスロリアンを訪れていた王子レゴラスはある人を探していた。

しかし、絶対に目立つ筈の容姿を持つその人はどこに行っても見つからない。
いくら出会うエルフ達に聞いてみても分からない。

そうして歩き回っているうちにロリアンの外れの方まで来てしまい、さすがにこの辺りにはいないだろうと引き返そうとしたが。
ふと、目の前に広がるエラノールの花の野に目を奪われた。
一面の可憐な花々を守るようにして取り囲む突き出た岩が、まるで秘密の花園のようだった。

そしてその中央には、探していたエルフの少女が、腰を下ろして空を見上げていた。

「フェリシエラ !」

呼び掛けてレゴラスが近づいても、彼女は反応しない。
「こんな所で何をしているんだい?」

「光合成」

黄金に輝くフェリシエラ の髪が、風に揺れて光が舞い散る。

「・・・・・・?エルフに光合成は必要ないと思うよ」
真面目に答える彼にフェリシエラ は笑って、自分の隣をポンポンと叩く。
「レゴラスも座って。お日様から元気をもらうの」
「君はいつでも元気だろう?元気すぎてみんなが困るくらいに」

隣に腰を下ろしたレゴラスの肩に、彼女はそっと頭を凭れかける。
「失礼ね」と呟くと、また空を見上げて微笑んだ。

僅かに伝わってくるフェリシエラ の体温に目を細めて、レゴラスも青い空を見上げた。

「空は、どこまでも青いのね」

「そうだね・・・」
雲が流れ、鳥が遠くに飛んでいる。

「この世界は、ひとつの空で繋がっているのに、どうして私達はひとつになれないの?」
フェリシエラ の悲しげな問いに、驚いて彼女を見つめると。
憂いを帯びた瞳とレゴラスの視線がぶつかる。

「どうして人間も、モルドールも争ってばかりいるの?もとは同じものから生まれた存在なのに、どうして母なる大地を血で染めるのかしら」

「彼らは限りある生だから、与えられた時間の中で自分の生きた証を残そうと功績を大きくしようとしているのかもしれないね」

レゴラスがフェリシエラ の肩を抱くと、その手に細くて白い手が重ねられた。

「でも度が過ぎて、どこかで血が流れるたびに空も赤く染まっていくのよ」

「やることが大きいほど人々は長くその事を忘れないからね」
二人を包む空間は、こんなにも暖かく心地良いのに・・・。
限りある人の子は、それに気付く暇もなく、命の華を散らしていくのだろうか?

「人は、悲しいね」
ポツリと呟くと、レゴラスは微妙な表情でそれに答える。
「けれど人は、私達より強い部分もあるんだよ」
首を傾げるフェリシエラ に、彼は微笑んで。

「愛だよ」

「・・・愛?」
「そう。私達の命は永遠だから、つい男女間の恋愛といった情熱のような感情には疎く、何をするにも時間をかけてしまうからそういう次元を超えてしまうことが多い」
言いながら、次第にレゴラスのフェリシエラ を見つめる視線に熱がこもる。
「けれど人間は、その短い一生の中で懸命に愛を探し、愛のために命をかけるんだよ」
「愛の情熱、か・・・」

フェリシエラ はどこか嬉しそうにレゴラスを見つめると、そこには真剣な眼差しを向ける彼がいた。

「レゴラス?」

小さく呼んでみると、強い力で腕を引っ張られレゴラスの胸の中に抱きしめられる。
頬をくすぐる彼の金の髪と微かな緑葉の香りに心臓がどきどきする。

「レッ、レゴラス!離して・・・」
真っ赤になってフェリシエラ は叫ぶが、彼は一向に腕の力を緩めない。

「君を、愛している。フェリシエラ ・・・」
「えぇッ、な、そんな、嘘・・・」
動揺する彼女の耳元でレゴラスは優しく囁く。
「嘘なんかじゃないよ。第一人間の愛について気付けたのは君が私に教えてくれたから。同じ想いを持つようになって、彼らの生き方を受け入れられるようになった」
どこか恥ずかしいような嬉しいような気持ちに、フェリシエラ は戸惑う。
「さっきからここへ来るまでずっと君を探していたよ。私は明日闇の森へ帰らなければいけない」
その言葉にハッとして彼女はレゴラスを見つめる。
「帰って、しまうの?」
頷くのを見て、フェリシエラ は涙が溢れた。
病気じゃないかと思うほど胸が痛かった。
「だから、君を連れて行きたいんだ」
零れ落ちる涙をすくいながら、レゴラスは彼女に微笑む。

「私の妻として闇の森に来て欲しい、フェリシエラ 。絶対に幸せにすると誓うから」

プロポーズを受けて固まってしまったフェリシエラ 。
その様子をレゴラスは急に不安げに見詰める。

「・・・私の妻は嫌かい?」

少女はその言葉に思い切り首を横に振って、それからもじもじとレゴラスの服に指先で「の」の
字を書いている。
その仕草はまだ幼く可愛らしい。
「あのね、私レゴラスのこと、よくわからないけれど、・・・好きなの」
レゴラスは嬉しくて思わず彼女の細い体を力いっぱい抱きしめる。
「ありがとうフェリシエラ 。私もとても愛しているよ!」

「でもね!!」
息苦しさを感じながらフェリシエラ は声をあげる。
「私が闇の森に入ったらお父様とお母様に会えないわ。そんなの寂しい・・・」
今だ親離れのできていない、俯いてしまった少女にレゴラスは困ってしまう。

「でも、レゴラスと離れるのも嫌だわ」

「フェリシエラ 、闇の森に嫁いでもここには自由に遊びに来ていいんだよ」
頭をよしよしと撫でながら言い聞かせる彼は、なんだか恋人というよりも父親のようだ。

「それだけじゃないの」

そして次にフェリシエラ の口から出た言葉に、レゴラスは固まってしまった。
「私、小さい頃ハルディアのお嫁さんになるって言っちゃったの。
ハルディアはそれを今でも覚えていて、私もレゴラスと会うまではハルディアとそうなるんだって思ってたし・・・
お父様やお母様まで“私達に何かあってもフェリシエラ にはハルディアがいるから安心ね”なんて言っちゃって・・・」

つまりフェリシエラ と警備隊長のハルディアは親公認の、俗に言う婚約者という関係なのか。

「でも、私ハルディアにきちんと自分の気持ち話すわ」

その様子がとても可愛くて愛しくて。
レゴラスはフェリシエラ を抱き締めながら、略奪愛の覚悟を決めた。
友好関係を強めるために訪れた大使がロリアンの王女を略奪してくるなんて父にも勘当されそうだが、そうなったら裂け谷に逃げ込もうという考えが浮かぶ。

この青い空の下、想いが通じ合いいきなり愛の逃避行。に、なるのか?

なんだかレゴラスが変な人になってしまいました。
全体的にまとまりが無くて反省です;
最初はハルディアさんドリで考えていたのですが、たまには違う人も・・・と思い王子にチャレン
ジしてみて、やっぱり慣れないことはしない方がいいかもとしみじみ感じました;;
しかも予定とは大幅に狂って、何プロポーズしてんの?!と一人突っ込んでました(涙)
もう・・・連載頑張ろう・・・。