〜何が何の始まりか〜
鶏が先か、卵が先か。
花が先か、種が先か。
そんな事、永遠の命を持つエルフにさえ分からない・・・・・・。
「グ・ロ・−ル・フィ・ン・デ・ルvv」
執務室で書類をまとめていたグロールフィンデルの背後から、ハート付きの可愛らしい声と共に覆いかぶさってくる少女。
絹のような金の髪を揺らし、細い腕を彼の首に巻きつけて嬉しそうに笑う。
大好きな人の温もりが伝わってくるこの瞬間がとても幸せなのだと、彼女は遠慮なしに身を預けた。
「・・・ フェリシエラ 。またロスロリアンからお忍びで来たね?」
少女の重みにも動じずに、羽ペンを動かす手を休めることなく尋ねると。
フェリシエラ は少しだけ面白くなさそうに膨れて。
「そうよ、せっかく愛しい恋人が遥々ロリアンから会いに来て、苦労して木に登って窓から侵入して、
驚くかなぁと思って背後から抱きついてもそんな素っ気ない態度なの?」
「君の動作一つ一つに驚いていたら、いくら丈夫なエルフでも心臓が弱ってしまうよ」
グロールフィンデルは書類を見直しながら片手で フェリシエラ の腕をはがす。
「それに、生憎私は忙しいんだよ。お姫様」
ポンポンと頭を撫でる仕草に、彼女は膨れっ面のまま彼の腕にすがる。
「もう!子供扱いしないでよ。大体恋人より仕事の方が大切なの?」
「今はね」
サラリと言い切られ、 フェリシエラ は大いにショックを受けた。
「ねぇ、フィンデルvv」
可愛く首を傾げる彼女に、グロールフィンデルは目を向けずに答える。
「なんだい?」
心ここにあらずと、彼はエルロンド卿より任された仕事のことで頭がいっぱいだ。
「私のこと好き?」
「うん」
「愛してる?」
「あぁ」
「誰よりも?」
「そうだね」
義理にも全く篭もっていない返事だけを返すグロールフィンデルに、彼女は地団太を踏んで喚きだす。
「もう、もう!!どうしてそう適当にしか答えてくれないの?!実は私のことなんかなんとも思ってないんでしょ??」
肩をがくがく揺さぶられて、彼はため息を吐きながらようやく フェリシエラ の方に目を向けた。
「・・・ フェリシエラ 」
耳に心地よい低音で囁くと、グロールフィンデルは少女の腕を引き寄せて。
軽く触れるだけのキスをした。
「フィンデル」
もっと、と視線で訴える彼女の頭をまた撫でると。
「いい子だから、聞き分けて王子達と遊んで来なさい」
再び フェリシエラ の存在を無視した。
「・・・・・・・・」
「フィンデル?」
「なんだい?」
もう何をしても無駄だろうと、しょんぼり項垂れながら フェリシエラ は扉に向かう。
「私のこと、どんな風に見てる?」
そっと囁くような呟きに、グロールフィンデルは少しだけ書類上の目を止めて。
「とても可愛いと思ってるよ・・・」
優しい声だったが、 フェリシエラ は複雑そうに「そう」とだけ答えて、扉の向こうに消えていった。
その後、しばらくはアルウェンとお茶をしたり、エルロンドに日頃の愚痴を溢したり、
エステルをからかって遊んでいた フェリシエラ だが、どれもあまり楽しく感じなかった。
「なんだい、 フェリシエラ 。そんな浮かない顔して」
肩を落として長い回廊を歩いていると、エルラダンとエルロヒアに出会い声を掛けられた。
「グロールフィンデル会いたさに折角遊びに来たのに、何かあったのかい?」
心配そうに尋ねる二人に、 フェリシエラ は曖昧に微笑む。
「フィンデル、お仕事で忙しいみたい。相手にしてもらえなかったの・・・」
ため息をついて俯く彼女の姿に、エルラダンとエルロヒアは顔を見合わせた。
「違うだろう、 フェリシエラ 」
「それだけで、日頃いくらグロールフィンデルが叱っても纏わりついて離れない君が落ち込むはずないじゃないか」
隠さずに話してごらん、と甥に当たる筈の二人に兄のように言われてしまって。
フェリシエラ は苦笑する。
「“可愛い”って言われたの・・・」
「「うん、それで?」」
「それだけ」
「「は?」」
それが何か問題あるのだろうかと、首を傾げて聞き返す彼らに頬を膨らませる。
「だって、可愛いなんて子供扱いしてるじゃない!普通、恋人に言うなら“綺麗”とか“美しい”とかでしょう?」
大人の女と認められれば、大好きな人と肩を並べて歩ける様な気がするのに・・・。
「いくら生まれたときから知っていて、小さいときは子守までしてもらったからって・・・今は、一応恋人じゃない・・・」
最後は自信なさ気に小さく呟く フェリシエラ に、二人は微笑んだ。
「つまり君は、グロールフィンデルが本当に自分を恋愛の対象としてみているのか不安になったと」
「生まれたときから知っていて、子ども扱いされてばかりいるから彼の気持ちが分からなくなった?」
こくこくと頷く彼女の後ろにふたりは意味ありげな視線を投げかけると。
「誰が、誰を、恋愛の対象として見ていないって?」
ふたりの声とは違う、よく聴きなれた声が響いた。
驚いて振り返ると、そこには仕事に没頭しているはずの愛しい人の姿。
「・・・・・・??」
よく事情が飲み込めず困惑している フェリシエラ の方に歩み寄ると。
「こんなに君が好きなのにね」
屈んで彼女の耳元で囁き、そのまま細い体を抱きかかえる。
「な、何?・・・えッ、下ろして!フィンデル・・・」
エルラダンとエルロヒアの前で、何の遠慮もなく大胆な行動に出た彼に、 フェリシエラ は真っ赤になって暴れた。
何故、こんな人通りの多いところでお姫様抱っこされなければならないの・・・。
しかし、そんな抵抗には耳を貸さずにグロールフィンデルはすたすたと歩き出す。
「 フェリシエラ 、よかったね。お幸せにー」
「振られたら私の妃にしてあげるからね。いつでもおいでー」
ヒラヒラと手を振って笑っているふたりをグロールフィンデルの肩越しに見つめながら、 フェリシエラ はますます赤くなった。
「林檎みたいだね」
くすくす笑う恋人に、彼女は唇を尖らせる。
「フィンデルのせいじゃない・・・」
腕の中に納まっている少女を優しく見つめながら。
「可愛いは、愛しいって意味なのだけどな」
「えっ?」
ポツリと呟く声に、 フェリシエラ は首を傾げた。
「君が愛しくて愛しくて、堪らないんだよ。 フェリシエラ 」
少し熱を含んだ囁きに、彼女はどうしていいのか分からなくて視線を泳がせる。
「そんなに子供扱いされるのが嫌なら、私ももう我慢しなくていいのかな」
「えッ、我慢って・・・?」
眉を潜めると、捕える様な鋭い視線を向けられる。
「仕事も急いで片付けたことだし、君ご希望の大人の恋愛を教えてあげようか」
固まる フェリシエラ の耳朶をそっと噛むと。
「・・・逃がさないからね、お姫様」
グロールフィンデルは意地悪く微笑んだ。
鶏が先か、卵が先か。
恋をするから大人になるのか。
大人になったから恋をするのか。
分からないけれど・・・・・・。
取りあえず、少女から女性へと、変わるみたいです・・・・・。
〈あとがき〉
この話は個人的にはとても好きなのですが・・・。
お相手がマイナーだ、とかは言わないで下さいねUu
いやでも、フィンデルさん大好きですv
かなり私の書くものは偽者入ってますけど;
ちなみにこれも裏行きv
フィンデルさんの裏とかって私だけかもUu