〜儚さの影に〜

 

 


黒濁の空を裂き、鋭い閃光が走る。


大地に唸る様に響く轟音。


鮮烈な輝きに身が竦むのに、目が離せないのは。

美しいからか、恐ろしいからか。


「まるで、お前みたいだな」

窓の向こうに目をやり呟くエルロンドに、 フェリス は首を傾げながらも彼のティーカップに紅茶を注ぐ。

「何がですか?」


「雷光が・・・」

芳しい香りに目を細めながらカップを傾ける。


「何故、そのように思われるのですか?」


睦言でも囁くように尋ねると。

彼は視線を合わせないまま苦笑した。


「強烈すぎる程の美しさで見る者を惹きつけて已まぬのに、愛を囁き腕に抱こうとすれば呆気なく擦り抜けて消えて行ってしまう・・・と」

その貫けるような白い肌も。

夜の闇に溶ける艶やかな黒髪も。

長い影を落とす睫毛の奥の黒曜石の瞳も。

熟れた果実のような赤い唇も。

しなやかな細い体の全てが。

「息子達が言っていた」


目に焼き付いて離れず、しかし触れることは何処かで躊躇われ。


「王子達が?愛を囁くと?」

可笑しそうに唇を歪める彼女の仕草さえ、琥惑的。

「お戯れを。私をからかっていらっしゃるだけです」

いつもの悪戯のように、と紅茶を口にする。


「あやつらは随分とお前に懸想していると、私でさえ思うが?」

「私は、そうは思いません・・・」


あり得ない。

確信にも似た言いように、エルロンドは更に続ける。


「先日この地に訪れた闇の森の王子も、かなりお前を気に入っていたな」

「黒い瞳のエルフが、珍しかっただけでしょう?」


認めずに、何故かそういった話題を無関心そうに振舞おうとしている フェリス 。

掴みきれない本心。


「エルロンド様は、何故私の恋愛ごとに、私以上に詳しいのでしょう?」

衣ずれの音と共に静かに歩み寄り、 フェリス はエルロンドの前に膝をついて僅かに微笑んだ。

膝に置かれた彼の手を自分の手で包むと、歌うような麗しい声で囁く。

「私に向ける関心は、何処から来るどの様な感情ですか?」


輝く瞳の奥には、やはり黒い、暗い闇。

全てを見透かす様な表情さえ、美しく。


「愛、かもしれぬ」


複雑そうに彼女を見つめながら、エルロンドはその白い頬に手を添えた。


「愛など、在りません」


一瞬、寂しそうに視線が揺れると。

倒れ込むように フェリス は彼の胸の中に顔を埋めた。


「私がお前に愛を持っていないと?それともお前が私に?」


髪を撫でながら、その折れそうな細い体を抱き締める。

彼女の体からほのかに香る、花のような甘い香り。


「この世界に、です」


愛しそうに背に回される指先に、ほんの僅か、力が篭もった。


「では、他人を愛しいと思う気持ちはないのか?」


彼女の小さな顎を持ち上げて上を向かせると。


「それは幻か、一時の美しい夢でしょう・・・」


フェリス は愛というものを拒絶していた。

哀れな程に完全な、憎しみにも似た感情。


「この世に私たちの命以外、永遠にも似た感情など在り得ない」


稲妻のように輝く瞳。

触れることは禁忌のようにも感じる、魅惑的なエルフ。


「では、本当に愛など存在していないのか、確かめてみるか?」

エルロンドはそのふっくらした唇に口付ける。

最初は優しく、徐々に深く。

その口内に舌を侵入させ、翻弄するように惑わす。


熱く、絡め取られる舌の感触に眩暈を覚えながら。

フェリス はその身を彼に預けた。


思考が焼かれて、体が火照り出すのを感じる。

「・・・私には、意味のない、事です・・・・・」

掠れた声を出し、それでもその腕をエルロンドの首に巻きつける フェリス の体を彼は軽々と抱き上げた。


「溶けない雪はないのだよ、 フェリス 」

慈しむ様な優しい声に、彼女は黙って瞳を閉じる。


心に刻まれた、強固なまでの愛への拒絶。


その理由を、彼女の全てを知りたかった。


止まない嵐はないように、拒絶もいつかは消せるはずだから・・・・・・。

〈あとがき〉
これはUP直前まで真剣にボツろうか考えてましたUu
なんかこんな話ばっかですが・・・。
あまりにも偽者なエル様、どうなっちゃうんでしょう?
彼に夢を持っていた人、ゴメンなさい><