12
 
 

アルバムのライナーのレタリングをしている。9歳の
時のことが思い出される。父は膝に僕を乗せて(足
のペダルは彼が踏んだ)、ハンドルを握らせ、初め
て車の運転を教えてくれた。自然とクライスターの
メダル越しに前を、30フィート先の過ぎ去る中央線
を、見つめてしまった。でも、父は経験ゆえの知恵
から、視線を上げて、道の先を見るように言った。
新発見だった:遠くを見れば、手元のことはひとり
でに出来てしまう。

こういう文字は正確さを要求する。でも、いくら"o"
は"i"の高さ(もしくは128分の1インチに限りなく近
く)で最高点に到達しなければならないと言っても、
僕は行の終わりを見ながら書く。自分のものでさえ
ない、僕の前にある動かない手で。
 
 
 

ニューヨーク・シティ    1984年7月

Home