ニューヨーク・シティ
1984年3月
注釈
BOW:曲線、カーブ。;(音楽用語)カーブは付いているが、ほとんどまっすぐな長い棒で、一方の端からもう一方に馬の毛が張られている、ヴァイオリン系の楽器を演奏するのに使われる弓。
CHORD:(音楽用語では)コード:三音かそれ以上の同時に鳴る音の組み合わせ[和音];解説
(幾何学では)弦:円弧、曲線、円周上の2点を結ぶ線分。CRYSTALLIZATION:結晶化、具体化。一定の形になっていくこと。
ECCENTRICITY:中心から外れている;標準からの逸脱。
ENTROPY:エントロピー:浸食、摩滅すること、もしくは摩滅されること。
JAGUAR:ジャガー【訳注:英国の高級車メーカー・ジャガー社の乗用車の総称】:(ここでは)Simon&Garfunkelのこと。
MISALIGNMENT:整然と並んでいない;合意・協力していない
PEREGRINE:ほぼ全世界に生息しているすばしっこいハヤブサ(形容詞として使われる場合:
放浪癖があるという意);(この場合は)アート・ガーファンクルのこと。RADIUS:半径。円または球体の中心から、円周または表面上の点を結んだ線分;限られた区域、長さ、範囲など。
SYNERGY:2つ以上の筋肉、神経の共力作用、もしくは2種類以上の刺激剤、麻薬の相乗作用。
VEHICLE:思想などの伝達手段。:車。
この詩は、アートがかつてないほど、彼とポール・サイモンの違いと、一緒に働こうとすると生じる緊張について説明しようとしている。この詩は1983年を振り返るところから始まる。パートナーとしての関係を続けるに値しないほど状況が悪くなる時を、彼は見極めようとしている。
アートは、「完璧な円」("the perfect circle")をたどると述べる。これは2人がレコーディングしようとしていたアルバム("Think Too Much"というタイトルのアルバムになるはずだったが、結局ポール・サイモンのソロ・アルバム"Hearts and Bones"になった。)について言っているのだろうか? このアルバムを作るためには、「細い線を歩かなければならない」("you must walk a narrow line")(逸脱する可能性はない)、「脱線の力 [定められた道から脇にそれさせる力] を防ぎ、中心 [僕] に向かう螺旋本来の力を抑えなければならない。」("you must check tangential forces and repress the spiral instinct for the center.")
"chord"と"bow"はここでは複数の意味を持つ。"chord"はもちろん、幾何学における弦を表すと同時に、音楽のコードも表す。音楽での意味は和音。幾何学での意味は円弧、曲線、もしくは円周[アルバム]上で直線が交わる2点[ポールとアーティ]。"bow"は発音の仕方によって異なる意味を持つ。【[bau] と発音する時は】 [ポールのやりたいことや、やり方に] おとなしく従わなければならないと言うことを意味し、もしくは【[bou] と発音する時は】カーブや湾曲を意味する。言いかえれば、まっすぐで簡単な道を捨てて、遠回りをし、より難しい解決方法をとると言うことだ。
次の行には、非常に強い感情が含まれている―「そして残りの人生に飛び込んで [過去と折り合いをつける]、こう考える―車輪は[のろまな]車に、羽は飛翔に [軽やかで、自由で、敏速]!」("and you spring to the rest of your life, thinking-wheels are for wagons and wings are for flight !")
そしてアートはまた、彼とポールの仕事の上での関係について思いを馳せる。アートは自分のことを
「自由にあちこちを旅するハヤブサ、空 [彼の芸術的な自由] を離れジャガー [Simon&Garfunkelのこと。
商業的な「マシーン」―エレガントでゴージャス] の車輪に舞い降りる」("free wide ranging peregrine
who leaves the sky to alight on the wheel of a Jaguar.")とたとえている。運転手 [ポール] の左 [よりリベ
ラル?] 後ろにいる、アートの有利な点は「気にくわないことがおおいこと……」("leaves a lot to be desired...")。しかし、「車 [Simon&Garfunkelの関係] の中はごちゃごちゃ[いさかい]」("misalignment
in the vehicle") が起こり、「百万回目の回転までに[二人は何回も違いにぶちあたった] …… 車輪自体は曲がっている [非常に基本的な目的において二人は意見が一致しなかった] ……」("by the millionth revolution...the wheel itself is bent...")そして変化が起きる:アートは怒りを収め、ポールとはこれ以上一緒にやっていくことは出来ないと悟る。友情に大きなひびが入る前に、彼らは冷却期間をとった。
さて、1983年の1月に戻ろう。「震える声帯[すなわち、歌のハモリ(chord) ]で」("with tremulous cords")で、芸術美に専念しようと努めつつも、この思いが満たされることはないことを、充分に気がついているアートは、ポールのレコードの曲を(パートナーとしてよりも、雇われたシンガーとして)歌おうと練習し始める。
【訳者補足】(作者との私信より)
「早送りされた死は逆に再生する」("a death played forward is rebirth in reverse")は言葉遊びだが、1970年と、1983年に起こった Simon&Garfunkel というグループの「死」は、時間を逆回転すると「再生」(再結成)する、ということだと思われる。
備考
アートのソロ・スタイルは流れるようで優しく、オーケストラもよく使う。ゆえに、"forsaking the chord for the bow" というのは、「弓のためにコードを捨てる」すなわち、メインの楽器としてのギターをやめ(Simon&Garfunkel のアルバムの曲がみんなそうだったように。ポールの選んだ楽器がギターだったから。)、弓で弾く楽器―チェロやヴァイオリンを選択するということだろうか?
この分析への質問は作者のMary K Rhinehartさん<MARY-JERRY@prodigy.net>に英語で直接お聞きになるか、日本語で訳者<chie_mc@hotmail.com>まで、お問合せ下さい。感想も熱烈歓迎です。