スイス,アルブラパス
1983年 9月
注釈
ALLUVIAL FAN:扇状地、沖積丘;円錐形の堆積地。流れの速い河川が低地に出たり、流れがゆるやかな川と合流した時にできる、砂や小石が堆積した扇形の地形。【訳者注釈】APOLLO:アポロ:ローマ・ギリシア神話の預言、詩、音楽の神;男性の最高の美しさと優雅さを象徴する。
BEDAZZLE:まぶしくて目がくらむこと;魅する;判断を鈍らせる。
BRUGHELING:16世紀のフランドル派の画家ブリューゲル(Pieter the Elder Bruegel)より。ブリューゲルの作品は困難な改革を選択するか、失われたヨーロッパの統合を再び取り戻すか、という対立が起こったオランダの苦難の時代を映し出した。
CAROLING:讃美歌・喜びの歌を歌うこと。
COMMUNION:与え,受け取るという状態。
DAPHNE:ダフネ:ギリシア神話で、アポロの求愛から逃げるために、月桂樹に変わったというニンフ。
EYE OF THE MIND:(poem35を参照) おそらく、プラトンの『饗宴』(Symposium)の"Beholding beauty with the eye of the mind, he will be enabled to bring forth, not images of beauty, but realities (for he has hold not of an image but of a reality), and bringing forth and nourishing true virtue to become the friend of God and be immortal, if mortal man may."から
【心の目で美を見れば、美の観念ではなく、現実を産み出すことが出来る(観念ではなく、現実をつかんだのだから)。そして、真の美徳を産み出し、育めば、神の友となり、永遠の存在になれるだろう。もし、死すべき運命の人間ができるのなら。】より。
(Bartllet's Familiar Quotations 【バートレット引用字典】より)GORSE:ハリエニシダ(マメ科):とげのある、こんもりした低木。
INVOCATION:叙事詩などの始まりの、詩神ミューズや神などからの助けを求める正式な祈願
MEROVINGIAN:メロビング朝:フランク王国[古代フランス]の5世紀の王朝
SCREE:山腹の急斜面のふもとの、小さな崩れた石の堆積
VENTILATING:公開論議にすること。
【訳注】換気する、風が吹き抜けるという意味もある。
MEADOW:(放牧・干し草用の)牧草地、草地:高地の樹木限界近くの草原:草の茂った川辺の低湿地。解説PINE (第5連3行目):松
PINE (第5連6行目):(動詞)思い焦がれる、恋い慕う、切望する。
PURIST:純粋主義者、純正論者。
純粋主義:外来語や新語を排して純粋性を守り、文法規範を極端に重視すること。また、一般的に妥協を許さない潔癖な態度。また、20世紀初頭にフランスでキュービズム(cubism)に対抗して起こった美術運動。SUCCULENT:サボテンのような多肉植物。この詩ではヤマハニエリシダ(gorse)のことを指す。
TRANSLUCENCE:(透明ではないが)光を通す、半透明の、曇った。
この詩はアートが見たことと感じたこと、二つの視点から書かれている。必ずしもこの順番を正確に追っているわけではないが、基本的にこの詩は、1字ずつ下げて書かれた外面的な要素(見たこと)から始まり、内面的な要素(感じたこと)が字下げなしで書かれている。9連目の真ん中あたりの"Like Apollo following Daphne"【アポロがダフネを求めたように】から代わり、逆の形式で終わっている。アートはここアルブラ・パスの地形と植物相の多様さを、自分自身の意識と、ローリーの死は自分の力ではどうしようもなかったことだった、と徐々に認め受け入れることに、なぞらえている。彼はこう言う。"There is a law to the decent."【下降には法則がある。】高い山からの下降と、精神と魂の深遠へ下降の両方を意味する。
アートは決心する。真実の気持ちを見出すことを決心したのだろうか?ローリーとわかちあった愛を思い出そうと?それとも、周りの美しさと偉大さに心を動かされて、過去よりも現在に生きることにしたのだろうか?
水が"glacial lake"【氷河の湖】から流れ落ち、"alluvial fan"【扇状地】を作りだす。"falls on tumbled rocks"【崩れ落ちた岩の上に落ちる】時に生み出される、"foam in light"【光の中の泡】を"Bedazzling"【まばゆい・まぶしくて目が眩む】という言葉で表現している。同時に、まぶしくて見えないというのは、アートの完全に混乱した精神状態を、指しているのかも。
だけど、彼はちゃんと気がついている。想像力または記憶、すなわち"the eye of the mind"【心の目】は、幸せのあるところに、魂が顔を見せるところに、そして自分よりも偉大な物に接した時に、ちゃんと謙虚な気持ちになるところに存在するということを。
"skin of rock"【岩肌】は抑えきれないほどの感情に立ち向かうために、彼を強くしてくれるのだろう。アートはこれを書いたとき、もうすぐ42歳だった。つまり、"midlife"【中年】に差しかかっていた。アポロはダフネを思い焦がれた。アートがローリーを"in the ventilating cool"【吹きさらしの場所で】思い焦がれるように…この"ventilating"という言葉は、ローリーの死が世間に知られた時の、アートが注目を浴びたことについても、言っているのかもしれない。
運命の相手を失ったということを思いかえす度に感じる、ひどい喪失感("drying teartracks…on [his cheek]"【頬の涙の跡を乾かす】)に打ち勝とうと、彼は歌いだす。
備考
"Allwalt"(アラウォルト)の意味がどうもよくわからない…。乾杯、と言う意味なのだろうか?【訳者補足】
この詩は非常に理解しにくかったので、Maryにより詳しく解釈してもらいました。この解釈がとてもおもしろいので、参考までに載せておきます。私信より:
「第9連で、アートはローリー(すでに自殺を図っていた)への思いをギリシア神話のアポロとダフネの話にたとえている。ふたりが川岸で眠っている間、キューピットが愛の矢をアポロに射ち、ダフネに嫌悪の矢を射た。ふたりはそれまで恋をしていたのに、いまやアポロは好色に彼女を追い、ダフネは彼を嫌悪し、恐れた。彼女は彼の手から逃れることを願い、月桂樹(Laurel)の樹に変えられた。(Laurel(月桂樹)とLaurie(ローリー)の相似にも注目したい。)おそらくこの時、アートはローリーが彼から逃れるために死を選んだ、と感じているのだろう。
この解釈には無理があるかもしれませんが、彼女の自殺、そして彼の"Great Loss"(喪失)の原因を、多分私もあなたも決して知ることは出来ないでしょうからね。」
この分析への質問は作者のMary K Rhinehartさん<MARY-JERRY@prodigy.net>に英語で直接お聞きになるか、日本語で訳者<chie_mc@hotmail.com>まで、お問合せ下さい。感想も熱烈歓迎です。