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ロスアンジェルスからニューヨークに向かう機内にて
1984年 1月


注釈

ASPEN, Colorado:コロラド州アスペン:コロラド州の中南部の都市、プエブロの西約220kmに位置するスキーリゾート地。

LAURIE BIRD:(文脈では) ローリー・バード:(1953年ころ生、1979年没)
アメリカ人女優・モデル。1971年に映画『断絶』(原題 Two-Lane Blacktop )でジェームズ・テイラー(James Taylor)、ウォーレン・オーツ(Warren Oates)、デニス・ウィルソン(Dennis Wilson)と共演。ローリーとアートは1975年の夏に出会い、熱い恋に落ちた。二人は 最初カリフォルニア州マリブで、後にニューヨーク・マンハッタンで、一緒に暮らした。2人の生活は1979年6月に彼女がふたりのマンハッタンのペントハウス 【訳注:高層部(特に最上階)の特別設計の高級マンション】 で自殺するまで続いた。Still Water の大部分は、アートの彼女の死に対処しようとするあがきを形にしたものと言えよう。

"MILENA":「ミレーナ」:(文脈では) ニコラス・ローグ(Nicolas Roeg)監督の映画『ジェラシー』(原題Bad Timing / Sensual Obsession )の主役。女優テレサ・ラッセル(Theresa Russell) が演じた。(アートはもう一人の主役、ドクター・アレックス・リンデン(Dr. Alex Linden)を演じた。)『ジェラシー』はオーストリア、ウィーンを舞台とする、アメリカ人の男女の関係を心理学の観点から扱った作品である。大学教授のドクター・アレックス・リンデンは冷静かつ理性的な精神分析学者。ミレーナ・フレハティ(Milena Flaherty )は自由奔放、若くて独創的な女性である。二人はパーティーで出会う。彼らはすぐに性的にひかれ会う。しかしそれは彼らの激しく、そして不安定な関係の始まりでしかなかった。アレックスとミレーナは幾度も喧嘩をし、ミレーナは二人の破局のあと、自殺を図る。彼女が生死も知れない状態で緊急救命室で治療を受けるあいだ、アレックスは、(ハーベイ・カイテル(Harvey Keitel)演ずる)殺人ではないかと疑いを持つ警視から尋問を受ける。フラッシュ・バック映像が、アレックスが「レイプ」を犯したことを明らかにしていく。彼は、アルコールと薬の過剰服用で昏睡状態に陥ったミレーナと性的な行為を行ったのだ。この映画はそのセックス・シーンの過激さのため、X指定 【17才未満入場禁止】 を受けた。

NICOLAS ROEG:ニコラス・ローグ:(1928年 ロンドン生まれ) 映画カメラマン出身の映画監督。監督作品に 『パフォーマンス』(原題 Peformance )ミック・ジャガー(Mick Jagger)主演(1970年)、『美しき冒険旅行』(原題 Walkabout )(1971)、『ドント・ルック・ナウ』(原題 Don't Look Now )(1973年)、『地球に落ちてきた男』(原題The Man Who Fell To Earth) デビッド・ボウイ(David Bowie)主演(1976年)、『ジェラシー』 アート・ガーファンクル主演(1979年)、Witches (1990年・日本未公開)などがある。

PHIL SPECTOR:フィル・スペクター:(1940年 ニューヨーク・シティ、ブロンクス生まれ) レコードプロデュ―サー。エコーやエンドレスの録音テープなどを用い、ミュージシャンを小さなスタジオで録音させるという、「ウォール・オブ・サウンド」方式を開発したことで有名。Darlene Love、Bob B Soxx & the Bluejeans、Ronettes、Crystalsらを起用、多くのヒット曲を飛ばした。21歳の時に最年少でレコード会社(フィルス・レーベル)社長となり、巨万の富を築きあげた。
The Penguin Encyclopedia of Popular Music より)
【訳者補足】 
Simon & Garfunkelのボックス・セット Old Friends (1997) のデイビット・フリックによるライナーノートに、フィル・スペタターの「オールド・マン・リバー」は、"Bridge Over Troubled Water"に大きな影響を与えた、とある。特に第3バースは、スペクターのレコードのようにしよう、というアートの提案から付け加えられた。(日本語ブックレットの8ページ / 英語ブックレットの27ページ参照)   
 

PHOENIXLIKE:伝説上の鳥フェニックスのように。フェニックスは、五百年ごとに自らを燃やし、灰の中からより美しく生まれ変わって飛び立った。

【訳者注釈】
LONGJOHNS:冬用の手首・足首まである暖かい厚手の下着。

MONKEYBABY:やわらかい素材で作られた、さるのぬいぐるみ。ローリーが赤いつなぎの長い下着を着ているのでアートが彼女のことをそう呼んだと思われる。
 

解説
アートはフランスから戻り、今、ロスアンジェルスからニューヨークに向かう飛行機に乗っている。彼は過去5年間の生活について思いを馳せる。最愛の恋人、ローリー・バード (Still Water の中で彼女のフル・ネームが使われているのはこの詩だけ)を最後に見たときのことを思い出す。1979年2月に二人でコロラド州アスペンでスキーをした時のことだ。彼は3月3日に彼女にさよならを言った。(ローリー:"red one-piece" 【赤のつなぎの】 長い下着姿。 アート:オーストリアのウィーンで映画『ジェラシー』に主演するために飛び立つ直前。) アートは撮影が始まる前に、"the other end of Austria"【オーストリアの反対側】 、おそらくインスブルックで役作りをしながら、クロスカントリー・スキーをして過ごした。その後、1979年3月から6月まで4ヶ月間を撮影に費やした。共演女優は、アレックス(アート)という一人の人間に縛られたくない、自由奔放な若い恋人「ミレーナ」を演じたテレサ・ラッセル。ミレーナは、映画の中で、ふたりの関係が修復不可能になったため、ついに自殺を図る。監督のニック・ローグとアートはこの時期非常に親密になった。ニックはアートにはアレックス役を演ずる素質があると確信していて、アートに、役になりきることを要求した。

しかし、ウィーンでの撮影が終了し、仕上げの撮影のためにニューヨークに移動したアートは、ローリーがふたりのマンションで、変わり果てた姿で発見されたことを知らされた。彼女は自殺したのだ。

この詩の第三連で、私たちはアートの深い苦しみと喪失感を垣間見ることが出来る。"phoenixlike" 【 フェニックスのような 】 ローリーが "will rise in the final pages of [his] backward book" 【 [彼の] 逆に進む本の最後のページ[すなわち話の最初]で飛び立つだろう 】 と書いている。 そして、この後にStill Water で最も哀しい3行が書かれている。

"Finally, what a sobbing writer I shall be then.
With resurrection music, with Phil Spector's 'Old Man
River,' I will reveal How great our love. How great my loss."

【 そしてついには僕は泣きじゃくりながら詩を書くようになってしまう。
復活の音楽に、フィル・スペクターの「オールド・マン・リバー」の調べに
のせて、僕は僕たちの 愛の大きさを 思い知る。僕の無くしたものの大きさも。 】

そして第4連で、アートは「逆向きの本」を書いている。彼の人生における一番最近の出来事―"cycle three of Paul and Artie work (to stave off a stumble) 【ポールとアーティが(失敗を避けるために)一緒に働いた第3期時代】―1)1950年代のTom&Jerry時代、2)1960年代中盤から1970年代の始めまでのSimon & Garfunkel時代、3)1981年から1983年のSimon & Garfunkel再結成時代。これは、ソロでは、デュオとしての輝かしい大成功に追いつかないので、人気のために二人が再結成したのかもしれない、とほのめかしている、数少ない例である。

アートの「逆向きの本」は続く。彼の"excursions in Europe"【ヨーロッパ旅行】、"Alexander Walker【アレクサンダー・ウォーカー】(備考参照); fan mail【ファンレター】 [セントラル・パーク・コンサートとその後のツアーでたくさん来たのだろう]; my books【僕の本】[おそらくこの詩集のこと]; Central Park【セントラル・パーク】 [時の流れを逆行しているので、これは81年9月19日のコンサートを言っていると思われる]; Scissors Cut【シザーズ・カット】 [当時のアートの最新ソロアルバム。1981年の前半にリリースされた]; her diaries【彼女の日記】 [アートは「ローリング・ストーンズ」誌のインタビューで、ローリーの死後、彼女がつけていた日記がとても大切なものになった、と語った]; my three-tiered 'story'【三つの層からなる僕の『物語』】 ['tiered'は'teared'【涙にぬれた】に掛けてあるのかも]? a)僕たちの4年間の歴史 [1975年から1979年]; b)79年の2月から8月までの僕の生活 [この期間は「ジェラシー」のドクター・アレックス・リンデンを演じることと、1979年6月のローリーの死によって生じた心の穴とに、心を苦しめていた時期だろう]; c)the Bad Timing  script【「ジェラシー」の台本】 [1979年2月より前に受け取って読んでいたはず]; her death【彼女の死】[1979年2月より前に置かれているのは(これは逆向きの本だから)おかしい―79年の2月より前に比喩的な意味で死んだ、ということだろうか?]; Our love【僕らの愛】(poem 40を参照。彼は'deeply completely in love'【深く、完全に恋】に落ちていた。); Her【彼女】(彼の人生において、彼女は*大文字【capital】で書かずにはおれないほど、主要な【capital】存在だった。)"

【訳者補足】
*Her 英語では神を代名詞で受ける時、必ず"He"と大文字にすることが思い出される。
 

備考
アレクサンダー・ウォーカーは、イギリスの映画評論家のアレクサンダー・ウォーカーのことだろうか?



この分析への質問は作者のMary K Rhinehartさん<MARY-JERRY@prodigy.net>に英語で直接お聞きになるか、日本語で訳者<chie_mc@hotmail.com>まで、お問合せ下さい。感想も熱烈歓迎です。 

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