それは、
1.建築に際しては必ず設計が必要であり、それを行うのが設計事務所であるから。
2.設計を行うには、建て主と設計者との直接のコミュニケーションが必要であるから。
3.施工等の利害にとらわれない独立した設計・工事監理を行うためには、建て主から直接委託されたいから。

どの様な発注の仕方でも必ずおこなわれる設計ですが、その設計は正しく建て主の意向に沿ったものでなくてはなりません。まず始めに設計事務所に声を掛けてもらえばこれが普通に出来えます。

なぜ「まず始めに設計事務所に声を掛けてもらうのか」についてご理解頂くため、以下に幾つかの説明を掲げます。設計事務所に関してご存知ない方はその概要や役割についての項をごらんください。
そして、「なぜか」について更にご理解頂くため「『まず始めに設計事務所に声を掛ける』をしないとどうなるか」の項もご覧下さい。 



 1. 設計事務所(建築士事務所)とは?

設計事務所は、正しくは建築士事務所といい、1級建築士事務所,2級建築士事務所、木造建築士事務所の3種類があります。

法律の定めで、一定以上の面積の建物の設計や工事監理はこれらの登録された建築士事務所で無ければ出来ません。

建築士事務所は、それぞれに対応した建築士を専任させるなど一定の条件を満たせば、個人や法人誰でも開設でき、多くの工務店も建築士事務所登録をおこなっています。一般にこれらの事務所を兼業事務所といい、設計や工事監理などのみを主たる業務としている事務所を専業事務所といいます。

また、意匠、構造、設備などの専門分野に分かれている場合もあり、すべてを扱う事務所は総合事務所とも呼びます。

設計事務所は、建築の設計や工事監理を行いますが、その他役所への各種申請業務、耐震診断業務、特殊建築物の定期調査報告業務、現況調査及び図面作成業務その他もおこないます。

専業事務所は、建築主から設計等を直接受託しますが、工務店等からも業務を依頼される事もあります。

法律(建築士法)では、一定以上の面積の建物の設計や工事監理は国家資格を持つ登録された建築士でなければ出来ません。例えば、木造で述べ約30坪(100u)を超える建物は無資格ではできません。非木造なら30uから資格が必要です。
 又、それらの建築士も営利を目的として設計等を行うのなら建築士事務所登録が必要となるのです。


 2. 設計事務所 の役割は?

優良な専業事務所が建築主より直接業務を依頼された場合の最も標準的な方法としては次のような形となります。

1.建築主と十分な打合せの上、計画・設計をおこないます。(設計業務)

2.また、役所への申請手続等を行います。(申請等業務)

3.出来あがった設計図により数社の施工会社に見積を依頼します。
 その見積書や工事実績などから最適と思われる施工者を選定し、建築主に推薦します。
(工事監理業務)

4.そして、施工当事者ではない別人格の立場で、設計図通りの工事であるかどうかを確認し、工事をチェックします。異なった部分を発見した場合、施工の利害に係わらないので、あくまで建物にとっての良し悪しを基準とし総合的で純粋な判断によりこれを是正させます。(工事監理業務)

 3. 「まず初めに設計事務所に声をかける」ことをしないとどうなるか

建物の建築には必ず設計図が必要です。まず初めに設計事務所に声をかけるとかけないに係わらず、設計はおこなわれます。

設計事務所へ建築主が直接設計を依頼しない場合は、@工務店の所属事務所(設計部)が設計するか、A専業の設計事務所へ外注の形で設計が委託されます。@の工務店の所属事務所が、専業の事務所と同様の設計や工事監理を行うのであれば問題はありませんが、現実には必ずしもそうではありません。

Aの外注先の設計事務所の方は、直接建築主から受託せず工務店経由で受託となった場合、建築士と直接のコミニュケーションが計れないケースがあります。また、取引上は依頼主である工務店の指示に従うことが建築主の希望より優先されることもあります。工務店が建築主の意思を的確に捉え、適切にプロデュースを行い問題が起きない例ももちろんありますが、多くの例では、建築主にとって最も適した設計が行われることはなかなか難しいことです。

また、設計は形として残り、後日にその内容の客観的な評価も出来ますが、工事監理の場合は形に残りにくく、このような受託形態で真に建築主にとって適切な工事監理が行われるかどうかが大きな問題であるといえます。

つまり、同じ身内の者の立場で施工のチェックがどこまで出来るのかという課題です。ちなみに、優良な設計事務所では建築士法に定められた「工事監理報告書」を竣工時に作成して建築主宛に提出するのは当然のことですが、工務店の設計施工ではどれだけこの報告書を提出しているでしょうか。工務店でも設計事務所でも、どの程度の意識を持っているかを判断するバロメーターとして、この点を確認してみるのも良い方法です。

次に、「まず初めに設計事務所に声をかけていただく」場合は、施工者の選定がまだ白紙であるということです。専業の設計事務所でなく、工務店に声をかけるということは、工事をその工務店に任せることを前提としてしまいます。

もちろん、建築主がその工務店を信頼して任せたいという方法は決して悪い方法ではなく、問題無く完成した実績も多くあります。しかし、まれに建築の専門家でない建築主には見抜けない施工上の問題を内在している一見良さそうに見える工務店もあります。

施工者選定が白紙状態なら、私達設計事務所は、与えられた条件の中から、やはり利害に縛られずに建築主に最も適した工務店を選出することができます。

設計や工事監理は安全で快適な建物を建てるため非常に重要なシステムです。建物を建てる方から直接依頼されるかどうかにより、その重要なシステムが機能するかどうかが決まります。

なお、建築主の方が工務店に声をかけても、その工務店が私達のような設計事務所を紹介して直接設計委託するように勧める適切な見識を持つ工務店もあることを付け加えておきます。


 4. 工事監理の重要性をご存知ですか。

工事監理者は、法律上、建築主のあなたが選任しなくてはならないことをご存知ですか?工事監理は、前に触れたように設計図通りに工事が行われているかをチェックする業務を中心とし、そのほか施工者の選定や見積書の審査などが主な業務です。建物の規模に応じた工事監理者を定め任命することが「建築士法」で建築主の方々に義務付けられています。この事は、建築専門家でも知らない人もいます。工事監理が社会にあまり知られていないことの現れでしょう。

意図的な手抜き工事はもちろん、悪意の無い工事ミスでも建築主の利益を侵害されます。特に大地震の時の損壊などでそれが現れます。逆にいえば、地震さえ起こらなければ、かなりズサンな工事でもそれが現れることなくその建物の寿命を迎えることもありえます。そのために、まじめな工事への評価が低く、目に見えない部分に不良部分があってもコストや見栄えなどを優先させる傾向を生んでいます。構造面以外でも、例えば設備など表面には出てこないものの建物にとって重要な役割を果たす部分が多くあります。

これらの施工の責任は施工者にあります。不良工事の防止は施工者自身が行わなければなりませんが、やはり自己管理の限界があります。そこで、施工者と同じ内容では多くのコストがかかってしまうため、いくつかのポイントを抑えた第3者によるチェックシステムとして工事監理があるのです。2重安全弁的な役割の設計事務所のチェックですが、第3者の専門家によるチェックはかなり効果があります。

このように、工事監理は施工管理とは異なりますが、その業務は受注生産方式をとる一般的な建築請負工事において非常に重要なのです。

 5. 設計料(事務所の報酬)について

まず、設計料に一定の比率や金額は存在しません。時々、工事費の一割位などと言われたりしますが、そもそも業務内容を定めずに工事費に対する割合(パーセント)で算定するドンブリ勘定方式は問題がありますし、現在一割という値に根拠はありません。

設計料等の建築士事務所の業務報酬の算出方法については、基本的に公的なガイドライン(建設大臣告示)が定められています。この内容は公益法人である建築関係諸団体(社団法人東京都建築士事務所協会社団法人日本建築士事務所協会連合会など)のホームページなどをご覧下さい。

この算定方法の原則として、報酬は「従事する時間に比例する」とお考え下さい。また、人件費を基準として事務所の経費をその倍数で定める略算方法を採用しています。
 更に、一般的な建物の予想される若しくは必要と思われる手間(人日数)を工事費毎にあらかじめ定めています。
 その上で各事務所の実態と受託する業務内容に応じて調整し算出することになります。

つまり、建設大臣告示では建築主に対して公正で合理的な方法を示していますので、この方法で算出することが最も適切であるといえます。

設計界も市場原理とは無縁ではなく、事務所の経費の工夫などを行わないと今後も生き残れなくなりますが、設計料は値切ったからといってそれが建築主の為になるとは限りません。それは、出来あがった製品を販売する場合、その価格がどの程度になろうとも品質に一切影響を与えないという特質がありますが、受託形式では業務の質が各種の事情により影響を受けてしまうからです。

設計施工の場合、設計料を無料にするとか、相当に低い額で業務を請けるという話を聞くこともあります。しかし、本来必要な設計を果たして無料若しくはそれに近い額で行えるのか注意が必要です。本来必要な業務であれば、その為の人件費等の経費が発生します。つまり、工事も受注するので表面上は設計料と示していないだけで実際は工事費の中に含まれるわけです。また、設計の手間をかけないから設計料がいらないという理由の場合を考えてみると、設計を軽視して良い建物が出来るはずのないことから大変無謀な試みと言って良いでしょう。

優良な設計事務所は、建築主にとって決して不利にならない建設大臣告示に基づいた方法で、その受託する業務内容に対応した報酬算定をおこない、その内容を明示した見積を提示します。単純に安ければ良いという発想でなく、適切な報酬を支払うことにより設計事務所を有効に利用して最終的に自らの利益することが賢明な建築主と言えるでしょう。


 6. 結論

設計事務所についてあまり知られていないことや、なんとなく敷居が高いと思われるという現実から、家を建てようとしたときには工務店(建築会社)にまず声をかけることが多いのでしょう。

しかし、上記の説明で申し上げたように、設計事務所は設計や工事監理を行うための組織です。遠回りせず、最もその業務を行うにふさわしい設計事務所に気軽にお越し下さい。

ただし、 すべての設計事務所が上記のような事務所とは言切れませんので、設計事務所の選定にも注意が必要です。また、伝統的木造建築など、設計施工でもその特性を生かしてすばらしい建物を造っていることもあり、ここでは絶対に設計施工を否定するものではありません。

もっとも、この場合でも、設計・工事監理を行うのなら建築士事務所登録が必要なので、結局は、工務店が設計を行うのではなく、別組織の工務店所属の設計事務所が設計等をおこなうことにはなります。

要は、その設計事務所が建築士事務所としての業務をいかに正しくおこなうかが重要な要素になります。

理想的な進め方で真に良い建物を造るために「まず初めに設計事務所に気軽に相談に行く」という方法を、ぜひお考え下さい。