ハッサン・ファティの著書 『貧者のための建築』


地球上で最も安価な建設材料は「土」である。下図のように、簡単な木の型枠(底なし)に、繊維質のワラやスサを混ぜて、水で柔らかくした粘土を入れ、しばらくして型枠を抜き、天日で乾かすと、手に持って作業ができるサイズの 「日乾しレンガ」 ができる(ニュー・グルナにて)。

しかし、石やレンガでアーチを作るには 下図のように、中東では高価な木材による型枠、支保工が要る(アシュートの白修道院での修復工事、ここでは 下部に鉄骨を用いている)。

ファティは、下図の、ルクソールにある 紀元前の ラメセウムの、日乾しレンガの倉庫群は、おそらく 型枠なしで作られたであろう ことに気が付く。

それには 下図のように、垂直の壁に もたせ掛けるように、斜めのアーチ状にレンガを張り付けていけば、型枠や支保工無しに、半円筒形のヴォールト屋根が できる、ということも理解する。その技術を、先祖から代々受け継いできた職人が アスワン地方で仕事をしていることを知り、カイロに呼び寄せたのである。

下図は、ファティが設計して、こうした方法で建てた、ニュー・グルナの、今は使われていない マーケットの建物である。半壊しているので、建設法が よくわかる。

しかも 土の建物は、冬暖かく、夏は涼しい。こうしてファティは、最も安価な「貧者のための」家を、生涯 作っていくことに 決めたのであった。