ジオン内痔核硬化療法のまとめ 2008年6月18日 荒木産婦人科肛門科 荒木常男
目的 
切らずに治す内痔核治療法として、当院でも2006年2月より、ジオン硬化療法を開始して2年が経過しました。今回38例と症例は少ないのですが、その効果と合併症の種類、頻度をまとめてみました。その結果は当初販売会社が述べているものとはかなり異なっていました。今後の適切な使用、適切な対象者の選定に役立てるため、効果と合併症をまとめました。
目次
1. 期間
2. 対象人数
3. 手術・麻酔方法、手術時間、使用量
4. 止血効果
5. 脱出治療効果
6. 追加治療
7. 脱出再発率
8. 術中・術後合併症
@仙骨硬膜外麻酔直後の血圧低下
A仙骨硬膜外麻酔直後の血圧低下で昇圧剤を投与した例
Bジオン注射後の血圧低下例
Cジオン注射後の血圧低下のため昇圧剤を使用した例
Dジオン注射後の下腹部痛出現率
Eジオン注射当日肛門浮腫発生率
Fジオン注射直後よりの合併症
9.考察
10.結論
11.今後の対策

1.期間 2006年2月18日〜2008年3月18日(2年1ヶ月)

2.対象人数 38名

人数 平均満年齢 年齢幅
19 55.8±14.4 28〜75
19 49.2±13.7 31〜69
男女 38 52.5±14.3 28〜75

3.手術・麻酔方法、手術時間、使用量

麻酔は仙骨硬膜外麻酔、麻酔剤は2%キシロカインポリアンプ10ml、手術体位は軽いジャックナイフ位、マッサージは総ての部位への注射後に実施、術後2〜3時間後に肛門を診察して、退院。ジオンは生食付きを使用。
人数 平均手術時間・分 使用量ml
19 8.0±3.0
19 8.9±3.3
男女 38 8.5±3.2 30.1±7.0

4.止血効果

術前より出血無し 術前有り、術後無し 術前有り、術後有り 不明
9 8 2 0
10 9 0 0
男女 19 17 2 0


止血有効率=17/19=0.89    止血無効率=2/19=0.11

5.脱出治療効果

有効 不十分 無効 不明
12 2 2 3
8 5 5 1
男女 20 7 7 4


脱出治療効果有効率=20/38=0.53  無効率=7/38=0.18

6.追加治療(ゴム輪結紮ないし根治手術)実施

無し 有り 不明
4 2 13
6 2 11
男女 10 4 24


追加治療実施率=4/38=0.11
ゴム輪結紮は3例、根治術は1例

7.脱出再発

無し 当初より無効(内投与量不足) 有り 不明
1 2(1) 4 12
2 5(3) 4 8
男女 3 7(4) 8 20
中間・外痔核合併有り 3 7 5 12
中間・外痔核合併無し 0 0 3 8


有効率=3/38=0.08
無効及び再発例率=15/38=0.48
不明=20/38=0.53

8.術中・術後合併症
@仙骨硬膜外麻酔直後(10分前後)の血圧低下例 無し
A仙骨硬膜外麻酔直後(10分前後)の血圧低下等で昇圧剤を投与した症例 無し
Bジオン注射後の血圧低下例 有り 率=6/38=0.16 
この6例中5例はジオン注射中の下腹部痛も訴えていました。

無し 有り
18 1
14 5
男女 32 6


Cジオン注射後の血圧低下の為、昇圧剤使用症例  使用率=4/38=0.11

無し 有り
18 1
16 3
男女 34 4

Dジオン注射直後の下腹部痛 発生率=14/38=0.37 この14例中血圧低下は5例、なしは9例。

無し 有り
12 7
12 7
男女 24 14

Eジオン注射当日肛門浮腫発生例 発生率=5/38=0.13

無し 有り
16 3
17 2
男女 33 5

Fジオン注射直後よりの合併症

全身痙攣 肛門浮腫 肛門痛 肛門狭窄 発熱 直腸潰瘍 (不明) 合計
0 3 4 1 2 0 (2) 10
1 2 7 0 0 0 (2) 10
男女 1 5 11 1 2 0 (4) 20
発生率 0.03 0.13 0.29 0.03 0.05 0 0.53

9.考察
@手術時間は男女38人につき、8.5分でLiga Sure使用の切除術の約半分と短い結果でした。ただし、すべての痔核への注射終了後にマッサージを行っており、この時間(約2〜3分)は含めていません。
A止血効果は術前に出血のあった男女19人中17名(89%)において有効でした。しかし2例(11%)は無効でした。このうちの1例では、過去7年にパオスクレ12回、ゴム輪結紮5回実施しており、パオスクレを頻回に実施した症例は不適当であることが示唆されました。
B脱出治療効果(注射後1週間以内)は男女38人中20人(53%)において有効でしたが、7例(18%)で無効でした。期待はずれの感を否めません。
C脱出治療効果(1から3ヶ月後)は不明例が20人なので、算出不能でした。逆の無効と再脱出の合計数は15例(48%)とこれまた困った結果でした。
D合併症
(1)仙骨硬膜外麻酔直後(10分前後)の血圧低下例は認めませんでした。
(2) ジオン注射後の血圧低下例は、6例(16%)あり、うち4例(11%)で昇圧剤を投与しました。6例中5例が下腹部痛も訴えており、骨盤内迷走神経刺激反応が考えられます。
(3) ジオン注射直後の下腹部痛の出現例数は14例(37%)で3人に1人の割合でした。
(4) ジオン注射当日の肛門浮腫に発生率は5人(13%)でLiga Sure使用の場合のそれ(26/34=0.76)よりは低率でした。
(5) 合併症で重大と考えられる事象は、全身痙攣1例、肛門痛11例(29%)を認めました。特に肛門痛を強烈に訴えた患者が2名存在しました。1例はジオン注射後1時間から13日間持続し、もう一例は術後6日目から19日目まで持続しました。
(6)直腸潰瘍の症例はありませんでした。

10.結論
@ 今回のまとめでは、脱出治療効果は、1〜3ヶ月後では、無効・再発例率48%から逆算して52%以下と考えられ、期待はずれの結果でした。
A この原因の一つは、中間・外痔核の合併や、第4段注射が肛門痛のため減量したことも考えられます。
B 1例の患者で術直後から約2週間近く強烈な肛門痛の訴えがありましたが、術前に肛門痛を訴えている場合はジオン投与を中止すべきと考えられました。
C 以上の結果より、ジオン内痔核硬化療法の適切な患者は、中間・外痔核の合併しない脱出性内痔核であると考えられました。

11.今後の対策
@ 適応患者の厳選  中間・外痔核合併の場合は、切除根治術を勧めます。
A 手術患者への説明  中間・外痔核合併の患者にジオン硬化療法を予定する場合は、有効率が約50%であることを説明します。
B ジオン硬化療法実施日の術前状態において、浮腫がひどいとか、肛門痛がひどい場合は、延期します。
C ジオン注射による、全身痙攣、低血圧など副作用が約18%に見られるので、術中管理が大切です。
Dジオン注射時の下腹部痛を軽減させるため、今後は無痛化剤付ジオンを使用します。 戻る