○医療施設における院内感染の防止について
(平成三年六月二六日)
(指第四六号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省健康政策局指導課長通知)
標記については、これまでも医療法第二○条の規定に基づき、医療監視等を通じて対
応してきたところである。近年新たにMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院
内感染が問題となってきていることから、この機会に改めて一般的な院内感染に対す
る注意を喚起するため、「院内感染症の現状と対策に関する研究」(昭和六二年度厚
生省厚生科学研究費補助金(特別研究事業)主任研究者:蟻田功国立熊本病院長)のう
ち関係部分の要旨を別添の通りまとめたので、貴職におかれては、今後の院内感染防
止対策の推進に当たって活用されるとともに関係者への周知徹底を図られたい。
(別添)
「院内感染症の現状と対策に関する研究」報告要旨
(昭和六二年度厚生省厚生科学研究費補助金(特別研究事業))
(主任研究者:蟻田功国立熊本病院長)
1 院内感染対策の意義
院内感染とは(1)医療施設における入院患者が原疾患とは別に新たにり患した感染
症、(2)医療従事者が病院内において感染した感染症のことである。
院内感染は、人から人または医療器具などを媒介として感染する。特に、免疫力の低
下した患者や新生児、老人などは通常の病原微生物だけではなく、感染力の弱い細菌
により院内感染(日和見感染)を起こす場合がある。
院内の清潔保持に注意することなどの院内感染防止対策には、各医療従事者ごとにで
はなく、医療施設全体として取り組み、万全を期することが必要である。
2 院内感染対策委員会
院内感染対策を推進する目的で、医療施設の各部門のメンバー(管理的立場にある職
員、医師、看護婦、検査技師等病院内の各部門を代表する職員)から構成される「院
内感染対策委員会」を設置する必要がある。
この委員会で、消毒・清掃等の技術、処理の改善方法などを討議し院内感染に対する
マニュアルを作成することが必要である。また、職員に対しての「院内感染」につい
ての周知徹底や啓発、感染が判明した場合の報告とその対応、院内感染の調査、院内
清潔度や滅菌消毒業務の調査をこの委員会が中心になって行うことが必要である。
3 手指消毒
手洗いの励行は感染経路を遮断する最も有効で簡単な方法である。医療業務の中で石
鹸と流水により頻回に手洗いを行うことが最も良いと考えられる。医療従事者ばかり
ではなく、患者についても手洗いを促すことが重要である。
また、手術前や処置前の手洗いは滅菌水、消毒液を用い充分に行う必要がある。
4 清掃、施設管理
病院内の清掃は毎日行う必要がある。特に外部からの感染菌の持込みが多い外来部門
では頻回の清掃、除塵吸着マットの配置などの工夫が必要である。汚れたモップを何
度も使うことは、かえって汚れをひろげる可能性もあり清潔な清掃用具を使用するこ
とが望ましい。特に洗面所、便所、汚物処理室については病原微生物が多く、念入り
な清掃消毒(塩化ベンザルコニウム等による消毒)が必要である。そのほか、鼠族昆虫
の発生母地を無くするために、残飯を速やかに処理することや食品を放置しないこと
に注意する必要がある。
集中治療室、新生児室、手術室、中央材料部などは、清潔度を維持するため、非清
潔・清潔の区域化が必要である。更に清潔区域への出入りには履物の履き替え、帽
子・マスク・ガウンの着用、手洗いを必要とする。適切な空調設備も清潔度維持には
大きな役割を果たすと考えられる。
中央材料部は、使用済み器材を回収し浄化滅菌し供給する部門であり、回収器材の受
け入れ場所と滅菌器材の保管場所が区別されていなければならない。
定期的な細菌検査(落下細菌検査、表面汚染菌検査等)は施設管理の一環としても位置
付けられる。一般病室で検出された細菌の意味づけは困難とされているが無菌治療
室、ICU、手術室では、その検査結果を施設清潔度の指標とすることもできる。
5 滅菌、消毒
滅菌はおもに中央材料部で行われるが、滅菌物の保管は中央材料部だけでなく各病棟
でも行われる。保管の際は、清潔な場所を選び、扉付きの保管庫に収納することが望
ましい。また、使用期限切れや水漏れ、包装の破損の場合は使用しないよう注意する
必要がある。消毒薬は、その作用機序や効果を考慮し、目的に応じた使い方をするこ
とが大切である。戻る