ACT4 10センチの戦い・・
その日・・珍しくいつものポイントから上流に遡ってみる・・
真夏の源流は渇水気味で・・川はいくつもに別れ・・
沢になり・・池になり・・・・
日々その様子を変え・・
目を楽しませてくれる
そこの住人にとっては過酷なのかもしれないが・・
川の中をウエーディングブーツを履いて・・
爽快な気分で歩く
源流の水は真夏でも冷たく・・
ブーツ越しに伝わる感触が心地よい・・
川は沢になり・・青空が木漏れ日になり・・
森はさらに色を増してくる・・
ヤツはそこに居た・・・
幅50センチ・・深さ約10センチ・・
立ち木と倒木が重なる細い・・細い・・緩やかな・・鏡のような流れ・・
ヤツはまだこちらに気付いてはいない・・
難しい場所だ・・・・
一発勝負・・・・
周りの木を少しでも揺らしたら・・
ヤツが少しでも警戒したらそれで終わり・・
私はその場でヤツを観察する・・
中型のアマゴ・・しかし色が異常だ・・
綺麗な紫色をしている・・
おそらく細い流れに取り残されて・・
極限の暮らしでそうなったのだろう・・
しかし美しい・・・
しばし見惚れてしまう・・・
ヤツは立ち木の根の周りを中心に・・
ごく狭い範囲を遊泳し・・
豊かな森から落ちてくる昆虫を食べているようだ・・
真夏の森は虫たちの宝庫・・
見ている間にも一匹の蛾が水面に落ち・・・・
ヤツは警戒しながらもそれを捕食した・・
FLYは黒のエルク・・
ボディに孔雀の羽を使い・・
七色に惑わす魅惑のFLY
ヤツにはこれが真夏の昆虫に見える筈・・
周りの木々に気を使いながら・・
静かに・・慎重に・・
ヤツの庭にFLYをプレゼントする・・
ヤツが来る・・
じっとFLYを観察する・・
通りすぎる・・・
ヤツが来る・・
それを何度か繰り返す・・
結局ヤツは空腹に負けたのか・・
魅惑のボディに騙されたのか・・・・
ヤツは10センチの静寂を破り・・
水面のFLYを捕食する・・
・・・・・・・・・・
ヤツは綺麗だった・・
極限の環境を生きる・・
強者の顔をしていた・・・・
しばらく見惚れた後・・
ヤツをもとの流れに帰す・・
もっと大きい流れに帰そうかとも考えたが・・
やはりココに帰そう・・
ヤツならきっと大丈夫・・
なぜかそんな気がした・・・
ヤツの目が・・
強く強く・・輝いていたから・・
その後ヤツに何度か出会ったが・・
二度と私のFLYに騙されることは無かった・・
10センチの戦い・・
それは・・ほんの偶然の勝利だった・・
FF ROOM10センチの戦い is end
ACT5偶然の巨影
3月・・南国伊豆といえども湖面を吹く風は冷たい・・
魚たちは暖かい場所を求め・・
ときには浅瀬へ・・・時には淵へ・・
それは・・解禁から暫くした・・ある暖かい日・・
奴と出会ったのはそんな日だった・・
解禁直後の鱒達は日に日に釣り人の脅威に晒される・・
彼らは日々学習し・・狡猾になる・・・
昨日まで通用したFLYが・・今日は全く通用しない・・
その日もそうだった・・
そこで切り札・・パールビーズオリジナル・・
これなら奴らも見切れまい・・
トラウト(虹鱒)の目先・・60CM・・流れの速さを読み・・
魚の動きを計算し・・・静かに・・正確に・・そっと切り札を流す・・・
真珠色の輝きが・・奴の目先で踊る・・
警戒に警戒を重ねた古参兵も・・この輝きには適わない・・
あっさりとパールビーズを咥え・・HIT!
40CMのレインボートラウト(虹鱒)
そんなことを何回か繰り返し・・・
数匹釣り上げたころ・・・
そいつは突然現れた・・
狙った獲物の40CM手前に静かに・・そっとFLYをプレゼントした・・まさにそのとき・・
視界に巨大な魚の顔が写る・・だたとにかく巨大・・・
なにが起こったか理解できず・・
しかし体だけは反応していた・・・
無意識にロッド(竿)を立てる・・・・
ごふっ!!巨大な影は一気に走りだす・・・・
しかし・・重い!!・・なにからなにまで・・先程までと桁が違う・・
一瞬見えた奴の顔だけで・・他の魚の半分はあった・・
そのあとはただ夢中・・・
巨影が疾る・・・・走った分ラインを送りだす・・・・
それでも足りずにリールからフライラインが出ていく・・
あっというまにバッキングラインまで出される・・
これ以上出されたらヤバイ・・・
ラインは0.8・・滅多なことでは切れないが・・・
相手はあのサイズだ・・油断すれば一気に切られるだろう・・・
奴の運動ベクトルが少し変わったタイミングを見計らい・・
無理やり奴に引っ張り出されたラインを少しでも回収する・・
また奴が走る・・・・・・・
回収したラインを根こそぎもっていかれる・・
重い・・まるで丸太をひきずっているいうな感覚・・
竿が満月の弧を描き・・・頼りなげに軋む・・・
奴が疾る・・さらに竿は軋む・・軋む・・・
大丈夫なはずだ・・・きっと大丈夫・・
信頼するタックル(道具)たちなら・・きっと奴にも負けないはず・・・
そう信じて・・・
ぐっと耐える・・・
走る・・
疾る・・・・疾る・・・・
重く・・・・深く・・・・・・
軋む・・・・
竿が・・・・腕が・・・・
ラインが・・・flyが・・・・・・
ラインを出される度・・・・
信じていたはずのタックル(道具)達が・・
とたんに心細くなる・・・・
どのくらいそうしていただろう・・・
気が付くと・・奴も私も弱りはて・・・真近で対面していた・・
大きい・・・いままでのどれよりも・・・・
奴の顔は激しい死闘のあとでさえ・・いまだ負けを認めぬ・・
老兵の顔だった・・・
結局・・・・・・
奴はあまりにものその大きさの為・・
私のランディングネットには半分も
その魚体がはいらなかったが・・・苦労のすえ・・
なんとかランディング(とり込み)に成功・・
66.5センチのレインボ−トラウト・・
これは私が戦った魚達では最高の大きさであり・・戦いであり・・・
多分これからもずっと・・私の中で最高である続けるだろう・・
ある春の日・・全く偶然の・・最高のプレゼントだった・・・・。
FF ROOM偶然の巨影 is end
ACT6 最高地の休日

真夏・・冷水温を好む魚達を狙いに南アルプスの最上流に出かけた時のこと・・
ここは標高1500メートル・・人里離れた奥の奥・・・・
周りにはただ深い森があるだけ・・・・
そんな場所・・・・・
源流の流れは速く・・滝壷は白泡で覆われ・・・魚達の姿が巧妙に隠される・・・
そんな場所・・・・・
滝壷で時々イワナが飛び跳ねているが・・・今は真昼・・まさかFLYに反応しないだろう・・
そう思い・・・河原に寝そべる・・・・・心地よい風が河原と私の体を吹きぬけ・・・
浅い眠りに誘う・・・・
ふと目覚め・・しばらくその辺りを眺める・・・・
高山蝶が舞・・・・名も知れぬ可憐な花が咲き・・・・・
空はどこまでも青く・・・深い・・・・・
岩陰に巨大なトビケラの脱皮殻が・・・大きなアリも河原を歩く・・・
ああ・・・自然の恵み・・このおかげでイワナ達は生きているんだと実感する・・・・
暫くして友人がランディングネットを片手に歩いてきた・・・・
そこにはさっきのイワナがいた・・・・
雄大な自然の恵みに育まれたの姿は・・・
とても・・とても・・美しかった・・・・・
ここに来て良かった・・・・
どこまでも青い空と・・源流の王の顔を見て・・・そう思った・・・
FF ROOM is最高地の休日 end
ACT7 梅雨の奇跡

FLYフイッシングは日々思考錯誤と・・失敗の連続である・・
狡猾な魚達はすぐにFLYを学習し・・覚え・・見切る・・・
それを狙う釣り人は常に新しいFLYパターンを開発し・・魚との本来とは違う意味での戦いを繰り広げる・・
そのとき・・その場所でどんな水生昆虫が発生するのか・・
素材となるマテリアル(鳥の羽)が水中で魚にどのように見えるのか・・
魚の本能を刺激し・・理性を狂わせ・・夢中にさせる自分だけの妖精(FLY)・・
作る側と・・それを見破る側・・FLYの真の楽しさでもある・・もう一つの戦い・・・
古来より日本にも・・テンカラと呼ばれる・・毛ばりがあり・・
日本の風土に合わせて・・独自に発展してきた毛ばりがある・・
これらはシンプルにして・・強力・・魅惑的・・そう・・ヤツらにとっては危険極まる存在が・・・
ある梅雨の晴れ間・・いつものポイントに出かける・・・・
南国の湖・・流れ込む水の僅かな涼と・・餌を求めて・・ヤツらがあつまる・・・
静かな・・流れ込み・・・・
水は薄にごり・・・水面近くを定位する魚が見える・・魚影は濃い・・
こんなときには定番のビーズパターンを流す・・・・・
完全に見切られている・・・・ヤツらは手強い・・・・・
一昨日まではこのパターンで完璧だったはずなのだが・・・
アトラクターニンフ・・・ドライフライ・・・フェザントテイル・・・・・
実績のあるパターンを次々と試す・・・・・
今日のヤツらはかなりグルメだ・・・・
FLYBOXの一番隅・・・・テンカラ毛ばりからヒントを得て作った試作FLY・・
オリーブの極太ソフトハックル・・・・
それは・・・魅惑だったのか・・それとも梅雨の奇跡か・・・
今までが嘘のように・・楽しい釣りが出来のだった・・・・・・
それからずっと私のFLYBOXにはオリーブの極太ソフトハックルが必ずある・・
ファットマン・オリーブ・・それが私の最初のオリジナルFLYであり・・
今回の話しの主人公である・・・・
FFROOM 梅雨の奇跡IS END
ACT8 天からの恵み

今日もここにやってきた・・・
ヤツと逢うために・・・・・・
ヤツは王者・・・・・
狡猾・・・・にして・・慎重・・・・
手強い敵だ・・・・・・
激しい流れが急に穏やかになる大きな淵・・・・・・
そこにヤツはいる・・・・・・
どこまでも澄んだ流れは深く・・・・ヤツの最大の味方・・・・・・
どんなにこちらが巧く隠れても・・・ヤツには通用しない・・・・
慎重に・・慎重に・・・
ヤツの鼻先にFLYをプレゼントする・・その僅かな動き・・・・
ヤツは見逃さない・・・水面に写る・・影・・・・・
極細のラインの奇跡・・・・・・
その全てを・・・ヤツは見ているのだ・・・・・
どうしたらヤツに勝てるだろう・・・・
どうしたら・・・・どうしたら・・・今日もヤツはそこにいる・・・・
FLYはイエローニンフ・・・・
この時期はこれに限る・・・・
ヤツの鼻先に流すが・・・・
やつは知っている・・・・
それが罠だということを・・・
にわかに雲行きが怪しくなり・・
雨・・・・
通り雨・・・・・
水面に雨の軌跡・・・・・
波紋が広がり・・・・・
ヤツの姿も隠される・・・・・
そしてヤツからも釣り人はみえない・・・・
来る!!直感がそう教える・・・・・・
そして・・・
・・・直感は・・正しかった・・・・・
今・・ランディングネットの中にヤツがいる・・・・
それは・・それは・・・・・とても・・・・綺麗な魚体だった・・・
雨が止み・・・水面はもとの静けさを取り戻す・・・
35センチの岩魚・・・・・それは突然の・・天からの恵みだった・・
FFROOM 天からの恵み IS END
ACT9 秋色の約束
秋桜揺れる季節・・
舞台は南国のいつものフィールド・・
そう・・奴はそこにいた・・
その日・・いつものフィールドへ出かける・・
数日ぶりの戦いの舞台は・・
ダム湖特有の水位の大増減ですっかり様相を変え・・
釣り人を苦しめ・・・奴はそこでほくそ笑む・・
そう・・奴は狡猾・・
緩やかな瀬が小さな滝をへて・・淵へと続く・・
そんな場所・・
そこが奴の王国・・
滝の飛沫が飛び散り・・白泡が
流れに溶け込むか・・溶けこまないか・・
そんなぎりぎりの場所・・
そこにやつはいる・・
そこは奴の王国・・
釣り人からは決して見えない・・
そう・・ほんの時折・・・白泡の切れ間から・・
僅かに覗くやつの影・・・それを見つけなければ・・
決して見えない・・・・
だが条件はやつも同じ・・・一瞬・・ほんの僅かな瞬間
白泡の切れ目から・・奴はこちらを伺っている・・
身を低くし・・息を潜め・・・
奴の王国に・・そっとFLYをおくり込む・・
FLYは今日の為に巻いた秋の新色・・
ブラウンのアトラクターニンフ・・・
白泡に揉まれ・・流れに乗り・・・
奴の王国へそれは進入する・・・・
流れの中・・私の妖精(ニンフ)は奴を誘う・・・
1投目・・・
2投目・・
3・・!!
奴の影が疾る・・
やつは流れの勢いを利用し・・
一気に疾走する・・・
格闘の末・・姿を見せた奴の名は・・
傷だらけの・・レインボートラウト・・
狡猾にして・・繊細・・満身傷を追いながらも
厳しい夏を乗り切った・・
秋色の戦士・・
数分後・・奴は
流れに帰って行った・・
次に奴と会うときまでに・・
また新しい妖精を仕上げて来よう・・・
それが奴との約束だから・・
FFROOM 秋色の約束 IS END
ACT10 極小の戦い

秋も深まりだすある日
私は今日もいつものポイントに出かける・・・
そう・・やつに会うために・・
小さな滝から流れでる
複雑な水流が渦巻く岩影・・・
そこにやつはいる・・
やつは歴戦の強者・・
どんなフライも見きってしまう・・
昨日は自慢のニンフを・・
その前は実績ある白のエルクを・・・
奴は鼻先だけですべてを見切る・・歴戦の老兵・・
今日こそ・・
今日こそ・・・
そう想い・・そして・・また今日もここに来た・・
そしてやつはそこにいる・・
今日は#20番の極小のエルク・・
ティペットも0・4・・・
限りなく・・小さく・・・限りなく・・細く・・・
そして自然に・・
限界まで極めた究極の戦略・・・・そう・・それが今日こそやつをしとめる
私の切り札・・
やつに気づかれないように・・
下流から・・そっと・・極細のラインが・・
極小のフライをやつの鼻先に運ぶ・・
一投目・・・二投目・・・
三投目・・・・
そして四投目・・・
やつの王国に侵入した妖精は・・あくまで自然に・・
穏やかに流れ・・自然に溶けるようになじんでいく・・
そして奴も・・それに答えた・・
奴は静かに水面の妖精をくわえる・・
拍子抜けするほどあっさりフライをくわえた奴には・・
最期の瞬間まで・・それが罠だとは思わなかったのだろう・・
今・・・・・私の手の中に奴がいる・・
今日こそ・・今日こそ奴を出し抜けた・・・
その感動が私のランディングネットを震わせる・・・・
数分後・・奴はもとの流れに悠然と去っていった・・
そして私はまたそこへ向かう・・
次の"今日こそ"に出あう為に・・
FFROOM 極小の戦い IS END