ACT1 清流の女王

例のところに奴がいる・・・ ある夏の日・・・私はいつものポイントへ出かける・・
そこはチョットしたグラウンド並の大きさのプールで・・
そこには何本かの支流が流れ込み・・真夏だというのに
谷間を抜ける風は肌寒いくらいの場所・・
 まあ無理もない・・ここは標高900以上の高地・・
大自然の真中なのだから・・・

 奴はいた・・・・
あの岩陰に・・・
 30センチは軽く超えるアマゴだ・・
日中は奴も警戒心が強い・・・
 岩陰にぴったりと身をよせて流れてくるエサを待っている・・
水はどこまでもクリアなブルーウォーター・・・
 奴が時々口をもぐもぐさせているのがわかる・・
おそらく流下してくる水生昆虫などを食べているのだろう・・
 奴との付き合いはもう1週間にもなる・・
あるときはドライを咥えたが見破られた・・・
 あるときはニンフをあっさりと見破られ・・・
またあるときは何をやっても見透かされた・・・

 やつは美しい魚体をくねらせ・・
今もそこにいる・・・
 やつはあそこがお気に入りなのだ・・
とこどき散歩に出たりするが・・
 散歩中にはフライには見向きもしない・・・
 狡猾なやつだ・・・

 奴の鼻先50センチのところにふんわりと
自信作のイエローニンフを流す・・
 夏の日中はイエローに限る・・
きっと奴も今日こそは・・・
 FLYはゆっくりと自然に流れ・・
奴の目の前に・・・
 奴の目がくりくり動く・・
悩んでいるのだ・・
 それが本物かどうか・・・
 こころなしか・・魚体も微妙に揺れている・・
 奴はかなり動揺しているのだ・・
だが顔にはおくびにもださないつもりらしい・・

 さすが奴だ・・・
1回目は失敗か・・・
奴を騙せるのは1日2回が限度なのは身にしみて分かっている・・
 2回目・・全く同じコース・・アプローチで流す・・
奴はこんどは身動きすらしない・・・

ダメか・・・
 あきらめてラインを少し張った瞬間・・
FLYが少し浮きあがる・・・

 その瞬間奴が動く・・

  ・・・・・・・・・・・

 10分後・・私のランディングネットの中に奴はいた・・・
 震えるような美しさで・・・
    清流の女王がいた・・
 私の手のなかに・・・・・

  その5分後には奴は例の場所にもどった・・・

 また明日・・・・

 それが女王への挨拶・・
奴にはそれでわかるだろう・・・

 そして明日もわたしはここへ来る・・・

FF ROOM 清流の女王 is end



 ACT2源流の王

雪国の遅い春・・・
それは川面を舞い踊るメイフライのダンスから
始まる・・・
5月の妖精・・カゲロウ達は短い春に生涯のすべてを懸けた
求愛のダンスを踊るのだ・・

そして・・それを狙うものの春の始まりでもある・・


妖精の舞うある朝・・
私はいつものポイントへ出かける・・
奴はラインが届くぎりぎりの場所で・・
妖精を狙っている・・
奴は知っているのだ・・
こちらの手の届かない場所を・・

吹きぬける風は肌を刺すように冷たく・・
澄みきって・・・
ただ妖精のダンスだけが遅い春を告げる朝・・・

FLYは白のエルク・・・
これまで多くの強敵を黙らせた
自信作・・・
私の白い妖精・・・・


奴の鼻先の水面へと私の妖精をキャストする・・
1回目・・・
見向きもしない・・・ 奴は手ごわい・・・・・
2回目・・・・
 魚体がかすかに揺れる・・・
3回目・・・
 鼻先まで近づくが奴は見透かしたようだ・・・

ダメか・・・

諦めかけたその時・・
動揺がラインを通して伝わる・・・
そしてそれが私の妖精に魅惑のダンスを踊らせる・・・

奴がくる・・・!!
水面に黒い影が疾り!!
私の妖精に迫る・・・!!


・・・・・・・・・・・


10分後・・・・
私の手の中に奴がいた・・・
ランディングネットを持つ手の震え
止まらない・・・
この美しさ・・気高さ・・・
・・源流の王・・・・
そんな言葉が頭をよぎる・・・
それは厳しい雪国の冬を生き抜いた
見事な魚体だった・・・


これが私と岩魚の初めての出会いだった・・・
そして私は今日も源流へと向かう・・・・
源流の王と会うために・・・



FF ROOM 源流の王 is end




 ACT3一陣の風

ある真夏の日・・私はいつもの場所に向かう・・
そこは南国の人工湖・・冷水を好む鱒たちには
真夏のここは厳しい環境だ・・そう・・水温でも・・天敵たる釣り人の多さでも・・

そこは鱒たちのオアシス・・この湖の数少ない流れ込み・・
周りには夏草が生い茂り小さな日陰を作る場所・・
鱒たちは涼を求めてここに群がっていた・・そしてそれを狙う釣り人も・・

 とり逢えずドライはダメだろう・・
奴らは幾多の釣り人と戦って生き延びた強者たちだ・・
FLYBOXから自慢のソフトハックルニンフを選ぶ・・
 こいつの名前はファットマン オリーブ・・・(太っちょ)
ここでは数え切れない戦績を上げた
私ORIGINAL・・そう先兵だ・・

数匹が潜む流れにファットマンを流す・・これで奴らの出方を窺う戦法だ・・
やつらは歯牙にもかけない・・・といういより活性が低いのか・・


次はイエローニンフ・・真夏・・・似たような状況でも決して期待を裏切らない
切り札のひとつ・・

ダメか・・・・

それならと・・秘伝のBLACKのビーズパターンを奴らの流れに載せる・・
あるときは自然に・・そしてあるときは魅惑のダンスを躍らせて・・


ダメか・・・

思いつく限りの戦法で自慢のFLYを繰り出す・・
しかしことごとく無視される・・・
今日の奴らはかなり手厳しい・・

そのとき小さな鱒の群れ向こう・・・
真夏の光が水面を照らし・・釣り人の死角になるあたり・・
 そこに奴がいた・・・・

 奴は巨大だった・・その黒い魚影を
巧みに水面直下に忍ばせて・・
ゆっくりと涼を貪っていた・・

 この過酷な状況で・・
いかにして奴と戦うと言うのだ・・
今まで築き上げてきた自信を崩された私は自問する・・
自慢のFLY達は奴のまわりの取り巻きにも相手にされなかった・・
奴と勝負できるカードなどすでにFLYBOXにはないはず・・


そのとき・・
ふとFLBOXの片隅・・DRYの列の端っこに冗談で巻いた
FLYが目に写る・・・
 13番のLONGシャンク黒のエルクヘアカディス・・
まだ試していないDRYフライ・・・

こんなデカイサイズのFLYを咥える奴はそうそういない・・

諦め半分遊び半分で奴の前にそれを流す・・

 反応なし・・・・・
わかっていたことだ・・
 一応ダンスを躍らせて誘ってみる・・

奴はゆっくり・・拍子抜けするほどあっさりと・・自然に・・
それを咥える・・・

!!!!

頭で反応できなくても・・体は反応しロッドをたてる・・

竿と腕に衝撃がはしる・・
頭はまだなにが起こったか理解していない・・

重い・・今までの奴らと格がちがう・・
ラインをあっというまに持って行かれ・・
バッキングラインまで引き出されたところで頭がそれを理解する・・

手が・・足が震える・・
奴は強い・・疾い・・
勝負は持久戦になる・・

 いったいどのくらい奴と戦っていたのだろう・・
無限とも思える時間との格闘のあと・・
奴は私の前に姿を現した・・
巨大なレインボートラウト・・それが奴だった・・

私のネットについに収まったそいつは
銀色の巨体を惜しげもなく私の前に晒しながら・・
目はいまだ闘志を失っていなかった・・

私は震える・・今度は心が・・

・・54センチ・・
DRYFLYで仕留めた魚として
私はいまだに奴より巨大な強敵とは戦ったことがない・・

しかしなぜ・・ああも簡単にこいつは私のFLY
を咥えたのだろうか・・
 そんな疑問が頭をよぎる・・・・・

自分を落ち着かせる為
夏草が生い茂る山々を眺め・・
深呼吸を繰り返す・・

    ・・ふと足元をみる・・
黒いコオロギが水辺を歩いていた・・

・・・・・ なんとなく奴がなぜ私のFLYを咥えたか
わかったような気がした・・・・

 一陣の風が吹く・・その風は秋の匂いがした・・



FF ROOM一陣の風 is end





 

ACT4 10センチの戦い・



その日・・珍しくいつものポイントから上流に遡ってみる・・
真夏の源流は渇水気味で・・川はいくつもに別れ・・
沢になり・・池になり・・・・
日々その様子を変え・・
目を楽しませてくれる
そこの住人にとっては過酷なのかもしれないが・・

川の中をウエーディングブーツを履いて・・
爽快な気分で歩く
源流の水は真夏でも冷たく・・
ブーツ越しに伝わる感触が心地よい・・
川は沢になり・・青空が木漏れ日になり・・
森はさらに色を増してくる・・

ヤツはそこに居た・・・
幅50センチ・・深さ約10センチ・・
立ち木と倒木が重なる細い・・細い・・緩やかな・・鏡のような流れ・・

ヤツはまだこちらに気付いてはいない・・
難しい場所だ・・・・
一発勝負・・・・
周りの木を少しでも揺らしたら・・
ヤツが少しでも警戒したらそれで終わり・・

私はその場でヤツを観察する・・
中型のアマゴ・・しかし色が異常だ・・
綺麗な紫色をしている・・
おそらく細い流れに取り残されて・・
極限の暮らしでそうなったのだろう・・

しかし美しい・・・
しばし見惚れてしまう・・・

ヤツは立ち木の根の周りを中心に・・
ごく狭い範囲を遊泳し・・
豊かな森から落ちてくる昆虫を食べているようだ・・
真夏の森は虫たちの宝庫・・
見ている間にも一匹の蛾が水面に落ち・・・・
ヤツは警戒しながらもそれを捕食した・・

FLYは黒のエルク・・
ボディに孔雀の羽を使い・・
七色に惑わす魅惑のFLY
ヤツにはこれが真夏の昆虫に見える筈・・

周りの木々に気を使いながら・・
静かに・・慎重に・・
ヤツの庭にFLYをプレゼントする・・

ヤツが来る・・
じっとFLYを観察する・・
通りすぎる・・・
ヤツが来る・・
それを何度か繰り返す・・
結局ヤツは空腹に負けたのか・・
魅惑のボディに騙されたのか・・・・

ヤツは10センチの静寂を破り・・
水面のFLYを捕食する・・

・・・・・・・・・・

ヤツは綺麗だった・・
極限の環境を生きる・・
強者の顔をしていた・・・・

しばらく見惚れた後・・
ヤツをもとの流れに帰す・・

もっと大きい流れに帰そうかとも考えたが・・
やはりココに帰そう・・
ヤツならきっと大丈夫・・
なぜかそんな気がした・・・
ヤツの目が・・
強く強く・・輝いていたから・・

その後ヤツに何度か出会ったが・・
二度と私のFLYに騙されることは無かった・・
10センチの戦い・・
それは・・ほんの偶然の勝利だった・・




FF ROOM10センチの戦い is end




ACT5偶然の巨影

 3月・・南国伊豆といえども湖面を吹く風は冷たい・・
魚たちは暖かい場所を求め・・
ときには浅瀬へ・・・時には淵へ・・

それは・・解禁から暫くした・・ある暖かい日・・
奴と出会ったのはそんな日だった・・

解禁直後の鱒達は日に日に釣り人の脅威に晒される・・
彼らは日々学習し・・狡猾になる・・・
昨日まで通用したFLYが・・今日は全く通用しない・・
その日もそうだった・・

そこで切り札・・パールビーズオリジナル・・
これなら奴らも見切れまい・・
トラウト(虹鱒)の目先・・60CM・・流れの速さを読み・・
魚の動きを計算し・・・静かに・・正確に・・そっと切り札を流す・・・
 真珠色の輝きが・・奴の目先で踊る・・
警戒に警戒を重ねた古参兵も・・この輝きには適わない・・
 あっさりとパールビーズを咥え・・HIT!
40CMのレインボートラウト(虹鱒)
そんなことを何回か繰り返し・・・
数匹釣り上げたころ・・・

そいつは突然現れた・・
狙った獲物の40CM手前に静かに・・そっとFLYをプレゼントした・・まさにそのとき・・
視界に巨大な魚の顔が写る・・だたとにかく巨大・・・
なにが起こったか理解できず・・
 しかし体だけは反応していた・・・
無意識にロッド(竿)を立てる・・・・

 ごふっ!!巨大な影は一気に走りだす・・・・
しかし・・重い!!・・なにからなにまで・・先程までと桁が違う・・
 一瞬見えた奴の顔だけで・・他の魚の半分はあった・・
そのあとはただ夢中・・・
 
巨影が疾る・・・・走った分ラインを送りだす・・・・
それでも足りずにリールからフライラインが出ていく・・
あっというまにバッキングラインまで出される・・
これ以上出されたらヤバイ・・・

ラインは0.8・・滅多なことでは切れないが・・・
相手はあのサイズだ・・油断すれば一気に切られるだろう・・・

奴の運動ベクトルが少し変わったタイミングを見計らい・・
無理やり奴に引っ張り出されたラインを少しでも回収する・・

また奴が走る・・・・・・・
回収したラインを根こそぎもっていかれる・・
重い・・まるで丸太をひきずっているいうな感覚・・
竿が満月の弧を描き・・・頼りなげに軋む・・・
奴が疾る・・さらに竿は軋む・・軋む・・・
大丈夫なはずだ・・・きっと大丈夫・・
信頼するタックル(道具)たちなら・・きっと奴にも負けないはず・・・
そう信じて・・・
 ぐっと耐える・・・
走る・・
 疾る・・・・疾る・・・・
重く・・・・深く・・・・・・

軋む・・・・
 竿が・・・・腕が・・・・
ラインが・・・flyが・・・・・・

ラインを出される度・・・・
信じていたはずのタックル(道具)達が・・
とたんに心細くなる・・・・

どのくらいそうしていただろう・・・
気が付くと・・奴も私も弱りはて・・・真近で対面していた・・
大きい・・・いままでのどれよりも・・・・
奴の顔は激しい死闘のあとでさえ・・いまだ負けを認めぬ・・
老兵の顔だった・・・
 
 結局・・・・・・
奴はあまりにものその大きさの為・・
私のランディングネットには半分も
その魚体がはいらなかったが・・・苦労のすえ・・
なんとかランディング(とり込み)に成功・・
66.5センチのレインボ−トラウト・・
これは私が戦った魚達では最高の大きさであり・・戦いであり・・・
多分これからもずっと・・私の中で最高である続けるだろう・・
 ある春の日・・全く偶然の・・最高のプレゼントだった・・・・。

FF ROOM偶然の巨影 is end




ACT6 最高地の休日



真夏・・冷水温を好む魚達を狙いに南アルプスの最上流に出かけた時のこと・・
ここは標高1500メートル・・人里離れた奥の奥・・・・
周りにはただ深い森があるだけ・・・・
そんな場所・・・・・

源流の流れは速く・・滝壷は白泡で覆われ・・・魚達の姿が巧妙に隠される・・・
そんな場所・・・・・

滝壷で時々イワナが飛び跳ねているが・・・今は真昼・・まさかFLYに反応しないだろう・・
そう思い・・・河原に寝そべる・・・・・心地よい風が河原と私の体を吹きぬけ・・・
浅い眠りに誘う・・・・

ふと目覚め・・しばらくその辺りを眺める・・・・
高山蝶が舞・・・・名も知れぬ可憐な花が咲き・・・・・
空はどこまでも青く・・・深い・・・・・

岩陰に巨大なトビケラの脱皮殻が・・・大きなアリも河原を歩く・・・
ああ・・・自然の恵み・・このおかげでイワナ達は生きているんだと実感する・・・・

暫くして友人がランディングネットを片手に歩いてきた・・・・
そこにはさっきのイワナがいた・・・・

雄大な自然の恵みに育まれたの姿は・・・
とても・・とても・・美しかった・・・・・

ここに来て良かった・・・・
どこまでも青い空と・・源流の王の顔を見て・・・そう思った・・・

FF ROOM is最高地の休日 end


ACT7 梅雨の奇跡


FLYフイッシングは日々思考錯誤と・・失敗の連続である・・
狡猾な魚達はすぐにFLYを学習し・・覚え・・見切る・・・
それを狙う釣り人は常に新しいFLYパターンを開発し・・魚との本来とは違う意味での戦いを繰り広げる・・

そのとき・・その場所でどんな水生昆虫が発生するのか・・
素材となるマテリアル(鳥の羽)が水中で魚にどのように見えるのか・・
魚の本能を刺激し・・理性を狂わせ・・夢中にさせる自分だけの妖精(FLY)・・
作る側と・・それを見破る側・・FLYの真の楽しさでもある・・もう一つの戦い・・・

古来より日本にも・・テンカラと呼ばれる・・毛ばりがあり・・
日本の風土に合わせて・・独自に発展してきた毛ばりがある・・
これらはシンプルにして・・強力・・魅惑的・・そう・・ヤツらにとっては危険極まる存在が・・・


 ある梅雨の晴れ間・・いつものポイントに出かける・・・・
南国の湖・・流れ込む水の僅かな涼と・・餌を求めて・・ヤツらがあつまる・・・
静かな・・流れ込み・・・・

水は薄にごり・・・水面近くを定位する魚が見える・・魚影は濃い・・

こんなときには定番のビーズパターンを流す・・・・・
完全に見切られている・・・・ヤツらは手強い・・・・・
一昨日まではこのパターンで完璧だったはずなのだが・・・

アトラクターニンフ・・・ドライフライ・・・フェザントテイル・・・・・
実績のあるパターンを次々と試す・・・・・
今日のヤツらはかなりグルメだ・・・・

FLYBOXの一番隅・・・・テンカラ毛ばりからヒントを得て作った試作FLY・・
オリーブの極太ソフトハックル・・・・

それは・・・魅惑だったのか・・それとも梅雨の奇跡か・・・
今までが嘘のように・・楽しい釣りが出来のだった・・・・・・

それからずっと私のFLYBOXにはオリーブの極太ソフトハックルが必ずある・・
ファットマン・オリーブ・・それが私の最初のオリジナルFLYであり・・
今回の話しの主人公である・・・・

FFROOM 梅雨の奇跡IS END



ACT8 天からの恵み

今日もここにやってきた・・・
ヤツと逢うために・・・・・・

ヤツは王者・・・・・
狡猾・・・・にして・・慎重・・・・
手強い敵だ・・・・・・

激しい流れが急に穏やかになる大きな淵・・・・・・
そこにヤツはいる・・・・・・

どこまでも澄んだ流れは深く・・・・ヤツの最大の味方・・・・・・
 どんなにこちらが巧く隠れても・・・ヤツには通用しない・・・・

慎重に・・慎重に・・・
ヤツの鼻先にFLYをプレゼントする・・その僅かな動き・・・・
ヤツは見逃さない・・・水面に写る・・影・・・・・
極細のラインの奇跡・・・・・・
その全てを・・・ヤツは見ているのだ・・・・・

どうしたらヤツに勝てるだろう・・・・
 どうしたら・・・・どうしたら・・・今日もヤツはそこにいる・・・・

FLYはイエローニンフ・・・・
この時期はこれに限る・・・・

ヤツの鼻先に流すが・・・・
やつは知っている・・・・
それが罠だということを・・・

にわかに雲行きが怪しくなり・・
雨・・・・
通り雨・・・・・

水面に雨の軌跡・・・・・
波紋が広がり・・・・・

ヤツの姿も隠される・・・・・
そしてヤツからも釣り人はみえない・・・・

来る!!直感がそう教える・・・・・・
そして・・・
・・・直感は・・正しかった・・・・・

今・・ランディングネットの中にヤツがいる・・・・
それは・・それは・・・・・とても・・・・綺麗な魚体だった・・・

雨が止み・・・水面はもとの静けさを取り戻す・・・
35センチの岩魚・・・・・それは突然の・・天からの恵みだった・・

FFROOM  天からの恵み IS END






ACT9 秋色の約束


秋桜揺れる季節・・
舞台は南国のいつものフィールド・・
そう・・奴はそこにいた・・

その日・・いつものフィールドへ出かける・・
数日ぶりの戦いの舞台は・・
 ダム湖特有の水位の大増減ですっかり様相を変え・・
釣り人を苦しめ・・・奴はそこでほくそ笑む・・
 そう・・奴は狡猾・・

緩やかな瀬が小さな滝をへて・・淵へと続く・・
そんな場所・・
そこが奴の王国・・
 滝の飛沫が飛び散り・・白泡が
流れに溶け込むか・・溶けこまないか・・
そんなぎりぎりの場所・・
そこにやつはいる・・

そこは奴の王国・・
釣り人からは決して見えない・・
そう・・ほんの時折・・・白泡の切れ間から・・
 僅かに覗くやつの影・・・それを見つけなければ・・
決して見えない・・・・

 だが条件はやつも同じ・・・一瞬・・ほんの僅かな瞬間
白泡の切れ目から・・奴はこちらを伺っている・・

身を低くし・・息を潜め・・・
奴の王国に・・そっとFLYをおくり込む・・
FLYは今日の為に巻いた秋の新色・・
ブラウンのアトラクターニンフ・・・

白泡に揉まれ・・流れに乗り・・・
奴の王国へそれは進入する・・・・

流れの中・・私の妖精(ニンフ)は奴を誘う・・・
1投目・・・
2投目・・
 3・・!!

奴の影が疾る・・
やつは流れの勢いを利用し・・
一気に疾走する・・・



格闘の末・・姿を見せた奴の名は・・
傷だらけの・・レインボートラウト・・
狡猾にして・・繊細・・満身傷を追いながらも
厳しい夏を乗り切った・・
秋色の戦士・・

数分後・・奴は 
流れに帰って行った・・
次に奴と会うときまでに・・
また新しい妖精を仕上げて来よう・・・
 それが奴との約束だから・・


FFROOM  秋色の約束 IS END


ACT10 極小の戦い




秋も深まりだすある日
私は今日もいつものポイントに出かける・・・
そう・・やつに会うために・・

小さな滝から流れでる
複雑な水流が渦巻く岩影・・・

そこにやつはいる・・

やつは歴戦の強者・・

どんなフライも見きってしまう・・

昨日は自慢のニンフを・・

その前は実績ある白のエルクを・・・

奴は鼻先だけですべてを見切る・・歴戦の老兵・・

 今日こそ・・
今日こそ・・・
そう想い・・そして・・また今日もここに来た・・
 そしてやつはそこにいる・・

今日は#20番の極小のエルク・・
ティペットも0・4・・・
限りなく・・小さく・・・限りなく・・細く・・・
そして自然に・・
限界まで極めた究極の戦略・・・・そう・・それが今日こそやつをしとめる
私の切り札・・

やつに気づかれないように・・
下流から・・そっと・・極細のラインが・・
極小のフライをやつの鼻先に運ぶ・・

一投目・・・二投目・・・
三投目・・・・
 そして四投目・・・
やつの王国に侵入した妖精は・・あくまで自然に・・
穏やかに流れ・・自然に溶けるようになじんでいく・・

 そして奴も・・それに答えた・・
奴は静かに水面の妖精をくわえる・・
拍子抜けするほどあっさりフライをくわえた奴には・・
最期の瞬間まで・・それが罠だとは思わなかったのだろう・・

今・・・・・私の手の中に奴がいる・・
今日こそ・・今日こそ奴を出し抜けた・・・
その感動が私のランディングネットを震わせる・・・・

 数分後・・奴はもとの流れに悠然と去っていった・・

そして私はまたそこへ向かう・・
次の"今日こそ"に出あう為に・・





FFROOM 極小の戦い IS END





釣りのお部屋