たったひとつの小さなひかり
  
    昔、そこに小さなひかりがともったことを覚えています。
  それは、ほんとうに小さなひかりでした。
  ちっぽけで、それでいて、あたたかなひかり。
  わたしがそれを見たのは、はるか昔のことです。
それから、たくさんの人たちが、わたしの前を通り過ぎていきました。
    ほんとうにたくさんの人たちが、ゆっくりと。
    ときに笑い、ときに歌い、ときに怒り、ときに涙を流しながら。
    わたしに感謝のことばをつぶやいた少女もいました。
    あれは、どれぐらい前のことなのでしょう。
今、わたしの目に映るのは、夜空を切り裂くひかりです。
    はるか昔に見たひかりと同じように、小さく、でも、つめたいひかり。
    それはまたたく間に大きなひかりへと変わりました。
    昼間のように明るくなった世界は、眠るのを忘れてしまったのでしょうか。
たくさんの人たちが、今もわたしの前を通り過ぎていきます。
    わたしを気にとめることなく、急ぎ足で、夜も昼も。
    彼らは、笑うことも、歌うことも、怒ることも、涙を流すこともありません。
    もちろん、夢見ることも。
    わたしだけが夢を見ます――かつての、彼らの夢を。