帰ってこない子どもたち

 

 
  もうすぐウォルターが死んで1年になります。
  リィナはうれしくてたまりません。なぜならウォルターが帰ってくるからです。お父さんが死んで1年後に帰ってきたときも、とても喜びましたが、今度は(お父さんよりももっと)大好きなウォルターなのです。ウォルターがいないこの1年近く、リィナはさびしくて仕方ありませんでした。でも、もっとつらいのはウォルターのお母さんなのよとみんなに言われてがまんしていたのです。

「森にいってきまーす」
  あと5日。
  ウォルターが帰ってくるまで、あと5日。
  リィナは寒さをこらえて、森の中で赤い実をさがしています。ウォルターが帰ってきたときに、プレゼントをするのです。(これは、お母さんにもお父さんにも内緒でした)
  ウォルターもきっと喜んでくれると思います。だって、ウォルターが死んでしまったのは、その実をとろうとして足をすべらせてしまったのですから。
「ウォルターに会ったら、ばーかと言ってやるもんねー」
  リィナは抱えてきたかごの中に、どんどん赤い実をほうりこみました。ずいぶんと深い森の中に一人きりなのに、リィナはぜんぜんこわくありません。だって、リィナがもし死んだとしても、お家へ帰れるのです。だから、みんなは迷子になってはダメだよとは子どもたちに注意しても、危険なことをやってはダメだよとは言いません。少しぐらい危険なことをして痛い目にあうほうが、やっていいことと悪いことの区別がつくようになりますからね。そうでしょう?
  でも、リィナはちょっと遠くまで来すぎています。教会の鐘の音も聞こえなくなっています。時間を見るために使うことのできるお日様も、急に出てきた雲のかげにかくれそうです。リィナはあわててかごをかかえあげて、帰り支度をはじめました。お家へと帰る道を小走りに急ぎます。お家への道?リィナが正しいと思っていた道は、実は森の奥へと続く道でした。そして、リィナはすっかり迷子になってしまったのです。

 

                         *    *   *

 

  リィナが帰ってこないことに真っ先に気づいたのは、ウォルターのお母さんでした。リィナにケーキに飾る木の実を頼んでいたのに、約束の時間を過ぎてもリィナがやってこないのです。
  ウォルターのお母さんは、リィナの家に来てそのことを知らせました。早速みんながリィナを探し始めます。リィナが行った森の中やリィナの行きそうな村の中の場所や思いつくところをみんなで探しました。
  でもリィナは見つかりませんでした。降り出した雪もしだいにひどくなり、天気がよくなるまでリィナを探すのをあきらめなければいけませんでした。
  リィナのお父さんとお母さんはどんなに心配したことでしょう。まだ小さい娘が森の中でそんなに長い間暮らせるわけがありません。みんなはリィナが無事で帰ってくることを。それが無理なのであれば、リィナが「帰ってくる子ども」になるように祈ったのです。

 3日後、リィナは冷たくなってお家に帰ってきました。雪の中に埋もれるようにして見つかったリィナは眠っているようにしか見えませんでした。小さな手には赤い実がたくさん入ったかごが、大切に握られていたそうです。その赤い実をとろうとして息子を失くしたウォルターのお母さんは、そのことを聞いて涙をこらえられませんでした。
  でも、リィナのお父さんは言うのです。「リィナは帰ってくるのですから」
  リィナのお父さんとお母さんは、リィナを見送る準備をします。リィナがもう一度帰ってくることができるように、送り出すのです。村の教会の奥まった小さな部屋の一つに、リィナの横たわるひつぎが置かれました。リィナは一番のお気に入りのお洋服を着せられ、元気いっぱいの少女ではなく、おとなしやかな女の子のようでした。
  部屋が閉ざされます。そして、1年後、リィナが帰ってくるのをみんなで待つのです。

 

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