クリスマスの思い出

今日はクリスマスの思い出を話そう。
もちろん、君たちがよく知っている彼女の話だ。



そうだな、彼女はクリスマスがあまり好きではなかった。
騒々しいクリスマスの音楽も苦手だったし、クリスマスに向けて 浮かれ騒ぐ人間たちも嫌いだったようだ。
それを僕に直接言ったりすることはなかったけれどね。
何といっても、彼女はつつましい女性だったから。

そんな彼女でも我慢できなかったものがある。
いや、我慢できないのとは違うな。だまっていられなくなったと言うほうが多分正しい。
彼女が、クリスマスの中で一番嫌いだったのが……(僕が思うに)ビルの壁面や店や、民家の木々を飾る
クリスマスイルミネーションだった。

「かわいそう」
彼女はよくつぶやいていた。緑の木々に重たい電球がぶら下がっている様子は、
確かに昼間見ると痛々しいほどだった。また、明るい間、電気が通っていない電球は、
どこか空々しいものに見える。
でも、夜に見るそれはやはり美しく僕には思えるのだ。
星明りがわずかに足元を明るくする夜。彼女が隣を歩いている。
そして、クリスマスツリーやトナカイや、ベルのクリスマスイルミネーション。
空の星々よりも色鮮やかな点滅が、僕達を祝福してくれているようだ。
ロマンチックな気分になるのも、分かるだろう?

でも、彼女はいつも言っていた。
「ちゃんと夜は暗くないとダメなのよ、木だって、人間だって」
豪華なイルミネーションを見るたびに、顔をしかめていたのだ。



それが、彼女と過ごした最初のクリスマスの思い出。
そして、最後のクリスマスイルミネーション。



何でそんなことになったのかは、よく分からない。
クリスマスを祝うほどの余裕が誰からも無くなり、12月の街は
他の月となんら変わることなく夜を迎えるようになった。
クリスマスの音楽がかかることもなく、もちろん、イルミネーションも消え、
みんな足早にうつむいて家へと帰っていく。

もう、そこにはかつてのまばゆいほどの光はない。
彼女を悲しませる、植物を痛めつける光も。
ただ、昔からは信じられないほどの星々が夜空で輝いている……。



彼女と僕がどうなったのかを知りたいって?
君たちは知っているじゃないか。
もちろん、今、外に買い物に行っているのが、彼女に決まっている。
「みんながよく知っている」彼女と最初に言っただろう。

安心していい。クリスマスの音楽もイルミネーションも街から消えたけれど、
彼女と僕はいつもクリスマスを一緒に過ごしたよ。
もちろん、今日も一緒だ。君たちが途中で加わって、にぎやかになったのが、
少しだけ昔と違うけれどね。

そして、これだけは僕に聞いたと言ってはいけないよ。
彼女はね、君たちのお母さんはね、今は、クリスマスのイルミネーションが
大好きなんだ。