民衆政治vs.政党政治


本論文は、ニューイングランド地方誌River Valley Voiceに、1984年の民主党予備選挙キャンペーンの最中に発表された。この論文は1984年の選挙について繰り返し言及しているが、 表明している観点はもっと普遍的価値のあるものであり、グリーン=プログラム=プロジェクトの論文として広く読者に議論してもらうよう提出された。原文は、"Popular Politics vs. Party Politics" で読むことが出来る。(訳者)


今日、合州国に新しい政治が必要なことは明らかである。我々が直面している問題はどのような種類のものだろうか?「独立政治活動(indepentent plitical action)」の目標が、「権力を得て」、実践上で重要な特定問題を「政治家に働きかけ」たり「解決し」たりする手段として「効果的に機能する」ことならば、疑いもなく、ジェシー=ジャクソンとその「虹の同盟」の支持者達が実行可能な公式を持っているはずである。彼らは、徹底的に選挙政治に従事している。彼らにはカリスマ的指導者・庶民受けするエリート軍団・半官僚制度的組織・その多くがほとんどゆるぎない服従を持ってその指導者について行っているかのように見える「大衆」の支持の増加があるのである。この同盟の持っているプログラムは、国事に関するもので・曖昧で・時として矛盾している。 この同盟の将来は−−それが独立草の根運動の傾向へと分裂しない限り−−その指導者、特にジャクソンが魅了しているメディアの注目によって大きく左右されるであろう。

これは、ニューディール政策時代の古い選挙政治に、「進歩的」という美辞麗句を少しばかり甲高い金切り声で付け加えているだけのことなのだ。これは、民衆を教育することにではなく、民衆を動員することに基づいた政治運動であり、能動的な民衆領域を創り出すのではなく、選挙の候補者を創り出すことに基づいているのだ。ジャクソンが何百万という人々を動員したことは、この運動が「うまく行く」ことを証明しているのかもしれない。だが、その「構成員」が、多くのことを知っており・政治的に知識を持っており・創造的で流動的な真に民衆の政治運動を発達させようと自分自身で自主的に行動する能力をより多く持っていることを証明しているのではない。 そして、この種の政治は、その特徴として選挙的だというだけでなく、政党政治なのである。カリスマを持った指導者・中央集権化された制度・権力指向的政治構造によって動員されている人々は、自主的精神を持った市民ではなく、大衆でしかないのだ。平凡な人々は受動的で非活動的になり、制度は官僚主義的で中央集権的になる(通常、「効率」や「実用主義」の名において)。政治家は専門家になり、原理原則よりも出世の関心によって導かれてしまう。

しかし、「選挙政治」や「独立政治活動」の名において無視されちな別種の政治がある。この種の政治には、反戦団体や反核団体・食物協同組合・コミューン・親和グループ・フェミニスト団体・倫理団体・宗教組織のような国会外の形態を持っている。それは、草の根教育に基づいた有機的政治運動なのであって、大衆動員ではない。それが主として求めている力は、市民−−自由に連合し、民衆全体に再び権能を与えることに向けた観点を相互支援し合うことのできる市民−−の権能であって、要職に選ばれることではない。それは、社会変革と現代の諸問題への民衆参画という壮大なヴィジョンに向けて、政治統一体と民衆の有意義な見解を創り出すことを模索しているのである。 こうした政治運動は、政党構造の周りに制度化されるのではなく、60年代から継続しているカウンターカルチャーの諸形態同様、近所の評議会や集会・郡区代表者会・地域的連合・市民のイニシアティヴ集団のような本来の民衆諸構造の周りに制度化される。この種の同盟は、民衆を啓蒙すると同時に民衆を政治的に活動的にするように前進しつづける場なのである。この種の政治運動は、「独立政治活動」を求めた数多くの努力を特徴づけている失敗と裏切りの長く陰鬱な歴史を踏まえた上で、我々が創り出すことが出来る唯一本当の突破口を示しているのである。

これらの失敗と裏切りは、決して、ヴァーモント州バーリントン市でのサンダース氏の成功や、ドイツにおける緑の党によって和らげられることなどない、ということを強調しておこう。サンダース市長は、実質的にバーリントン市の政治生命を凍結し、善意からであろうとなかろうと、彼自身の権力の上での出世を推し進めてくれた動乱・創造性・流動性を日和見主義的政策へと吸い上げてしまった。バーリントン市の「社会主義」は、チテンダン信託銀行やヴァーモント=ナショナル銀行よりも、「効率的」で、「成長指向的」で、「経済的」になりえると証明された。 だが、それは、教育的価値・プログラム上の焦点・本来の草の根活動を著しく欠いているのである−−サンダース氏がこの市に地区計画の諸集会を創らず、市長殿はある種の「参加型政府」を主張なされているのだ。

そして、ドイツ緑の党は真に草の根運動が確立できる成功と政治的活力の衝撃的な例となっていると同時に、緑の党を比較的月並みな政治政党へと転じようとする運動内部の諸傾向の結果として緊張も創り出されていた。それ自身の兵卒内部での充分な教育なしに選挙に成功してしまったため、緑の党は戦場となっている。このスペクトルの一端では、社会民主党との不確かな選挙同盟・もっと官僚制度的な政党構造・より大きな中央集権化に魅入られている専門的政治家がいる。逆の端には、「非政党の政党」・参加型民主主義・ドイツにおける政治的社会的変革という創造的ヴィジョンに今でも肩入れしている人々がいる。

感銘を与えるほどの実例を創り出そうという願望を我々が表明しさえすれば、ニューイングランド地方において、合州国全体に影響を与えかねない運動を生み出すチャンスがあるのだ。我々自身の合州国リバータリアンの伝統−−特に、地域民主主義・強力な政府への不信感・民衆のイニシアティブ・自給自足・相互扶助・個人の人権の尊重というニューイングランド人の持っている概念−−を例に取ってみよう。明らかに、これらの概念は現実のものというよりも神話的なものであることが多い。しかし、それらは米国人の心に訴えるだけの力を持っているのだ。 それは、我々の移民の祖先が半封建制の欧州から持ちこんだ、衰えを知らない労働運動・政党・中央集権化された政治統制と「大衆動員」への尊敬における半軍国主義的信念という強調点を持った急進的理想よりも遥かに大きな意味を持っているのだ。米国革命の持つ民衆のユートピア的次元は、憲法が個人の人権を尊重していることに今でも生きてはいるが、大企業・人工頭脳・地球規模の経済に次第に耐えられなくなってきている。我々は、我々独自の急進的リバータリアン・人民主義的伝統を持っている。それは、過去数十年の内に欧州で衰退している欧州急進主義の伝統よりも、米国人一般に対してもっと意味のあることなのである。 我々のリバータリアンの伝統は、そのエゴイスト的・有産主義者的特徴をはぎ取ってしまえば、更に風変わりな急進主義的目標を確立する手段としてではなく、それ自体で堅持するだけの価値があるのだ。

私は、現代の諸現実についていかなる幻想も抱いていない。「レーガンを見捨ててしまえ」症候群が消耗しきってしまっている中で、11月の選挙前に出来ることは数少ない。ジャクソンをそのスポークスマンとして虹の同盟が出現するのなら、我々は、動員・権力・全国選挙活動・政治専門家主義をその目的としたゼロ地点まで舞い戻ってしまうことだろう。丁度サンダースがバーリントン市の政治生命を凍結したように、この同盟が合州国の政治生命を凍結してしまったとしてもおかしくはない。ジャクソンが、民主党の中で機能しようという自分の性癖のためにこうした同盟に向わなくとも、単一争点と即時の実用的利益の周囲で完全に構造化されたプログラムと選挙政治は、長い目で見れば、その他の「独立」運動が歴史的にそうだったのと同じぐらい不適切なものとなるだろう。 我々は「まだましな悪の政治」に余りにも影響を受けやすく、我々の政治議題とプログラムが良い社会に関する我々のヴィジョンではなく敵対者によって決められるという冷酷な結果に陥ってしまう。更に悪いことに、個々のましな悪はより酷い悪によって通常継続されるものなのだ。その結果、我々は最終的に、可能な中でも最悪のもので終わりを迎えてしまうのだ。この種の「ましな悪」政治が1930年代にナチズムに権力を与えたのだ。 当時、社会主義政党は、更に酷い悪を避けてまだましな悪を支援するとして、ヒットラーを当選させないために、ドイツ首相としてヒンデンブルグに投票した。ヒンデンブルグは、社会主義政党の強力な支持によって帝国の首相に選ばれ、翌年ヒットラーを帝国首相に指名したのだった。その後のことは歴史が示している通りである。

我々が、その特徴として明らかに人民主義的、その構造とてしてリバータリアン的な−−特に、この種の政治に適している地域の中で−−本当の市民政治を発達させようとするなら、我々は、そのうちに、国家全体に影響を与えるであろう実例を示すことが出来るであろう。我々の前にじわじわと迫っている大企業と人工頭脳の時代は、次の数十年にわたる最も凄まじい「メガトレンド」である。乱暴に言ってしまえば、我々がこの時代に抵抗できるだけの伝統を蘇生させ、それを超えて先に進み、米国人が理解できるようなやり方でそれを行わなければ−−我々は、確実に「呪われる」であろう。熱核兵器の時代において、私は隠喩的にこの口語表現を使っているのではない。文字通り−−この惑星の将来に対するその示唆全てを持って−−使っているのだ。