メンバーの小屋

乱乱小屋

8. 死霊の盆踊り

 音頭と言えば、東京音頭が大好きだった。夏休みの終わり近く、スピーカーから割れたような音が響いてくる。それがいつも東京音頭だった。盆踊り大会の定番。にぎやかなんだけどうら寂しい。特に近所からではなくって、風に乗ってどこからなく聞こえてくるのが素敵だ。河内音頭や阿波踊りもいいんだけど、なんかああいうエネルギッシュなラテンのりじゃなくって、どうでもいいやみたいな、シオシオさが愛らしい。カラオケで歌おうと思っても、秋田のドドンパ節しか見当たらない。こっちも盆踊りの定番で悪くないけど。
 けどシオシオなのは今のお話し。東京音頭(西条八十作詞/中山晋平作曲)は、1933年の爆発的大ヒット曲なのだ。同年8月1日東京芝公園で開催された盆踊り大会を皮切りに、たちまち全国を席巻。すでにレコード会社の設立と相まって、ラジオの普及や、蓄音器が販売され、「ヒット曲」なるものが出始めていた時期。加えてこの年、蓄音器が低価格化したことも大きい。東京音頭のレコードは、100〜130万枚売れたと言うから、凄い!
 が、「文部省推薦となった」「内務省、海軍省、陸軍省等が思想善導の格好の手段として推薦している」等の噂が、大ヒットの要因としてささやかれてもいた。「君が御稜威は、天照らす」「君と臣との、千歳の契り」とかの、今で言うなら森首相好みの天皇賛美の歌詞が入っていたからかもしれない。しかし実際は、「君」は「遊女」に解され、性的イメージを喚起させるような他の歌詞の方が大衆受けしていたのだ。 公園・寺境・街頭、とにかくみんな踊り狂った。日蓮宗の法要が、突然東京音頭大会になってしまったというエピソードもある。この時局を無視した浮かれ振りに、お決まりのようにお上の取り締まる所となったらしいから、やっぱり「推薦」話しの方はガセだったのだろう。
 話しは変わるが、『死霊の盆踊り』(原題ORGY OF THE DEAD)というサイテー映画が一時話題になったことがあった。学生の映研でも、ここまで面白くなく作れるのは難しいほどの悲惨な出来映え。本来ならあまりのサイテーさを楽しめるはずなのだが、それすら味わえさせてもらえない超映画だ。まあ邦題だけは抜群に良いが、内容は盆踊りと何の関係もない。墓場でダンスぐらいはしているが。
 私家版『死霊の盆踊り』を考えて見た。祭の櫓が、学校かなんかで組まれる。たった10人ぐらいがひたすら音頭に合わせて、何時間も何時間も踊り続ける。にこりともしないでだ。ライトはこうこうと照らしている。けど観客は、酔っ払いが一人くらい。だらしなく笑いがもれ続けている。そのそばに、くたびれた病気の犬がうずくまっている。夏というのに寒寒としている光景。

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