メンバーの小屋

森川小屋

「アナキズムの伝統を更新する」に参加して

8月23日(木)〜8月26日(日)まで、米国ヴァーモント州プレインフィールドの「Institute for Social Ecology」にて「アナキズムの伝統を更新する」(Renewing Anarchist Tradition)という会議が開かれた。会議というと日本では非常に硬いイメージがあるが、もっとフランクなもので、山の中でキャンプをしながら、昼間は輪になって草の上に思い思いに座りながらいろんな主題について議論し、夜になったら焚火を囲みながら酒を飲むというのをイメージしてもらえば良い。今年が第二回だそうだ。8月に入るまでは参加しようとは思っていなかったが、職場での夏休みも短かったし、生活全般がマンネリになっているような気がして、有給休暇を取って参加することにした。これはそのときの日記だ。急遽決めたことなので、メチャクチャ忙しいスケジュールになってしまったのと、スペインの時と違い独りで行ったため、重要な問題について日本語で議論できなかったのが残念だった。

ちなみに、全体のプログラムは以下の通り。

8月23日

7時〜 イントロダクションセッション

8月24日〜25日

8時30分〜9時15分 朝食
9時30分〜10時45分 セッション(セッションの内容はこちらを参照)
11時〜12時15分 セッション
12時45分〜1時45分 昼食
2時30分〜3時45分 セッション
4時〜5時15分 セッション
6時〜7時 夕食
8時(25日は7時30分) スペシャルプログラム(24日は「黒くぬれ」フィルム・25日はロック指人形劇)

8月26日は朝食後に、オープンディスカッションがあり、その後、ヴァーモント州のアナキスト史訪問ツアー(僕はこれには参加しなかった)

8/23

11:45 am。定時に成田へ。チェックインは問題なく済んだが両替をしようとして困った。子供たちが仏フランに両替をしていて、何でか知らんが時間がメチャクチャかかっていた。引率らしき人が銀行員と話しをしていたが、どっちも埒があかないようだ。一時間弱待ってようやく両替を済ます。今度からは、事前に銀行で両替することにしよう。今回は、宿は3日間で50ドル+ベジタリアン料理付きだから、300ドルもやっておけば充分すぎるほどだと思い、両替をしたら、手持ちの日本円が5000円程度になってしまった。空港で飯を食ってビールを飲む。アサヒビールのデュンケルは大した味ではなかったが、二杯飲んでしまった。結果、日本円は半分になった。

2:30 pm。機内搭乗。食事のメニューを見てがっかり。機内のコーヒーが全てスターバックスだ!成田空港にも偉そうに陣取っていたが、機内のコーヒーまでもがスターバックスになっているなんて。そのうち機体にスターバックスのマークが付いた飛行機が飛ぶかも。

それにしてもユナイテッド航空は狭い。エコノミークラスはこんなに狭かったっけ?食事はまぁまぁだが、二種類選べるはずなのに、いつの間にか一方がなくなってしまっているのはどうかと思った。しかも、残っているのがハンバーグだったり、ソーセージ入りのパスタってのはいかがなものか?今度飛行機に乗る時には、絶対ベジタリアン料理を前もって注文しておこう。

ゆっくり寝ようと思ったら、隣の席のおばあちゃんと話しこんでしまい、なかなか睡眠に入れなかったが、ワインをがぶ飲みして、気が付いたらしっかり6時間寝ていた。寝ているときに、いつの間にか、「赤いきつね」とスナックが入ったボックスが配られていたのには驚いた。フライトの半ばって寝るんじゃないのか?確か、前回スペインに行ったときもフライト半ばのおにぎりを逃したような... 自分が寝てるってだけのことか。

11:30 am。ちょっとふらふら状態でシカゴに到着。アルコールが抜けていないようだ。久しぶりの米国はちょっと緊張する。シカゴの空港は広い。国内線のフライトを待っている人のマナーもあまりよくない。だが、そんなことよりも、ここでもスターバックス!せっかくコーヒーを飲もうと思ったのに、スターバックスだけかよ。かなり参った。スターバックス・マクドナルド・ヒルトンホテルって、何とかしてくれ。

4:30 pm。バーリントンまでの飛行機は離陸してしばらくで寝てしまい。着陸のときに目が覚めた。バーモントは緑だ。窓から見ると、街らしい街がなく、緑の中に家が点在しているようだった。

ISEから誰か迎えに来ているかもしれない、とのことだったが、それらしい人は見当たらない。ISEに電話をするが留守番電話だった。モンペリアに着いたら電話すると伝言を残す。日本に電話してみたが、3分20ドルだとか。そんなの払ってられない。空港の電話機にはパソコン用のジャックがあったが、使わなかった。タクシーでグレイハウンドのディーポまでゆく。12ドルぐらいだった。5時前にバスのチケットを買ったが、バスは6時20分に出るそうだ。それまでの時間潰しを考えなければ。周りを歩くが人家だけで他に何もない。余り柄もよくなさそうなので、コーヒーだけ買ってディーポで待つことにした。

7:30 pm。グレイハウンドの中でも眠りまくっていた。モンペリアに着く。7時30分だ。日が暮れかかっている。ISEに電話したが、やはり留守番電話だ。丁度忙しい時間帯に入ったのかもしれない。再度伝言を残す。疲れているし、もう余り待ったり、動いたりしたくはない。30分後に電話してまた留守電だったらどこかのホテルかモーテルに泊まろう。ダウンタウンを歩いてみた。こじんまりとしていて、観光するには良さそうな場所だ。疲れていなければ、歩いてみたいが。いっそのこと会合に出るのを止めてここで観光をしてしまおうかという気にもなる。ただ、安いホテルなどは見当たらない。一番安そうだったのが、バス停近くのキャピタルプラザホテルだ。値段を聞いてみると、78ドルだとか。僕の感覚からすれば非常に高い。だがもう一つのホテルは平気で100ドルを越えていそうだ。ハイウェイの方に向かえばもっと安いのがあるかもしれないが、歩く気はなかった。

8:00 pm。再再度ISEに電話。今度も留守番電話だ。考えてみれば、電話代もばかにならない。明日、そちらに向かうと伝言を残して電話を切る。78ドルのキャピタルプラザホテルに泊まる。疲れていて飯を食べる気にもならない。そのままベッドに横になったが、疲れすぎていたせいか、はたまた、テレビが目の前にあるからか、なかなか寝つけなかった。

8/24

4:00 am。目が覚めた。一度、2時ごろにも目が覚めたはずだ。時差ぼけ?メールをやろうとしてつないでみるが、うまくいかない。スペインの時からどうも相性が悪いようだ。隣のガソリンスタンドのコンビニでパンとコーヒーを買って、6時に朝食。5ドルなり。しばらくぶらぶらしてから、9時にチェックアウト。タクシーを呼んでもらって現地に向かう。

タクシーが坂を上って行くと、想像していたのとは全く違う建物だった。山の斜面の広い草地に一軒屋が二つ並んでいるといった場所だ。中に入るとセッションは既に始まっていた(あたりまえだ....トホホ)。セッションは同じ時間に三ヶ所〜四ヶ所で行われ、どれか一つを選ばなければならない。取りあえず、一番近くのブライアン=トカーのセッションに出る。「バイオテクノロジーを体系的に理解する」という題だったが、本題は終わっていて、ディスカッションに入っていたため、内容は分からなかった。ブライアン=トカーは髭をはやした気のいい米国人といった風体で、想像していたよりも科学者科学者していなかった。

休憩中に、レイヴン古書店のジョンと話しをした。彼は、僕がこの会合に来るにあたってコンタクトを取った人で、宿泊場所や車の手配などいろいろ気を使ってくれた人だ。昨日も、15分遅れでバーリントンに迎えが到着していたらしいが、すれ違ってしまったようだ。残念、もう少し待ってみればよかった。結局、その迎えに来てくれた人とは話しをする機会がなく終わってしまった。

休憩をはさんで、次はラムゼイ=カナーン(AKプレスの人)のセッションに出ることにした。「システムをぶっ潰すだけでは不充分なとき」という題で、自分の活動をふりかえりながら、アナキズム組織について述べていた。スコットランドで1984年からアナキストシーンに参加し、コミュニティ=レジスタンスというグループを作り、活動に専念。そのアナキストグループが人頭税反対運動を創り出し、民衆の50%以上が人頭税を払わないという成果を出した。だが、人頭税反対運動が終わると結局何も残らなかった理由として、(1)自分達の組織作りの方法がアナキズムだと述べることがなかったため、アナキズムとしての広がりが全くなかったこと、そして、(2)多くの成功が結局は単一争点でなされ、人頭税に反対してそれが成功すればもう終わり、他の税金は平気で払う、といったことが見られていたこと、が挙げられていた。組織論としては、アナキズムは少数派であって構わないが、他の人々を指導するわけではない・組織のインフラストラクチャーをしっかりと作ることで、新しい人がちゃんと入れるようにしなければならい等を述べていた。ディスカッションで話を聞いていて分かったが、ラムゼイは階級分析を重要視しているようだ。

昼食は、セルフサービスだ。ベジタリアン料理だと聞いていたが、テーブルの上にはターキーとツナはあったし、卵・チーズもあった。だが、僕の場合、幅広い選択肢が出されると過激な方向に向かうようで、滞在中ずっとベーガン食を選択していた。昼食時に韓国の大学の先生と話しをした。noizさんが関わっている反徴兵の問題について聞いてみると、ブンブンさんの先生だったらしい。韓国は日本よりもアナキズム運動が盛んなようだ。アナキスト連盟もあるそうだ。日本の状況について話しをしたが、日本のアナキズム史や日本の文化などをずいぶんかってくれているようで、日本でアナキズム運動が再構築されれば大きな力になるというようなことを言われた。西洋とは異なる東洋的なアナキズムを、という考えを持っているようだ。極東アナキスト連盟か。

昼食の後、「ニューロアナーキー」というセッションを聞いたが、認知科学の知見とアナキズムに関することだった。認知科学の知見などについてよく話していたが、結局のところ、認知科学とアナキズム(政治哲学)はお互いに関連しあっているのか、相補的なのか、という根本的な問題は分からないままだった。

休憩時に、韓国の人の紹介で、スコットランドから来たアナキストと知り合う。彼は、コリン=ウォードの知り合いだそうだ。丁度そこにいたジョンに宿泊先に連れて行ってもらった。ISEから続く坂を上ったところにある。テレビも電話もない。良い感じ。

「黒くぬれ」というビデオプレゼンテーションとディスカッションに参加。このビデオが大学での修士論文になるそうで、本人は「学問学問したものではないようにしたかった」と言っていた。内容は、さすがに米国だなと思わせるものだった。LAのKCOP(KKKの警察と読める。笑)という実際のテレビ局が報道した内容がいかに作為に満ちたものかを示し、ブラック=ブロックの大多数が白人によって行われているということ、アナキストのシンボルである黒が、メインストリームメディアによって黒人と関連付けられていることなどについて、「黒マスクをはずした後でも、白人であることを辞めることができるのか」というテーマでディスカッションがなされた。アフリカン=アメリカンの人が、ブラック=ブロックも60年代のボストン=ティーパーティー等と同様に白人同士の権力闘争だと、と話していたことは印象的だった。

夕食は、スコットランドの人と、ISEの学生などと食べた。食後に、ISEの学生がすごくきれいな場所があるといって、森の中の草原に連れて行ってくれた。道すがら、森の中では、ISEのプログラムの一環として、ソーラーエネルギーの家や森林保全やきのこの栽培などが行われているのを見せてもらった。それにしても、森の中は気持ちが良い。森を抜けて草原に出ると、草原は山の緩やかな斜面にあり、目の前にヴァーモントの山々が見え、正に夕日が沈まんとしているという、何ともいえないロマンティックな場所だ。

さきほどの「黒くぬれ」というビデオプレゼンテーションの完全版を見た。アナキズムの黒色性の歴史もちゃんと踏まえた上で作られ、先ほどよりもいっそう面白かった。

その後は、外で焚き火をしながら、地球の現状を描いたアートを見ながら、ビール・ワインで酔っぱらいまくった。こればっかりは、インターナショナルなようで、まじめに話し合っていた様子がウソのように、ばか騒ぎになっていた。年齢が若い人が多かったからかもしれない。カナダの人が割に多かった。カナダから来た人と仲良くなって、プロパガンディやウィーカーサンズの話をした。午前1時ごろに僕は宿泊先に行ったが、ISEの建物で寝た人もいたようだ。

8/25

朝5時におきる。ISEまで散歩をしようと思った。ついでに、建物や風景の写真を取ろうと思った。だが、カメラが見当たらない。なくしたようだ。昨日の夜に飲んでいる最中にどこかに落としたかもしれない。行って見れば分かるだろう。坂を下って歩いていったが、見当たらない。がーん、無くしてしまったようだ。

朝食を外で何人かの人たちと取っていると、シンディ=ミルスティンがテーブルに来た。シンディにブクチンの話しをしてみた。この会合に来る前にジャネット=ビールにメールを送ったら、ビールとブクチンはもはやアナキストだとは名乗らないとの返事を受け取った。シンディも、「何で今頃?せっかくブクチンが復活させたアナキズムが広がってきたのに」という思いがあって、二人と話しをしたようだが、どうしてもガンと言うことを曲げないようだ。まぁ、名前が何と変わろうと内容が同じなら良いんだけれどもね。

今日の最初のセッションは、「文化・意識・直接行動」だった。異文化(自分の身の回りであれ、外国であれ)と接し、自分の意識の変革を通じて、直接行動を考えるといった内容だった。アナキストFAQを引用しながら直接行動を定義していた。異文化は米国人が好きそうな内容だ。ディスカッションも盛り上がっていた。やはり、有色人種であるということ・白人優位の国であるということが引っかかるようだ。他の人とコミュニケーションを取ることで、自分の文化的制限を取り外す、ということか。

個人的には、次のセッションがすごかった。「アナキズムと計画的地域運動」は、ブクチン的な意味ではない、現在計画的に作られている地域社会とその連合についてだった。北米コミューン・計画的地域(経済の共有をしている計画的地域をコミューンと呼ぶが、スクアットや経済を私有にしているものも含めている)の現状について話しをしていた。こうした計画的地域はかなりの数で存在するようだ。どの地域もアナキズムとは全く無関係に生じているようだが、ヒエラルキーがなく、リーダーもいない地域という意味ではアナキズム的だ。この話しをしてくれたイアンはその連合に関心を持っているようだった。そこに参加していた人がブラジルから来た人で、ブラジル南部の現状を話してくれた。ブラジル南部では実際に3百万人(!)が、政府のないコミュニティに住んでいる。そこでもやはりアナキストはいないそうだ。このセッション以来、僕は独りで考えこむようになってしまった。興味深い話しを聞くとそれがどういうことを意味しているのか、自分がこれまで考えてきたことと整合性がとれるのか、日本ではどうなのか、を考えてしまうからだ。一つだけ不思議だったのは、このセッションに参加した人は数少なかったことだ。昨年、イアンがセッションを持ったときも参加した人は皆懐疑的だったそうだ。ジョンに話しを聞いたときも、「どうかなぁ。僕が見たコミューンとか計画的地域は酷かったけれどね。」と言っていた。でも、僕はアナキスト社会を今ここで表現するのなら、コミューンは強力なやり方なのではないか、と思うのだが。

昼食後の「アナキスト精神を再び素描する」は、僕の観点からすれば、死体漁り。名も知らぬアナキストの墓を発見したり、訪れたりしたときの話しをしていたが、つまらなくて聴衆も少なかった。途中で出ていった人もいたが、僕はさっきの意図的地域について考えをあれこれめぐらせていた。

次は、僕がイントロダクションを翻訳したInstitute for the Anarchist Studiesのチャックによる「アナキズムと歴史意識」というセッションだ。歴史という概念についての三つの考え方とその例を引きあいに出しながら、歴史研究の概念化を行っていた。このセッションは歴史・現在・未来ということについて考えさせられ、再び、しばらくの間独りで考えこまざるをえなかった。

夕食後も、このセッションと地域社会のセッションが頭からは離れず、他の人と話しをする気もなかったので、ライブラリーで本を読んでいると、カメラの撮影でケベックのときに警察に捕まり今度裁判をされる人のインタビューを撮る(メインストリームのメディアではどうせ嘘しかうつらないから)とのことで、ライブラリーも退去。前日に行った原っぱで独り夕日を見ることにした。独りでいるとどうしても行く道・帰り道考え事をしながら歩いてしまうため、余り楽しめない。こういうときは日本語を話す仲間がいれば良いのに、と思ってしまう。

夕日から帰ってみるとほとんどの人たちは「ロック人形劇」に行ってしまっていた。残っている人と軽く話しをしたが、余り話しが続かないので、宿泊場所まで歩いて戻った。カメラが入り口においてあった。どうやらどこかに落としたのを誰かが拾ってくれたらしい。適当なときにISEに戻って、明日の朝の打ち合わせをしなければならないから、寝ないように気をつけなければ、と思っていると寝てしまった。起きたら10時過ぎだった。歩いてISEまで戻るが、さすがに夜中で電気もなく、月と星の明かりだけで森の道を歩くのは心細いものだ。と、前から車がやってきて、僕のそばを通り過ぎた後で引き返してきた。ジョンだった。どうやら今日の夜にバーリントンに住んでいる人のうちに泊めてもらえそうだ、とのこと。引き返して、荷物をまとめる。せっかくカメラが見つかったのに、全く建物とかを撮っていない、もう無理だなとと残念になったが、仕方がない。ジョンの車でISEに行くと、やはり今日も焚火・ワイン・ビールが始まっていた。今回は、ブライアン=トカー・シンディ=ミルスティンも加わっていた。今日の晩に泊まるところまで連れて行ってくれる人、ショーンも一緒に泊まるようだ。ビール・ワイン・焚火では、いつになったら車が出発するかわからない。運転する人はさすがに飲んでいないが、ショーンは調子よく飲んでいる。僕も調子よく飲んでいる。結局プレインフィールドを出たのが、午前2時で、バーリントンについたのが午前3時過ぎだった。

8/26

ショーンの飛行機は午前6時半のため、ほとんど寝ないで出ていった。僕は、うつらうつら寝て、ショーンが出た後シャワーを浴びて、出かけた。空港につくと、飛行機が一時間遅れ。おいおいもっと眠れただろ、と思ったが、あれ以上寝てしまうといつ起きるか分からないので、丁度良かったかもしれない。それにしてもつかれた。機内爆睡モード。シカゴで乗り換えをしたが、これも1時間以上遅れていた。しかし、つかれた。

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