メンバーの小屋

森川小屋

改良主義、もしくは、国家社会主義の崩壊について

高速道路は日本列島の距離を縮めている。もちろん、渋滞の時を除けば。君達はもっと早く、もっと先へと進みたくないか?スピード制限がなければ良いと思わないか?渋滞もなければ良いと思わないか?路肩走行を大手を振ってやりたいと思わないか?

そんな君達のために、最近、新しいタイプの高速道路ができた。まず従来通り身近な料金所から普通に高速道路に乗る。しばらく進んでいくと、分岐点を示す標識が見えてくる。標識が言う。

「アナーキー高速道:国法管轄外。ご自身の責任でお進み下さい。」

もちろん、出口に料金所などない。道路も何処を走っても良い。何処で休憩しても良い。スピードをどれだけ出そうが構わない。ただし、いかなるサービスも存在しない。何かその場所に目的がある人・何が何でも早く目的地に行きたい人・好奇心の強い人だけが利用しているようだ。できた当初は、以下のような声が聞かれた。

あるトラック運転手:
「いやー、あの道路ができて本当に良かったよ。それまでなら五時間はかかったところが、二時間で行けるもんなぁ。」

車好きのスピード狂:
「すげぇよ。200キロ近くで走っても何も言われないぜ。気分良いよ。」

暴力団関係者:
「良い場所を作ってくれた。取引にぴったりだ。政治家に働きかけただけのことはあったな。」

だが、しばらくするとこうした意見も変わってきた。本線の渋滞にはまって、アナーキー高速道を利用した人が言う。

「いやー、もう、いらいらしちゃってさぁ、しょうがないからあの道を使ったんだよねぇ。え?あぁ、噂は聞いていたよ。でも、最初のうちは良かったんだよ。余り車もいないしさ。いくらぶっ飛ばしても良かったしさぁ。何か邪魔なのがあったら、道を外れて走れば良いだけだしね。
「半分ぐらい行った所だったかなぁ。急にタイヤがパンクしたんだよね。しょうがないから車を適当なところに止めてさぁ。スペアタイヤと交換しようとしたんだよ。そしたらさぁ、覆面をした奴らがやってきてさぁ、やべぇって思っているうちに、鉄パイプか何かで車をボコボコにしやがってさぁ。あんとき、俺も殺されっかと思ったよ。マジで。でも、あいつらすぐに居なくなったんだよね。ほっとしたけど、どうしようと思ってさぁ。携帯使おうと思ったら、電波が届かないとか何とかで、つながんないのよ。後半分歩くのかと思ったら嫌になちゃって、ほんと泣きそうだったよ。しょうがねぇから、歩いたわけ。惨めだったぜぇ、ホント。でも、前のずっと先のほうに、露店みたいなのが見えたのよ。やった、と思ったね、そん時は。
「行ったらさぁ、なーんか、チョー人相悪い人が居てさぁ。どうしました?って変な愛想笑い浮かべながら聞くんだよね。やべぇって思ったけど、もうどうしようもなくてさぁ。事情を説明したわけ。そしたら、代車を貸してくれるって言うわけよ。いくらだと思う?50万だぜ。50万。出口まで50万だと。カードでも良いって言うし、ここから先には何があるか分かんないって言うし、しょうがねぇからカードで払うしかなかったよ。全部仕組まれてたんだよ。間違ってももうあんなところにゃ行かねぇ。」

彼は、まだ良いほうだったようだ。最悪の例を挙げれば限りがないが、そんな中、今でも積極的に使っている人達もいる。兵器マニアのAさんだ。

「えぇ、今でも行ってもますよ。あそこじゃぁ、金さえ出せば何でもできるからね。こないだなんか、戦車にのっけてもらってさぁ、撃っちゃった。気分良かったねぇ。値段?まぁ、一発十万ぐらいかなぁ。暴発して死んだり、弾が当たったりした人も居るらしいけど、まぁ、運が悪かったんだね。」

産廃業者のBさんも、常連だ。

「何を捨てても文句言われないからね。」

死体処理業者のCさんも常連らしいが、インタビューには応じてもらえなかった。

アナーキー高速道路は今でも何処かにある。だがそれはゴミタメになってしまった。今でも国法の管轄外であり、支配者も存在しない。だが、結局周囲の世界同様、金が全てを支配してしまった。金はゴミタメしか生み出さない。

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