みんなの

KISSの温度「」Special Edition

 

 

 

 

とある依頼者 by 謎のD

 
 男が居た
 
 彼は大きく息を吸い込むと受話器を手にとり 電話のダイヤルを押す
 ピッポッパッポッピッ・・・
 秘密の12桁の番号
 やがて受話器からかすかな応答音が響き たっぷり1分は経ってから やっと相手からの応答があった
 
『 ・・・なんの用だ? 』
 それは冷たく傲慢な声
 受話器を持った男は辺りをキョロキョロ窺うと 小さな声で
「 あなたの助けが必要なのです 」
 
『 ・・・どういう事だ? 』
 
「 自分の知り合いですが・・・彼は愛妻と2人の息子にも恵まれた幸運な男なんですが・・・たったひとつの不満があります。
 彼の奥さんですが・・・実は大変な『方向音痴』で おまけに車の運転が絶望的なんです
 それが彼に極度のストレスを与えていたらしく とうとうそれを『日記』で暴露するくらいに追い詰められていたんです
 このままではそれこそ『ナニ』を書き込むか判ったもんじゃありません
 そうならない為にも ぜひ 貴方の力を・・・」
 
『 ・・・わかった。つまり『癒せ』ば良いのだな。ふっ、問題ない・・・』
 
「 ありがとうございます。これで彼も『更正』できるでしょう 」
 
 
 男は電話を切ると 嬉しそうに微笑んだ
 
「 ふっ、これでラブラブ者もお終いだな・・・」
 
 
 

 

 

政治的に正しい僻み by 苦有錬る 惨状録

 


 ああ・・・人の心の醜さよ。
 富を妬み愛を嫉む、その心の貧しさよ。
 万人に潜む心の闇は、哀れむべきカルマなのだ。
 だから、人々よ。
 汝の隣人を愛せよ。
 剥き出しの牙に接吻づけ、彼の闇を照らせよ。
 憎むべきは罪。
 彼の男は、その善良をひととき忘れているだけなのだ・・・
 
 
 
 
 ・・・ってコトで、ぼくは悪くないも〜ん♪

 
 
 
 
 
 白い手袋から抜き出された火傷の跡が、革製の黒いグローブに再び覆われた。
 モッズ系のファッションだと言い張れない事も無さそうな赤いサングラスも、今はダークブラウンのレイバンに代わっている。
「ふっ・・・」
 幾多の血を啜った青竜刀を象って、ピンクの唇が不吉な弧を描く。
「待つが良い・・・過酷な現代社会に蝕まれたその魂、清浄なる接吻で癒やしてやろう・・・」
 カサッ・・・カサカサッ・・・
 独立した生き物のようにざわめくヒゲが、男の顎を覆っていた・・・
 
 
 
 
「は〜いリオく〜ん、ご本を読みまちょうねぇ〜♪ 今日のご本はコレ、kanonの同人誌でちゅよぉ〜♪」
 幸福ゆえの錯乱か、あるいは狂気の理性か?
 只の子煩悩とも噂されるその男は、今日も息子の教育に労を惜しまなかった。
「鮎・・・綺麗だ。可愛らしい胸も、ピンクの○○○も・・・ほらぁ、リオくん見てごらん? 鮎ちゃん、キレイでちゅねぇ♪」
 危険な読み聞かせは、廃を極める英才教育。
 反則すれすれの荒技で、妻の目を盗みながら布教に勤しむその姿・・・
「むぅ・・・癒やさねば。これは癒やさねばならぬ。」
 ベランダから覗き込む大男の勤労意欲を、カレーに添えた福神漬けの如くそそる。
 ニヤ・・・
 虚空に荒んだ笑みを刻みつけ、男の姿は闇の中へと溶けてゆく・・・
 
 
「おおっ!? でかっ!! リオくんも、おっきくなったら大きくなるんでちゅよぉ(?)・・・って、うわあああっ!!?」
 低予算のホラーの如く、やたら唐突に『G』が現れた。
 場所は男の腕の中。
 組んだ足にちょこんと座り、つぶらな瞳をキラキラと輝かせていた息子は、今は楽屋で母の胸に抱かれている。
「あの人ったら、なんつーモノを子供に見せるのよっ!! 」
 きゃっきゃと胸に縋り付く息子の指先が、常にない技巧を披露する事・・・
 怒髪天を突きまくりのリオママであった。
「むぉんふぁいふぁい・・・? ぺっ! 問題ない、細君も貴様の癒やしを望んでいる・・・」
 ご丁寧にもくわえていたおしゃぶりを吐き捨てて、味方は居ないと男に告げる。
「なっ、なんデスか貴方はっ!! 」
 漁港の朝市で跳ね回る活きの良いエビを思わせて、男の後ずさりは信じられない程速かった。
 
 ゴッ
 
 鈍い音をたてて床にぶつかる『G』のドタマ。
 やはり痛い物は痛いのか、頭を抱え、蹲る『G』。
 逃げなくちゃ! 逃げなくちゃ!! 逃げなくちゃ!!!
 今のうちにと立ち上がった男は、新築マンションの真新しい扉を労るようにそっと開け、脱兎の如く駆け出した。
 
 下だっ!
 
 階段を駆け下りる男。
 けたたましい足音が響く階段室の外側を・・・
「うははは!! 」
 上着の裾をはためかせ、黒い影が舞い降りていった。
 ばさばさばさっ・・・ぐちゃっ!
 肉が潰れたような音に耳を塞ぎ、ついにエントランスへと辿り着く男。
 出入り口の脇に口を開けた人型の大穴をひらりと飛び越え、彼は駐車場に急いだ。
 逃げるんだ、少しでも遠いところへ!
 もつれる足を叱咤しながら、彼はようやく、愛車『ラウム』のシートに腰を据える。
 どこっ? どこへ逃げたらイイんだっ!?
 片手でエンジンをスタートさせながら、必死にカーナビを操作する男。
「・・・ひっ!? 」
 だが、メーカー名を鮮やかに浮かび上がらせる筈の液晶画面には、二本のからし明太子を口許に貼り付けた『G』の肖像・・・
「うわああああああああっ!! 」
 精神汚染の兆候を全身に表しながら、アクセルを床まで蹴り飛ばす。
「うわあああっ! うわあああっ!! うわっ、うわあああっ!!! 」
 エンジンの咆吼を掻き消す悲鳴が、駐車場を駆け抜ける。
 前輪が導くは夜の道路。
 しかし、マンション敷地からの出口には、身の丈二メートル近い大男の影が!
「くたばれ! 化け物!! 」
 ペダルをキシリと歪ませて、力の限りアクセルを踏み込む!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ドンッ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 鈍い音を残して八王子の道へ抜け出した車の中、男はヒステリックに笑っていた。
「ふっ・・・ふははははっ!! やった! 助かった!! ついに奴を倒したんだっ!!! 」
 緊張の極地をくぐり抜け、涙と鼻水にまみれて狂ったように笑い続ける男・・・
 だが、彼は気付いていないだけなのだ。
 否、壊れかけた心が、気付いた事実を否定しているのかもしれない。
 彼の目が決して覗こうとしないルームミラーには。
 ふっ・・・歪んだ精神ほど、癒やしを恐れるものなのだ・・・
 リアウインドーに吸盤のように貼りついた、巨大なタラコ唇が映っていた・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

というわけで続きです♪(をひ!) by 那珂川県(偽名)

 
 ヒトは過剰な恐怖に襲われた時、自らの精神(こころ)を守る為、とかく現実逃避に走る。
 彼もまた、そうしたヒトらしい反応を示していた。
 
 己のサイトに設置された掲示版から生まれたデジタルモンスター。
 その電脳世界の呪いに、今、彼は精神(こころ)を壊されようとしていた。
 そして、その破壊と再生を、彼の者はこう呼んだ。
 
 曰く『ふっ…これぞ究極の癒しだ……』と。
 
 いつの間にか降り出した雨……逃げ出した街を、彼の車は走る。
 フロントウィンドウには、雨粒が当り、すれ違う対向車のヘッドライトが水滴に光る。
 ワイパーが邪魔な水滴を拭うが、彼は何故か、バックミラーを決して見ようとはしなかった。
 
「ふはははははっ!! 決して倒される事の無かったアイツを、ワタシが倒したんだっ!!」
 
 歓喜の声が、車中に木霊する。
 だがしかし、それは彼の本能が、自らの置かれた状況から逃れる術にしか過ぎなかった。
 
 つまり……“現実逃避”。
 
 己の生存本能が、精神(こころ)のリミットを限界稼動している為に産ませた、偽りの歓喜。
 そんな状態で、彼は愛車を、一路八王子バイパスから、国道16号を南進していた。
 偽りの余裕ともとれる口笛を吹きながら、彼は何気なくダッシュボードからはみ出る物に気付いた。
 
「これは……? おぉっ!? 夏コミで手に入れたかった「久遠○絆」の万葉×薙本っ!!
 どうしてこれがこんなところに? ……ま、良いか♪」
 
 彼は車を最寄のコンビニの駐車場に着けると、そのままその同○誌を読み耽り始める。
 何故そんな本が、細君も使う筈の車に積んであったのか?
 そんな事も疑問に思わず、彼はその同○誌を食い入るように見、そしてページを捲った。
 
 時折『ナギーっ!!』と叫ぶその声は、コンビニに買い物に来ていた客の注目を浴びる。
 だが、その客達が彼の愛車を見た瞬間……皆、一瞬にして目を背けた。
 何故ならば、そのリアハッチに張り付く、黒尽くめの大男を見たからに他ならない。
 
「ふっ……作戦は予定通り進行中だ。2%の遅れもない(ニヤリ)」
 
 どうやら、愛車に仕込まれたその同○誌は『G』が用意した物のようだ。
 そんな事に気付く事もなく……。
 否! 本能で気付いているからこそ、逃げられぬと諦めているからこそ……。
 彼は現実から逃避していたのかもしれない。
 
 そして全ては『G』の計画通り『癒し』の時を迎えようとしていた。
 
「待っていろ、今貴様を癒してやる」
 
 だが、雨に濡れたボディーは、やけに滑り易かった。
 車体を掴む彼の手はつかみ所を失い、抱え込む足がツルリと滑る。
 オマケに、吸い付いた吸盤のような唇の上の鼻には、滴り落ちる雨水が荒い息をする鼻腔から侵入する。
 このままでは、流石の『G』も溺れかねない。
 
 大丈夫か『G』っ!?
 ファイトだ『G』っ!!
 
「ふっ……問題無い」
 
 
 
 
 
 
 

 

 

なんで続くのかな?(笑) by 謎のD

 
 
 
 
「 ・・・・・・ふっ・・・問題・・・ない・・・」
 
 冷たい雨が男の身体から体温とエネルギーを奪っていく
 次第に指から力が抜けていき、車のリアを滑り落ちた手はやっとのことで窓のとっかかりにしがみついているにすぎなかった
 
『 ・・・もう、駄目なのか・・・』
 
 蒼い瞳の少女のおかぶを奪い、小さく呟いた男のサングラスに映ったのは
 
 車の後部に置かれていた 子供の玩具
 
 それを見た瞬間、男の脳裏に去来したのは 先程 家の中で見かけた癒すべき相手の『家庭』だった
 
 温かかった
 
 お茶目だが愛すべき妻
 父親を真摯に慕う子供達、そして純真な瞳
 身体も心も真に落ち着かせることが出来る 暖かい空間
 
 そう、彼がとうてい手に入れることができなかった『夢』が そこにはあった
 
「 ・・・ユイ・・・シンジ・・・」
 
 腕の中をすり抜けていった『家族』を思い起こす
 そして男の身体の中に沸きあがっていく 新たな力
 
『 な、なんで アイツばっかり 幸せそうなのだ !!!』
 
 指摘する人が居れば それを『嫉妬』 又は 『八つ当たり』と言ったかもしれない
 しかし暗い情念より産み出されたそれは、彼に絶大なパワーをもたらした
 男は青くなっていた顔面を紅潮させ、自慢の『兵器』を嬉しそうに歪めた
 黒く茂った毛の中で ピンクの唇がヌメヌメした艶を取り戻す
 そして 笑った
 
「 ・・・すべてはシナリオ通りだ 」
 
 
 
 
 
 
 ガチャッ
 ぱらぱらと同人誌をめくる音と 男のニヤニヤした微笑み・・・「万葉〜♪」とか 「 萌え〜♪ 」という呟きしか洩れなかった自動車の中に
 いかにも金属質 硬質な響きが流れた
「 ん!?」
 その音に 自分の妄想空間を破かれた彼が しぶしぶ 同人誌から目を離して助手席の方に視線を移す
 
 そこに居たのは 暗黒の衣をまとい灰色の雨の中に立ち尽くした『奴』の姿
 白と黒との色彩の中で 何故かピンクの『アレ』だけが異様な存在感を現す
 
「 ひ、ひ、ひぇぇぇ〜〜〜 」
 
 男は情けない絶叫をあげると 反対側のドアを開けて狂ったように走り出しす
 雨に濡れた駐車場
 彼の乱れた足跡だけが てんてんと続いていった
 
『奴』は微笑む
「 ふっ、逃げられると思っているのか・・・」
 
 
 
 
 
 
 

 

 

やっぱ、最後は本人が・・・ね by 苦有錬る 惨状録

 
 
 いかに都内とはいえ、都市の熱圏を遠く離れたその街で、降る雨は冷たい。
 やみくもに駆け出した彼は、そぼ降る雨に叩かれて、すでに恐慌状態を脱していた。
 
「なんてこった・・・此処は何処なんだ? 」
 
 引っ越してきてから、まだ日は浅い。
 勘が掴めない、見慣れない土地。
 道行く先は闇が覆い、僅かな視界も雨に滲む。
 
「最後の角は左に曲がった・・・んだよな、確か。」
 
 チラチラと目障りな点滅を繰り返す街灯が、彼の記憶に甦る。
 
「・・・よし、此処は安全圏の筈だ。途中まで引き返して、マンションまでの別ルートを探そう。」
 
 さすがにコンビニまで戻るのは躊躇われたが、彼には急いで帰らねばならない理由があった。
 命懸けの逃避行が考える余裕を奪っていたが、マンションの和室には危険な書物が散乱しているのだ。
 教育上の危険は致し方ないとしよう。
 愛する息子と共にヲタクの☆を目指すには、多少のリスクは避けられない。
 息子の頭上に栄冠を掲げる為ならば、男はPTAを敵に廻す事など恐れはしなかった。
 ・・・だが、命の危険は頂けない。
 愛する妻に秘めたる嗜好を悟られたら、子供もろとも天の岩戸に篭もられかねない。
 
 一人っきりの食卓なんて、三日と耐えられないよ・・・
 
 骨の髄までラブラブ菌に犯された彼は、もはや妻の手料理無しでは生きられない体となっていた (ケッ! )。
 誰だって命は惜しい。
 ヲタクの☆はともかくも、妻の手料理を失うリスクは『G』への恐怖を上回る。
 
 リスクコントロールの完遂には、現在地の確認とルートの検索が急務!
 
 今だ泣き濡れる夜の空を、男はビシッと指さした。
 瞳の奥で、ピンクの炎が燃え上がる。
 
「見よッ、我が子よ、愛しい妻よッ! 恐怖に立ち向かうパパの勇気を、その胸にしかと刻むのだッ!! 」
 
 ・・・じ〜〜ん
 
 最高にキマッたであろう自身の勇姿に陶酔する男の脇を、野良犬が我関せずと通り過ぎて行く。
 
 じゃあ早速、カーナビで・・・げ。
 
 ポチッとな、と突き出した指先が、還暦間際のおじいちゃんを思わせる角度に垂れ下がる。
 それはもう、バイアグラを必要とする程に。
 
 人類の帰巣本能を極限まで退化させるナビゲーション・システムは、道を覚えるという努力を日常から放逐する。
 そして男は聡明であり、また合理的な行動を愛していた。
 
 故に・・・
 
 雨の路上に膝をつき、男はがっくりと項垂れる。
 車を停めたコンビニすら、どうやって戻れば良いのか判らなかったのだ・・・
 
 
 
 
 
 

 

 

油を注がれちゃったので・・・ by 不思議のD

 
 
 がっくりと肩を落とした男の身体に 灰色の雨が降り注ぐ
 心も身体も凍らせるような冷たい雨だ
 
「 はぁ〜〜・・・どうしたらいいんだろう・・・」
 
 30過ぎの『迷子』は、途方にくれた顔で周りをぐるっと見渡した
 地元なのに知らない場所
 ひとり残された彼は 必死に今後のことに思いを巡らせた
 そして・・・
 
「 そうだ!電話だ 」
 
 自宅にかけて 愛妻に迎いに来てもらうもよし
 ・・・更に迷子が増える危険もあるが
 タクシーを呼んで 家に帰るのもよし
 友人に電話して 今後の対策をねるのもよし
 しかし 残念なことに・・・
 
「 ・・・携帯 忘れた 」
 
 突然の『G』の襲来
 携帯はパソコンの前に置いてきたままである
 
「 えっと・・・どこかに電話は・・・」
 
 キョロキョロと周囲を見渡す
 しかし携帯電話の発達により 公衆電話の数は激減
 どこを探しても 電話ボックスの姿はない
 あるとすれば・・・
 
「 コンビニか、スーパー・・・あとは喫茶店ぐらいかな・・・」
 
 
 厚くたちこめる雲
 止まない雨
 もうすぐ日が沈もうとしている街は白黒の世界に包まれている
 そんな通りだが はるか彼方に見える蛍光色の光の乱舞
「 あれは・・・確か 」
 見覚えのあるそのランプの輝きは
 男がかつて足しげに通った 『ファミレス』だった
 狙いは手軽な料理と・・・一見 中学生に見えた ロリなウェイトレス
「 そうか、この道は・・・」
 やっとのことで記憶にある通りを見つけた彼は 元気を取り戻して進んだ
 
 ・・・だが
 
 ピチャリ、ピチャリ・・・
 
 男の背後から水を叩きつける音が流れてくる
 不思議に感じて振り返った
 その瞳が 恐怖に大きく見開く
 後ろに居たのは・・・
 
 雨に濡れた髭と その真ん中でうごめく ピンクの唇だった
 
「 うわぁぁぁぁーーーーーーーー 」
 
 
 
 
 

 

 

さすがに・・・ by 苦有錬る 惨状録

 
 
「 うわぁぁぁぁーーーーーーーー 」
 
 男は、孤独だった。
 物理的な孤立を解消する電子の声は、今、彼には届かない。
 妻も弟も、そして友人たちも、彼の恐怖を分かち合う事は出来ないのだ。
 なんという事だろう・・・薔薇色の情報社会こそが、2001年の金字塔だというのに・・・
 彼が立つこの空間にも、テレビ、ラジオ、携帯電話・・・無数の電波が賑やかに飛び交っているというのに!
 
「誰かぁっ! 僕を救けてよぉっ!! 」
 
 震える声帯が絞り出した音の波は、虚空が虚しく吸い込んでしまう。
 ああっ・・・どうして、ケータイを不携帯しちゃったんだろ・・・
 恐怖と絶望の淵で、男は電波への渇望に身悶えしていた。
 
「んっ? ・・・デンパ!?
 
 滴を垂らす前髪の奥で、男の瞳が不敵な輝きを放つ。
 誰あろう、彼こそが『LunaBlu』の管理人・・・妄想と狂気に満ちた毒デンパの支配者。
「ふふっ・・・ふわぁっはっはっはァ! ケータイなど要らぬわっ!! 」
 自信と埃・・・もとい、誇りを取り戻し、男は雄々しく立ち上がった。
 その額には小さな基板・・・(株)○学教材社が販売するキットから作り上げた『ゲルマニウムラジオ』!
 ちなみに、お値段九百八十円(税別)。
「デンパっ! 地に遍く散逸するデンパの許に、我ッ! 無敵なりッ!! 」
 高らかに吠え、ラジオから伸びるイヤフォンを耳に差し込む。
 バチッ・・・ザアアァ・・・ンパ・・・ザッ・・・ンジャー・・・
 しょせんゲルマニウムラジオ、受信感度はすっごく悪い。
 だが、それでも男には十分だった。
「くっくっく・・・きたきたきたきた! 湧いてきたぁ〜っ!! 」
 アキレス腱のストレッチ状態に姿勢を落とし、両腕を水平に伸ばして、瞳に纏うはどう猛な輝き。
「ふわっはっは、放置プレイ一ヶ月の炊飯器に蠢くウジ虫の様にワいてきたぞっ!! 」
 しゅばっ!
 全身で鳳凰を象り、付近住民の皆様が傍迷惑だと眉を顰めるヴォリュームで吠える!
「いでよッ! 妄想と退廃の使徒ッ!! デンパ戦隊 なおレンジャー!!! 」
 ズァヴァアッ!!
 カッと閃く雷光に照らされ、道端のドブから五本の水柱が吹き上がるッ!!
 シュタッ
 軽快な足音を響かせ舞い降りた、五体の守護神・・・なおレンジャーの降臨だった。
 
 
 ・・・・・・。
 
 
「あの・・・女装してるアナタは? 」
「うっふん、どらレンジャーよン♪ 女装、クセになっちゃったのぉ〜ン♪ 」
「・・・じゃ、じゃあ、キーボードに何やら打ち込んでいるアナタは? 」
「Nレンジャーだ。安心しろ、ネタは拾ってやる。」
「・・・。」
 なにやらイヤ〜な汗を背中に感じる男。
「・・・それで、針金で全身を縛り上げたアナタは・・・? 」
「はぁっ、はぁっ・・・くうレンジャーっす・・・麻縄よりもUコンのワイヤーが好きぃッ!!! 」
「あうあうあう・・・はっ!? なんだ、このモノリスは? 」
 雨か? 汗か? もはや男は全身びしょぬれである。
 ひょっとしたら、人間よりは物の方がマシかも知れない・・・だって疲れないし。
 男の縋るような眼差しは、しかしモノリスが発した音声に跳ね返された。
『私か? まっレンジャーだ。 パチンコで3万円スッて、今は自宅で泣いているのだ。』
「・・・って、SOUND ONLY かい! 」
 物相手にどっと疲れた男に、もう一柱のモノリスが畳み掛ける。
『ちなみに私はわざレンジャー・・・掲示板は嫌い。』
 
 
 
「・・・・・・ひぇへっ。」
 
 
 
 呆けたような笑みを浮かべた男に言葉は無かった。
 ヒゲの触れあうカサカサという音が、次第に近付いてくる。
「友に恵まれぬその心・・・この私が癒やしてやろう・・・」
 タラコ唇を舌が這う、湿った響きが耳元に聞こえる。
 
 やだな・・・これでおしまいなのか?
 
 しとしと、しとしと。
 星を隠す八王子の夜空は、男の為に泣き続けていた・・・ 
 
 
 
 
 

 

 

やだなぁ……(^^; by とある管理人

 
 数刻前から降り出した雨が、アスファルトの道路の至る所に水溜りを作っていく。
 その水溜りの一つに、僕はいた。
 呼吸は荒く、汗とも雨ともつかない水滴が、額から滴るのを感じる。
 遠くで雷の音が聞こえる。
 普段では聞くことが出来ない重低音が、僕の身体へ不気味な振動となって伝わってくる。
 その音を合図とするかのように、雨足が一層強くなった。
 アスファルトに叩きつける雨音が増す。
 道路に座り込む疲れきった僕の身体に、容赦のない雨が降り注いでいた。
 周囲の花水木が、凍りつくような風にざわめく。
 陽は既に沈み、空は真っ黒い雨雲で覆われてていた。
 街灯が、ひとつふたつと、灯り始める。
 そして、暗い雨の中から、長身の男が現われた。
 灯りに照らされた男の顔の中心に、そこだけ極彩色の異形の物が認識できた。
「……!」
 それを目に留めた瞬間、僕のなけなしの理性は何処かへ飛んでしまった。
 しりもちをついた状態で後ずさる。
 男は顔を歪めたように笑うと、ゆっくりと僕に近づいてきた。
「ひっ、ひぃ!」
 僕は必死に逃げようとするが、結局手足をばたばたさせただけで、そこから少しも進むことはできなかった。
 気がつくとその男は僕の目の前にいた。
 恐怖で歯の根が合わない。
 初めての体験だった。
 何か言おうとするが、言葉にならない。
 僕に出来たのは、ただ口をぱくぱくと無意味に動かすだけだった。
 男はしばらく僕を見下ろしていたが、やがて手をのばし、僕の両肩を掴んだ。
 逃げる暇なんてなかった。
 いや、逃げようと思えば逃げる時間はあったのかもしれない。
 でもそのときの僕は、蛇に睨まれた蛙よろしく、ただ男の手の内に堕ちるがままだった。
 男の手は大きく、力強い。
 肩に食い込んだ指が痛い。
 悲鳴をあげるのを堪えるのが、精一杯だった。
 でも本当は肩の痛みなんて、どうでも良かった。
 その男が現われた時から、僕の意識はその男の顔の中心部に存在する、この世ならざるものに集中していた。
 雨の雫が滴り落ちる。
 と、その不気味なものが、上下二つに割れた。
 中からは、小動物を思わせるような真っ赤な器官が、ゆっくりと蠢いていた。
「癒してやる……」
 深遠の空洞から、この世のものとは思えない声が聞こえた。
 その意味するところを理解するまで数秒を要したが、次の瞬間には思いっきり首を振っていた。
 首が折れるのではないかと思うくらい、勢い良く振った。
 その所為で数秒後には強烈な眩暈に襲われ、目の前がブラックアウトした。
「癒してやる……」
 
 次の瞬間。
 男のものによって、僕の呼吸は妨げられた……。
 
 
 
 
 

 

 

えっとぉ、ふぁいなるぅ♪ by とある管理人

 
 
 僕の意識は、辛うじて向こう岸へ行く寸前で止まっていた。
 いや、いっそのこと意識を失った方が幸せだったかもしれない。
 何故ならば僕の口内には、この世のものとは思えない、異形のものが蠢いていたからだ。
 
 キモチワルイ……
 
「それ」はさながら軟体動物のような動きで、僕の口内に侵入していた。
 僕は無防備だった。
 何も抵抗できなかった。
 ヤツにより、強制的に天へと向けられた僕の顔面には、先ほどから雨が激しく打ち付けている。
 すっと、悔し涙が流れた。
 それはきっと、すぐに雨と同化してしまうのだろう。
 誰も僕の涙に気がつかずに。
 いっそ、このまま堕ちよう……
 こいつに身も心も委ね、死の海へと旅立つのもいいかもしれない。
 
 そう思った矢先、「それ」の動きに変化があった。
 いや、正確に言うならば、僕の心が変質した。
 何故ならば、僕の心は、いつの間にか「それ」を受け入れていた。
 それどころか
 
 キモチイイ……
 
 なんともいえない感じがする。
 まるで暖かくてやわらかな、羽毛で包まれているようだ。
 先ほどまで蠢いていた軟体動物を思わせる物は、今は滑らかな快感を与えてくれている。
 これが「癒し」の力なのか?
 この力でみんなやられてしまったのか?
 だとしたら、僕の力なんてたかが知れている。
 いくら抵抗したって、かないっこない。
 それは最初から決まっているんだ。
 それならばいっそ、このまま堕ちてゆこうか。
 このまま快楽に身を委ね、緩慢な死を迎えるのも良いのかもしれない。
 もう何もかもどうでも良くなってきた。
 このまま快楽におぼれて行きたい。
 ああ……
 
 と、その時、僕の脳裏に光のごとく煌くものが見えた。
 それは……
 
 幼い息子の姿。
 画用紙に、絵を描いている。
 違うよ、アスカはこうやって描くんだよ。
 さあ、描いてごらん。
 子供は教えられた通り、一生懸命に絵を描き上げる。
 得意満面な笑みを浮かべて、僕に描きあげた絵を見せた。
 まだまだ上手くはないが、このまま成長していけば、きっとりっぱな同○誌を作れるようになるに違いない。
 
 フラッシュバックが起こり、今度は別のシーンが映し出された。
 
 そこには僕と一緒に歩いている妻の姿が見えた。
 場所は……東京ビッグサイト。
 折しも ○ミック○ーケット なるものが開催されている。
 そこで僕達はチャーミーグリーン(盗作失礼)よろしく、手を繋いで色々なサークルを物色していた。
 
 
 暗転。
 
 
 そうだ……
 僕は負けられないんだ。
 愛する妻と我が子の為、ここで朽ち果てるわけには行かないんだ。
 目には目を、歯には歯を。舌には舌を!
 
 今こそ 特訓の成果 を見せるときが来た。
 
 こんなこともあろうかと 思って、日夜地道に努力しつづけてきたんだ。
 
 いくぞっ、僕の口撃を受けてみろ!
 
 僕は覚醒すると、口内に侵入している軟体動物を思わせるものを、自分のもので絡めとった。
 ぴくっ。
 わずかにヤツの体が反応した。
 その隙をついてさらに攻め込む。
 やがてヤツの体の一部の動きが止まった。
 勢いをかって口内に侵入することに成功する。
 異様な舌触りに躊躇したが、このまま怯んではいけない。
 一気に攻勢をかける。
 一箇所を執拗に攻めたかと思えば、ダイナミックな動きで全体を封じる。
 我ながら見事な口撃だ。
 芸術的といっても良い。
 やがて、僕の両肩にかかっていた力が弱まった。
 それを機に、僕は恐る恐る閉じていた目を開いた。
 
 その時、雷光が僕らの上空で瞬いた。
 続けて空気を引き裂いて雷鳴が轟く。
 すぐ近くに雷が落ちたような衝撃が全身を貫いた。
 
 だけど僕は雷の衝撃に心を捕らわれている余裕なんてなかった。
 雷光が光った時、僕ははっきりとヤツの顔を見た。
 顔面どアップはさすがに大迫力で、さしもの僕の決心も吹き飛び、数瞬、口撃が停まった。
 
 しまった。
 
 僕は、冷たい汗を背中に感じた。
 口撃を緩めたら逆に一気にヤツの攻勢が始まる。
 もう一度あの「癒し」を受けた場合、今度ばかりはまじにやばい。
 目の前が暗くなった……
 
 しかし……
 いつまでたってもヤツの「癒し」は再開される様子はなかった。
 僕は恐る恐るヤツの表情を覗き見た。
 すると、ヤツの顔色が、微妙に変化しているのに気がついた。
 頬にほんのりと赤みが差していて、心なしか身体も弛緩している。
 
 いまだっ!
 
 理由は良く分からないが、チャンスには違いない。
 僕は自分の武器を回転させつつ、さらに奥へと侵入する。
 直後、急激に抵抗が弱まった。
 僕の肩を掴んでいた腕はいまや完全に離され、ヤツの身体の両側へだらんと垂れ下がっている。
 逆に僕はヤツの頬を両手ではさみ、覆い被さろうという格好だ。
 そして、遂にヤツは両方の膝を地面についた。
 
 僕は勝利を確信した。
 
「み、見事だ……」
 
 ヤツはよだれをだらだらと垂らし、まるで恍惚の表情を浮かべるように、にやり、と微笑む。
 そして、地響きを立て、仰向けに大地に倒れた。
 
 
 やった……
 あの『G』を倒した。
 今まで誰も無しえなかった神への道。
 それをこの僕が成し遂げたんだ。
 
 Nさん。
 やりました。見ていてくれましたか?
 Kさん。
 Uコンのワイヤーはキモチイイですか?
 Mさん
 ちゃんとFF書きますから、え○げやってもいいですか?
 Wさん
 次回作楽しみにしています。
 
 まだまだ、伝えてたい人は大勢いますが、最後に生みの親であるDさんへ。
 
 マイ スイート ホームの続編 が読みたいです。
 
 てへっ。
 
 
 
 僕は感涙にむせび泣いた。
 後から後から涙が溢れてくる。
 それは帰る道がわからない不安の涙でもあった。
 
 いつのまにか雨は上がり、夜空には真円の月が青白く光ってる……
 まるで僕を祝福しているかのようだ。
 
 これでヤツの恐怖の呪縛から逃れることが出来る。
 いままで癒しを受けた人々を、解放することが出来る。
 人々は安心して眠りにつく事ができるだろう。
 
 そういえば……
 今までヤツの「癒し」を受けていた人々は、今はどうしているんだろう?
 もしかすると、まだ「癒し」の効果が残っていて苦しんでいるかもしれない。
 そうだっ、僕が 「癒」 さねば ……
 
 妻よ、子よ。
 父はしばらく旅に出る。
 私の「癒し」を待っている人がいるんだ。
 その全ての人々を開放するのが、私の義務だ。
 これは、天から与えられた使命なのだ。
 許してくれ。
 私は、行かねばならないのだ。
 
 さらば。
 また逢える、その時まで。
 
 
 
 
 
 
 Fin.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 人影が見えない道。
 月の光が木々の陰を地面に映す。
 柔らかな風が花水木の枝を揺らしてゆく。
 時折、小動物が走り抜けてゆく音だけが聞こえる。
 
 やがて、風に運ばれた雲が月を覆い、再び地上は闇に包まれた。
 
 その時を待っていたかのように、先ほどから地面にひれ伏すものの影が動いた。
 手の指が、ゆっくりと開き、そしてまた閉じた。
 その手のひらに、酷いやけどの跡が見える。
 
 そして、次に月が雲より出でし時、彼の者は立ち上がっていた。
 サングラスの奥の瞳が、怪しく、光った。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


管理人のコメント
 突発的に始まった「G」リレー企画。
 いやぁ、楽しませていただきました。
 でも、まさか最後に自ら参加することになろうとは……(^^;
 
 えっと最初にカキコしてくれた 謎のDさん。
 続けてリレーにしてくれた 苦有錬る 惨状録 さん。
 そして盛り上げてくれた 那珂川県(偽名) さん。
 ありがとうございました。
 
 この作品を読んでいただいたみなさま。
 のあなたの気持ちを、メールにしたためて……みる?(^^;

 謎のDさんのメールアドレスは seiriyu@e.jan.ne.jpです。
 苦有錬る 惨状録 さんのメールアドレスは kuneru36@olive.freemail.ne.jpです。
 那珂川県(偽名) さんのメールアドレスは map1144@black.interq.or.jpです。

 さあ、じゃんじゃんメールを……送っていいのか?(^^;

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