暑中お見舞い

 Yan さんから暑中お見舞いを頂きました。
 もう9月ですが、これは管理人が頂いていてずっとほったらかしにしておいたからでした。
 Yanさんもうしわけありません。(^^;
 
 
 〜かなづち〜
 
 
「ぷはぁっ」
 僕は水面に顔を出すと、思いっきり空気を吸った。
「けほっ、けほっ、ごほっ!」
 空気と一緒にプールの水が気管に入って、塩素の臭いが鼻に逆流する。
 ううっ、き、気持ち悪い……。
「シ、シンジ? 大丈夫?」
 アスカの心配そうな声が、耳元で聞こえた。
「う、うん、なんとか……けほっ」
 強がって見せる。
 けど、あまり成功したとは思えない。
 
 水着姿に引かれたってワケじゃないけど……、アスカが乗っているシートにつかまっていているうち、気がつかないうちに足の届かないところまで来てしまっていた。
 このプール、プールサイドから離れるにしたがって水深が深くなっているんだ。
 びっくりした。
 僕はパニくった拍子にシートから手を離してしまい、そのままプールの底に沈んだ。
 アスカが僕の手を取り、引き上げてくれなかったら……。
 
 なんとかプールサイドまでたどり着いた。
 アスカは僕を心配そうに覗き込んでいる。
 きっと、アスカにもわかった。
 当然だよね。
 今まで言わなかったけど……もう、隠す事はできない、な。
 僕は決心すると、アスカに向き直った。
 でも、やっぱりアスカの顔をまともに見ることが出来ない。
 僕はうつむいたまま、告白した。
「アスカ、実は僕……泳ぐこと、苦手、なんだ……」
 プールに誘われた時、断っておけばよかった。
 泳げないくせに。
 いつも僕はそうだ。
 断りたいと思っているんだけれども、アスカに誘われるとイヤって言えない。
 今回に限ったことじゃないんだ。
 でも「泳げない」ということだけは、知られたくなかった。
 早く走ったり、勉強ができたり、なんていうのは個人の能力だから仕方がないと思っているんだけれども、泳げないっていうのは人間としての基本的な機能が備わっていないみたいで……なんだか、恥ずかしい。
 恥ずかしくて、このままプールの底に沈んでしまいたい気分だ。
「知っていたわよ」
「え?」
 アスカの青い瞳が、悪戯っぽく輝く。
「この、あたしが知らないとでも思っているの?」
「じゃ、じゃぁ……」
 と、アスカの表情が急に柔らかくなる。
「シンジ、大丈夫。あたしが教えて、あ・げ・る、わ」
 気がつくとアスカと僕の顔は、文字通り目と鼻の先の距離に近づいていた。
 自分の顔があっという間に、赤くなっていくのがわかる。
「ア、アスカ……」
「シンジ……」
 でも続けてきっぱりとアスカは言った。
「今日誘ったのは、そのこともあったのよ。
 あたしの彼氏が泳げないんじゃさまにならないからね。
 プールでも、海でも一緒に遊びたいし、スクーバもしたいわ。
 だからシンジ、がんばってね(はあと)」
「へ?」
「今日はこれから特訓よっ。
 まずはビート版を使って、バタ足50m、20本!
 それが終わったらストロークを教えるわよ」
「ひ、ひえっ」
 
 
 
 夏が終わる頃。
 シンジ君は立派に泳げるように……なったのかなぁ?(^^;
 
 
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