問題無い
 
 

 天界より遣わされし5番目の使者を、倒すためのしっかりとした土台作りに専念していた、

 魔界より遣わされし3人目の少年は、その仕事を完了し、反撃の舞台は全て整った。
 
 
 
 
 

第27話 シンジ 決戦
 
 

 ポジトロンライフルのセットが零号機によって完了した後、それを監督していたマヤも、

 ミサトの元に呼び寄せられ、シンジとレイの2人に対して作戦の担当が伝達される。

「本作戦における各担当を伝達します。シンジ君」

「はい」

「初号機で囮役を担当」

「はい」

「レイは零号機で狙撃を担当して」

「はい」

 先程のシンジの提案通りに割り振られる役割分担。

 事前のミサトとのやり取りからある程度はわかっていたものの、

 自分の主張通り、レイを自分よりは安全な位置に置く事が出来た事で、

 シンジはやはりホッと胸をなで下ろす。

 そんな少年の気持ちをよそに、ミサトは淡々とこの分担に至った経緯の説明を続けていく。
 

「これはシンジ君と初号機の方のシンクロ率が高いからこの分担にする事にしたの。
 囮役を勤める方は、良く動いて敵の注意を引きつける必要があるから」

「そうは言ってもこの役目はとても危険なものよ。シンジ君! 気をつけてね」

問題無い

 シンジの言葉にミサトはこくりと頷くと、場の主役をマヤへと譲り渡す。

「それじゃマヤちゃん。レイに対して狙撃の注意点を教えてあげて」

「わかりました。良い? レイちゃん。落ち着いて良く聞いてね。
 陽電子は地球の自転、磁場、重力の影響を受け直進しないので、
 その誤差を修正するのを忘れないでね、正確にコア1点のみを貫くの」

「私はまだ1度も練習した事がありません」
 

 マヤの言葉に、抗議、という訳では無く、事実をそのままに話すレイ。

 生身の肉体での射撃訓練という点では、シンジよりもレイの方に一日の長があるのだが、

 これがエヴァを使ってとなると・・・

 何しろ昨日初めて零号機の起動実験に成功した彼女にそれが出来る筈もない。

「大丈夫! あなたはテキスト通りにやって、最後に真ん中のマークが揃ったら、
 スイッチを押せば良いの、後は機械がやってくれるから」

「わかりました」

 そんな2人のやり取りをシンジは苦々しい思いで見つめていた。

 本当であれば昨日エヴァの起動にようやく成功したばかりの大事な妹を、

 作戦には参加させたくなかったのである。

 しかしレイの存在がなければ、そもそもこの作戦は成り立たないのである。

 それがわかっているが故に、喩えどんな事があろうとも、

 この大事な妹を守り抜こうと固く決意するシンジであった。
 

「時間よ! 2人とも着替えて」

「「はい」」

 その時が来た事を告げるミサトの言葉に対し、

 少なくとも表面的には平静な返事を返した2人であった。
 
 
 
 
 

 脱いだ衣服がキチンとたたんであるのにも関わらず、シンジの方がレイよりとっとと早く、

 プラグスーツに着替え終わったのは、当然レイのシルエットをじっくりと眺めるためである。

(コラ!)

 2人の着替えにと用意された仮設テントは、中央部分からキッチリと区分けされているのだが、

 端の方から中央に向けてライトが照射されている関係上、

 真ん中の仕切に、お互いのシルエットが丸映しになってしまっているのである。

 まあ、この2人の場合は一応兄妹なのでまだ良いだろうが、

 もしそうでなかったらちょっと問題有ると言えるだろう。
 

 シンジはどういう理由かはわからぬが、

 初めのうちはレイのシルエットをうんうんと頷きながら見ていたのだが、

 やがてそれが進むに従ってげんなりとした表情に変わっていき、

 ついに下着に手をかける段になると、がっくりと力尽きたように下を向いてしまう。

 普通はそっちの方が元気が出ると思うのだが、(そりゃ、お前の事だろうが)

 まだ14歳という性春まっさかりの彼に何が起こったのであろうか?
 

 その秘密を解く鍵はレイの足元に有る。

 そこにはレイの衣服の波が広がっており、ブラウス、スカート、靴下、

 果ては下着に至る迄もポイと投げ捨ててしまってあるのである。

 婦女子の身だしなみに著しく欠けている妹の事を真剣に嘆いているシンジであった。
 
 
 
 
 

 やがてシンジに遅れる事しばし、どうやらレイの方も着替えは終了したようである。

 シンジは陽動地点に移動する必要があるので、もうそろそろ出発しなければならないのだが、

 エヴァを待機させてある地点迄は、レイと一緒に行くつもりだったので、

 彼女に出立する旨を伝える事にする。
 

「レイ、そろそろ行こうか?」

「・・・・・・・・・・」

「レイ? おいレイ!」

「な、何、お兄ちゃん」

 最初の呼びかけにレイの反応が無かったので、シンジが続けて2度、3度とレイの名を呼ぶと、

 ようやく3度目になってから、レイは自分が呼ばれている事に気づいたようである。

 今シンジ達がここでやっていた事といえば、本当にただ単に、

 制服からプラグスーツへと着替えていただけなのだが、

 果たしてレイには何か気にかかる事でも有ったのだろうか?

 訝しんだシンジは、もう一度レイに対して様子を確認するために声をかける。
 

「どうしたんだレイ、何か問題有ったのか?」

「ううん、何でもないの。大丈夫よ、お兄ちゃん」

「・・・・・・・そうか、それじゃ行こう」

「うん」

 自分を促すシンジの言葉に、レイは簡潔に答えるとテントの出口へと向かっていく。

 しかしレイ自身が全く気づいてはいなかったのだが、

 彼女の両手と両足は小刻みに震えており、それが収まる気配が全然みられない。

 この時のレイはこれ迄1度も感じた事の無い、何とも言えない感情に支配されており、

 彼女は非常にとまどっていたのである。

 今迄に経験した事の無い事態に遭遇し、どのように対処して良いのか全くわからなくなるレイ。

 彼女が最初シンジに呼ばれた際に、それに気づく事が出来なかったのは、

 その事に気を取られていたせいだったのである。
 

 おそらく以前の、2人目の綾波レイならば、こういった事は起こり得なかっただろう。

 ゲンドウ、あるいわリツコの命ずるままに 「人形」 として生き、そして逝った2人目の綾波レイ。

 しかし3人目の綾波レイである彼女は、シンジと出会い、リツコが変わり、

 それに伴って、『普通の人』 として歩み始めたのである。
 

 エヴァの起動実験の際は、シンジ自身はそこ迄考えていた訳ではないが、

 結果として彼がレイを見守るような形となったため、

 それが頭をもたげてくるのを抑える事が出来たのである。

 しかし今回はこれから2人は別れて、と言っても連携は絶対に不可欠なのであるが、

 それぞれ作戦に臨まなくてはならないのである。
 

 初めての実戦、そして・・・・・ シンジは居ない。

 しかも・・・ もしかしたら永遠に居なくなってしまうかもしれない。

 見せかけの細い絆ではなく、本物の太い絆

 というものを感じさせてくれた碇シンジという少年の存在は、

 それ程複雑でない彼女の交友関係において、今や最も重要な存在として位置づけられており、

 その彼を失うかもしれないという事が、彼女に生まれて初めての感情である、

不安」 というものを感じさせていた。
 
 

「レイ!」

「何、お兄ちゃん?」

 テントを出た所で、またシンジがレイに呼びかけ、レイの方も今度は素直に反応するのだが、

 シンジはレイの問いかけに対し、声をかけた理由を説明する事無く、

 彼女と正面から向き合うとジッとその表情を覗き込む。

 ずっと自分の顔を眺められている事に、少しづつ恥ずかしさを感じるようになってきたレイが、

 とうとう我慢出来なくなって、もう1度シンジに声をかけよう。とした時の事であった。

 シンジは左右の手を伸ばし、レイの両手を掴み取ると、それを自分達の胸の前に持ってこさせ、

 レイの両の掌を自分の両掌で包みこんだのである。
 
 

「大丈夫だよ! 何にも心配はいらない」

 突然の行動の後、シンジは一拍おいてレイに語りかける。

 それ迄掌に向けていた視線を、シンジの顔へと移すレイ。

 いつものシンジと同様、その口調に抑揚は全く無いのだが、

 何故かそこには自信が満ち溢れている事が感じ取れ、

 それを裏付けるかのように、彼の顔には『碇スマイル』が浮かんでいる。
 

 その表情から、そして握られた温かい掌から、何かが自分の中に次々と注ぎ込まれて来て、

 それと相反するかのようにさっきまで感じていた 「不安」 というものが、

 どんどんと消滅していっているのを感じるレイ。

 数秒の後、シンジが手を離した時には、レイの心の中では、

 それ迄の 「不安」 に変わり、「平安」 が静かに横たわっていた。
 

「行こう、レイ」

 自分の言葉にこくりと、元気良く頷くレイを確認したシンジは、

 彼女を導くかの如く、力強くその1歩を踏み出す。

 さすが碇シンジという少年は大したものである。

 相手が自分の妹であるレイだという事もあっただろうが、

 彼女が何となくおかしいと気づいたシンジは、すぐさまその様子を確かめたのである。

 そして彼女が不安がっている事に気づいた彼は、きっちりとそれをケアしてやったのである。
 

 要所々々で、しかも無意識の内に、いとも簡単にそれをやってのける碇シンジという少年は、

 その持って産まれたカリスマ性で、人を惹きつける高い能力を有しているのに加え、

 更にそれらの人物が能力をいかんなく発揮できる状況を整えてやる事迄も出来るのだ。

 まさに彼は、”指導者”となるべくしてこの世に生を受けたと言えるだろう。

 しかしこれは彼にとって当たり前の事なのである。
 

 神の気まぐれによりこの世に生を受けた2人目の人間 「リリス」。

 そして 「アダム」 より生まれし 「エヴァ」。

 2人とも女性という所が彼の本質を良く著しているが、かつてエデンに居た彼女達 「人間」 を、

 初めて外界へと導いたのは、他ならぬ彼自身なのだから。
 
 
 
 
 

 エヴァの待機場所迄やって来た2人は、

 それに乗り込むために仮設された足場へと繋がるリフトに乗り込み、

 1番上の踊り場へとたどり着いたシンジは、眼下に広がる光景をざっと見渡す。

 1時間ぐらい前であれば、夕焼けに照らし出された鮮やかな山並みを、

 見渡す事が出来たのだろうが、既に日は殆ど沈んでおり、

 遠く遥か彼方の山の端に、かすかにその名残を留めているだけである。
 

 落日間近。

 現時点における人類の状況を如実に現しているかのようなその情景であったが、

 シンジは何ら臆する事無い、引き締まった良い表情を見せている。

 なぜならこの時、彼が思い浮かべていたのは、

 これから行う作戦で、自分達が勝利を収める事しかなかったからである。
 

「お兄ちゃん!」

「ん!! 何だ、レイ?」

 2体並んだエヴァの中間に設置された足場のうち、

 零号機側の足場に位置するレイからシンジに声がかかる。

 レイの方から声をかけられるなど、殆ど記憶にないシンジは、内心ちょっと驚いていたのだが、

 表面的には全然それを出す事無く、答えを返した。
 

「お兄ちゃんは、何故これに乗るの?」

「!」

 またしても突然のレイの質問に驚くシンジ。

 病院のベッドの上では偉そうな事をレイにのたまったシンジであったが、

 実際に自分の方が 「何故エヴァに乗るのか」 など、深く考えた事は無かったのである。

 しかし彼はそれ程深く悩む事も無く、実にあっさりと答えを導き出す事に成功する。
 

「そうだな・・ 僕の大切な女性達を守りたいからかな」

「大切な・・・ 女性?」

「ああ、リツコ、ミサト、ヒカリ、そして・・・・・・・・・・ レイ、
 まあ、その他にも沢山いるが、(オイ!)総じて言えば、お前達全員を守りたいからだろう」

 不純と言えば不純な理由ではあるが、それだけに彼を知る者には問答無用の説得力を持つ、

 実にシンジらしいと言えばらしい理由である。

「守りたい・・・・」

 シンジの言葉を反芻するレイ。

 何と言っても未だ世間の一般常識というものに疎い彼女の事、

 一生懸命にシンジの言った事の意味を理解しようと努めているのかもしれない。

 一方シンジも、レイに対して同様の質問を返そうとしたのだが、

 今、それを行っても却って彼女を混乱させるだけだと判断し、取りやめる事にする。
 

 時間たっぷりあるんだ。これから少しづつ少しづつ覚えていけば良い。

 優しい瞳でレイの事を見続けるシンジ。

 しかし彼の場合は作戦行動地点迄移動しなくてはならないので、

 名残惜しいがそれを中途で打ち切ると、自分が先駆けて初号機へと乗り込もうとするのだが、

 その寸前にもう1度レイを振り返り声をかける。

「じゃレイ、また後でな」

「うん、お兄ちゃん。また後で

 シンジの何気ないが、非常に重要な意味を持つ言葉に、嬉しそうに答えるレイであった。
 
 
 
 
 

 シンジが配置されたスナイプポイントは、レイのスナイプポイントと同様、

 第5使徒ラミエルを真っ直ぐ捉える事の出来る、絶好のポイントである。

 しかし、相手からの反撃を想定し、山頂に身を潜めるように配置された零号機に比べ、

 シンジの初号機がこれから向かう場所は、平坦で周りには何も無い、開かれた場所なのである。

 これは囮であるシンジの場合、むしろ相手を攻撃する事よりも、

 相手からの攻撃をいかにしてかわすかという事が重要になるので、その意味で、

 こういった動きのとりやすい場所の方が作戦を遂行しやすいと判断されたためなのである。
 

 また、前述の案の他にも、零号機のようにブッシュの中に身を隠し、

 それを楯がわり、というよりはエヴァの位置をごまかすための一種の遮蔽物にしようか、

 というような事も検討されたのだが、あの苛烈な加粒子砲の前では、

 薄い紙程の防御効果も得られないだろうと判断されたため、

 この案は早々に退けられる事となったのである。
 

 しからばいっその事、最初からあの加粒子砲を防げるだけの楯を用意して、

 それに身を預けるようにしたらどうか? という事も提案として出され、

 いざ使用する段になって物が無い。という状況に陥っては大変と、

 議論はそのままにSSTOをベースにした楯が急造され、技術部第二課の検証によれば、

 加粒子砲に対し17秒はもつ事を保証される程の物が作り上げられる事となるのである。

 だが実際の所、ラミエルがその時間内に砲撃を停止してくれる、

 という保証は何もなく、いざ楯がもたなくなった時にその場を逃げだそうと思っても、

 そんな事が出来る筈もない事は明白である。
 

 以上のような事由によって上気の2つの案はいずれも却下される事になり、

 シンジはラミエルから”身を守る”のでは無く、”身をかわす”事で、

 己の安全の確保と、そして作戦の成功を導き出さねばならない事になったのである。

 まさに人類の命運はATF(アマテラス・トレーディング・フォール)実行時における、

 彼の動きそのものに委ねられたといっても良いだろう。
 
 

 さて、防御の面に関してはそんな所であるのだが、攻撃面の方に目を移してみると、

 作戦の実行の際、シンジが(といっても実際にそれを手にするのはエヴァ初号機なのであるが)

 使用するのは、元々ネルフの物であったEVA専用陽電子砲なのである。

 ATフィールドの無いラミエルを打ち抜くために必要なエネルギー量は、

 ハルペルの計算によると1000万キロワットで充分だと言うのだが、

 それに対してこのEVA専用陽電子砲は500万キロワットの出力しかない。

 しかしそうはいっても”半分”の出力は有る訳で、フル出力で発射する事が出来れば、

 あるいわある程度のダメージを与える事は可能なのかもしれないが、

 あくまでそれは計算値であるので、本当の所は撃ってみないとわからない。
 

 そのため今回の作戦においては、なるべくレイの使用する戦自研のポジトロンライフルの方に、

 なるべく出力を回す事になっているのと、囮役である初号機の機動性を確保するために、

 こちらは有線での電力供給は行わず、既にライフルに装着してあるものと、

 予備の2つ、計3つのバッテリーパックを電源とする事になっているのである。

 何ともお寒い内容ではあるのだが、バッテリーパック1個分でフル出力の発射が、

 1回は可能な程の容量は持っているので、出力をセーブしながらであれば、

 充分、陽動の任に堪えるだけの働きはしてくれるだろう。
 

 弾の多さ、という点で言えば、パレットガンを使いたい所なのだが、

 何分射程が短く、命中効率が悪いという難がある。

 空中要塞とも言えるラミエルに対し、パレットガンが活用できる近距離迄、

 エヴァを展開するというのはあまりにも危険すぎ、むしろ無謀と呼べるものであろう。

 それともう一つ、パレットガンの使用する弾丸、というよりは砲弾と言った方がしっくりくるが、

 それの弾頭に使用されているのが劣化ウランだという問題がある。

 ご存じ無い方の方が多いと思うが、劣化ウランというのは、

「金属と反応すると燃焼する」 という特性を持っている。

 逆にその特性があるからこそパレットガンの砲弾の弾頭に使用されている訳なのだが、

 今回の場合、遠くから放たれた弾が変な所にぶち当たり、そこかしこで火災を引き起こした。

 という事態が起こりうる事も懸念されたため、弾数の不利という点は有るものの、

 射程が長く命中精度の良いEVA専用陽電子砲を使用する事になったのである。
 
 

 待機地点に到着したシンジはエントリープラグをエジェクトさせて、一旦外へと出る事にする。

 最初にレイと一緒にいた二子山山頂の待機地点と同様、

 こちらにもエヴァ初号機の動きをサポートするための部隊が派遣して有り、

 シンジが降りるための足場も既にしっかりしたものが設置してある。
 

 エントリープラグから仮設足場へと降り立ったシンジは、ラミエルが居る方向を見据えるが、

 スナイプポイントと違い、待機地点の方はラミエルからは死角になっているため、

 その姿を見る事は出来ない。

「八州作戦」 のため、最初から準備にかかっていた最初の待機地点と違い、

 こちらの方は時間的に間に合わなかったせいなのだろう、

 組み上げられた足場は 如何にも安普請といった感じで、

 昇降用の簡易リフトも設置されていないため、

 シンジが梯子を使って下に降りていくと、彼の元へと日向が近づいていった。
 

「シンジ君・・・」

問題無い

 何と声をかけて良いのか、日向にはわからなかったのだろう。

 名前を呼んだきり、後が続かなくなってしまった日向を気遣ったシンジは、

 いつもの台詞を述べて彼を安心させようとする。
 

 彼、日向がここに居る理由だが、作戦が2方向に別れて実施される事になったため、

 それをサポートする部隊も2手に別れる事になったからなのである。

 作戦のメインとなる零号機の待機している地点には仮設本部が設けられ、

 そこでは部長であるミサトが全体の指揮を執る事になっている。

 一方、サブとなる初号機の方にはミサトの直属の部下に当たる日向が付く事になり、

 仮設本部との連携調整を行う事になっているのだ。

 尤も作戦開始迄はまだ時間があるため、それ迄の間はパイロットであるシンジの精神的負担を、

 少しでも和らげられたらと日向は考えたのだが、そんな想いとは裏腹に、

 仲々うまい言葉が浮かんで来ず、逆に自分がフォローされるような形となってしまうのだった。
 

 自分に迄気を遣ってくれるシンジを、日向は改めて眺めてみる。

 背は自分よりも低く、全体的に華奢な感じのする14歳の少年の背格好だけを見た場合、

 守る立場ではなく守られる立場に位置するのが当然のように思われる。

 しかも年齢はというと自分よりも10歳以上年下のまだ中学2年生なのだ。

 にも関わらず彼の精神力はとても強靱で、リツコやミサトとも五分以上に渡り合っていて、

 この両部長からは全幅の信頼を得ている事は、今回の作戦の経過を見る迄も無く明らかであり、

 日向はそんなシンジを妬ましく思う一方で、彼の事を羨望もしていたのである。

 ・・・・・・さすがに男女の関係に至っていると迄は思いはしなかったため、

 自分にとって憧れの存在であるミサトに少しでも近づくために、

 シンジの事を見習おうと思う日向であった。
 

「どうした?」

「え!」

「さっきから僕の事をずっと見ているが、何か用でもあるのか?」

「い、いや・・・ シンジ君、済まないね、君にはいつも危険な役目を押しつけてしまって」

 ミサトに限らずレイやシンジと近しい大人達は、いつもその事を歯がゆく感じているのだが、

 対するシンジの方はというと、先刻のレイの質問に対する回答からも伺えるように、

 それ程今の立場に苦痛や困難を感じている訳では無いので、

 相変わらず抑揚のない口調で日向の懸念を一蹴する。
 

問題無いと言ったろ。それに主役ばかりでは舞台はなりたたん」

「シンジ君」

「主役、脇役、敵役、が必要なのは当然だが、監督、演出家、あるいわ大道具や照明など、
 裏方も含めて全員が一致協力して初めて成功の素地が生まれるんだ。
 その事は日向、君もわかっているんだろう!?」

「わかったよ。つまらない事を言ったね」

問題無い。じゃあ僕は作戦開始迄暫く休ませて貰う。休憩場所はどこだ?」

「あ、あそこの仮設のプレハブだけど」

「わかった。それじゃ頼むぞ”AD”」

 シンジはそう言うと、日向をそのままにしてさっさとプレハブの方に向かい立ち去ってしまう。

 後に残された日向はシンジが最後に残した言葉が瞬間的にはわからなかったのだが、

 やがて一つの結論にたどり着くと、軽い笑みを浮かべながら、

 既に姿の見えなくなっているシンジに返事を返す。

「わかったよシンジ君。
 せいぜい助監督として少しでも監督(ミサト)や君達をサポートできるよう努力するよ」

 本当に部下(勿論、日向は部下では無いが)にやる気を起こさせるのが上手なシンジであった。
 
 
 
 
 

「ただ今より、零時零分零秒をお知らせします」

 23:59:57 ピッ

 23:59:58 ピッ

 23:59:59 ピッ

 00:00:00 ポーン

「作戦スタートです」

 仮設本部となっている指揮車内に緊張したマヤの声が響き渡る。

「シンジ君、見せて貰うわよ、あなたのとびっきり素敵なダンスを・・・ でも、無理はしないでね」

問題無い

 普段通りのシンジの様子に、ミサトはフッと軽い笑みを浮かべると、

 天照大御神を岩戸から引きずり出して、

 この世界を闇から解放するための作戦の開始を宣言する。
 

「第1次、接続開始」

「第1から第803管区迄送電開始」

「電圧上昇中、加圧域へ」

「全冷却システム出力最大へ」

「温度安定、問題無し

「陽電子流入順調なり」

 ミサトの指示に従い、マヤを初めとして日向の代役を務める青葉、

 その他のオペレーター達の手によってスタンバイの第1段階が進行して行き、

 それが綺麗にクリア出来た段階で、ミサトは次のステップへの進行を告げる。
 

「第2次、接続」

「全加速機運転開始」

「強制収束機作動」

「全電力二子山合設変電所へ・・ 第3次接続問題無し
 

「最終安全装置、解除」

「撃鉄起こせ!」

 青葉の指示に従って、レイが零号機でもってポジトロンライフルのトリガーを引き起こすと、

 彼女の前方にヘッドタイプのスコープが降りてくる。

 そこではかつてシンジがシャムシェルを倒した時と同様、

 デルタとスターのマークラインが、ダンスを楽しんでいるのだが、

 あの時とは異なりどうも協調性が感じられない。

 しかし一旦動き出してしまったエネルギーの集束作業を中断する事は出来ないので、

 舞台は最終局面へと移行していく。

「第7次最終接続、全エネルギー、ポジトロンライフルへ」
 
「初号機スタート!」 「8」
 
 ポジトロンライフルの発射に先立ち、囮役であるシンジに指令が出る。 「7」
 
 シンジは初号機を身を潜めていた状態から立ち上がらせると、 「6」
 
 スナイプポイントへと瞬時に移動し、 「5」
 
 発射の瞬間だけ立ち止まり、 「4」
 
 EVA専用陽電子砲を第五使徒へと向けて発射する。 「3」
 
 闇を切り裂き伸びていく陽電子砲。 「2」
 
 しかし、当然の事だが、それはATフィールドによって防がれてしまう。 「1」
 
 そして次の瞬間、天照大御神はほんの少しだけその顔を覗かせる。 「発射!!」
 
 しかし、残念な事に伸ばされた手力男の腕は、彼女を掴まえる事は出来なかった。
 
 
 
 
 

 天界より遣わされし5番目の使者が、わずかに見せた殲滅のチャンスを逃したため、

 魔界より遣わされし3人目の少年は、再びその加粒子砲の餌食となってしまう。
 

                                                         
 
 

 痛恨のミスを犯してしまったレイを庇うために、自ら標的となったシンジは、

 紙一重の差で加粒子砲をかわし続けるのだが、とうとう限界の時がやってくる。

 作戦終了後、レイはシンジに対し、己が病に冒されていると告白する。

 次回 問題無い  第28話 シンジ 終局

 さ〜て、この次も サービスしちゃうわよ
 
 
 


管理人のコメント
 
 レイちゃんが病ですとっ?
 一体、どうしたことでしょう。
 たいしたことが無ければ良いのですが……
 
 いよいよATFによる使徒殲滅作戦が実行されます。
 しかし、失敗する予感を感じてしまいます。
 果たしてシンジはその時にどのように対処するのでしょうか?
 
 
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