問題無い
 
 

 天界より遣わされし5番目の使者が、その姿を第三新東京市へと現した事により、

 魔界より遣わされし3人目の少年が、これを向かい撃つために単独で出撃する事となった。
 
 
 
 
 

第23話 シンジ 敗北
 
 

 ガチャ

「碇、未確認飛行物体が接近中だ。おそらく第五の使徒だな」

「総員第一種警戒態勢、初号機は?」

 非常事態宣言の出されるしばらく前、ネルフ本部で発令所を臨む司令席において、

 副司令の冬月は受話器を置くと同時に、司令のゲンドウに対し緊迫した口調で

 またも使徒が襲来してきた事を告げる。

 それを受けたゲンドウは、すかさず現在のスタンバイ状況を確認するのだが、

 そこに昨日起動に成功した零号機が含まれていなかったため、

 冬月はゲンドウに対し、その事の確認を取る。
 

「零号機は使わないのかね?」

「まだ戦闘には耐えん! 初号機の準備は・・ どうした?」

 一言の元に切り捨てるゲンドウ。だが彼の言う事は紛れも無い事実である。

 学校が終了して、シンジもレイも既にネルフへとやって来ていたのだが、

 レイの方はやはり昨日の疲労がまだ残っていたため、

 大事を取るという事で、ドクターストップがかかったのである。

 そのため今日のメニューであった、エヴァの実機を使ったシンクロテストは、

 シンジだけが行っており、既に彼は初号機を起動させている。

 そのためいつもならば、ゲンドウの質問に間髪入れず、

 リツコが初号機の出撃が可能な事を答えるのだが、

 現在ドイツへと向かっている途中の彼女に、それがかなう筈も無く、

 代わって彼女の留守を預かるマヤの口からその言葉が発せられるのだが、

 どうしてもリツコに比べるとワンテンポ遅れたものとなってしまう。

「さ、380秒で準備可能です!」

「出撃だ!」

「了解!」

 マヤが答えるのと同時に、初号機はテストを中断し、

 使徒との3度目の戦闘のために向けての準備をスタートさせた。
 
 
 
 
 

 第三使徒   サキエル ・・・ 首の無い人間。

 第四使徒 シャムシェル ・・・ イカトンボ。

 まあこいつらは良い。(いや、本当は良くは無いが)

 いかにも 「異形の者」 といった感じで、

 人類に仇なす存在として納得できるだけの姿格好をしていた。

 それに比べて・・・ 第五使徒のこれは、何じゃこりゃ。

 どう見ても、「人類を嘗めとんのか!」 と言いたくなるようなフォルムは、

 単なる巨大プリズムとしか見えないのだが。

 まあそうは言っても使徒で有る事は間違い無いのだから、

 人々は内心はともかく表面上は大真面目を装って初号機の発進準備を続けていく。
 
 

 エヴァのマルチウィンドウの一つが開き、戦闘に向けて、

 少しづつ緊張感を高めていっているシンジの所にも、第五使徒の姿が届けられる。

 これではせっかく高めていた気が、それを見る事によって抜けてしまうのではないか?

 そう思われたのだが、シンジの反応はその他一般の人々とは全く違っていた。
 

 第五使徒の姿が映し出された瞬間、シンジは驚愕に目を見開くと、

 以降全く瞬きする事無く、真剣な眼差しでスクリーンを見つめ続ける。

 そんな彼の口をポツリと第五使徒の事がついて出る。

「ラミエルだと・・・・・・ 七大天使(※1)候補者がどうしてこんな所に・・・ 
 ”第五”使徒・・・ まさか・・・ 七大天使の5番目は奴だとでも言うのか?」
 

「エヴァ初号機、発進準備よろし」

 思考が停止しかかっていたシンジであったが、日向の声に思わず我に返ると、

 いつも自信家の彼にしては非常に珍しく、ミサトに向けて弱気な発言をしてしまう。

「ミサト、頼みが有る」

「何、シンジ君?」

「どうも嫌な感じがするんだ。なるべくアイツ、第五使徒から離れた場所にエヴァを射出してくれ」

 シンジのこの発言はミサトにしても意外で有ったのだろう。

 一瞬怪訝な顔を浮かべた後、後方を振り返り、ゲンドウを見上げていく。

「よろしいでしょうか?」

「かまわん。好きにさせろ」

 ゲンドウの了解を貰ったミサトはその旨をシンジに対して告げる。
 

「わかったわシンジ君。それじゃ・・・」

「今の状態ですと26番ゲートが、エヴァが使徒を肉眼で確認できる最も離れた位置に有ります」

「シンジ君、聞いた通りよ、良いわね?」

「わかった!」

 言い淀んだミサトの後を受けて、マヤがしっかりとフォローする。

 しかしながらこの判断は結果的に誤った物となってしまう。

 本当であればこの場合は、例え使徒の姿が確認出来なくとも、

 安全にリフトオフする事のできるだけの郊外にエヴァを射出するべきだったのだが、

 ラミエルの攻撃手段が判明していないこの時点においては、

 そこ迄考えが及ばなかったとしても仕方ないだろう。
 
 

「発進!」

 ミサトの号令一下、今迄と同様にエヴァ初号機が強烈なGを伴って地上へと射出されていく。

 だがこれ迄とは違い、遠い地点への射出となったため、

 シンジはほんのわずかであるが、第五使徒に対する思いを巡らしていく。

『どうして奴がこんな所に・・・ まさか・・・ 終末の時を迎えたとでもいうのか!?』
 

「目標内部に高エネルギー反応!」

「何ですって!」

「円周部を加速、集束していきます」

 青葉がいかにも慌てた口調で使徒の状態変化を報告すると、

 つられるようにミサトも驚きの声を上げる。

 しかし残念ながら彼女には振られた賽を途中で止める能力は無い。
 

「駄目、避けて!」

 地上へと射出された初号機に向かって、ミサトの必至の声が飛ぶ。

 考え事をしていたシンジであったが、この言葉に反射的にエヴァの体を捻って、

 何かは解らぬが、危険から身をかわそうとする。

 この目論見が上手くいけば何とかギリギリの所では有るが、危険を回避する事が出来る。

 ・・・・筈だったのだが・・・・
 

 ガクン

「しまっ」

 動けない! それはそうだ、エヴァ初号機は地上へと射出されたばかりで、

 リフトオフされておらず、肩の部分がまだ固定されたままだったのだから。

 第五使徒の放った苛烈な光線砲は、途中に位置するビル群を何するものでも無く貫通すると、

 更には動きの取れないエヴァに対して、容赦無く降り注がれていき、

 その甚大なる熱エネルギーよって、たちまちのうちにエントリープラグ内のLCLが沸騰していく。

 熱とショック、この2つによってシンジは強烈なダメージを受け、

 彼の放った絶叫が発令所全体にコダマする。

「あぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「シンジ君!」

「お兄ちゃん!!」

 シンジの事を気遣うミサトとレイであったが、

 その言葉もシンジの絶叫の前にかき消されていった。
 
 
 
 
 

「戻して! 早く!!」

 発進の時と同様、ミサトのかけ声と共に、今度は初号機の収容作業が開始される。

 もしもリツコがいたならば、こういった展開は回避出来たのかもしれないが、

 実現不可能な事を言っても今更始まらないだろう。

 過去2回は勝利の凱旋であったのに、今回は完全に出鼻をくじかれての完敗である。

 それに当たる人々の顔には、焦りと不安が色濃く滲み出ていた。
 

「目標、完黙!」

「シンジ君は?」

「生きています」

 ミサトの問いに対し、日向は最悪の事態だけは回避された事を告げるが、

 今だその詳細は不明で、ミサトは気が気で無い。

『当ったり前でしょうに、本当なら今日はリツコに代わって私が続きをしてもらう番なんだから』

(いったい何の話しじゃ!?)
 

「初号機回収、第7ケージへ」

「ケージへ行くわ、後、よろしく」

 とうとう我慢しきれなくなったのだろう。ミサトはそう言うとシンジの所へと向かう。

 後に残された日向は、まだ14歳の中学生である筈の少年に嫉妬を覚えずにはいられなかった。

 しかし、そのミサトに任された以上、やるべき事はキチンとやらなければならない。

 日向は自分の担当しているパイロットの観察という仕事を忠実にこなしていく。
 

「パイロット、脳波乱れています・・・ 心音微弱」

「生命維持システム最大。心臓マッサージだ!」

 そんな日向の元に司令であるゲンドウから直接指示が届く。

 やはり何だかんだ言ってもゲンドウも人の子の親だったという事か?

 ところが日向の方が初めてのゲンドウからの直接指令に驚いて手が止まってしまい、

 今度はゲンドウの叱責の言葉を被る事になる。

「何をしている! 早くしろ!」

「はい」

 慌てて返事をするのと同時に、日向はカウンターショックのプログラムを走らせる。
 

 ドシュッ

 与えられた電気ショックにより、シンジの体が瞬間痙攣する。

「パルス確認」

 どうやら効果があったようで、さっき迄弱々しかったシンジの鼓動に、力強さが戻ってくると、

 再びゲンドウの口から指示が出されていくのだが、各オペレーター達が指示に従い、

 プラグがエジェクトされる段階迄それは続くのだった。

「プラグの強制排除、急げ!」

「LCL緊急排水」

「はい」

 こう言った場合、むしろ女の方が度胸が座っているのか、

 慌てた感じで対応していた日向に比べ、マヤの方にこそ落ち着きが感じられる。
 
 

「良いからハッチを開けて、早く!」

 ミサトの要請により、ようやくエントリープラグから外部へと連れ出されるシンジ。

 完全に意識は無く、鼻血が流れているが、

 すぐさまそれは拭き取られ、人口呼吸用のマスクが取り付けられる。

 そして搬送用のストレッチャーに横たえさせられる所で、レイがその場に飛び込んで来た。

「お兄ちゃん!」

「レイ あなた」

 以前とは比べものにならない程の感情の起伏を見せるレイに、驚きの色を隠せず、

 しばらく悩んでいたミサトだったが、やがて後事をレイに任せる事を決心する。
 

「レイ、シンジ君の事、後、よろしく頼んだわよ!」

「わかりました。葛城一尉」

 レイはミサトの依頼にしっかりとうなずくと、

 シンジが集中治療室に収容されるその寸前迄彼にぴったりと付き添い、

 その後治療が終了して外に出てくる間も、じっとシンジの事を待ち続けていた。
 

 これ迄現れた第三、第四使徒に対しては、戦闘の初めこそ苦労したものの、

 最終的には圧倒的な実力の差を見せつけて、2体の使徒を屠った 「サードチルドレン」、

 碇シンジにとって、屈辱的とも言える初めての敗北であった。
 
 
 
 
 

「まさか・・・・・ こんな事になるなんて!」

 ハルペルの口から驚きの言葉が漏れる。

 今彼女が居るのは、逗留先であるホテルの地下のシェルターの中なのだが、

 さすがここ第三新東京市1番の高級さを誇るだけあって、

 シェルターの方も1つ1つ独立した区画になっている。

 そこにはテレビや電話も備え付けられており、ハルペルはここから 「MAGI」 にアクセスし、

(無論、違法にであるが)エヴァの戦闘状況をモニターしていたのであるが、

 そこに映し出されて来たのは、「初号機の敗北」 という彼女の予想を完全に裏切るものだった。
 

 確かにサードチルドレンはこれ迄も立ち上がりが悪く、初回に必ず失点を喫している。

 言わば今回もそこを突かれた訳で、残念ながら欠点が矯正されていなかったという事になる。

 今後はもう少しピッチングコーチのアドバイスに耳を傾けるようにした方が良いであろう。

(全然、話しが違う!)

 まあノックアウトは食らったものの、何とか命は取り留めたようなので、

 ハルペルもひとまず胸をなで下ろす。

 さて、この後はどうするのか?

 ほんの少しだけ悩んだ後、ハルペルは再び端末に向き合うと、

 今度はエヴァでは無く別の、彼女の本来の目的のデータ収集を開始する。
 

 元々リツコと並ぶエヴァのスペシャリストである彼女が、この第三新東京市にやって来たのは、

 初号機のパイロットである、「サードチルドレン」 碇シンジに興味が有ったからなのである。

 本当ならさっさと彼のデータ収集に取りかかる筈だったのだが、

 幸か不幸か、第五使徒がやって来たため、

 この際だからとその戦闘シーンを拝ませてもらう事にしたため、

 肝心のシンジのデータ収集の方が後回しにされていたのである。

 やがて端末のモニター上にシンジの写真が映し出されるのだが、

 何故かハルペルはシンジのその姿を見た瞬間に固まってしまっていた。
 

「もう、私とした事がどこで間違ったのかしら?」

 しばらくの間シンジの写真に見とれていたハルペルで有ったが、ハッと我に返ると、

 前述の言葉を呟きながら、さっきと全く同じ手順でシンジのデータの呼び出しにかかり、

 再びシンジの写真が画面上に表示される。

「あれ、おかしいわね、いったいどうしちゃったのかしら?」

 シンジの写真を確認した後、ハルペルはまたまた同じ手順を繰り返すのだが、

 当然のごとく画面には同じシンジの写真が表示される。
 

「う〜ん。まさかサードチルドレンのガードがここ迄固いなんて・・・
 仕方ないわね、直接会いに行くとしますか」

 ハルペルはそう独白すると、今度はシンジが入院している病院を検索し始め、

 あっという間にそのデータを手に入れる。

「成る程、ここね。
 それにしてもおかしいわね、どうして彼の写真だけうまく引き出す事が出来なかったのかしら?」

「まさか、あの写真の子が本当に碇シンジ君なんじゃ・・・・ そんな訳無いわよね、
 どこをどう間違っても、碇司令の息子さんがあんな”私好みの美少年”である筈が無いわ」

 まあ、つまり、ゲンドウの顔を知っているハルペルには、シンジがその息子である。

 などという事は到底信じる事が出来なかった。という事であるのだが、

 やはりミサトやリツコと同様、かなりそのケが強いハルペルであった。
 
 
 
 
 

 第五使徒、ラミエルはエヴァ初号機を退けた後、第三新東京市の0エリアという所に侵攻し、

 そこで静止すると、底部から巨大なドリルを出現させネルフ本部に向けて穿孔を開始する。

 対するネルフの動向だが、初号機のダミー人形を使徒に向けさせたり、

 独12式自走臼砲による砲撃を行ったりして、使徒の様子を伺うのだが、

 こちらの攻撃はATフィールドによって完全シャットされ、

 次の瞬間には、あの強力な光線砲によって消滅させられている。

 だがこれらはいずれも納得ずくだったのか、ミサトの表情にはそれ程の焦りは感じられず、

 それを裏付けるような言葉が彼女の口から語られた。

「成る程ね!」
 

「これ迄採取したデータによりますと、
 目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと推測されます」

「エリア侵入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち、エヴァによる近接戦闘は危険すぎますね」

「ATフィールドはどう?」

「健在です、総転位空間を肉眼で確認出来る程、強力なものが展開されています」

「誘導火砲、爆撃などの生半可な攻撃では、泣きを見るだけですね、こりゃ」

「攻守ともにほぽパーペキ。まさに空中要塞ね。で、問題のシールドは?」

 ミサトや日向の言う通りで、今迄得られたデータからは、

 この強力な第五使徒を攻略する糸口は見い出せていない。

 しかしそうも言ってられんだろう。

 何らかの対策を施さない限り、このままでは文字通り、座して死を待つ事になる。
 

「現在目標は我々の直上、第三新東京市0エリアに侵攻、
 直径17.5メートルの巨大シールドが、ジオフロント内、ネルフ本部に向かい穿孔中です」

「敵はここ、ネルフ本部へ直接攻撃を仕掛けるつもりですね」

「しゃらくさい。で、到達予想時刻は?」

「は、明朝午前0時06分54秒、
 その時刻には22層全ての装甲防御を貫通してネルフ本部へ到達するものと思われます」

『後、10時間足らずか』

 指先でペンを弄びながら、1人胸の中で自問するミサト。

 しかし具体的な作戦を立てるためには、まだまだデータが不足している。
 

「で、こちらの初号機の状況は?」

「胸部第三装甲板迄見事に融解、機能中枢をやられなかったのは不幸中の幸いです。
 後、3秒照射されていたらアウトでしたけど」

 ミサトの質問に対し、普段ならばリツコが答える所であるが、

 先程から何度も申し上げている通り、今この場に彼女はおらず、代わってマヤが返答する。

「零号機は?」

「再起動自体に問題は有りませんが、フィードバックにまだ誤差が残っています。実戦は・・・・・」

「まだ無理か・・・ 初号機専属パイロットの容態は?」

「身体に異常は有りません。神経パルスが0.8上昇していますが許容範囲内です」
 

 ミサトの元にもたらされるデータは、どれもこれも悪い物ばかりで有り、

 全く未来への展望が開けてこない。

 このままいけば、人類は滅亡への唄を合唱するしかないのだが、

 何か、それを回避する手だてはないのだろうか?

「状況は芳しく無いわね!」

「白旗でも上げますか?」

「その前にちょっち、やってみたい事が有るの」

 はっきり言って全然笑えない日向の冗談だったが、何かアイデアを思いついたのだろう。

 ミサトはその言葉尻を捉え、悪戯好きの子猫の表情を浮かべながら、

 おねだりの言葉を口にするのであった。
 
 
 
 
 

「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃かね!?」

 攻守ともにほぽパーペキな空中要塞を攻略するために、

 ミサトが提出した作戦プランに目を通した副司令、冬月の声が、ネルフ総司令官公務室に響く。

 第五使徒、ラミエルに白旗を掲げる前に、

 ミサトがちょっち、やってみたい事というのは、どうやらこれの事だったらしい。

 疑問、あるいは質問でも無い、冬月の”確認”の言葉をミサトは間髪おかず肯定する。
 

「そうです。目標のATフィールドを中和せず、
 高エネルギー集束帯による1点突破しか方法は有りません」

「MAGIはどう言ってる?」

「スーパーコンピューターMAGIによる回答は、賛成2、条件付き賛成が1でした」

「勝算は8.7%か・・・」

「最も高い数値です!」

 1割にも満たない可能性に対し、冬月は当然と言えば当然だが懸念の意を示すが、

 ミサトはそれを払拭するかのように、自信たっぷりにプランの採用を要請する。

 その戦術、戦略が優秀で有る事は、勿論必須の条件であるが、

 それらの有効性を上司に納得させるためのコンペティション能力にもミサトは秀でている。

 さすがはまだ三十路前に天下のネルフの作戦部長に収まるだけの事はある。

三十路前は余計よ!
 

 実際、ミサトが言うように、これ以外にもいくつかのプランは有ったのだが、

 そのいずれもがこれよりも低い可能性しか示す事が出来なかったのである。

 となればやはり、少しでも可能性の高いものに賭けてみるのが正道というものだろう。

 ゲンドウはいつもの如く『ゲンドウポーズ』を取ったまま、

 ミサトの提出したプランを採用する事を決定した。

「反対する理由は無い。やりたまえ、葛城一尉」

「はい」

 会心の笑みを浮かべるミサト。

 ここに後に 「八州作戦」 と名付けられる事になるこの作戦はその承認を得、

 目標のヒットに向けて動き出す事となった。
 

 だが、リツコの不在はここにも影響を与えていたと見える。

 もしも彼女が、今この作戦の事を聞いたのならば、ミサトに対しこう言っていたに違いない、

『この作戦は不可能よ!』

 何故なら、この 「八州作戦」 にはMAGIへの入力の際、致命的な見落としが有り、

 仮に、このプランの立案の段階からリツコが係わっていたとしたら、

 プランそのものを提出する事はおろか、MAGIへの入力すら行われ無かっただろう。
 

 しかし走り始めてしまったこの作戦をストップ出来る人物は最早おらず、

 人々はそれと気づかぬまま破滅への道を歩みだしてしまう事となるのだが、

 どんな場合でもイレギュラーとはつきまとう物である。

 リツコに”代わる”だけの能力を持っているその人物は、

 それを”変える”事の出来る人物が入院している病院へと向かっている途中であった。
 
 
 
 
 

「うちのポジトロンライフルでは、これだけの大出力には耐えられませんが、
 どうなさるおつもりなのですか?」

「決まってるでしょ〜、借りるのよ」

 EVA専用陽電子砲の収納されている格納庫の中では、

 ミサトとマヤがそれを眺めながら会話をかわしている。

 リツコがいない分、そのしわよせは全てマヤに廻ってきており、

 初号機の換装作業、零号機のフィードバックの誤差修正、

 八州作戦における電力調達に係わる機材準備、

 攻撃の要となるポジトロンライフルの点検調整、防御の要となるSSTOのシールドの合成、

 etc、etc・・・ と、これら全てが、彼女のその細い両肩にずしりとのしかかっていた。
 

 当たり前だが、今迄こんな経験は1度もした事の無いマヤにとって、

 その重圧は計り知れないものがあり、それによって今にも押しつぶされかねない状況であった。

『先輩、早く・・・ 早く帰ってきてください・・』

 心の中で滂沱の涙を流す彼女に出来る事と言えば、今日、

 しかもわずか数時間前に出かけたばかりのリツコの帰りを待ちわびる事だけだったのだが、

 その一方でこれだけの事をたった1人で、

 しかも苦もなくやり遂げてしまうリツコに対しては、益々尊敬の念を強めるマヤであった。
 

 それでも何とか、

『先輩のために、そして・・・ シンジ様のために』

 と思い、一生懸命頑張った結果、一つづつではあるが、

 問題をクリアする事が出来るようになってきたのだが、

 このポジトロンライフルに要求されたスペックだけは、如何ともしようがなかった。

 何しろMAGIがはじき出した第五使徒を倒すのに必要な出力と、これとの最大出力は、

 実に2桁の差があるのである。

 そのためミサトに相談を持ちかけたのだが、あれ程思い悩んだマヤに比べ、

 ミサトの答えはいとも簡単なものだった。
 

「借りるって・・・ いったいどこから?」

「戦自研のプロトタイプ!」

 いつも自分の仕事に懸命に没頭しているマヤは、あまり外部の事に詳しくないので、

 こんな物騒な物を借りてくるというミサトに、心あたりがどこかを尋ねる。

 対してミサトはやはり作戦遂行という段になって、自然と活力が湧き上がってきていたのだろう、

 両目を閉じながら、マヤに向かって実に嬉しそうに言い放つ。
 

 普段はぐうたら三昧の行動(だけ)を取っているミサトであるが、

 やると決めた時の行動力には、さすがと言うものがある。

 それにしてもこれだけ生き生きとしている彼女を見るのは久しぶりのような気がする。

(夕べエビちゅを飲んでた時の方が生き生きしてたけど)

うっさいのよ、アンタはいつもいつも!!
 
 
 
 
 

 天界より遣わされし5番目の使者は、これ迄の第三第四とは桁違いの強さをほこり、

 魔界より遣わされし3人目の少年も、ついに初めての屈辱に身を晒す事となった。
 
 

                                                         
 
 

 業師のワンポイト天使メモ(Part1)

 え〜私ごときの作品を読んで下さっている貴重な読者のみなさん。

 「業師」 というヒゲオヤヂでございます。

 補足編もそうでしたが、そろそろ物語が自分よがりのマニアックな物になって来ましたので、

 ここでもちょっと解説をさせて頂きたいと思います。

 別に読まなくてもよろしいのですが、読んでおいた方が中味を理解できると思いますので、

 申し訳ありませんが、しばらくの間ちょっとおつきあい願います。
 

 文中の 「七大天使(※1)候補者」 ですが、

 これは何だったかは忘れましたが、「終末論」 から取っております。

(イイ加減な知識を元に書いてますので、はっきり言ってアラだらけです)

 さて 「終末論」 というのがどういう物かと言うと、

「世界に終末が訪れし時、7人の大天使が舞い降りて、

 神より授けられしラッパを吹き鳴らし、その時が来た事を知らしめる」

 と言った内容で、言う迄も無く、この7人の大天使が七大天使でして、

 ぶっちゃけた話、「この7人の天使が現れたら世界はお終いだよ」 という事らしいのです。

(前述に有ります通り、イイ加減なので、「本当はそうじゃ無い」 などのツッコミはご勘弁の程を)
 

 では、この七大天使とはいったい誰々なんだかと言いますと、

 これがまあ諸説色々有りまして、正解というものは有りません。

 ただ、どの説においても共通している大天使が4人おりまして、

 一般的にもよく知られているこの3人、

「ミカエル」 「ガブリエル」 「ラファエル」

 の他にもう1人、

「ウリエル」 

 が四大天使として知られております。
 

 当然残る椅子は3つと言う事になる訳ですが、雷霆のシンボルを持つラミエルは、

 有力な候補の1人で有り、シンジが”第五”使徒を 「七大天使の5番目」 と評したのは、

 こういった訳だったのです。

 もしラミエルが本当に七大天使の5番目で有り、

 その資格を有した彼が人間世界に現れたとしたならば、世界は 「その時」 即ち、

 終末の時を迎えた事になるので、シンジはその事を危惧したのでした。
 

 それでは長々とおつきあいくださいましてありがとうございました。

 これに懲りずに、どうか次作以降も読んでいただけますよう、よろしくお願い致します。

 それからいつになるかはわかりませんが、そのうちPart2をやりたいと思いますので、

 是非期待していてください。

(誰も期待なんかしてないって! それより本文の方をもっとしっかり書かんかい!!)

 そ、それでは次回予告です。
 
 

                                                         
 
 

 ミサトの発案による八州作戦は、ゲンドウらの承認を得てついに動き始める。

 プラン通りに着々と準備は進んでいくが、そこに大きな見落としがある事に気づく者は・・・・・

 ハルペルというリツコの代わり足り得る人物に巡り会ったシンジは、己の疑問をぶつけてみる。

 次回 問題無い  第24話 シンジ 模索

 さ〜て、この次も サービスしちゃうわよ
 
 
 


管理人のコメント
 業師さんから待望の『問題無い23』を頂きました。
 いよいよ八州作戦が発動されます。
 手に汗握る攻防。
 TV本編でも展開されたこの雰囲気、好きなんですよ。(^^)
 
 しかし、致命的な見落としとはいったいなんでしょう?
 続きが気になります。(^^;
 
 さあ、この続きを一刻でも早く読むためにも、業師さんにメールを送りましょう!
 
 この作品を読んでいただいたみなさま。
 のあなたの気持ちを、メールにしたためてみませんか?
 みなさまの感想こそ物書きの力の源です。


 業師さんのメールアドレスは wazashi@nifty.comです。

 さあ、じゃんじゃんメールを送ろう!


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