問題無い
 
 

 天界より遣わされし4番目の使者の、後方に出現した3人の少年少女の存在によって、

 魔界より遣わされし3人目の少年は、とてつもなく難しい対応を迫られる事となった。
 
 
 
 
 

第18話 シンジ 鮮烈
 
 

 発令所はパニックに近い状態に陥っていた。

 非戦闘員、及び民間人の避難は全て完了していた筈なのに、どうしあんな所に、しかも3人も。

 第四使徒に怯える少年少女の画像データから、マヤはMAGIのデータベースにアクセスし、

 3人のデータを顔写真付きで即座にスクリーンに映し出す。

 アイダ ケンスケ − 第三新東京市立第一中学校2年A組

 スズハラ トウジ − 第三新東京市立第一中学校2年A組

 ホラキ ヒカリ   − 第三新東京市立第一中学校2年A組
 

「シンジ君のクラスメート!」

「何故こんな所に?」

 それを見たミサトとリツコが驚愕した叫びを発令所内に響かせる。

 すぐさま救助に向かいたい所だが、何しろその3人の正面に使徒がいて、

 頼みのエヴァがその背後に位置しているのである。

 いったいどうしたら? 判断に迷うミサトの所に、

 先程は中断してしまったシンジの言葉が、切羽詰った感じで飛び込んでくる。
 

「ミサト、パレットガンを準備しろ」

「シンジ君、何をするつもり?」

「いいから、急げ!」

「わ、わかったわ、予備のライフルを出して、早く」

「はい」

 シンジから最も近い、町外れに存在する武器搬出庫に、リニアを利用してパレットガンが射出される。

 シンジはシャッターが開く間ももどかしげにパレットガンを取り出すと、

 即座に天に向かって、トリガーを引いた。
 

 タタタタタタタタタタタ・・・・・・・・

 フルオートで連射される劣化ウラン弾の渇いた発射音が、辺り一面に響きわたる。

 するとそれまで3人の少年少女の方を向いていた第四使徒が、

 ゆっくりとエヴァの方に向き直っていく。

 どうやら使徒にも音を感じる能力は有るようで、

 シンジは自分の考えがうまくいった事にひとまず胸をなで下ろすが、

 なにしろまだ使徒のすぐ背後にはヒカリ達がいるのである。

 決して油断する事なく、先程の反省から必要以上に間隔を開け第四使徒と対峙する。
 

 以前のシンジならば、使徒が背中を向けて全く無防備の状態でいるという、

 千載一遇のチャンスが巡ってきたとしたならば、例えその向こう側にクラスメート達がいて、

 もしかしたら巻き添えにしてしまう可能性が有ったとしても、

 ためらわずに銃口を使徒に向けていた事だろう。

 しかしここ第三新東京市にやって来て、10年ぶりに母に巡り合ったのを初め、

 何よりレイと言う妹が出来た事が、彼の精神を大きく変化させていた。

 父親の事はどうでもよかったが、というよりそこにいたのがゲンドウだったならば、

 むしろそちらを狙っていたかもしれない。

(相変わらず悲惨なゲンドウである)
 

 シンジは第四使徒が自分の方に向き直ったのを確認すると、トリガーから一旦指を離し、

 連射を中止すると、パレットガンのモードを先程と同じバーストへとチェンジする。

 しかし今度は第四使徒を狙う訳にはいかないだろう。

 実際に撃った場合、おそらく使徒はATフィールドで防護するものと思われるが、

 万が一という事が有る。

 再び銃口を天に向け、トリガーを1回引き絞るとシンジはエヴァをゆっくりと後退させ始める。

 しかしどうした事だろうか、さっき迄は餌につられる子犬のように、

 その後を付いてきた使徒が、今回はその場に留まったままで、全く動く気配を見せなかった。
 

 その様子に気づいたシンジは、エヴァを幾分前進させ、もう一度同じ事を繰り返すが、

 やはり使徒の反応は返ってこない。

 どうやら使徒にもわずかながらでも学習能力はあるようで、

 さっきの戦闘から、自分が誘導されている事に気づいたみたいである。

「くっ、どうする?」

 対応に苦慮するシンジ。

 ところがなんと彼は今度はATフィールドを展開しないまま、

 つまり全く無防備の状態で第四使徒に向けて更にエヴァを前進させた。
 

 ヒュン

 敵が自らの制空権に進入してきた途端、第四使徒はすぐさまそれを叩こうと鞭を一閃させる。

 素早いバックステップで、今度は綺麗に鞭をかわしたシンジは第四使徒の様子を伺うが、

 鞭を振るったのみで、やはり本体が動く気配は見られない。

「くそっ」

 しからば逆にと、今度はATフィールドを展開し、シンジは第四使徒との距離を狭めていく。

 思った通り。

 やはりこれも先程の戦闘で、ATフィールド上からの攻撃は効かないと学習したのか、

 第四使徒は鞭をたゆらせたままで、攻撃してくる気配が全く無い。

 その途中でシンジはプログナイフに手をかける。

 接近戦にて一気にカタをつけるつもりだったのだが、

 第四使徒はある程度まで接近したら、鞭を消去しATフィールドを展開させてしまう。
 

 中和! いやそんな悠長な事をしていたらあの3人がどうなってしまうかわからない。

 発令所からは作戦の提示や指示が一切出てこない。いや出せない。

 使徒の背後の丘の上には3人の少年少女がいて、

 エヴァと使徒とは互いのATフィールドによって分け隔てられているが、

 それが取り去られてしまえば、ほんの少しで互いに手が届くというような位置関係にあるのだ。

 既にグラスは、水で一杯に満たされており、表面張力によって、

 かろうじてこぼれ出るのを防いでいるが、一滴でも滴をたらしたならばもうそれでお終い。

 それだけ微妙なパワーバランスなのであり、

 さすがのミサトもそこに一石を投じる勇気は持てなかったのだ。

 しかし結果的にこの膠着した状態を打開するきっかけとなったのは、

 あのVRの訓練の際、ミサトがシンジに対してかけてあげた、たった一言のアドバイスだった。
 
 
 
 
 

「ミサト、何か方法はないか?」 

「シンジ君・・・」

 シンジにしては珍しく自分からアドバイスを求めていくが、

 問われたミサトの方は悔しげに彼の名を呼ぶ事しか出来ないでいる。

「何かないのか? あいつらを守る・・・ 方法、待てよ、守る・・・」

 必死に作戦を模索するシンジの脳裏に、不意にミサトからかけられた言葉が甦ってくる。

『なるべく低く、なるべく小さくよ』
 

 使徒の懐に飛び込む事が出来れば、相手の得物が長い分むしろこっちが有利になるのだが、

 残念ながら第四使徒の展開するATフィールドによって、そこ迄近づく事が出来ない現状では、

 やはり遠方から仕留めるしか方法としてはなさそうである。

 とはいってもあまり使徒から離れ過ぎてしまっては、

 せっかくの銃撃もATフィールドによって防がれてしまうだろうし、

 それを解除させるためには、あの鞭を使わせるように仕向けなくてはならないのだが、

 そうするためには使徒の制空権内に、しかも自分のATフィールドを解除して、

 侵入して行かなければならないというリスクを伴う。

 しかし考えられる方法としてはこれしかない。が、もう一つ非常に重大な問題が有る。

 言う迄もなく、使徒の後方に位置するヒカリ達の存在である。

 前述の作戦を実行できる程度の距離であれば、まさか外れるという事は考えられないが、

 やはり、万が一弾が後方に到達するというのは、可能性として否定できない。

 はたしてシンジはいったいどんな作戦を取るつもりなのだろうか?
 
 
 
 
 

 何かを思いついたのか、シンジは今立っている位置からエヴァを少しづつ後退させていく。

 いったい何をするつもりなのだろう? 見た所特に変わったような点は見受けられ・・・・

 いや1点だけ有った。それはエヴァは前述の通り後退していっているのにもかかわらず、

 ATフィールドは最初の位置から全く動いていないのである。

 察するにシンジはATフィールドをエヴァの直近ではなく、

 遠方に展開するための訓練を、実戦である今この場でやっているものと思われるが、

 はたしてこれが何の役に立つというのだろうか?
 

 そうこうしているうちにもシンジはエヴァを後退させ続け、

 ついには第四使徒の鞭の制空権の圏外迄出てしまったようである。

 するとどうした事か、シンジは今度はエヴァを前進させ、

 第四使徒の制空権に踏み込んだあたりで停止させた。

 距離的に言うとぎりぎりではあるが、第四使徒の鞭は間違いなく届くといった所であり、

 いったいここから何をしようというのだろうか?
 
 

「エヴァ狙撃体勢を取っています」

 青葉の声が発令所内に響き渡る。

 見るとエヴァは片膝をついていわゆる膝射の体勢をとろうとしているようであり、

 しかもその途中でパレットガンのモードをそれ迄のバーストからフルオートに変更している。

 本来1点を集中して狙うので有れば、伏射が1番ぶれが少なくて良いのだろうが、

 それだといざという時の反応がどうしても遅くなる。

 かといって立射では命中精度が落ちる。

 そこで膝射を選択したのであるが、

 実はこのスタイルには、もう一つの重要な意味が有ったのである。
 

 まさか、ここから使徒を撃つつもりなのだろうか?

 発令所の全員が疑問に思う中、マヤに対してシンジからある依頼が届く。

「マヤ、ターゲットをロックするためにMAGIをサポートに廻してくれ」
 

 最早間違いは無い。シンジはここから第四使徒を撃つつもりなのだ。

 この距離で、しかもMAGIのサポートを受けたならば、まず狙いを外す事はないだろう。

 しかし、しかしそれでも万が一という事はある。

 以前の第三新東京市に来る前のシンジならば納得もできるが、

 それとも変わったと思っていたのは単に錯覚だったのだろうか?

 やはりこれが、魔界より遣わされし3人目の少年である彼の本当の姿なのだろうか?
 

「シンジ君、まさか使徒を撃つつもり?」

「その通りだ」

「やめなさい。使徒の背後にはあなたのクラスメート達がいるのよ」

「大丈夫だ。問題無い

 シンジから言われた通り、MAGIをエヴァのサポートに廻そうとしていたマヤだったが、

 ミサトとシンジとのやり取りが始まってしまったので一旦手を止める。

「シンジ君!」

「ミサト! 彼を信じてあげましょう。大丈夫、シンジ君ならやってくれるわ」

「でも・・・」
 

 尚も言い募ろうとするミサトに、リツコがストップをかける。

 10年来のつきあいだ。ミサトの気持ちはわかってる。

 彼女はシンジに対して何の策も授ける事が出来ない自分がもどかしいのだ。

 ましてここでシンジ自身の判断で事を起こして、クラスメート達に被害が及ぶような事になったら、

 何よりも、誰よりもシンジに対して申し訳ないと思う、葛城ミサトという女はそういう女だ。

 しかしおそらく、シンジはそういった事はわかった上で行動を起こそうとしている筈なのだ。

 ならばこの場は彼の気持ちを汲んでやった方が良い。

 そうリツコは判断したのだが、やはりまだミサトはふっきる事が出来ないようだ。
 

「ミサト!」

「何、シンジ君?」

 仲々自分の望みが叶えられない事に業を煮やしたのだろうか?

 今度はシンジの方からミサトに対して声がかかる。

「もしもこの作戦が失敗するような事になった場合、その責任はこの僕がちゃんと取ってやる。
 だから安心しろ」

「何を馬鹿な事を言ってるの、そんな事させられる訳無いでしょう。
 シンジ君・・・ わかったわ。リツコお願い」
 

 無論ミサトはシンジの言葉に納得したわけではない。

 しかしこの場はシンジを信じてみよう。そう決断したミサトはその事をリツコに告げた。

 勿論ミサトはシンジに責任をとらせるつもりなどは毛頭無い。

『いざとなったら自分が』

 そう考えるミサトは、もしかしたら指揮官としては不向きなのかもしれなかった。

 一方リツコの方はミサトのこの言葉に小さく頷くと、マヤに作業を再開するように指示を出す。

「続けて、マヤ」

「わかりました」

 リツコからのゴーサインにより、マヤは慣れた手つきで作業を再開したかと思うと、

 ほんのわずかの時間で、MAGIのサポートを確立させてしまう。

「出来ました」

「シンジ君、O.Kよ」

「了解!」

 準備が完了した事をリツコから告げられたシンジは、

 簡潔にそう答えると、パレットガンの照準を第四使徒に向けて狙い定めていく。

 司令席の脇にたたずむ冬月、ミサトを初めとする発令所の人員、

 エヴァの戦闘状況をモニターしている作業員、そしてその他。

 今この場を目撃する事のできる全ての人が、固唾を呑んでその時を待ち続けていた。
 
 

 それに対してシンジの心の中は意外と平静であった。

 エントリープラグに映し出された画面上をデルタとスターのマークラインが踊っている。

 そして2つのマークがほんのわずかなダンスを楽しんだ後、第四使徒の正面で重なった時、

 ピーーーーーーーーッ

 ターゲット、ロックオンを知らせる音がプラグ内に鳴り響いた。

「さよなら、シャムシェル」
 

 刹那、シンジはエヴァのATフィールドを消滅させる。

 それに気づいたのだろう、第四使徒もATフィールドを消滅させると即座に鞭を作り出そうとするが、

 シンジは使徒のATフィールドが消えた瞬間には、もうトリガーを引き絞っていた。

 タタタタタタタタタタタ・・・・・・・・

 さっきは天の彼方へと消えていった劣化ウラン弾が、

 今度は寸分違わず第四使徒のコアへと次々吸い込まれていく。
 

 劣化ウラン弾の爆発の衝撃でじりじりと後方へと追いやられる第四使徒、

 その命の源とも言えるコアにも、重大なダメージを受けている。

 しかし何とか鞭を作り上げると、それをエヴァめがけて振るっていく。

 うなりを上げてエヴァに襲いかかった第四使徒の鞭だったが、

 それがエヴァにダメージを与える事は出来なかった。

 何故なら、その切っ先がほんのわずかの差で届かなかったのである。

 もしエヴァが立ったままの状態だったならば、届いたのかもしれないが、

 劣化ウラン弾の爆発の衝撃により後方に追いやられたのと、

 エヴァが膝射の姿勢であったために、本来制空権内にあった筈のエヴァの機体は、

 レーダーの範囲外に消えていたのである。
 

 目標を捉えることが出来ず空振りしてしまった鞭だったが、今一度、

 最後の奇跡を信じて第四使徒は鞭を折り返して、何とかエヴァに一矢報いようとするが、

 残念ながらその思いが成就する事はなかった。

 その途中で第四使徒の鞭はまるで蜃気楼のようにフッと消えていく。

 無尽蔵とも思えるエネルギーと生命力を誇る使徒がついに力尽きた瞬間だった。
 

 カランカランカランカランカランカランカランカランカランカランカランカラン・・・・・

 全ての弾を撃ちつくし、マガジンが空回りする音を聞いた後、

 シンジはトリガーにかかっていた指をゆっくりと引き離した。
 
 
 
 
 

「目標は完全に沈黙しました」

 発令所に日向の声が響く。と同時に全員の肩から力がどっと抜けていく。

 どうやらミスはなかったようだ。

 エヴァの放った弾はその全てを使徒に叩き込み、

 後方にいる少年少女達には被害は及ばなかったようである。

 それ迄の緊張感から解き放たれ、誰しもが安堵し、誰しもが喜びかけた時にそれは起こった。
 

「使徒が後方に倒れかかっています!」

「何ですって!?」

 マヤの悲痛とも言える叫びにミサトが反応し、その他の人々も再びスクリーンに目を戻すと、

 それまで微妙なバランスを保って立っていた第四使徒の体が、

 大きく後ろに傾いでいるのが映し出されている、

 しかもその角度は、まるでスローモーションのようではあるが、確実に大きくなっているようだ。

『あのまま倒れていったら3人とも押し潰されてしまう』

 誰もがそう思い、しかし誰も・・・ 何も・・・ 出来ないでいた。ただ1人を除いてだが。
 

 その瞬間、ある人はモニターから目をそむけ、ある人は目を瞑って、

 惨事の情景をやり過ごそうとした。

 やがて恐る恐る視線を元に戻した人達の目に映し出されたのは・・・・

 人々の予想とは全く異なり、何やらオレンジ色の半透明の壁のようなものに、

 えらのような部分だけをもたれかけるように、崩れ落ちている第四使徒の姿であった。
 

「ATフィールド! いったいこれは?」

「成る程! そういう事だったのね」

「ちょっとちょっと、どういう事なのよ教えなさいよ、リツコ」

 納得の出来ないミサトに対し、リツコの方は瞬時に状況を理解したようである。

 とは言っても、これはリツコがエヴァに詳しいからわかったのであって、

 決してミサトのカンが悪いという訳では無い。

 状況を知りたがっているのはミサトだけではなく、オペレーター3人衆も同様のようで、

 これからリツコが話すであろう言葉に3人とも耳をそばだてている。
 

「多分シンジ君は自分のATフィールドを一旦消去した後、
 それを使徒の背後に出現させたのよ」

「最後の攻撃の前に一旦下がって、そしてまた前進したのは、
 使徒の鞭と、ATフィールドを展開するための両方の間合いを計るためだったんだわ」

「という事は、シンジ君は最初からこうなる事を予測していたって訳?」

「おそらくそうでしょうね。でもそれはあくまで二次的な要因よ」

「え、まだ何か有るの?」

「第一の目的は、クラスメート達を自らが放った劣化ウラン弾から守るためだったのよ。
 万が一弾が外れた場合でも使徒の背後に展開したATフィールドで
 それをブロックすれば、決して彼らに危険が及ぶ事は無いわ」

 リツコの説明に納得の表情を見せるミサトとオペレーター3人衆。

 それにしてもそこ迄周到に判断し、そして見事にやってのけるとは。

 ミサトはシンジの能力の高さを改めて認識するのであった。
 

「ミサト」

 そんな事を考えていたミサトの所に急にシンジから声がかかる。

 シンジが乗ったエヴァを見てみると、いつのまにかあの丘の麓の所迄移動しており、

 3人の少年少女に全く危険が無いように、第四使徒の骸を移動している所だった。

「何? シンジ君」

「あの3人を頼む」

「わかったわシンジ君、それからこれからはそう簡単に 「責任を取る」 なんて事は言わないで、
 いざという時には私が何とかするから。わかったわね?」

「何言ってるんだミサト、お前じゃ何ともならないから僕が心配してるんじゃないか!
 食事はカップラーメンとレトルト食品、洗濯物は山積み、部屋はゴミが散らかしっぱなしの上に、
 埃だらけ。こんなお前をほっぽり出したんじゃかえってこっちの方が心配だ」

 何やらクスクスと笑い声がする。声の主はどうやら日向を除く後の3人のようで、

 ミサトはそんな周りの反応に頬を赤く染めながらも、シンジに対して反論する。

「大きなお世話よ。大体ちょっとやそっと汚れていたからって、人間死にはしないんだから。
 実際今迄、私はちゃんとそれでも生きてきたんだから」

 自分はだらしない人間です。という事をはっきりと認めてしまうミサト。

 理由はわからないが、それを聞いた日向の口からは一際大きな溜息が漏れるのであった。
 
 
 
 
 

 エジェクトされたエントリープラグからシンジがフロアに降り立った時、

 どういう訳かその傍らにはレイが立っていた。

「お兄ちゃん。これ」

「どうしたんだこれは?」

 怪訝に思いながらもシンジは差し出されたバスタオルを受け取り、

 それで髪を拭き取りながら、何故レイがこんな事をしているのか質問する。

「リツコさんがお兄ちゃんに持っていってくれって」

「リツコが?」

「うん!」
 

 成る程、まさかレイが自発的にこういった事をやるとは思えなかったが、

 やはりリツコの差し金だったらしい。

 しかしそれを行っているレイの表情を見てみると、

 以前の彼女のまるで人形のような無機質な顔とはまるっきり異なっており、

 ほんの少しづつではあるが人間的な温かみが生まれつつあるような感じがする。

 実際彼女は、”シンジにバスタオルを渡す” ただそれだけの事なのに、

 何ともいえない嬉しさを、その胸中で感じ取っていた。
 
 

「ありがとうレイ、ところであの3人はどうしてる?」

「3人?」

「ヒカリとトウジと後もう1人、メガネの男がいたろう。その3人は今どこにいるんだ?」

「22D会議室に待機させられているわ」

「22Dだと! 何でそんな所迄」

 シンジが驚いたのも無理も無い。

 ジオフロントへと繋がる地下施設は22層に分離しており、

 22Dというのは文字通りその最深部に位置している事を示しているのだ。

 避難命令に従わなかったあの3人に、単にお説教を食らわすだけで有れば、

 何もわざわざそんな所迄連れ込む必要は無い筈なのだが。
 

「レイ、3人がそんな所に連れて行かれた理由について、何か知っている事はないか?」

「理由はわからないけど、リツコさんがそうしろって」

「リツコの指示だっていうのか?」

 シンジの確認に対して、レイは静かにこっくりとうなずく。

 あのリツコの事だ何か考えがあってそうしているものとは思われるが、

 何でそんな事になっているのか、あの3人に何か含む所があるのか、

 彼女に確認を取るために、シンジはレイから受け取ったバスタオルで、

 LCLに濡れた髪を拭き取りながら、一番近くのインカムへと移動していった。
 
 

「はい。赤木です」

「僕だ」

「シンジ様、どうなされました?」

 シンジの本心としては一刻も早くあの3人、と言うよりヒカリに会いたがっていた。

 ネルフというのはなんだかんだ言ってもその性質上、軍隊的色合いが結構濃いので、

 避難命令を無視した3人に対しては、強烈な尋問がなされないとも限らない。

 彼女の弁護人を努める意向の有るシンジは、出来うる事ならミサト達よりも先にヒカリに会い、

 申し開きをするための材料を取り揃えておきたいと思っていた。
 

「あの3人を22Dに連れ込むように指示したそうだが、どういう事だ」

「一番の理由はお灸を据えるためです。避難命令が出ているのにも関わらず、
 それを無視して外へ出てくるという事は、殺されても文句は言えないのです」

「2度とそんな事をさせないためにも、22Dのような、要するに組織の奥の奥といった場所に、
 連れて行き、更に尋問を開始する迄の時間も長く取る事によって、
 自分達のしでかした事をより重大なものとして認識させる。そのように考えたのです」

「わかった。リツコ、もう1点確認させてくれ、他に含む所はないんだな」

「後はシンジ様があの3人と会うための準備をする時間を用意する。という事も有りましたが、
 組織上、機密上からあの3人をどうこうしようという事はありません。」

 とりあえずはヒカリの安全は確保されたようで、シンジはひとまず胸をなで下ろすが、

 この後あの3人と会うために、自分の方もある程度の態勢作りが必要だと感じ、

 話しを一旦打ち切る事にする。
 

「すまんな気を遣ってもらって。ところで時間はどの程度有るんだ?」

「ミサトには1時間と言って有りましたので残りは・・・・ 45分くらいです」

「そうか。ありがとうリツコ」

「いいえ。それでは失礼します」

 どうやらシンジとリツコの話しは終了したようである。

 今日は色々な事が有った。

 学校に行ったらトウジとかいう男に殴られわ、使徒は現れるわ、

 ヒカリ達は避難命令を無視して表へ出てくるわ、本当に退屈しない1日だった。
 

 しかしまだ終わった訳ではない。

 シンジは今日1日のけりをつけるべく、

 まずはその準備をするためにA級勤務員更衣室へと向かった。
 
 
 
 
 

 1人の少女と2人の少年は、もうかれこれ1時間近くここ22D会議室にて待機させられていた。

 そのうちの少女の方は割とキリッとした態度を保ち続けているのに対し、

 後の2人の少年達はずっとおどおどしており、落ち着きというものが全く感じられない。

 特にメガネをかけた少年の方は、こういった軍隊的組織の動向について詳しいため、

 それが尚一層不安感を煽っているようである。
 

 どうやらあの転校生が怪獣を倒してくれたおかげて、

 それ迄風前の灯火だった自分達の命が助かったと思ったのも束の間、

 ようやく立ち上がる事が出来、麓へと下りて行こうとしていた彼らの前に、

 黒スーツに黒いサングラスの、いかにもその方面のプロですと言わんばかりの男達が現れ、

 半ば無理矢理、彼らをここ迄連れてきたのであった。
 

 メガネをかけた少年は最初のうちこそ 『大丈夫』 『そんなに大した事はないさ』 などと、

 自らの願望も含めてそう思っていたのだが、地下へと通じるエレベーターに乗せられ、

 その階数表示がどんどんと増えていくの見るのにつれ、いやでも不安が増してくる。

 案内された先は、割と小さな会議室といったような所で、

 最悪の場合鉄格子の中にでも収監されるのかと思っていた彼は、

 ひとまずホッと胸をなでおろしたのだが、今度はいつ迄たっても誰もやって来る気配が無い。

 そうして時間がどんどんと過ぎていくのにつれて、彼の不安は益々膨れ上がっていく。

 それはかたわらにいる黒いジャージのもう1人の少年も同じなようで、

 普段の彼に見られるわりと攻撃的な気質というものは今は全く感じられない。
 

 この2人の少年を見る限り、リツコの思惑はまんまと図に当たったようだが、

 少女である、ヒカリにだけは効果はなかったように見える。

 しかし何と言っても彼女はまだ14歳なのだ。

 彼女がここ迄毅然とした態度を取れた理由はたった一つ。

 シンジの存在が、シンジの言葉が彼女を陰からしっかりと支えていたからなのであった。
 
 
 
 
 

 天界より遣わされし4番目の使者は、自らの持つ能力をフルに駆使して戦ったが、

 魔界より遣わされし3人目の少年の、その周到なる軍門に下る事となった。
 

                                                         
 
 

 ミサトの尋問を受ける3人の少年少女達、そこに突然シンジが割って入ってくる。

 決して強烈ではないものの、あまりにも的確な指摘に打ちのめされる4人目の少年。

 ヒカリは自分を救ってくれた、まさに命の恩人とも言うべき少年に、己の持つ全てを捧げつくす。

 次回 問題無い  第19話 シンジ 追求

 さ〜て、この次も サービスしちゃうわよ
 
 
 


 冷静に第四使徒を倒したシンジ。
 さすがに碇スマイルは伊達ではありません。(謎)
 
 そして、お仕置きを待つ3人。
 
 いや〜、お灸を据えられるヒカリちゃんはいいですね〜

 ってそういう話じゃないでしょ(/^^)/
 
 毎回変なコメントですみません。(−−;
 
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