問題無い
 
 

 天界より遣わされし4番目の使者は、目的地である第三新東京市に到着した直後、

 魔界より遣わされし3人目の少年と、すぐさま戦闘へと突入する事となった。
 
 
 
 
 

第17話 シンジ 展開
 
 

「目標を光学で捕捉、領海内に進入しました」

「総員、第一種戦闘配置」

 ネルフ本部発令所内に副司令である冬月の声が響き渡る。

 司令であるゲンドウの姿が見えないが、はたしてどうしたのだろうか?

 どうやら第三使徒サキエルに続く四番目の使徒がやって来たようで、

 発令所内が一気に緊迫した空気に包まれる。

 とはいえ実戦はともかく、これ迄何度も何度も繰り返し行ってきた事だ。

 オペレーター、作業員、それぞれの持ち場を任された人々は、

 慣れた手つきでいつもやってきた事を実行していく。
 

「了解! 対空迎撃戦、用意」

「第三新東京市、戦闘形態に移行します」

「中央ブロック、収容開始」

 地上に突出すると時と同様にサイレンが鳴り響く中、

 それ迄天にそびえ立っていたバベルの塔達が地下へと収容されていき、

 第三新東京市は要塞都市としての素顔を現してくる。

 かつてシンジはこの光景を評して 「何だか・・・ 寂しい町だな」 と言ってのけたが、

 人っ子1人居ないこの情景を見ると、むしろ何故か知らぬが、

「悲しい町」 というような感じさえしてくる。

 だが無論人々の姿が見えないのは避難したためで、ミサトはその状況を青葉へと確認する。

「非戦闘員及び民間人は?」

「既に待避完了との報告が入っています」

 ミサトは青葉の報告を受ける間、両腕を組んだまま視線をそちらへと向けていたが、

 報告終了と同時にそれを正面のスクリーンへと戻していく。

 そこに写し出された使徒の姿は、人の形の面影を残していたサキエルとは違い、

 イカとトンボを組み合わせたようなスタイルをしていた。
 

「碇司令の居ぬ間に第四の使徒襲来、意外と早かったわね」

「前は15年のブランク、今回はたったの2週間だからね」

「こっちの都合はお構いなしか、女性に嫌われるタイプね」

 ミサトとマコトが繰り広げた夫婦?漫才だったが、

 あいにく観客の視線は2人ではなく、前方にあるスクリーンに張り付いていた。

 当然拍手や笑いが起きる筈もなく、

 自動迎撃システムの中を悠々と進む使徒の姿に、冬月が呆れたような声を出す。

「税金の無駄遣いだな」

 まさにその通りで、どうせなら花火でも上げてくれた方が、見てる方も楽しいだろうに。

「委員会から再びエヴァンゲリオンの出動要請が来ています」

「うる☆やつらね・・・ (オイ!) 言われなくても出撃させるわよ」

 文句だけは1人前の連中の、外部からの茶々にミサトはいまいましげに、そう吐き捨てた。
 
 
 
 
 

「うう、まただ」

 第334地下避難所。

 第一中の地下深くに建設されたこのシェルターは、非常事態宣言が出された後、

 第一中の生徒のみならず、付近の住民達も思い思いのていで集まってきていた。

 そんな中、TVチューナー付きのビデオカメラのファインダーを覗き込んでいたケンスケが、

 いかにも残念そうな口調で呟く。

 どうやら2年A組の生徒達も無事避難が終了したようで、彼の隣にはトウジの、

 そこから少し離れた所ではヒカリがクラスメートの女の子と談笑している。

 ヒカリの様子からもわかるように避難している人達からは、不安感や悲壮感は殆ど感じられず、

 特に生徒達は訓練でかなり慣れているせいもあるのだろう、

 中にはまるでキャンプのように感じて、はしゃいでいる者もいる始末だ。
 

「また文字だけなんか?」

 ケンスケの言葉に反応したトウジが、後を引き継ぐ感じで声を出すと、

 ケンスケはビデオカメラをトウジの眼前に差し出しながら説明する。

「報道管制ってやつだよ。僕ら民間人には見せてくれないんだ。こんなビッグイベントだっていうのに」

 いかにもくやしそうなケンスケだったが、彼の場合これしきの事でへこたれる男では決して無い。

(というより、単に懲りないんだよ)

 そうは言っても、避難して来てすぐまた出て行ったのではあからさまに怪しく見えるだろう。

 その程度の事は考えつくのか、しばらくの間は手持ちぶさたではあったものの、

 何とかおとなしくしていたケンスケだったが、

 20分を過ぎてやはり我慢が利かなくなったのか、ボソッとトウジに呼びかける。
 

「ねえ、ちょっと2人で話が有るんだけど」

「何や?」

「ちょっと、な」

「しゃあないな」

 ケンスケの何か良からぬたくらみだとは長年のつきあいからわかっているトウジだったが、

 くされ縁という事で半ばあきらめたような声を出す。
 

「委員長」

「何?」

「わしら2人便所や」

「もう、ちゃんと済ませときなさいよ!」

 トウジがシンジにふるった暴力が余程許せなかったのだろう。

 ヒカリは本当ならトウジとは口も聞きたくなかったのだが、

 委員長としての習性か、言われた事にちゃんと反応してしまう。

 しかしその口調は、やはりと言うべきか相当厳しいものにならざるを得なかった。
 
 
 
 
 

「で、何や?」

「死ぬ迄に1度だけでも見たいんだよ」

「上のドンパチか?」

「今度いつまた、敵が来てくれるかどうかもわかんないし」

「ケンスケ、お前な〜」

「この時を逃しては、あるいわ永久に! なあ、頼むよ。ロック外すの手伝ってくれ」

「外に出たら死んでまうで」

「ここにいたってわかんないよ。どうせ死ぬなら見てからが良い」

 クサイ仲、とはまさにこんな関係を言うのだろうか、小便器に向かって用を足しながら、

 ケンスケはトウジに対し、悪の道へのお誘いをかける。
 

「アホ、何のためにネルフがおるんじゃ」

「そのネルフの決戦兵器って何なんだよ、あの転校生のロボットだよ。
 この前もアイツが俺達を守ったんだ。それをあんな風に殴ったりして」

「う、うう」

「あいつがロボットに乗らないなんて言い出したら、俺達死ぬぞ。
 トウジにはアイツの戦いを見守る義務があるんじゃないのか?」

「しゃあないな、お前ホンマ、自分の欲望に素直なやっちゃな」

「フ、フフ」

 結局は口車に乗ってしまうトウジであったが、彼がケンスケの考えに同意したのは、

 決してそれだけではなく、最初にシンジにガンをつけられた(とトウジは思っている)際に感じた、

『どこぞで会うたかいの?』 という感覚が、大きく影響しているせいでもあったのだ。
 
 
 
 
 

「シンジ君、出撃良いわね?」

「・・・・・・・」

「シンジ君?」

問題無い

 既に初号機に乗り込み、スタンバイを完了していたシンジだったが、

 エヴァ内部に写し出された第四使徒の姿が目に入って来るのと同時に、

 またしても自分の脳裏に使徒の名前が浮かんできた事で、彼はまたしてもとまどいを覚えていた。
 

 第三使徒サキエル。そしてあいつの名は・・・ シャムシェル。

 いったい何故、自分は使徒の名前がわかるのだろうか?

 いくら進んでも出口の無いラビリンスに入り込んでしまったように、

 思考のループをさまよい歩くシンジ。

 そのため最初ミサトが声をかけた時に、反応が遅れてしまったのだが、

 逆にその事が彼を現実に引き戻す事に成功したようである。
 
 

 そんな彼を心配しつつも、リツコは努めて冷静な口調を心がけてシンジに作戦を説明する。

「良くって? 敵のATフィールドを中和しつつパレットの一斉射、練習通り、大丈夫ね?」

「ミサト、頼みがある」

「何? シンジ君」

「出来るだけ街中での戦闘は避けて、敵を郊外へ誘い出し、その後で倒しにかかりたいと思うんだ」

 シンジのこの申し出に対し、ミサトは即答する事なく視線をリツコへと走らせる。

 出来る事なら市街戦は避けたい。というのは上層部の一致した思いだ。

 街中の建物や道路などに被害が出れば、当然それの復旧費用がかさむ事になる。

 無論それ自体はネルフから拠出される訳では無いが、人間なんて勝手なもので、

 ネルフの事を、使徒と一緒に町を破壊したもう一方の当事者としか見てくれない。

 シンジが何故突然このような作戦を提案してきたのか疑問も有ったリツコであったが、

 考え方としては理にかなっているため、リツコはミサトの意を汲んだ上で大きくうなずきを返す。

 技術、作戦両部長の賛同を得たシンジの提案は採用される事となったようで、

 ミサトの方もリツコにうなずきを返した後に、その旨をシンジへと伝える。

「わかったわ、シンジ君。あなたに任せるわ。ただし、無理はしないでね」

問題無い

「発進!」

 ミサトのかけ声と共に、人類の歴史上2度目となる使徒との戦闘を行うために、

 エヴァンゲリオン初号機は地上へと射出されて行く。
 
 

 シンジがさっきの提案をしたのは、

 財政の事やそれに伴うネルフへの世間の目を気にした訳ではなく、

 彼の胸中に今日学校でメガネの男から言われた事がひっかかっていたせいだったのだ。

『悪いね、こないだの騒ぎでアイツの妹さん怪我しちゃってさ。ま、そういう事だから』

 以前、第二新東京に居た頃の彼で有ったならば、

 おそらくそれによって闘い方を変えるような事は無く、

 最も効率的で、最も確実で、最も自分の被害の少ない方法を取ったであろう。

 リツコ、ミサト、ヒカリ。

 そして何よりも、単に戸籍上における親子の関係でしかなかった実の父であるゲンドウとは、

 比べ物にならないぐらい太い”絆”を感じられるレイというが出来た事が、

 少しづつこの少年を変えて行っているようである。
 

 結果的にシンジが提案したこの作戦自体は成功するのだが、

 彼の思惑とはうらはらに、1度悪い方向へと転がり始めた歯車の回転は、

 これにより更にそのスピードを早める事になってしまうのである。
 
 
 
 
 

 それはほんの些細な一言であった。

「ヒカリ、鈴原君と相田君、随分遅いね」

 話した少女の方も別段深い意味を持って言った訳ではない。

 少女達特有の雑多なおしゃべりに花が咲いていた途中で、たまたま話しが途切れた時に、

 単に穴埋め、その場繋ぎとしてポロッと出されただけなのだ。

 はっきり言ってその時のヒカリは彼らの事を忘れていた。

 といっても決してそれは冷たい意味ではなく、トウジの事を考えたくなかったからなのだが。

 しかし、この些細な一言がヒカリに与えた影響は非常に大きかった。

 確かにいくら何でも遅すぎる。いったいどうしたのだろう?

「私ちょっと2人の事探してくるから」

「あ、ちょっと、ヒカリ〜」

 そういって少女達のおしゃべりの輪から抜け出していくヒカリ。

『クラスのみんなをよろしく頼む』

 彼女の胸中ではシンジからかけられたこの言葉が、段々と大きくなっていくのであった。
 
 
 
 
 

 山、というよりは小高い丘の天辺にある神社への坂道を勢い良く登っていく2人の少年。

 言わずとしれたトウジとケンスケである。

 彼らがその山頂へと到達したのは、

 第三新東京市に飛来してきた第四使徒が、それまでの飛行形態であるイカとトンボの組合せから、

 蛇が鎌首を持ち上げたようなスタイルに移行していく所で、

 まさに丁度良いタイミングだったようである。

 といっても元がイカとトンボでは、迫力にかける事夥しかったが。
 

「すごい、これぞ苦労のかいもあったというもの。お、待ってました」

 当然の事ながら産まれて初めて使徒を肉眼(ビデオのファインダー越しでは有ったが)

 で捉えたケンスケは、興奮を全く隠せない様子で最初は使徒の姿をビデオに収めていたのだが、

 エヴァが地上に射出される事に気づき、ついでそちらへと方向を変更する。

「出た」

 シャッターが開けられ、姿を現したエヴァ初号機を更に食い入るように見つめるケンスケ。

 それに対してトウジの方だが、ケンスケとは好対称に使徒のその姿に圧倒されていた。

『アイツは・・・ あんな化けモンと戦こうとるんか?!』

 自分と同級生である少年のやろうとしている事が、いかに困難で、かつ責任重大なものであるか、

 気づかされたトウジであった。
 
 
 
 
 

「鈴原〜、相田く〜ん。居るの〜? 居ないの〜?」

 男子トイレの前、ヒカリは顔を少し赤らめながらトウジとケンスケに呼びかけを行うのだが、

 当然、彼らからの返事が返ってくる訳がない。

 それでもヒカリはしばらくの間呼びかけを続けていたのだが、

 何分か経過してさすがにあきらめ、別な個所を探しに行くため、

 それ迄トイレの方に向いていた態勢を反転させた途端、

 自分を見つめる何人もの男性が居る事に気づきギョッとなる。
 

 ヒカリがトイレの前に居たのはそんなに長い時間では無かったのだが、

 その間にも生理的欲求を満たそうとする男性は少しづつ集まり始めていたのだ。

 彼らの方でも、男子トイレに向かって真剣に呼びかける少女をどのように扱って良いかわからず、

 また少女の脇を通って中に入っていくのも何となくためらわれたため、

 少女が居なくなるのをしばらく待っていたら、少女1人に対して複数の男性の集団お見合い。

 というような状態になってしまったのであった。
 

 ヒカリは真っ赤になりながらその場をそそくさと立ち去っていく。

『もう〜見つけたらタダじゃおかないんだから!』

 ヒカリから云われ無き恨みを買う事になってしまったトウジとケンスケであった。
 
 
 
 
 

 シンジはリフトオフされた直後、パレットガンのモードをフルオート(連射)から、

 バースト(3点射)へと変更する。

 元々パレットガンにはフルオート、バーストと合わせてセミオート(単射)の3つのモードが有り、

 敵を掃討するフルオート。

 敵を牽制するバースト

 敵を狙撃するセミオート

 と、用途によって使い分けられるようになっているのだ。
 
 

 シンジは射出ゲートの影から飛び出すと、第四使徒に向かってパレットガンを発射する。

 使徒との間はできるだけ距離を取り、ATフィールドの中和もわざと行っていない。

 そのため発射された劣化ウラン弾は、第四使徒の造り出すATフィールドによって、

 その時点で遮断されてしまうが、先程提案した作戦の通り、これは牽制・誘導が主な目的なので、

 シンジは着弾を確認すると、発射した地点より後退し始め、使徒との間隔を開いていく。
 

 はたして使徒はシンジの誘いに乗ってきたようで、エヴァに対して前進を始める。

 それと合わせるようにシンジはその分更に後退を続け、自分と使徒との間には、

 できるだけ等間隔を保って郊外へ使徒を導こうとする。

 時折トリガーを引き絞っては牽制を行うシンジ。

 まさに絵に描いたような展開に、発令所でスクリーンを見つめるミサトから激励の指示が飛んだ。

「シンジ君、その調子よ。もう少し、頑張ってね」
 
 
 
 
 

「おお凄い、凄い」

「おいケンスケ、あいつこっちに向かっとるんとちゃうか?」

 興奮し、ビデオを必死で回し続けるケンスケに対し、トウジは心配そうに声をかける。

 当のケンスケの目にも段々とエヴァの背中が大きくなってきているのが、

 はっきりと映し出されてきていたが、この時の彼は自分の身に危険が迫っている事よりも、

 今眼前に展開しているシーンを記録する事の方が重要な事として捉えられていたため、

 興奮こそすれ、この場を立ち去ろうなどという考えは、かけらも浮かんではこなかった。
 
 
 
 
 

「やっぱりあの2人」

 ヒカリは外、正確には学校の方ではなく郊外へと繋がるゲートの前で呆然と立ち尽くしていた。

 本当なら固く閉ざされている筈のその扉のロックは外され、

 あろうことか半開きの状態になっていたのである。

 間違いない。あの2人はここから外へ出ていったのだ。どうしてこんな事を!

 ヒカリは心の中で2人を非難したが、シンジの言葉を再び思い出し、

 自らゲートをくぐり、2人が通ったであろうその後を追い始めた。
 
 
 
 
 

 たまに劣化ウラン弾を叩き込むのみで、後はずるずると後退を続けるエヴァに、

 第四使徒はじれてしまったのだろうか? それ迄は防御一辺倒だった第四使徒だが、

 シンジの隙を伺って、ついにエヴァに対して攻撃を開始する。

 銃そのものの取り扱いには、もうかなり慣れてきたシンジだったが、

 実際にそれを敵に向けて使う場合の高度なテクニック迄は習っていなかった。

 シミュレーションで実施したのは、VR(ヴァーチャルリアリティ)上に現れた敵を倒す事のみで、

 つい先日は相手が反撃してくる事も予想した展開でのプログラムも実施している。

 しかし、それはあくまでVR上での訓練で有り、

 パレットガンを使用した実戦自体がそもそも初めての経験なのである。
 

 こういった敵の牽制、誘導などに慣れたものならば、それを行う際の敵に対する発砲は、

 必ずランダムに行い、敵に反撃の糸口を掴ませないようにするのだが、

 先程も言ったように、こういった事を初めてこなすシンジにそこ迄求めるのは酷というものだろう。

 タンタンタン、−−−−−−−、タンタンタン、−−−−−−−、タンタンタン、−−−−−−−

 繰り返される攻撃と、その合間に訪れる呼吸の瞬間。

 そのリズムが規則正し過ぎる故に第四使徒がつけ込む隙が生まれてしまったのである。
 
 

 バーストモードで、弾が3発着弾した直後を見計らったかのように、

 第四使徒はそれ迄自分の前面に展開していたATフィールドを消滅させたかと思うと、

 えらの両側のすぐ下に有る、まるで腕のように突き出した所に、

 瞬時に鞭のようなものを発生させ、それをエヴァに向かって一閃させる。

 どうやら第三使徒サキエルに光のパイルが有ったように、

 この第四使徒はATフィールドを変容し、このような電磁鞭のようなものを作り出す能力があるらしい。
 

 それ迄使徒との間になるべく距離を取っていたのが幸いしたのだと思うが、

 シンジは第四使徒の攻撃に対し、

 鞭の制空権から跳びすさり、ギリギリで何とかそれをかわす事に成功する。

 しかし本来、人もエヴァも後ろ向きに走るのに適した身体構造ではないため、

 バランスを崩したエヴァは、そのまま後方へと尻餅をつく事となり、

 しかもその際、体の前に構えていたパレットガンについては、第四使徒の鞭の攻撃によって、

 両断されてしまう結果となった。
 
 
 
 
 

「あっちゃー、やっぱ殴られたのが効いてるのかな?」

「う、うるさいわい」

 逆に戦闘が始まりある程度の時間が経過した事で慣れてきたのだろうか?

 ケンスケは使徒とエヴァとを最初に見かけた時よりも、むしろ落ち着いて見える。

 それに対してトウジの方は、なんだかあせっているように見受けられた。

 ケンスケの言う通りだとすれば、もしかしたらアイツは自分のせいで負けて・・・・

 ひょっとして死んでしまうかもしれない。

 彼の心の中では罪悪感が強烈に渦巻いていた。
 
 
 
 
 

「シンジ君!」

 さっきとは一転した不利な展開に、今度はミサトの心配そうな声が発令所内に響き渡る。

 この時とばかりに第四使徒はエヴァとの間合いを詰めて行き、

 自らの鞭の餌食にしようと、それをエヴァに向けて振り下ろす。

 何とか転がって鞭から逃れるエヴァだが、このままではジリ貧なのは間違い無い。

 ミサトはシンジを援護したいとは思うのだが、

 さっき迄とは違って使徒との間隔が余り無い現状では、

 迎撃システムを稼働させた場合、間違いなくエヴァの方も巻き込んでしまう。

 何か方法はないか、何か。

 ミサトが悩んでいる間に第四使徒はエヴァのすぐそば迄近づくと、ついに第三撃を繰り出した。
 

「シンジ君!!」

 バチッ

 やられる。ミサトが叫び、リツコやマヤがそう思い目を閉じた次の瞬間。

 何かが弾かれるような高い音が発令所のスピーカーから聞こえてきた。

 2人が恐る恐る目を開けると、エヴァ初号機はまだ無事な様子でスクリーンに映し出されている。

 どうして助かったのか、2人が更にエヴァの様子を注視すると、

 その前方にオレンジ色の半透明の壁のようなものが出来ているのが肉眼でも確認できる。

 ATフィールド、成る程元々第四使徒の鞭と同じ性質を持つこれならば、

 あの苛烈な攻撃も防ぐ事は出来る。
 

 バチッ

 先程はエヴァの左側の方から聞こえた音が、今度は右側の方から聞こえてきた。

 バチッ バチッ バチッ バチッ バチッ バチッ・・・・・・

 だがそれで終わった訳ではなく、また左、そして右、更に左、右、左、右と、

 第四使徒の振るう鞭がエヴァの展開するATフィールドへと叩きつけられる。

 隙間無く攻撃を仕掛ける第四使徒であったが、

 ATフィールドの前にそれは全く意味をなしてらず、シンジはエヴァの態勢を立て直す。
 

 ふー

 シンジは軽く一つ溜息をつくと今後の展開について、頭を巡らせていった。

 相変わらず第四使徒の攻撃は続いているが、

 シンジはATフィールドでそれらを全て防ぎながら、冷静に相手の動きを観察する。

 鞭というのは銃や弓矢などの飛び道具を除けば、

 人がその手で扱う物としては最もスピードが出る武器であり、

 達”人”が扱った場合のその切っ先は、どんな人間でも見切る事は出来ないという。

 勿論今シンジが相手にしているのは、使徒であって人間では無いのだが、

 鞭の扱いのうまさ、そのスピードは達人と比較してもなんら遜色を感じられないものである。

 だが、それと反比例するかのように本体そのものの動きはすこぶる鈍いといって良い。

『狙い目はそこだ』

 シンジはそう判断するとATフィールドを展開したまま、

 エヴァを第四使徒に向けて突進させていった。
 

 鞭は効果が無いと判断したのか、第四使徒はエヴァが自分の方に迫って来るとそれを消去し、

 代わりにATフィールドを張り巡らそうとするが、

 何を思ったかシンジは使徒の直前迄来ると、突然突進を止め、

 エヴァを右90度の方向にスライドさせ、林立するビル群の中にその巨体を埋没させる。

 シンジの睨んだ通り、目の前から消え去ったエヴァの姿を補足する事が出来なかった第四使徒は、

 完全にその行方を見失ってしまい、ただでさえ鈍い動きが完全に停止してしまう事となる。

 そのほんのわずかの時間の間に、シンジはビル群の間の道路をいわゆる”コ”の字型に移動し、

 ほんの少し前迄は正面に向かい合っていた第四使徒の背後に回り込むと、

 またしても使徒に向かって突進する。

 ATフィールドを中和をする必要は無い。

 シンジは動きが鈍く、いまだに向こうを向いたままで、

 当然ATフィールドもまだ展開していない第四使徒に背後から体当たりをかます。

 バーーーーーーン

 その時に生じた凄まじい音があたり一面に響き渡った。
 
 
 
 
 

「あなた達、いったいこんな所で何やってるのよ!?」

「「うわあ〜」」

 周りには自分達以外誰もいない筈なのに、突如後方から声がかけられ、

 驚いてしまうトウジとケンスケ。

 当然2人に声をかけたのは、皆様御推察の通りヒカリである。

 あの後ヒカリは、別段目印等があった訳では無いが、ケンスケの行動パターンを思いだし、

 見晴らしの良い、この小高い丘の上と当たりをつけて、神社の階段を登ってきたのだが、

 まさにドンピシャリだったようである。
 

「い、委員長! 何でこんな所に?」

「それはこっちの台詞よ。こんな所にいたら危ないでしょ。早く降りるのよ!」

「いや。でもこれからが・・・」

「相田君!!」

「しゃあないでケンスケ、戻ろ」

 尚も未練げに言い募ろうとするケンスケの主張をヒカリは問答無用で却下する。

 その剣幕に押されたのだろう、トウジの方もここが撤退のしどころと、

 ケンスケに向けて最終防衛ラインの放棄を提示する。

「わかったよ」

 いまだあきらめきれないといった感じがありありだったが、

 とにもかくにもケンスケは避難する事には同意した。

 しかし残念ながら、この時彼ら3人は既に巨大な波に巻き込まれつつあったのである。
 
 
 
 
 

 衝突した瞬間はさすがに衝撃を感じたシンジだったが、委細構わずエヴァを前進させて行き、

 ついに第四使徒を街の郊外まで押し出す事に成功する。

 しかもそこで留まる事はなく、エヴァは更に前進を続け、

 山、というよりは小高い丘のような個所に向けてそのまま第四使徒を突き放す。

 山肌に叩きつけられるまさにその寸前で踏み留まりはしたが、完全に動きの止まった第四使徒が、

 こちらを振り向く迄の間が仕留めるチャンスと、シンジはミサトに呼びかける。

「ミサト、パレットガンを」

 だがこの呼びかけに対して発令所からの反応が無い。

「どうしたミ・・・」 サトと呼びかけようとしたシンジの言葉が途中で止まる。

 エヴァのマルチスクリーンの下の方の新たに開いたウィンドウ、そこには・・・・・

「馬鹿な! どうしてあいつらが?」

 腰を抜かしたのか、怯えきった様子で1人の少女と2人の少年が映し出されていた。
 
 
 
 
 

「「あ、あああ」」

 それ以上言葉が出て来ない。

 目の前に展開する巨大なイカのオブジェに2人の少年はすっかり度肝を抜かれていた。

 トウジはともかくケンスケは、

 彼なりに自分が今どのような位置にいるのかを図っていたつもりだったのだ。

 エヴァとの距離は数百メートル、使徒は更にその向こう側と、まだまだ安全な筈だった。

 ところがシンジがうまい具合に使徒と体を入れ替え、

 そして一気に郊外まで使徒を突き出してしまったため、

 全く逃げる間もなく、使徒と正面から向かい合う事になってしまったのである。
 

 そんな少年2人に比べ、ヒカリは1人気丈に振る舞おうとしていた。

 彼女自身も他の2人と同じように腰が抜けたような状態になっていたが、

 使徒に対し、少年達を庇うような位置ににじり寄るとキッと第四使徒を睨みつけるヒカリ。

 シンジからかけられた 『クラスのみんなをよろしく頼む』 というこの言葉だけが、

 今の彼女を支えていた。
 
 
 
 
 

 天界より遣わされし4番目の使者の、後方に出現した3人の少年少女の存在によって、

 魔界より遣わされし3人目の少年は、とてつもなく難しい対応を迫られる事となった。
 
 

                                                         
 
 

 ケンスケ、トウジ、そしてヒカリという予想外の障害のために、苦戦を強いられる事になるシンジ。

 ところが、何と彼は使徒の背後に居る3人を全く気にする様子も無く、射撃態勢を整える。

 使徒との闘いが、少年の持つ”魔”としての己の本性を導きだす事になってしまったのか?

 次回 問題無い  第18話 シンジ 鮮烈

 さ〜て、この次も サービスしちゃうわよ
 
 
 


 TV本編をなぞるようで、微妙に違う本作。
 それはシンジが本編に比べ、ゲンドウっぽいのが一番の原因かもしれません。(笑)
 
 今回はいよいよ第四使徒、シャムシェルです。
 触手を自由に操り、本編では辛うじて勝利した使徒。
 本作のシンジはどう戦うのでしょうか?
 
 今回の戰いは本編と大きく違うところがあります。
 ヒカリはシンジから『クラスのみんなをよろしく』といわれ、抜けだした二人を探しにシェルターの外へ出てしまいました。そして、トウジ、ケンスケ同様、使徒との戰いに巻き込まれてしまいます。
 次回、TV版同様に3人をエントリープラグに退避させるのか。それとも……
 
 
 あ、ヒカリちゃんが男子トイレを覗くシーンはよかったです。(*^^*)
 
 
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