男の純情(-_-;)
その日第三新東京市にあるコンフォート17というマンションの303号室に住んでいる、
葛城 ミサトさん(ピーッ歳・女)は、勤務先であるネルフ本部の始業時間が、
間近にせまっても全然出勤の準備にとりかかろうとしませんでした。
健康が一番の取り柄であるミサトさんは、これ迄・・・
少なくとも、本部に勤務するようになってからは一度として遅刻も欠勤もした事が無く、
いつもギリギリの際どい時間帯ではあるのですが、自分のオフィスに滑りこんでいるのです。
それなのに今日の彼女はいったいどうしてしまったというのでしょうか?
『鬼の霍乱』 と言ってしまってはミサトさんに失礼かもしれませんが、
風邪か何かの病気によってダウンしてしまったのか?
はたまた出張や前日の残業の関係で、定刻迄本部に出勤する必要は無かったのか?
などといった事が理由としては考えられる所なのですが、
ダイニングの椅子にどっかりと腰を下ろし、グシュグシュと半ベソをかきながら、
時々右手に持ったエビちゅを、グーッと一気に喉に流し込む、
といった行動を続けている今の彼女を見る限り、どうやらこのどちらも正解ではなさそうです。
更には時折、同居している碇 シンジ君(14歳・男)に対する愚痴迄もが、
ついつい口をついて出てくるようでは・・・ これは相当問題が有ると言えましょう。
「ヒック! ヒンひゃんへば〜〜〜、あんでおろなになっひゃうの〜〜〜
らめよ〜〜〜〜〜、おネーさんにらまってヒエなんかはやしひゃ」(@。@)
”目覚めのエビちゅ”はミサトさんにとって毎日の恒例行事であり、
いつもであればそれによって自分を景気づけた後、シンジ君の鉄人級の料理に舌鼓を打ち、
それからおもむろに出勤の準備に入るという、
他人が見たら羨望に値する、実にうらやましい生活を送っているのですが、
何故今日に限ってキッチンドリンカーのような醜態を晒す事となってしまったのでしょうか?
そこらへんの詳細につきましては、
拙作、『少年よ・・・ 大人になれ〜(*^_^*)』 を参照して貰うと大変嬉しい限りです。\(^O^)/
・・・・ さて、あの騒ぎの後、シンジ君とアスカちゃんの2人は、
2時限遅れでようやく第一中学へと登校する事となったのですが、
ミサトさんにとってあの事件は、セカンドインパクト以降に経験した事象の中で、
最大のショックを与えていたようで、いつもならば元気に2人を送り出している彼女も、
この朝ばかりはそんな気力が有る筈も無く、ずうっと現在のような状態を繰り返しているのです。
それでも時間が経つにつれて、段々と落ち着きを取り戻し始めてはいたのですが、
前述にも有ります通り、あまりにも受けたショックが大きかったせいか、未だ完全復活はおろか、
彼女のベストの状態と比較して、半分にも満たない程度にしか回復しておりません。
誰に話しかける訳でも無く、1人でブツブツと喋り続けるミサトさん。
シンジ君は登校の際、立ち直りの兆しすら見せていないミサトさんの事が気にかかり、
『今日は休もうかな?』(^^;)
と思ったくらいなのですが、
エヴァンゲリオンという人型汎用決戦兵器のパイロットをしている彼らチルドレンは、
実際の使徒との戦闘の際は勿論、シンクロテストを初めとする様々な実験の度に、
授業を欠席しているので、後ろ髪を引かれる思いではありましたが、
アスカちゃんと2人、仲良く第一中学へと向かったのでした。
しかし、図らずもシンジ君の懸念は的中してしまったようであり、
このままであれば、ミサトさんは無断欠勤と相成ってしまっていた事でしょう。
しかし、彼女の身を案じた1人の部下からの1本の電話によって、
それは回避される事となるのですが、果たしてそれが本当に良い事だったのかどうか?
判断に迷う所なのですが、少なくともシンジ君にとっては、
今日は体調不良とか何とかかこつけて休暇を取って貰った方が良かったものと思われます。
何故なら、シンジ君の体に起こった微妙な変化が、ミサトさんを通じてネルフ本部内で、
彼女と同様に部長を勤めている、とある美女の耳に入る事となってしまうからなのです。
この後、事態はどういった方向に転がって行くのでしょうか?
予断を許しませんが、とりあえずもう一度ミサトさんの様子を確認しに戻りましょう。
PiPiPi・PiPi、PiPi〜〜PiN♪ PiPiPi・PiPi、PiPi〜PiN♪
ダイニングで未だくだを巻いているミサトさんの耳に、
廊下に置いてある電話のコールが響いてきます。
こんな中途半端な時間にいったい誰が?
小豆相場だとか、金だとかのいかにもうさんくさい先物取引等の勧誘でしょうか? それとも・・・
もし本当にそうだったとしたら、殆ど回転していない今のミサトさんの頭でしたら、
相手から言われるがままにホイホイと契約してしまっていたでしょうが、
幸いにもこのコール音は、始業時間を過ぎても未だ本部に姿を見せない
部長を気遣った部下からのものだったのでそういう事態に陥る事は無かったのですが、
ミサトさんはようやく、といった感じでその重い胸、 ・・・じゃなかった腰を上げ、
電話機の置いてある廊下へと向かいます。
葛城家の固定電話に使われているコール音は、今から約65年以上も前(1949)に、
イギリスで製作された不朽の名作映画の中で、名優・オーソン・ウェルズが演じた、
ハリー・ライムのテーマ曲として使われたという、実に年期の入ったものなのです。
電子音によって奏でられるその調べは、やはり本物の民族楽器・チターによるものと比較して、
なめらかさや味わいといった点など、どうしても全体的にレベルダウンせざるを得ないのですが、
それでもその軽妙かつ落ち着いたテンポは、それを聞く殆どの人に対し、
安らぎとゆとりを与えてくれるようです。
喩えミリオンセラーとなったとしても、すぐさま忘れ去られ、廃れてしまうヒット曲とは異なり、
時代・思想・言語を越えて人々に愛されるこの曲はアスカちゃんも結構お気に入りであり、
『ミサトにしては珍しく良い趣味してるじゃない』(^_-) と思い。
またチェロを嗜み、アスカちゃんよりは音楽関係に詳しいシンジ君にしても、
この曲は仲々気に入っており、更にその映画のタイトルが、
”THE THIRD MAN” (第三の男)
と、まるで彼自身の事を指し示すかのような物であった事から、
益々それに拍車がかかり、今では密かにこの曲をDATにダビングし、
時々取り出しては聞いている程なのです。
ですから・・・・・ ミサトさんがこの曲をコール音に選んだ本当の理由を2人に言うのは、
止めて置いた方が良いでしょう。
ミサトさんが最もお気に入りであるエビちゅビールのCMのBGMとして、
セカンドインパクト前後の数年間、この曲が使われていたためだという事を。
・・・・・よろしいですかな?
「はい、エビちゅ」v(^o^)v
「ふぁい、葛城でしゅ」(;_;)
「あ、もしもし、葛城さん・・ ですか?」(?o?)
「あ゛〜〜〜、日向ぐ〜〜〜ん」(ToT)
「ど、どうしたんですか、葛城さん? 何があったんですか!」(~o~;)
電話口から漏れ聞こえてきた上司の涙声に、部下にあたる男性は、
多少取り乱しつつも、状況を把握しようと懸命の呼びかけを行います。
彼の名前は日向マコト(26歳・男)、ネルフ本部においてはミサトさんの直属の部下にあたり、
デスクワーク能力が皆無な彼女に代わり、常にその業務を一身に引き受け(させられ)ている、
可哀想な処遇の人物だったのですが、本人自身はその事を全く苦にしておらず、
むしろ幸せすら感じているという、実に奇特な男性だったのです。
周りから見る限りでは、「お気の毒」 としか見えない状況なのですが、
何故彼はその事に喜びを感じているのでしょうか?
実はこの日向マコト君、外見の真面目さとは裏腹にその実体はマ(ピーッ)
だった訳では決して無く、そこはそれ、彼も健康的な成人男子としての例に漏れず、
魅力的? な女性との出会いによって、その虜となってしまった訳でして、
その相手というのが、まあ物好きと・・ いえいえ、まだ20代だというのに、
ネルフ本部の部長に迄昇進したこの、葛城ミサトさんだったのでした。
彼が最初に出会った時のミサトさんは、少なくとも外見上は若さと自信に満ち溢れていて、
更に彼女は武官として必要な、格闘術、射撃術、戦略術等に非情に優秀な成績を残しており、
これらだけを見た限りでは、喩え彼で無くてもクラッときてもおかしくはなかったでしょう。
事実、彼以外にも何人もの男性職員、それも結構な数が、
一時は彼女に好意を抱いていたのですが、時が経るにつれ段々とその人数は減少して行き、
ついに今では、ミサトさんに好意を寄せる男性は日向君、唯1人のみとなってしまったのです。
いったい何が、そこ迄彼女の人気を凋落させてしまったのでしょうか?
実はミサトさんは、実戦におけるすこぶる優秀な顔を持つ反面、
前述にもあります通り、デスクワークはからっきし〜だよ3級品♪ である上に、
人が普通に生活するために必要な能力というものを全く保持していなかったのです。
その事が男性職員の間に浸透して行くのと、彼女の人気が落ちていくのとは、
実に見事な反比例のカーブを描いたのですが、幸か不幸か、
日向君はミサトさんとあまりにも近しい位置に存在したため、
そういった雑念を取り込む事が無く、今でも彼女の事を真摯に思っているのです。
そんな彼ですから、聡明で頑健、かつ凛々しい(と思いこんでいる)ミサトさんが泣いている?!
などという事は到底信じられない事だったのですが、
生来の生真面目さ故か、それとも惚れた女を思う男のいじらしさ故かはわかりませんが、
ミサトさんの状態を確認するその言葉は、いつもは割と冷静な彼にしては珍しく、
実にせっぱ詰まった口調となっていたのでした。
「あおえ、ヒンひゃんに、ヒンひゃんに〜〜〜」(T-T)
「落ち着いて下さい葛城さん。とにかく、誰か人を向かわせますから、良いですね!」(>o<)
日向君はミサトさんをそう言いくるめると、
彼女が今置かれている状況を逐一把握できるように、
電話を繋いだままの状態にして、
別の電話で至急作戦部長のマンションに急行するよう依頼をかけます。
しかし本来保安部に依頼する筈だったその用件を密かに盗聴し、
真っ先にミサトさんの元に駆けつけたのは、皮肉にも、
日向君にとってライバルとなる男性だったのですが、世の中何が起こるかわかりません。
依頼に応えたその優秀なエージェントが現場に到着し、
ミサトさんの身柄を保護しにかかったのは、わずか3分足らずの時間であり、
ネルフの誇るスタッフ、ひいてはその男自身が実に優秀である事を示していて、
どう考えてもプラスのポイントにしかならないと思われた男の行動は、
案に反してようやく収まりつつあったミサトさんの心の水面を、
再びかき回す結果となってしまうのです。
「どうした葛城! いったい何があったんだ?」(+_+;)
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」(×_×)
受話器を握りしめて、床に崩落れている。といった感じのミサトさんの肩を握りしめ、
彼女の安否を確認するエージェント。
しかし、どうした事でしょう? それ迄幾分落ち着きを見せていた彼女でしたが、
自分をガードしにきた筈のその男の顔を見た途端、激しい拒絶反応を見せしまいます。
「お、おい、どうしたんだ」(-_-;)
「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
お父さん、止めてー。お母さん、助けてー。加持嫌〜い。大嫌〜い」(×_×)
「か、葛城〜〜・・・・・・・・・」(ToT)
ミサトさんからの完全に嫌われた台詞を耳にした無精髭を生やしたエージェントは、
涙声で思わず情けない言葉を呟いてしまいます。
もう皆様おわかりの事と思いますが、
ミサトさんのピンチを救いに来た(筈だった)この男こそが、かつての彼女の恋人であり、
ネルフの特殊監察部に所属する加持リョウジ(30歳・男)だったのです。
仲々の長身にして筋肉質、どちらかといえば男くさい顔つきをしていながらかなりの軟派。
そのギャツプが異性には魅力として映るのか、
彼は 「男・30年間」 生きてきた中で、”女性に不自由する”といった事が無く、
今もネルフ本部内において、かなりの数の女性達に対して声をかけまくっており、
女性職員達からは羨望と憧憬を、一方男性職員からは嫉妬と反感を受けているのですが、
そんな彼をフッた女性がこの世で唯一人だけ存在しているのです。
勿論その女性とはミサトさんの事なのですが、
今から約10年前、当時通っていた第二新東京大学の中で、
女を自分に惚れさせた上で、飽きたら別れる。といった行動を繰り返していた彼にとって、
ミサトさんもそんな連中の中の1人でしかなかった筈なのです。
ところが、そんな思惑に反してある日突然ミサトさんの方から、
「別れてほしいの」(-。-;)
と言われてしまうのですが、”逆に自分の方がフラれる”といった出来事は、
産まれて初めての事であり、彼にとってはセカンドインパクトに匹敵する、
実にものすごいショックを与える事になったのです。
『別に・・・、女は星の数程いるさ』(-_-)
たいした事じゃない・・・ そう思い込み、いや、思い込もうとした加持さんでしたが、
それからはどんなに美人でナイスバディな女性とつきあっても、
自分の心の空隙を埋める事は出来ず、
結果として彼はその行動を益々エスカレートさせて行く事となったのです。
前にも増して精力的に女性達との逢瀬を重ねる加持リョウジ。
しかし、情事の後に残る虚しさを幾度となく経験した彼が、
自分の本当の気持ちに気づくのにそう長くはかかりませんでした。
そう・・・ 自分の心の中に葛城ミサトという女性が確実に刻み込まれている事に。
そんな彼が大学を卒業すると同時に見つけた働き口が、
やはりミサトさんと同じネルフという国連の下部組織でして、当然その理由は、
『少しでも彼女の側に居られるように』(^_^)
という、以前の彼とは180度違う、実にいじましい理由からなのでした。
しかし、ネルフは国連の下部組織だけあって、
日本に設置してあります本部を初めとして、世界各国に支部があり、
彼にとっては皮肉な事に仲々ミサトさんと同一の職場で勤務する事がなかったのです。
これ迄何度か顔を合わせた事はあるのですが、ミサトさんも加持さんも優秀すぎるせいでしょう、
数週間、早い時には数日でどちらかがまた別な場所に転勤してしまい、
『もう一度、あの輝いていた日々に戻りたい』(*^_^*)
という彼の願いを実現させるためのきっかけに、仲々巡り会う事が出来ずにいたのです。
それが今回2人とも本部に籍を置く事になり、そしてその期間も、
現時点においてさえ今迄で1番長いものとなってしまっているです。
そこで加持さんは、”せっかくのこんなチャンスを逃す手はない”とばかりに、
表の顔であるネルフの特殊監察部としての仕事はもとより、日本政府内務省調査部、
はてはゼーレというトリプルスパイの仕事は適当にうっちゃっといて、
殆どの場合ミサトさんの周りをうろうろしている・・・
いや、それだけならまだしもこうして電話を盗聴迄しているという、
はっきり言ってストーカー行為以外の何物でもない行動を取っていたのです。
ミサトさんと日向君との電話でのやり取りから、わずか3分という異例の短い時間で、
加持さんが彼女の元へかけつける事が出来たのも、
やはりコンフォート17の周辺をうろついていたおかげでして、
すわ、”ポイントを稼ぐ大チャンス”とばかりに喜び勇んだ彼だったのですが、
どうやらその行動は完全に裏目に出たようです。
「加持、止めてー。お願ーい、助けてー。加持嫌〜い。大嫌〜い」(×_×)
「か、葛城〜〜・・・・・・・・・ 俺は、俺は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」(ToT)
幼児退行のゲンドウ、じゃなかった言動を繰り返すミサトさんと、
男の純情を踏みにじられてすっかり気力を無くしてしまった加持さん。
このままであれば全く収拾がつく事は無かったでしょうが、
その後2人は、日向君から正式に依頼を受けていた保安部員によって、
身柄を確保される事となったのです。
そしてミサトさんは保安部員の車で病院へと移送され、
加持さんは彼女に対する婦○暴○未遂事件を引き起こしたとして逮捕され、
ネルフ内の軍事裁判にかけられる事となったのでした・・・・・ いと、あはれ。
でもまあ、これは完全に濡れ衣な訳ですから、
最終的にはおそらく無罪の評決が出るものと思われます。
ホント! お気の毒さまでした、加持さん。
しかし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
予想に反して裁判は意外ななりゆきを見せるのです。
何故なら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
髭の事にはもう関わりたくなかったミサトさんが証言を拒否した事と、
あの時、電話口の向こうで加持と彼女とのやり取りを聞いていた、
日向君の記録したテープが裁判の証拠として提出されたからなのです。
果たして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
管理人のコメント
加持さん……
かわいそうに。(笑)
ミサトさんのためにネルフに入ったのにね。(笑)
でも、業師さんの書くミサトさんって大好きなんです。
ちょっと抜けているけれど愛らしい♪
自分は、なかなか書く機会がありませんが。(^^;
Luna Blu 20万ヒット記念に業師さんから頂いてしまいました。
『少年よ・・・ 大人になれ〜(*^_^*)』のシリーズ第二弾です。
第二弾……って事は、第三弾もあるんですか?
あるんですよね?(笑)
よし、決定!(爆)
この作品を読んでいただいたみなさま。
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みなさまの感想こそ物書きの力の源です。
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