map_s さんの
KISSの温度「」Edition 7th


 ぼくは独りぼっちだった
 
 居場所も
 帰るべき家も
 ぼくを待つ人も
 何もない
 
 ずっとそう思っていた
 
 だから捜そうとした
 だからあの家を出た
 
 ぼくがぼく自身で居られる処
 ぼくの故郷
 そんな場所を探しに
 
 
 
 
 
 街中の雑踏
 ぽつんと建った公衆電話
 青々とした街路樹
 涼しさを吹き上げる噴水
 ビルの谷間を横切る雲の影
 全てを見渡せる丘の上の公園
 風に揺れるブランコ
 夕日の紅に染まる風景
 
 
 
 
 
 一日中歩き回ったけれど
 そんな場所は何処にもなかった
 
 
 
 
 
 とっぷりと日は暮れて
 疲れ果てたぼくは立ち上がる気力すらなかった
 できることはただひとつ
 公園のベンチに寝転びながら
 虚空を眺めつづけるだけ
 
 近づく足音
 街灯に照らされて伸びた人影
 目の前に差し伸べられた手を
 ぼくは振り払うことができなかった
 
 てのひらに感じている微熱
 微かに伝わる鼓動
 ふたりの間に横たわる不安と緊張
 無機質な部屋に辿り着くまで
 それが断ち切られることはなかった
 
 
 
 
 
 その後のことは良く覚えていない
 ベッドに腰掛けたぼくは
 彼女の傍らに寄り添いながら
 眼を閉じて
 言葉を閉じて
 あっさりと眠りに落ちたから
 
 
 
 
 
 まどろみから覚めたぼくの目に映ったのは
 雲ひとつない青い空
 透き通るような蒼い髪
 
 彼女の香りに包まれながら
 ぼくはゆっくりと思い出す
 
 囁くような歌声
 昔の子守唄
 それがぼくにしみ込んだ
 
 だからぼくは
 何もかも忘れて
 何の不安も抱かずに
 こうして朝を迎えたのだと
 
 そしてぼくは気がついた
 けして独りぼっちじゃない
 居場所はここにある
 待つ人が居てくれる
 
 ここがぼくの故郷なんだと
 
 
 
 
 
 うっすらと持ち上がる瞼
 隠れていた紅い瞳
 唇に浮かぶ微笑
 
 優しくて冷たくてとても暖かい
 そんな君の唇に
 とても自然に
 ぼくは唇を重ねた
 

 

 

 

 

 


管理人のコメント
 
 map_sさんから『KISSの温度』を頂きました。
 罰ゲームではないのですけれどね。(笑)
 
 裏話をさせていただくと……
 このお話、実は何回も書き直しがあったのです。
 ええ、色々と 文句 指摘をさせていただいて。
 といっても内容が変わるほどのものではないのですが。
 表現の細かい所とか。
 かなり失礼なことも言ったような気がしますが、快く承諾してくださった map_s さんの懐の深さに感謝。
 
 作品は、レイの母性を感じることができる内容。
 傷ついたシンジの心を癒すレイの優しさが、心に染み込みます。
 
 本作品でとても印象に残ったところ。
 いろいろあって困ってしまうのですが……
 
 >眼を閉じて
 >言葉を閉じて
 
 こうして切り出すと、魅力が薄れるのではないかと懸念しながら引用させてもらいます。
 子守唄を聞きながら、眠ってしまったシンジ。
 初めて不安を抱かずに、夜を過ごすことが出来た少年。
 囁くような歌声に、自分の全てを任せて……
 
 map_sさん、素敵なお話をありがとうございました。
 

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