風が渡り
雲は流れていく
空は紅に染められ
やがて闇に覆われていく
満天の星
眩しいほどの月光
足元に伸びる影
眼下に拡がる光の海
僕はベンチに座っていた
何を見るというわけでもなく
ただ漫然と
ぼんやりと
学校からの帰り道
背後からの声に僕は振り返り
高台にあるこの公園へと連れてこられた
いつもと同じ表情
いつもと同じ口調
いつもと同じ会話
ずっとそう思っていた
でも、そこにいたのは
いつもと同じ僕
いつもとは別の彼女
ふとした瞬間からはじまった沈黙
それをはじめたのは彼女
それを打ち消したのも、また彼女
「・・・・・・チョコ・・・・・食べる?」
「チョコ?」
「一応・・・・・14日だし」
「・・・・・そっか。でも、本当に?」
僅かな期待、そして落胆
意思とは関係なく高まった鼓動は、苦笑とともに平安を取り戻す
カバンの中から出てきた彼女の答え
何の包装もしていない、剥き出しの袋
金色のパッケージ、紅い波
『義理』という文字が、いくつも中に詰まっているように見えた
無造作に封を開く彼女
摘み出された小さな三角
華奢な指先が包装を解いていく
「・・・・・はい」
「ありがとう・・・・・甘いね」
「甘いのは嫌い?」
「そんな事ないけど」
「もうひとつ、いる?」
「あ・・・・・うん」
自分の膝元に視線を落とす彼女
繰り返される動作
そして
次の瞬間
オレンジの風景の中、走り去っていく彼女の背中
呆然と見つめるだけの僕
頭の中をくるくると回っていた
あの出来事が
あのときの光景が
まるで回転木馬のように
夢だったんじゃないか、とふと思う
だけど、夢じゃなかった
僕の手の中にあるチョコの袋
HERSHEY'S KISSES CHOCOLATE
口に広がったチョコの甘さが
唇に残った彼女の体温が
夢ではない、と僕に教えてくれた
管理人のコメント
冬眠中のmap_sさんから、バレンタイン記念ということで頂いてしまいました。
わい♪
「S」Editionということで、シンジ君。
「お相手は、ご想像におまかせ♪」です。
予想もしなかったチョコレート。
僅かな期待と、落胆。
そして……
あうぅ。
>「一応・・・・・14日だし」
彼女の台詞。
照れなのでしょう。
けれど、とても初々しく、そして切ない……
青春とは、ビターチョコレートの味なのかもしれません。(^^;