map_sさんの
KISSの温度「」Edition
6th


 風が渡り
 雲は流れていく
 
 
 空は紅に染められ
 やがて闇に覆われていく
 
 
 満天の星
 眩しいほどの月光
 
 
 足元に伸びる影
 眼下に拡がる光の海
 
 
 僕はベンチに座っていた
 何を見るというわけでもなく
 ただ漫然と
 ぼんやりと
 
 
 
 
 
 学校からの帰り道
 背後からの声に僕は振り返り
 高台にあるこの公園へと連れてこられた
 
 
 いつもと同じ表情
 いつもと同じ口調
 いつもと同じ会話
 
 
 ずっとそう思っていた
 
 
 でも、そこにいたのは
 いつもと同じ僕
 いつもとは別の彼女
 
 
 ふとした瞬間からはじまった沈黙
 
 
 それをはじめたのは彼女
 それを打ち消したのも、また彼女
 
 
 
 
「・・・・・・チョコ・・・・・食べる?」
 
「チョコ?」
 
「一応・・・・・14日だし」
 
「・・・・・そっか。でも、本当に?」
 
 
 
 
 僅かな期待、そして落胆
 意思とは関係なく高まった鼓動は、苦笑とともに平安を取り戻す
 
 
 カバンの中から出てきた彼女の答え
 何の包装もしていない、剥き出しの袋
 金色のパッケージ、紅い波
『義理』という文字が、いくつも中に詰まっているように見えた
 
 
 無造作に封を開く彼女
 摘み出された小さな三角
 華奢な指先が包装を解いていく
 
 
 
 
「・・・・・はい」
 
「ありがとう・・・・・甘いね」
 
「甘いのは嫌い?」
 
「そんな事ないけど」
 
「もうひとつ、いる?」
 
「あ・・・・・うん」
 
 
 
 
 自分の膝元に視線を落とす彼女
 繰り返される動作
 
 
 そして
 次の瞬間
 
 
 オレンジの風景の中、走り去っていく彼女の背中
 呆然と見つめるだけの僕
 
 
 
 
 
 頭の中をくるくると回っていた
 あの出来事が
 あのときの光景が
 
 
 まるで回転木馬のように
 
 
 夢だったんじゃないか、とふと思う
 だけど、夢じゃなかった
 
 
 僕の手の中にあるチョコの袋
 HERSHEY'S KISSES CHOCOLATE
 
 
 口に広がったチョコの甘さが
 唇に残った彼女の体温が
 夢ではない、と僕に教えてくれた
 
 
 
 
 
 


管理人のコメント
 冬眠中のmap_sさんから、バレンタイン記念ということで頂いてしまいました。
 わい♪
 
 「S」Editionということで、シンジ君。
 「お相手は、ご想像におまかせ♪」です。
 
 予想もしなかったチョコレート。
 僅かな期待と、落胆。
 そして……
 
 あうぅ。
 >「一応・・・・・14日だし」
 彼女の台詞。
 照れなのでしょう。
 けれど、とても初々しく、そして切ない……
 
 青春とは、ビターチョコレートの味なのかもしれません。(^^;
 


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