改札から吐き出されてゆく人込み
忙しそうに通り過ぎる隙間に
あなたの姿を見つけた
両手に手荷物を抱え
少し猫背に
きょろきょろとあたりを見回しながら
久し振りに呼んだ名前
そんなに大きな声じゃなかったのに
立ち止まったあなたは
昔と変わらぬ笑顔で振り返った
ざわめきの中でふたりだけ息を止めてる
立ち止まったふたりの横を
見知らぬ人々が無表情に通り抜けてゆく
あなたは微笑みを絶やさぬまま
ゆっくりと
言葉を紡ごうと口を開く
やわらかくあたたかな唇を
そっとひとさし指で塞いだ
まだ言葉はいらない
それよりも前に
ほしいものがあるから
じっと見上げるわたしに
あなたはほんの少しだけ苦笑して
少しだけ重い荷物を両手で持ち
あなたの腕に包まれながら
歩調を合わせゆっくりと進む
辿り着いた出口の先
降り注ぐ陽射しの向こう側に
鮮やかな初夏の彩りが広がる
澄み切った青空
綿毛のような白い雲
陽を浴びて輝く若葉
ふと立ち止まり
天を仰いだわたしを
穏やかな薫風が包み込んだ
まるで
慈しむように
そっとわたしに触れた
あなたのように