map_sさんの
KISSの温度「R」Edition 3rd

「自律神経失調症・・・・?」
 
「ええ、間違いないわね」
 
 
 身体の不調に気付いた私は、赤木博士にお願いして診断を受けた。
 その結果を、今聞いている。
 
 
「頭痛、手足の痺れ、耳鳴り・・・・・あなたの症状はね、まさにそのものよ。
 除外診断の結果から言うと、血液検査・レントゲン・心電図などからは疾患が見られなかったわ。
 一方で、自律神経機能検査には確かに失調が見られたの。
 自律神経の機能とは、交感神経と副交感神経のせめぎ合いで状況の変化に対応する・・・・・つまり、バランスを保つことなの。
 そのバランスが崩れると、身体が変化に対応できなくなるのよ」
 
「バランス、ですか?」
 
「ええ。あなたが横になっている時と立っている時の心電図、および血圧を比較した結果がこれ。
 まず心電図からいくと、立ち上がった時に波形がやや弱くなっているのがわかるわね?
 通常なら自律神経が働いて、大きな変化は表れないわ。
 逆に心拍リズムは状況に合わせて微妙に変化するのだけれど、あなたの場合それが一定に保たれているのよ。
 立ち上がった時の血圧が上下共に下がってしまうから、眩暈や立眩みなどの症状が表れるの。
 これも自律神経の不調に拠るものなのよ」
 
「・・・・・治療法は?」
 
「原因がハッキリしないと決められないわ。
 療法としては投薬による物理的治療とカウンセリングなどの心理的治療があるのだけれど、あなたの症状にどちらが効果的かはまだ不明なのよ。
 ねぇレイ?あなた、最近ストレス過多になってないかしら?」
 
「・・・・・わかりません」
 
「うーん・・・・では、何か変わったことはないの?」
 
「・・・・・いえ、特には・・・・・」
 
「そう・・・・・あなたにとってストレスの原因に成り得るモノ・・・・・そうよ、そうだわ!
 レイ、シンジ君と何かなかった?」
 
「碇君、ですか?」
 
「そうよ。例えば彼とケンカした、とか・・・・何でも良いの」
 
「・・・・・・何も・・・・・・ただ・・・・・・」
 
「ただ?」
 
「碇君が弐号機パイロットのそばに居るのを見ると、その・・・・・胸が・・・・・ごめんなさい、何て説明すれば良いのかわからないの」
 
「そう・・・・・」
 
 
 赤木博士の瞳にやわらかな光が浮かぶ。
 ちょっと前までは見せることのなかった笑顔が、私に向けられている。
 
 
「原因がわかったわ、レイ。
 そして、その治療法もね・・・・・・」
 
 
 私は博士から治療方法を聞いた。
 投薬も心理的治療も必要なく、聞いた事のない療法だった。
 
 
「さ、行きなさい。
 あなたを治せるのは私ではないわ、彼だけよ。
 ・・・・・・頑張ってね、レイ」
 
「・・・・・・・はい」
 
 
 私は博士の部屋から出ると、ある場所へと向かった。
 きっとそこに彼が居る。
 そう、信じて。
 
 廊下を進み、もうひとつ角を曲がれば目的の場所。
 少し手前に差し掛かったところで、声が聞こえてきた。
 
 
「なんでファーストを待たなくっちゃならないのよっ!?」
 
「だって、ひとりで帰るなんて可哀想だろっ!?」
 
「いーじゃない、ほっとけば!
 わざわざアタシが話し掛けてやったってサ、『あなた誰?』とかぁ、『知らないの。多分私は三人目だから』とかワケわかんないコトばっか返してきてさぁ・・・」
 
「僕にはそんなこと言わないけどなぁ」
 
「ソレがムカツクってのよっ!
 と・に・か・く!
 アンタはアタシと帰ればいーのよ、わかったぁ?バカシンジっ!!」
 
「・・・・・碇君は馬鹿じゃないわ」
 
「なぁ!?」
 
 
 私が近くに来ていた事に気付かなかったのか、弐号機パイロットは驚いたように振り向いた。
 でも、彼女は治療の邪魔。
 私は碇君のそばへと近づいた。
 
 
「ちょ、ちょっとファースト!
 アンタ割り込むんじゃないわよっ!
 シンジはアタシと話してる最中なの、邪魔だからどきなさい!!」
 
「駄目。私が居なくなったらATフィールドが消えてしまう。だから駄目。」
 
「・・・・・・はぁ?」
 
 
 背後で何か喚いているけど、気にしている暇はない。
 私は碇君の正面に立った。
 
 
「あ、綾波?」
 
「碇君・・・・・」
 
 
 心拍数の上昇。
 発熱、そして微量の発汗。
 
 彼を見るだけで
 彼に見つめられるだけで
 私の身体は変調をきたす。
 
『あなたを治せるのは私ではないわ、彼だけよ』
 博士の言葉を信用する以外、ない。
 
 
「え・・・・・ああああああ綾波ぃっ!?」
 
 
 碇君の頬にそっと手を触れた。
 やわらかくて、あたたかくて、すべすべとした肌。
 心臓が壊れてしまうほどに、高鳴る。
 早く治療してもらわなければ、駄目。
 
 
「碇君・・・・・私を・・・・・治して・・・・・・」
 
「あ、あやな・・・・・・んんっ!!!???」
 
 
 触れた唇から、彼のあたたかさが流れ込んでくる。
 心が安らいでゆく。
 とても、とても気持ち良いこと・・・・・
 
 なのに。
 胸の鼓動が収まらない。
 眩暈のように、頭がクラクラする。
 
 ・・・・・・・・・・まだ、完治していないのね。
 
 
「行きましょう、碇君・・・・・」
 
 
 目を見開いたまま活動停止している弐号機パイロットをその場に残し、私は碇君の手を引いて歩き始めた。
 部外者がいるから碇君が治療に専念できない、そう感じたから。
 彼は黙って着いてきてくれた。
 何故か鼻腔から出血していたけれど。
 私の部屋で治療すれば良い。
 そして私も、治療してもらえる。
 
 そう考えただけで、鼓動がさらに高鳴った。
 
 
 それから何度も彼に『治療』してもらったけれど。
 療法を変えても、それが完治する事はなかった。
 
 そして、今日も。
 
 
「あなた、お願い・・・・・」
 
 
 


 るなぶるもうすぐ10万ヒット記念 & map_sさんのKISSの温度シリーズ20作目です!
 頭脳明晰な割には、ドコか世間とズレているレイちゃん。
 プリチーっす。(^-^)/
 >「あなた、お願い・・・・・」
 あ、あなたって …… レイちゃん、あうあう。(^^;
 


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