map_sさんの

KISSの温度「」Edition 17th

 

 

 

 


「ただいまぁ…………って、どうしたのよコレ?」
 
 
 
 キッチンに入ったとたん、甘い香りに包まれた
 アタシの目に飛び込んできたのは、テーブルに山と積まれたオレンジ
 シンクに向かっていたシンジは、振り向きざまいつも通りの笑顔を見せる
 
 
 
「おかえり、アスカ」
 
「おかえり、じゃなくってぇ!」
 
「あ、これ?
 八百屋のおじさんがおまけしてくれたんだ。
『いつも贔屓にしてくれてありがとよ!』なんて……
 ちょっと多いかな、とは思ったんだけどさ」
 
「だからって、こんなにたくさん買うコトないでしょぉ?
 どーすンのよ、コレぇ!」
 
「………へ?」
 
 
 
 キョトン、としてるシンジの目の前に、ぶら下げていた袋を突きつけた
 
 
 
「………アスカも買ってきちゃったの?」
 
 
 
 困ったような、どこか諦めたような笑顔で袋を受け取るシンジ
 無造作に手をつっこむと、オレンジを自分の鼻先に触れるようにした
 
 
 
「………あ」
 
「どうしたの?」
 
「いや、まだ早いかな………って」
 
「早い?」
 
「比べてみるとわかるよ………試しに切ってみようか?」
 
 
 
 シンジはアタシの買ってきたオレンジの袋を椅子の上に置くと、テーブルの上にあるオレンジを手に取った
 そして、ペアリングナイフで器用に皮を剥きはじめる
 
 そんなアイツの横顔を見ながら、アタシは椅子に腰掛けて
 テーブルの上に肘つきながら、ふたつのオレンジを見比べてみた
 
 シンジが買ってきたオレンジは
 不恰好で
 ところどころキズついてて
 ちょっと古そうで
 
 アタシが買ってきたオレンジは
 まんまるなカタチで
 キズひとつなくて
 新鮮そうに輝いてた
 
 
 
 
 
 
 だけど
 手に取った時の重みも
 むせるくらいの芳香も
 
 何より
 甘さがぜんぜん違っていて
 
 
 
 
 
 
「……………おいしそうに見えたから買ってきたのになぁ………」
 
「見た目だけで選んじゃダメだよ」
 
 
 
 溜息をつきながら指先でオレンジを転がすアタシに、またもやシンジは苦笑い
 紅茶のカップを置きながら、アイツはぽつっと呟いた
 
 
 
「………そう、人間と同じなんだ」
 
「………?」
 
「どんなにおいしそうに見えたって、皮を食べようと思うヒトはいないでしょ?
 見た目はあくまで飾りで、大事なのは中身なんだよ。
 外見にとらわれたりせずに………そのヒト自身を見ないと………」
 
 
 
 アイツのそのひとことで
 ふと、いつもの光景が頭に浮かんだ
 
 毎朝の恒例
 下駄箱を開けたとたん、溢れ出す手紙の山
 
 
 
 
 
 
 ふぅん
 
 それって
 
 もしかして?
 
 
 
 
 
 
 高鳴る鼓動に気付かれないよう
 動揺を声に乗せないよう
 ほんのちいさな深呼吸をして
 
 
 
「……じゃぁ、さ」
 
「ん?」
 
「シンジは………どうしてわかったの?
 オ、オレンジがさぁ、その、えっと…………ちゃんと熟してるかって………」
 
「………うん。
 ちょっと時間が掛かっちゃったけど、ずっと…………見てたから」
 
 
 
 テーブルに顔を伏せたまま、そっと横顔を窺った
 
 アイツはそっけない顔してカップを口にしてたけど
 頬はうっすらと紅くって
 カップを持つ手も微かに震えてて
 
 
 
 
 
 
 ふぅん
 
 そっか
 
 ………………そうなんだ
 
 
 
 
 
 
 いきなりそんなコト言い出すから
 ちょっとビックリしたけれど
 
 それでも
 やっぱり
 うれしくて
 
 
 
 自然と緩む表情
 勝手に熱を帯びた頬
 
 
 
 それを見られるのが恥ずかしかったから
 
 
 
 
 
 
「……でもさ、この量を食べるのはきついよね。
 誰かにお裾分けでもしたほうが………………!!??」
 
 
 
 
 
 
 ゆっくりと視線を向けたその顔を
 話題を変えようとした唇を
 
 ちょっとだけ強引に
 自分の唇で封じ込めた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 生涯2度目のKissは
 オレンジの甘酸っぱい味がした

 

 

 

 

 

 


管理人のコメント
 map_sさんから『KISSの温度』を頂きました。
 通算41本目。もうすぐ50本目です♪

 ほんわかとした雰囲気のKISS。
 アスカさんとシンジ君の照れた表情が思い浮かびます。
 
 こういうKISSを書けるのっていいなぁ。
 うん。さすがmap_sさんです。(^-^)
 ありがとうございましたぁ♪
 

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