map_sさんの
KISSの温度「A」Edition 12th

 
 手に残る感触
 
 首の筋肉の硬さ
 
 次第に不規則になっていった脈のリズム
 
 
 
 命の灯を消すのが
 
 こんなに大変な事なんて
 
 今まで知らなかった
 
 
 
 ヒトは
 
 驚くほどあっけなく
 
 死を迎える時があるのに
 
 
 
 ベッドに横たわったままの彼女
 
 何も見ず
 
 反応もせず
 
 声も発さず
 
 
 
 ただ、そこにいただけ
 
 
 
 今はもう
 
 二度と目覚める事はない
 
 
 
 治癒する見込みのない患者を
 
 一日でも長く生き長らえさせるための努力
 
 それは本当に必要なのだろうか
 
 本人のためだと思っているのだろうか
 
 
 
 接触を拒み
 
 全てを拒絶し
 
 己すら否定した彼女
 
 
 
 自分が『生きている』と感じていたのだろうか
 
 
 
 ヒトがヒトの生き死にを自由にする事
 
 正しいのか
 
 間違っているのか
 
 僕にはわからない
 
 
 
 一日でも長く生きていてもらいたい
 
 みんなの願い
 
 
 
 投薬
 
 輸液
 
 全ては延命のための措置
 
 
 
 それは彼女を苦しめる事にしかならなかったのではないだろうか
 
 
 
 全て僕の独り善がりだという事はわかっている
 
 彼女を求めたのも
 
 この世に繋ぎ止めたのも
 
 
 
 この手にかけたのも
 
 
 
 誰も理解してくれないと思う
 
 気がふれたと思われるかもしれない
 
 
 
 それでも、構わない
 
 
 
 その事で裁かれたとしても
 
 それは
 
 僕にとって
 
 彼女に対する唯一の償いだから
 
 
 
 まだぬくもりの消えていない頬に手を添え
 
 やわらかな唇にそっと錠剤を置き
 
 僕は彼女に口付けた
 
 
 
 遠ざかる意識
 
 遠ざかる世界
 
 
 
 見失わぬように姿を焼き付け
 
 離さぬように指を絡め
 
 深い闇の中へと落ちていく
 
 
 
 ずっとそばにいるよ
 
 アスカ
 
 
 
 
 


 『The END OF EVANGELION』のラストシーン。
 未だ自分の中で、回答がでないもの。
 もしかしたら僕がこんなサイトをやっているのは、その意味を求めているのかもしれません。
 読んで頷くことしばし。
 詩的にも美しく、思わず唸りました。
 
 


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