map_sさんの
KISSの温度「A」Edition 8th

 全てが終わって
 新たな時が動き始めて
 小さなボストンバッグを片手に
 様々な想い出を、胸に
 僕はあの街を去った
 
 親友が教えてくれた
 『ヒトは自分自身の意志で動かなければ、何も変わらない』と
 母親みたいな、妹みたいな彼女が教えてくれた
 『見失った自分は、自分の力で取り戻すのよ』と
 
 自分自身を見つけ出したくて
 自分を探す旅へ出た
 僕の意思で
 自分の足で
 
 この地へ再び戻ってくる事を、心に誓って
 
 辿り着いた街
 見も知らぬ人々
 インクが紙に滲むように
 僕の中へと溶け込んでいって
 新しい生活が
 日常へと変化していく
 
 嬉しい事
 面白くない事
 哀しい事
 楽しい事
 この街に移り住んでから
 新しい出来事が、思い出が増えていく
 
 何処に居たとしても
 何をしていたとしても
 僕を形作るのは僕自身
 
 そんな当たり前の事にようやく気付いた時
 正面切って向き合う自分が居た
 逃げない自分が居た
 
 そろそろ帰ろう
 あの街へ
 みんなの元へ
 僕は僕を見つけたから
 
 そう考え始めた、ある日
 
「・・・おい、誰だあれ?」
「え?どれだよ?」
「ホラ・・・・・あのコだよ、金髪の!」
 
 窓際の、一番後ろの席
 級友達の会話につられ、単行本から窓の外へと視線を動かす
 次の瞬間、僕は教室を飛び出していた
 背後から掛かる声も、視線も気にせず
 
 廊下を、階段を駆け抜ける
 上履きのまま、校庭へと飛び出す
 立ち止まった彼女の元へと、まっすぐに
 
 少しだけ高くなった身長
 透き通った金髪
 白磁のような肌
 抜けるような蒼い瞳
 
 僕が口を開こうとした瞬間
 渇いた音が耳に届き
 頬が熱を帯びていき
 柔らかな、甘い感触が唇に触れ
 僕の目の前は金色の髪で埋め尽くされた
 
 一瞬の静寂、そして喚声が背後から沸き起こる
 窓際に群がる級友達
 他のクラスでも、それは同じ事
 
 ゆっくりと離れる唇
 開かれた、瞳
 吸い込まれていきそうな感覚に囚われながら、僕はなんとか口を開いた
 
「・・・どうして?」
「アンタバカぁ?このアスカ様に判らないコトなんて無いのよ!?
 今のはね、アンタがアタシに黙って出て行った罰よっ!」
「ゴメン・・・・でも、もうすぐ帰る、ってミサトさんに連絡したばかりじゃないか?」
「ナニよ!?アタシのような極上の美少女にお迎えに来てもらって、嬉しくないって云うンじゃないでしょうねぇ!?」
「そんな事、あるわけないだろ・・・・・・・嬉しいよ、すごく」
「ならイイじゃない!」
「でも・・・・なんでさ?
 『家』に帰ろうって・・・・・自分の意思で、自分の足で帰ろうって思ったのに・・・・どうして迎えに来たのさ?」
「・・・・・・・・待ちきれなかったのよ」
「え?」
「シンジが戻ってくる、って聞いた時・・・・・・嬉しかった。
 もうすぐ逢える、また近くに居られるって思ったら・・・・泣けるほどに嬉しかった。
 でも・・・・・でも!!
 もうガマンできなかったの!寂しかったの!逢いたかったの!!
 たとえ数日間でも、シンジが居ない毎日に耐えられなかったのよ!!」
「アスカ・・・・・」
「・・・・・・シンジが悪いんだからね!?
 アタシの心に入り込んで、アタシを虜にして、勝手に欠片を持ってっちゃって・・・・!!
 もう・・・・離さないんだから!離れないんだから!!」
「アスカ!!」
 
 僕はアスカを抱きしめた
 細い肩を、華奢な身体を
 アスカは僕の胸に手を当て、ほんの僅かな空間を作った
 そして、自分の胸と僕の胸とを交互に指さした
 
「シンジ・・・・・忘れないで。
 アンタの居場所はココ、アタシの居場所はココよ・・・・・
 もう、逃がさないんだから。
 アタシの心を盗んだアンタを、ぜ〜〜〜〜〜ったいに逃がしたりしないんだからね!?
 責任、取りなさいよ!?」
 
 満面の笑み
 まっすぐに僕の眼を見つめている、蒼い瞳
 抗えるわけがない
 その気も、ない
 
 肯定と、愛情と、全ての気持ちを込めて
 僕は彼女の唇に唇を重ねた
 
 この瞬間
 僕の旅は終わり
 彼女と共に歩む時が
 静かに動き始めた
 
 
  ・・・・・最近、自分で自分がわからなくなってきたような・・・・・・・俺って、誰?(苦笑)
 
 
 


管理人のコメント

 少女はずっと、少年の帰りを待っていた。
 そして、長かった旅も終わり、少年が『家』に戻ってくる。
 それを聞いた少女は、待ちきれなくなり、愛しい少年に自ら逢いに行く……
 
 いいですぅ。(^-^)/
 これは「KISS」一回で終わらすのが惜しいテーマですねぇ。


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