喰う寝る36 さんの
KISSの温度「R」Edition 8th

 綾波さんは、その日、ちょっとだけごきげんななめでした。
 お弁当箱に入っていたちっちゃなハンバーグが、どうやらお気に召さなかったようです。
 学校の屋上で太陽に背をむけ、さびしそうに立っている綾波さん。
 少しうしろで、シンジくんがいっしょうけんめい謝っています。
 でも、綾波さんは、けっして振り返ろうとはしませんでした。
 べつに、怒っているわけではありません。
 綾波さんが見つめているのはふたりの影。
 シンジくんの横顔がおとす影は、まえにうしろに行ったり来たり。
 自分の影に、シンジくんの影が。
 何度も、何度も、キスをしているようで。
 綾波さんは、真っ赤なお顔で照れていたのです。
 
 綾波さんは、つぎの日、ちょっとだけごきげんでした。
 ネルフの実験で疲れてしまった綾波さんに、シンジくんがやさしく声をかけてくれたからです。
 ジオフロントからの地下鉄で、シンジくんと並んで立ってる綾波さん。
 正面のガラス窓に、ふたりの影が映っていることに気が付きました。
 きのうの影を思い出して、ちょっとだけ赤くなった綾波さん。
 窓を横目でのぞきながら、顔をひだりに向けました。
 そおっと、そおっと。
 窓に映った綾波さんが、ゆっくりとシンジくんに近づきます。
 そおっと、そおっと。
 やがて、ふたりの影がかさなって。
 
「あっ、綾波?」
 
 昨日と今日とはちがいます。
 並んで立ってたふたりです。
 
 
 

kuneru36@olive.freemail.ne.jp

なおのコメント(^ー^)/

 昔、好きだった娘の影と自分の影が、思わず重なって、なんだかとっても嬉しかったことを思い出しました。
 ほんのささいな事なのですが、大人になるとそんな感動も忘れてしまいますね。
 いまでも、鋭い感性を持ち続けている喰う寝る36さん、尊敬してしまいます。(^^)/


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