綾波さんは、その日、ちょっとだけごきげんななめでした。
お弁当箱に入っていたちっちゃなハンバーグが、どうやらお気に召さなかったようです。
学校の屋上で太陽に背をむけ、さびしそうに立っている綾波さん。
少しうしろで、シンジくんがいっしょうけんめい謝っています。
でも、綾波さんは、けっして振り返ろうとはしませんでした。
べつに、怒っているわけではありません。
綾波さんが見つめているのはふたりの影。
シンジくんの横顔がおとす影は、まえにうしろに行ったり来たり。
自分の影に、シンジくんの影が。
何度も、何度も、キスをしているようで。
綾波さんは、真っ赤なお顔で照れていたのです。
綾波さんは、つぎの日、ちょっとだけごきげんでした。
ネルフの実験で疲れてしまった綾波さんに、シンジくんがやさしく声をかけてくれたからです。
ジオフロントからの地下鉄で、シンジくんと並んで立ってる綾波さん。
正面のガラス窓に、ふたりの影が映っていることに気が付きました。
きのうの影を思い出して、ちょっとだけ赤くなった綾波さん。
窓を横目でのぞきながら、顔をひだりに向けました。
そおっと、そおっと。
窓に映った綾波さんが、ゆっくりとシンジくんに近づきます。
そおっと、そおっと。
やがて、ふたりの影がかさなって。
「あっ、綾波?」
昨日と今日とはちがいます。
並んで立ってたふたりです。
なおのコメント(^ー^)/
昔、好きだった娘の影と自分の影が、思わず重なって、なんだかとっても嬉しかったことを思い出しました。
ほんのささいな事なのですが、大人になるとそんな感動も忘れてしまいますね。
いまでも、鋭い感性を持ち続けている喰う寝る36さん、尊敬してしまいます。(^^)/