喰う寝る36さんの
KISSの温度「R」Edition 5th

「綾波・・・今夜も会えたね・・・」
 
 上弦の月が頼りなく照らす湖の畔。
 微かにさざめく波間に、覗いては消える赤い電光。
 湖底深くに横たわるジオフロントの為れの果てを眼下に控え、シンジは再会の喜びに胸を暖めていた。
 髪はパサつき、頬はこけ・・・
 やつれ果てたその笑顔は、しかし安らいだものだった。
 
「見てよ、あの灯りを。
 ・・・僕達が戦った意味は、今じゃもう判らないけれど・・・
 僕達が守ろうとした街は、たくさんの思い出を飲み込んだまま、どこかに消えてしまったけど・・・
 でも、あの灯りが見えるよね・・・
 あそこにネルフがあったんだ・・・
 明るかったアスカも、冷たいけど優しかった綾波もッ!?」
 
 にわかに沸き上がった嗚咽に、肩を震わせ耐えるシンジ。
 湖を渡る一陣の風。
 湖畔の木々を揺らし、その道筋を示すかのように、サァッ・・・と、ざわめきを残しては消えてゆく。
 
「ごめんよ・・・心配しちゃうよね、こんな僕じゃ・・・
 でも、綾波・・・
 もう、駄目なんだ・・・
 こうやって、月を見上げる事でしか・・・
 あの頃のきみを思い出す事が出来ないんだ・・・」
 
 頬を濡らす涙に気付いたのか、シャツの袖で顔を拭う。
 
「もう・・・くっ・・・
 抱きしめることも・・・出来ないんだ・・・」
 
 湖の中に歩を進めるシンジ。
 一歩・・・二歩・・・三歩・・・
 ふくらはぎの半ばまでを湖面に埋めたシンジは、両手のひらを静かに沈め、一掬いの水を胸の前に掲げた。
 
 揺れて輝く水鏡。そこには、確かに映る、月の影・・・
 
「だから綾波・・・
 せめて、キスだけ受け止めて・・・」
 
 震える指が、影の形を壊さぬよう・・・
 静かに・・・静かに顔を寄せる。
 
「綾波・・・」
 
 
 
「呼んだ〜?しんちゃん☆」
 
 周囲の静寂を5キロ四方は吹き飛ばす、明るく元気な弾む声。
 
「ンもぅッ!!シャワーが無いからって、こんなトコまで来なくてもいいじゃない!!」
「レ・・・レイ?」
「ホ〜ント、探しちゃったんだからねっ!!
 せっかく寝付いたナオまで、『ぱぱ〜ぱぱ〜』って泣き出すしぃ〜」
「いや、だって・・・もう五回も・・・」
「ぜぇんぜん足りないわよぉ、それっくらいじゃア!!
 鈴原くんのトコなんて、もう三人目だよぉ!?
 今年中にゼッッッタイ!!
 二人目を作るんだからっ!!」
「いや、だからって・・・
 キャンプ場に来てまで、そんなに激しくするコトないじゃないかぁ・・・」
「なぁあに言ってんのぉ、せっかくの萌えるしちゅえ〜しょんなんだもん☆
 そだ、今度はテニスウェアでシようよ♪
 もち、アンスコはぁ、ぶ・る・まっ☆ きゃぁ〜っ、しんちゃんのえっちぃ!!」
「・・・僕はそんなマニアじゃないよぉ・・・」
 
 セミロングの銀髪をポニーテールにまとめ、白磁を思わせる白肌を真紅に染める美女。
 明るいけれど、もはや必ずしも優しいとは断言出来ない彼女こそ、補完された綾波レイ。
 苦手な筈の動物性蛋白質を毎晩た〜っぷりと摂取し、アスカはおろか、乳牛ミサトすら歯牙にもかけぬナイス・バディ。
 彼女を娶るこそ、武門の誉れ!男子の本懐!!・・・とシンジが喜んだのは一週間・・・
 鏡の中で息を吐く、夜毎やつれるおのれの姿。
 
『吸血鬼って、ニンニクは嫌いじゃなかったの・・・』
 
 ぼやくシンジとは裏腹に、ニンニクあ〜んどタンパク質でスタミナ武装もばっちりレイ。
 
「ささっ、ナオはアスカに預けたしぃ〜、今夜のノルマはあと十回よっ、し・ん・ちゃん♪」
 
 まるで猫の仔をつまむようにシンジの首根っこをひっつかんで、テントめがけてすきっぷレイ。
 シンジの足は地面を求めながら、ぶらんぶらんと宙をさまよっている。
 
「あの頃の綾波はどこに行ったんだよぉ〜!!」
「いないよ?だってわたし、碇だもん♪」
「こんなのって・・・こんなのってないよ・・・」
 
 ぶぅわっ!!と涙を溢れさせ。
 
「誰かぼくにっ!・・・やさしくしてよおっ!!・・・してよぉ・・・してよぉ・・・してよぉ・・・」
 
 月に吠えるシンジ。
 魂を裂くようなその絶叫は、微かな木霊を残しながら、おぼろ月夜に優しく呑まれていく・・・
 
 
 
 もののついで。
 
「なんでアタシの扱いがこうなのよぉ・・・」
 
 独り身を嘆いて不貞寝中のアスカ。目覚めのケリとともに子守りを押しつけられ・・・
 ズタボロにされた寝袋と、キャッキャとはしゃぐナオを、呆然と眺めていた・・・
 
 
 

kuneru36@olive.freemail.ne.jp

なおのコメント(^ー^)/

 喰う寝る36さんに、アスカさんの待遇改善を要求する!(爆)
 ……嘘です。嘘ですってばぁ(笑)
 そうそう、管理人を出演させて頂いてありがとうございます。(^-^)/
 レイちゃんがママですか……いいかも(爆)


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