喰う寝る36さんの
KISSの温度「M」Edition 2nd

 私は、初号機の前でたたずむ彼を見ていた。
 肉体を持たぬ二人目の私に、三人目の私が囁く。
「あの人の息子・・・絆。・・・でも、それは欠片でしかないわ。」
 
「そう・・・かもしれない・・・」
 
「あの人・・・そう、唯一の絆は、あの人・・・
 サードチルドレンは、本当の絆では無いのよ。」
 
 碇司令に視線を移す。
 広い空間を頼りなく照らす照明の下、小さなテーブルを挟んで彼と向かい合う女。
 短い黒髪の彼女は、甦った碇ユイ。
 あの人が本当に求めた、あの人の絆。
 
「絆・・・私が求めた、本当の絆は・・・」
 
 三人目の呟きに、しかし、二人目の私は頷く事が出来なかった。
 
「・・・司令は・・・違う、と思う。
 それは過去のココロ。求めても得られなかった、希望の残骸。」
 
 少年を再び見つめる。
 
「希望、ではないのかも知れない・・・欠片、でしかないのかもしれない・・・
 でも、それは・・・もう、過去の欠片。
 繋がる未来を持った彼には、新しい絆が作れるもの・・・」
 
 少年に駆け寄る少女。
 色白の肌を紅く染め、少年にそっと寄り添う。
 見つめ合う二人。微かな嫉妬で胸を痛める私の前で・・・
 二人は静かに・・・唇を重ねた。
 
「・・・あれが・・・彼の新しい絆なのね?」
 
 二人目の私に、もしも肉体があれば・・・或いは、涙を流していたかもしれない。
 胸を襲うのは、寂しさ。少年への祝福の影に去来するもの。
 
 祝福・・・そう、私は・・彼の新しい絆を祝福している・・・
 
 
 
「ねえ、二人とも!雰囲気に浸ってないで、少しは手伝ってくれない!?」
 
 一人目の私が苛立たしそうに言った。
 
「そりゃ、あなた達の気持ちも判るわよ?
 ゲンちゃんはユイさんとヨリを戻しちゃうし、シンジくんはシンジくんでカノジョを作っちゃうし。
『女』のカスパーも、『母』のバルも、なんとなく寂しいのよねぇ?
 で・も・ね!! サードインパクトの事後処理は、まだまだイ〜ッパイ残ってるんですからねっ! 遊んでるヒマは無いのよっ!!」
「え〜っ、だってェ・・・」
「だってじゃないでしょっ、バル! いくら親離れしたリッちゃんの代わりに・・・ってシンジくんを見守ったって、彼も親離れはするんだから!!」
「じゃ、ゲンちゃんはぁ〜?」
「あなたも一緒よ、カスパー。昔の男にいつまでもグジグジしないっ!!」
「「そりゃ、仕事がコイビトのメルは良いんだろうケドォ〜」」
「あ〜っ、もうっ! イイから働けぇ〜っ!!」
 
 監視カメラへの干渉をやめ、しぶしぶ仕事に集中する、私とカスパー。
 最後にチラッとケイジを眺め・・・
 
『ふふっ。・・・あなた達の子供も、私が見守ってあげるわ・・・』
 
 17層の生体チップで。
 少年と少女の幸せな未来に。
 バルタザールは、カメラ越しの投げキッスを贈った。
 
 
 

kuneru36@olive.freemail.ne.jp

なおのコメント(^ー^)/

 これはレイちゃんではなく、MAGIのお話だったのですね。(^^)
 中ではこんなやり取りがされているんだぁ。
 と、思わず納得してしまう、バルちゃんのほほえましい、投げキッスでした。(^^)


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