喰う寝る36さんの
KISSの温度「G」Edition

『おーい、そいつぁ後回しだぁ!』
『OK・・・いや、もうちょい右にひねって・・・よし、降ろせ!』
 
 筋骨たくましい男達のダミ声が響く。
 背景に流れるのは、運び、砕き、積み上げる・・・巨大な建設機械の息吹。
 
 ジオフロント内、ネルフ本部のすぐ脇に、急ピッチで建造される奇妙な建物・・・
 ちょっとした講堂を思わせるそれの外観に、特に際だった特徴は無いのだが・・・
 内装被覆材その他の名目でエヴァ修復用の生体素材が大量に用いられ、血管のように張り巡らせた配管の中にLCLが注ぎ込まれ・・・
 定期的に搬入され始めた肉牛達が、建設中のその建物に追い込まれては、断末魔の叫びを轟かせるに至って・・・
 ネルフの職員達は、不安げな顔を寄せあっては、ある囁きを交わすようになった。
 
「・・・Gだ・・・」
「・・・Gよ・・・」
「また、あいつが始めやがった・・・」
「・・・また・・・仲間達が消えてゆくのね・・・」
「ああ・・・Gの”狩り”が・・・また、始まるんだ・・・」
 
 本部正門の門柱の影から、半ば身を隠すように顔だけ覗かせ、畏れの色も露わに彼らが見つめるその先には・・・
『工事中につき ご迷惑をおかけします』というフレンドリィな看板の横に立てられた、 
『ゲンちゃん診療所:国連認定厚生施設』
 ・・・の案内板があった・・・
 
 
「よぉ〜っし!!・・・では、各員の装備を点検する。
 各自、私の読み上げる品目について、動作確認までキッチリ行うこと!・・・返事はっ!?」
 
『ハイッ!!』
 
 軍人としての顔をさらけ出し、キビキビと指示を飛ばすミサト。
 シゲルやシンジを筆頭とする『生還者』達は、緊張の面もちでそれに応える。
 
「・・・なぁ〜んで、たかが人間ドックにこんなモノが要るわけぇ?」
 
 未だ地獄の淵を知らぬアスカが、目の前に山積みされた『装備』を見やって溜め息を漏らす・・・が。
 
「そこっ!ブリーフィング中の私語は禁じたはずよ。
 命が惜しくないのなら、先に待機室で待ってても構わないわ。」
 
 ミサトの言葉とシンジの張りつめた視線に気押されて、アスカは渋々口を閉ざした。
 一連のやりとりで、室内の緊張が高まる。
 
「では、点検を始める。まず・・・問診票!」
『ハイッ!』
「記入は?」
『済んでますっ!』
「よし・・・パジャマ!」
『ハイッ!』
『柄は?』
『無地ですっ!』・・・「ネコさんですぅ。」
「伊吹二尉!そんなモノで戦意は保てないわ、取り換えてきなさい。」
「・・・はい。」
 
 退室するマヤ。しかし、ブリーフィングは続けなければならない。
『この点検を中座した事が、マヤちゃんの命を奪う事に繋がるかも知れない・・・』
 内心の苦悩は、しかしミサト個人の苦しみ。
 指揮官たるを要求されるミサトに、甘ったれた感傷は許されない。
 
「・・・では、続けましょう・・・スリッパ!」
『ハイッ!』
「走れる?」
『走れますっ!』
「水筒!」
『ハイッ!』
「中身は?」
『水です!』
 
『水をエビチュに入れ換えろ』などと言いださぬミサトに、緊迫した雰囲気が感じられる。
 最終的に、装備の確認は46種に及び、その内の8品目は護身用の武装であった。
 ナイフ、拳銃、自動小銃はもとより、三人に一つの割合で配られた対人地雷に至っては、一体何から身を守るのかとアスカに疑問を叫ばせたが・・・
『僕が持つ・・・僕がアスカを・・・そして綾波を守るよ。だから、みんなを困らせないでよ・・・』
 シンジの思い詰めた瞳が、事を荒立てることなくその場を収めた。
 
 
「・・・碇・・・止められんのか?」
 
 司令執務室に隣接する、小さなラウンジ。
 最近になってようやく造られた、冬月の私室である。・・・実体は、ただのお茶くみ部屋であるが。
 
「癒やしは既に必須・・・シナリオは変えられん・・・
 疲弊したネルフを救えるのが私だけなら・・・
 私は、ヒトとしてのこの身を捨てることさえ、拒んではならんのだ・・・」
 
 診療所の前に現れた健康診断御一行様のパジャマ姿を眼下に見おろし、静かに語るゲンドウ。
 絞り出すようなその声には、沈痛なものすら混じるのだが・・・
 薄紅に染まった頬。
 楕円を描きぬらぬら光る、ピンクのくちびる。
 カサカサと音を立て、独立した生き物のようにさざめく顎ヒゲ。
 口元からこぼれた雫が、床の上で白煙を吹き上げる。
 
 
「癒やさねば・・・癒やさねばならん・・・」
 
 重々しく、決意を固めるゲンドウ。
 
「癒やされる・・・イヤすぎる・・・」
 
 弱気になりそうな自分を叱咤し、小さく呟くシンジ。 
 
 
 まさに今、ネルフ最大の戦いが始まろうとしていた・・・
 
 

kuneru36@olive.freemail.ne.jp

なおのコメント(^ー^)/

 あうぅ。いやすぎるぅ(泣)
 しかし、喰う寝る36さんの精神までも汚染してしまうとは……
 恐るべし「G」!


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