喰う寝る36 さんの
KISSの温度「A」Edition

 ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
 彼女がまだ、『過去』にはなっていない事を告げる電子音。
 微かな胸の上下に、僕は今日も安堵する。
「アスカ・・・きみは今日も、居てくれたんだね・・・」
 ベッドの脇で身を屈め、僅かに躊躇って・・・少しやつれた眠り姫に接吻ける。
「・・・ごめん、アスカ。でも・・・僕は卑怯で、臆病なヤツだから・・・
 こんな事でもやらないと・・・もう、自分が壊れてしまいそうなんだ・・・」
 自嘲気味に呟くシンジ。にじむ涙をこぼすまいと、首を反らして天井を見上げた。
「ふふ・・・ここの天井も、すっかり見慣れちゃったね・・・」
「アスカにキスをする度に、こうして見上げた天井だもの・・・」
 泣き笑いの表情で、溢れ出しそうな感情を抑えるシンジ。
 やがて、あることに気付く。
「あれ?・・・やっぱり、あのシミ・・・だんだん大きくなってるなぁ・・・」
 アスカのベッドの上、丁度アスカの顔の直上に、薄いピンクのシミが見える。
 涙がにじんだシンジの目には、ぼんやりとしか見えないが・・・
「ねぇ、アスカ。あのシミ、一体何だろうね・・・」
 穏やかに語りかけるシンジの耳に、
 かさっ・・・
 微かな衣擦れの音が届き。
「アスカ?アスカ・・・アスカッ!?」
 もしや覚醒の兆しかと、興奮して呼びかけるシンジ。
 ・・・しかし、人形のように横たわるアスカは、その穏やかすぎる呼吸を微塵も乱す事は無い。
 シンジは今日も、重い足取りで病室を後にした・・・
 
 
 病室のベッドの上、一人横たわるアスカ。
 もはや彼女の付き添いは、規則的な鼓動をモニターする電子音のみであった。
 ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
 しかし今、その無機的な電子音に変化が訪れる。
 ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・ピッ・ピッ・ピッピッピッピッ
 心拍数の上昇に伴い、彼女の額に汗がにじむ。その頬は熱に染まり、やがてその桜色の唇から、呻きともつかぬ吐息が漏れた。
「うっ・・・うぅ〜・・・」
「うぅっ・・・もうっ、バカシンジのやつぅ!!」
 昏睡状態であるハズのアスカ。やおら上体を起こし、顔の火照りを冷ますように、その両手を頬に添える。
「鈍感なクセに、変なトコで鋭いんだもん!バレるかと思ったわよ!!」
 トゲのある口調に反して、実に嬉しそうに輝くその表情。左手の小指をそっ、と唇に這わせ・・・たかと思うと、再び頬に戻してイヤンイヤンと首を振った。
「・・・でも・・・今日もキス・・・してくれたね、シンジ・・・」
 しばらく固まっていたアスカ。
 やがて、ゴソゴソと枕の下から手のひらサイズのシートを取り出し、シンジの座っていた丸椅子をベッドの脇から持ち上げた。
 椅子の座面に触れたアスカ、ピクッと眉を動かして、そこに静かに頬を寄せる。
「・・・シンジの温もりだ・・・」
 椅子を抱きしめ頬ずりする姿は、百歩譲ってヘンタイだ。我に返ったアスカは、頬の色を一気に深める。
 桜色に染まった頬は、いまや真っ赤なバラの花。
「こっ、こんなコトしてる場合じゃないわよねっ?戦果をキチンと記録しなくちゃ!冷静な戦局の分析が、明日の勝利へ導くのよっ!!」
 気を取り直してベッドの上に椅子を据え、危なっかしい足取りでそれによじ登ると、シートから剥がしたステッカーを天井に貼った。
「ふうっ・・・やっぱり身体がなまってるわ。」
 コトを終えたアスカ。椅子を戻してベッドに横たわり、はぁ〜っと息を吐く。
「ふふっ、こんなコトしてるのがばれたら、恥ずかしくって帰れないわね・・・」 
 天井に貼りつけた、ピンクのハートを見上げながら。
「・・・でも、この撃墜マークが50個並ぶまでは、ぜったい目覚めてやんないんだから♪」
 27個目の戦利品に、固く誓うアスカであった
 
 
 

kuneru36@olive.freemail.ne.jp

なおのコメント(^ー^)/

 天井のシミは撃墜したマークだったのですね。(笑)
 アスカさんのヘタレぶり、いいっすよ〜(笑)


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