ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
彼女がまだ、『過去』にはなっていない事を告げる電子音。
微かな胸の上下に、僕は今日も安堵する。
「アスカ・・・きみは今日も、居てくれたんだね・・・」
ベッドの脇で身を屈め、僅かに躊躇って・・・少しやつれた眠り姫に接吻ける。
「・・・ごめん、アスカ。でも・・・僕は卑怯で、臆病なヤツだから・・・
こんな事でもやらないと・・・もう、自分が壊れてしまいそうなんだ・・・」
自嘲気味に呟くシンジ。にじむ涙をこぼすまいと、首を反らして天井を見上げた。
「ふふ・・・ここの天井も、すっかり見慣れちゃったね・・・」
「アスカにキスをする度に、こうして見上げた天井だもの・・・」
泣き笑いの表情で、溢れ出しそうな感情を抑えるシンジ。
やがて、あることに気付く。
「あれ?・・・やっぱり、あのシミ・・・だんだん大きくなってるなぁ・・・」
アスカのベッドの上、丁度アスカの顔の直上に、薄いピンクのシミが見える。
涙がにじんだシンジの目には、ぼんやりとしか見えないが・・・
「ねぇ、アスカ。あのシミ、一体何だろうね・・・」
穏やかに語りかけるシンジの耳に、
かさっ・・・
微かな衣擦れの音が届き。
「アスカ?アスカ・・・アスカッ!?」
もしや覚醒の兆しかと、興奮して呼びかけるシンジ。
・・・しかし、人形のように横たわるアスカは、その穏やかすぎる呼吸を微塵も乱す事は無い。
シンジは今日も、重い足取りで病室を後にした・・・
病室のベッドの上、一人横たわるアスカ。
もはや彼女の付き添いは、規則的な鼓動をモニターする電子音のみであった。
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
しかし今、その無機的な電子音に変化が訪れる。
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・ピッ・ピッ・ピッピッピッピッ
心拍数の上昇に伴い、彼女の額に汗がにじむ。その頬は熱に染まり、やがてその桜色の唇から、呻きともつかぬ吐息が漏れた。
「うっ・・・うぅ〜・・・」
「うぅっ・・・もうっ、バカシンジのやつぅ!!」
昏睡状態であるハズのアスカ。やおら上体を起こし、顔の火照りを冷ますように、その両手を頬に添える。
「鈍感なクセに、変なトコで鋭いんだもん!バレるかと思ったわよ!!」
トゲのある口調に反して、実に嬉しそうに輝くその表情。左手の小指をそっ、と唇に這わせ・・・たかと思うと、再び頬に戻してイヤンイヤンと首を振った。
「・・・でも・・・今日もキス・・・してくれたね、シンジ・・・」
しばらく固まっていたアスカ。
やがて、ゴソゴソと枕の下から手のひらサイズのシートを取り出し、シンジの座っていた丸椅子をベッドの脇から持ち上げた。
椅子の座面に触れたアスカ、ピクッと眉を動かして、そこに静かに頬を寄せる。
「・・・シンジの温もりだ・・・」
椅子を抱きしめ頬ずりする姿は、百歩譲ってヘンタイだ。我に返ったアスカは、頬の色を一気に深める。
桜色に染まった頬は、いまや真っ赤なバラの花。
「こっ、こんなコトしてる場合じゃないわよねっ?戦果をキチンと記録しなくちゃ!冷静な戦局の分析が、明日の勝利へ導くのよっ!!」
気を取り直してベッドの上に椅子を据え、危なっかしい足取りでそれによじ登ると、シートから剥がしたステッカーを天井に貼った。
「ふうっ・・・やっぱり身体がなまってるわ。」
コトを終えたアスカ。椅子を戻してベッドに横たわり、はぁ〜っと息を吐く。
「ふふっ、こんなコトしてるのがばれたら、恥ずかしくって帰れないわね・・・」
天井に貼りつけた、ピンクのハートを見上げながら。
「・・・でも、この撃墜マークが50個並ぶまでは、ぜったい目覚めてやんないんだから♪」
27個目の戦利品に、固く誓うアスカであった
なおのコメント(^ー^)/
天井のシミは撃墜したマークだったのですね。(笑)
アスカさんのヘタレぶり、いいっすよ〜(笑)