G-Impact! Volume2:いざ戦いの地に赴かん

「エントリープラグ挿入」 シュイイイイン オペレーターの声と共に、初号機の背中の挿入口にエントリープラグ(ゲンドウ入り)が挿入されていく。 「プラグ固定完了」 「L.C.L.、注水します」 聴きなれぬ単語が耳に入ってくると同時に、足元から黄色い液体が迫って来た。 「むうっ?!なんだこれは!?」 さすがのゲンドウもこれは予想外だったのか、慌てて確認を取る。 「大丈夫よ。肺がL.C.L.で満たされれば、血液に直接酸素を取り込んでくれます」 「男の・・・子じゃないわね、まあとにかく我慢して!」 「そうか、ならば問題無い」 「(け、結構あっさりしてんのね)」 そうこうしているうちにも、初号機の出撃準備は着々と進んで行く。 「主電源接続!」 「全回路、動力伝達確認!」 「第二次コンタクトに入ります!」 「A-10神経接続、異常なし」 「思考言語は日本語を基礎にしてフィックス」 「初期コンタクト、全て異常なし!」 「双方向回線開きます!」 「マヤ、シンクロ率はどう?」 「はい、先輩。シンクロ率・・・46.3%!ハーモニクスも全て正常値です!」 「暴走の危険も無いようね・・・いけるわ」 そのやり取りを聞き、ミサトが最後の確認を行う。 「碇司令、・・・よろしいですね?」 「・・・お願いします、ミサトさん」 ゆっくりと頷くシンジ。それを見て、ミサトも覚悟を決める。 「それでは・・・エヴァンゲリオン初号機!発進!」 射出台に乗せられ、すさまじい勢いで発進する初号機。 激しい衝撃と共に地表へ到達する。 「最終安全装置解除!」 オペレーターの声に、大きく頷くミサト。 「エヴァ初号機、リフト・オフ!」 完全に拘束を解かれ、少し前かがみになる初号機。 「ゲンドウさん、大丈夫?」 「ああ。しかし、どうすれば動くのだ?」 とりあえずシンクロに問題は無いものの、動かし方が分からないようだ。 しかも眼前には使徒が迫って来ている。 「ゲンドウさん、とりあえず歩くことだけを考えてみて」 「うむ。・・・こうか?」 リツコの言葉に従い、とりあえず足を動かしてみる。 ズズーン! 「動いた!」 そのとたん歓声に包まれる発令所内。 起動確率が低かっただけに、動いたときの喜びもひとしおだ。 「では、あの使徒というのを倒せばいいのだな?武器などはないのか?」 「あいにく武器は用意できていないので、格闘戦でやってもらうしかないわ」 「そうか、まあ問題無い」 未知の敵に対して武器の一つも無いという状況でも全く動じないゲンドウ。 この自信はどこからくるのか? 『早く片付けて愛しのレイの元へ行かねばならんからな・・・』 ・・・どうやら自信があるのではなく思考が妄想で埋め尽くされているだけのようだ。 「では行くぞ・・・ぬぅっ!?」 妄想全開でインダクションレバーを握る・・・が! 「そ、そんな!?初号機、シンクロ率上昇!100%・・・250%・・・400%で安定!」 「よ、400%!?あ、ありえないわ!・・・まさか、暴走!?」 突然の変調に半ばパニックに陥ったマヤ。 リツコも信じられないといった様子でモニターを確認する。 「しょ、初号機、顎部ジョイントを排除!」 グオォォォォォォッ! 突如咆哮を上げる初号機。 その鬼気迫る姿に思わず言葉を失う発令所。 「な、なんだかいきなりだけど・・・とにかく、後は母さんに任せておけば大丈夫ですね」 「ああ、ユイ君ならば大丈夫だろう」 そんな中、まるでシナリオ通りだと言わんばかりに落ち着き払っているシンジと冬月。 その言葉に答えるかのように、初号機は使徒に向かって突撃をかける。 だが・・・。 ガキイィィィィィン! 使徒の前に突如現れた真紅の壁によって動きを阻まれる。 「目標、ATフィールドを展開!」 「くっ、これじゃ攻撃できないじゃな・・・えっ?!」 「す、すごい・・・!初号機、位相空間を反転!ATフィールドを中和していきます!」 何者をも寄せ付けぬはずのATフィールド、だが今の初号機には薄紙のように意味を為さない。 次の瞬間、甲高い音を立てて消滅するフィールド。 だが、使徒も黙って見ているわけではない。 フィールドが破られると同時に、胴体部にある白い面のようなものが光ったかと思うと、 強烈な光線が初号機に向かって放たれる。 「ゲンドウさんっ!」 巻き起こった爆発に思わず叫ぶミサト。 だが、爆煙の中から現れたのは全く無傷の初号機だった。 「初号機もフィールドを展開しています!」 「やはり初号機も展開できるのね・・・。  でも、初めて乗ったゲンドウさんにこんな事ができる筈が・・・」 冷静に状況を分析しようとするリツコだったが、予想外の出来事に思わず疑問が口をついて出る。 だが、そんな疑問などお構いなしに使途に猛攻をかける初号機。 右手を大きく振り上げたかと思うと、体の中央に位置する紅球に向かって勢いよく振り下ろす。 ガキン!ガキン!ガキン! 2度3度と甲高い音を立てて攻撃を繰り返す初号機。 徐々にだが紅球にヒビが入っていく。 このまま使徒殲滅か?と誰もが思ったその瞬間、最後の力を振り絞って初号機に覆い被さるように体を丸める使徒。 「まさか!自爆する気っ!?」 そうミサトが叫んだ瞬間・・・ ズガ―――――――――ン! 轟音と共に、自らを弔う墓標の様に光の十字架が立ち昇る。 その中に佇む、鬼神の如き威厳を湛えた初号機。 それを目の当たりにした者達は、その姿に恐怖する事を禁じ得ないのであった――――――――。 ・・・男は、夢を見ていた。 遠い昔、自分が捨てた者達の夢を・・・。 失ってから気づいた、自分にとって最もかけがえの無い者達の・・・。 白い病室。 何ら飾り気がない部屋の中央に置かれたベッドの上、男は未だ夢の中に居た。 その表情は・・・なにやらうなされているようだ。 「ユ、ユイ〜!わ、私が悪かった!だ、だから・・・」 顔を歪めて苦悶の表情をあげるゲンドウ。 髭がこの上なく暑苦しい。 どうでもいいが寝ている時まで眼鏡をかけているのは頂けない。 「はっ!」 どうやら目が覚めたようだ。かっと目を見開いて辺りを見渡すゲンドウ。 「知らない天丼だ・・・」 お約束のボケをかますゲンドウ。結構お茶目さんだったりする。 〜同時刻、病院内某所〜 「サードチルドレンの様子はどう?」 「はい、脈拍、呼吸とも正常です。じきに目を覚ますでしょう」 未だ目を覚まさぬゲンドウの様子を見にきたリツコとミサト。 看護婦のその言葉にホッとした様子のリツコ。 『ああ〜、ゲンドウ様、早くお目覚めになって下さいね(はぁと)』 ・・・相変わらず逝ってしまった目でモニターの中のゲンドウを見つめるリツコ。 そんな親友の様子に思いっきり引きながら、ミサトは以前から気になっていた事を尋ねることにした。 「あのさあ、その・・・サードチルドレンっていう言い方なんだけど、何とかならないの?」 「・・・どういう意味かしら?」 ミサトの質問の意図が分からず首を傾げるリツコ。 「うーん、ほら、ゲンドウさんってどう考えても"チルドレン"っていう感じじゃ無いじゃない?それで・・・」 「あら、エヴァとシンクロできる者を"チルドレン"と呼称するのは初めから決まっていた事よ?」 「うーん、そうは言っても・・・」 「それに、レイやセカンドは"チルドレン"でしょ?いまさら変えるのもおかしいわ」 「う〜ん・・・」 リツコの言う事にも一理あるのだが、なんとなく納得がいかない。 一方リツコは・・・ 『チルドレンの方が可愛くて良いじゃない♪』 ・・・どうやら本音はそういうことらしい。 「ユ、ユイ〜!わ、私が悪かった!だ、だから・・・」 そんな時、マイクからゲンドウの寝言が聞こえてきた。 何事かとモニターに注目する二人。 二人の目に映ったものは・・・ 苦悶の表情でのたうち回るゲンドウのアップ! 反射的に5mほど瞬時に後ずさるミサト、だがリツコは恍惚とした表情でモニターを見つめている。 『ああ〜、苦しむゲンドウ様もす・て・き(はぁと)。でも"ユイ"って誰かしら?』 もはや人として踏み入れてはいけない領域までドップリ浸かっているリツコ。 彼女の趣味については・・・もうこれ以上は何も言うまい・・・。 「はっ!」 「ひっ!」 突如覚醒し目を見開くゲンドウ。 それをモニターしていた看護婦は突然の出来事に思わず悲鳴をあげる。 まあかっと目を見開いたゲンドウの顔をいきなりアップで見せられれば悲鳴の一つもあげたくなるだろうが・・・。 「知らない天丼だ・・・」 そこへすかさずゲンドウのボケが炸裂する! 止めの一撃を喰らい崩れ落ちる看護婦。 その後ろではミサトが盛大にずっこけている。 『う〜ん、ゲンちゃんったら、お・茶・目♪』 そんな二人を他所に、何時までも目を輝かしているリツコであった・・・。 「さて・・・私はどうなったのだ?」 エヴァに乗り、使途と対峙した所までは覚えている。だが、それからの記憶があやふやだった。 『確か・・・操縦桿のような物を握った時・・・』 そのときの情景がフラッシュバックする。 『意識が遠くなったのだったな・・・。それから・・・!』 なにか思い出したかのようにはっと顔をあげるゲンドウ。その顔にはありありと恐怖が浮かんでいた――――――――。 「そ、そんな!?初号機、シンクロ率上昇!100%・・・」 そんな声が聞こえる中、ゲンドウの意識はエヴァの中へと落ちて行った―――――――。 ふと気づくと、なぜか裸で浮かんでいるゲンドウ。 中年男の裸なぞきっぱりさっぱり見たくも無いが、こればっかりはどうしようもない。 辺りを見渡すが、真っ白い世界がただ広がるだけで何も無い。 「あなた・・・あなたなの・・・?」 ふと気がつくと誰かの声がする。 声がしたほうに意識を傾けると、確かに誰か居るようだ。 「・・・む?誰だ?」 目を凝らしてみる。・・・どうやら女性のようだ。こっちに向かってくる。 「あなた!やっぱりあなたなのね!?」 「・・・ユイか!?」 よくよく見てみると・・・なんと、ずいぶん前に別れたはずの妻が居るではないか。 「あなた!」 「ユイ!」 引き合うように近づく二人、そして二人の距離がゼロになる・・・その直前! ガキッ! 「あ〜な〜た〜!よくものこのこ顔を出せたもんね!」 「うぬぉううううがああああああ!」 あろうことかいきなりゲンドウの頭をヘッドロックで固めるユイ! さすがのゲンドウもこれにはたまらずわけのわからぬ呻き声を上げる。 「シンジがまだ小さいっていうのに私たちを捨てておいて!どの面下げて戻ってきたのよ!」 「しゅ、しゅまんゆい〜!(す、すまんユイ〜!)」 ヘッドロックのおかげでろれつが回らないゲンドウ。 しかしユイの攻撃はいっそうハードになっていく。 「おまけに!レイにうつつを抜かして!なんなんですか"愛しのレイ"っていうのはぁ〜!」 「しょ、しょれはごくぁいだ〜!(そ、それは誤解だ〜!)」 「レイはまだ中学生なんですよ!それなのに、それなのに・・・!  あなたは私よりレイの方がいいって言うんですか〜!」 「ぬがああああぁぁぁぁぁ!」 果てしなく続くユイの詰問。もはやゲンドウ虫の息。 「いいですか!今度レイの事をそんなふうに考えたらこんなものじゃ済ませませんからね!」 「わ、分かった・・・。問題、無い・・・」 ようやく開放され、息も絶え絶えで答えるゲンドウ。 それを見てようやく腹の虫も治まったのか、ユイは落ち着いた調子で語りだした。 「で、もう分かってると思うけど、今私達の所に"使徒"っていう敵生体が攻めて来ているの。  そしてそれを倒すためのエヴァ、あなたにはこれからもこれに乗ってもらうことになるわ」 「なんだと!?ずっと私が乗らねばならんのか!?」 「そう。なぜなら、エヴァには特定の人物しかシンクロできないの。だからあなたに・・・」 「だ、だが私でなくてもシンジでもいいのではないのか!?」 ユイの宣告に慌てて逃げ道を模索するゲンドウ。だが人生はそんなに甘い物ではなかった。 「あらだめよ。シンジは司令やってるし、だいたい私のシンちゃんにそんな危ない真似させられないでしょ♪」 「わ、私は危なくてもいいというのか・・・?」 「・・・あなた、自分の立場というものを理解してくださいね?  あなたが私たちにした事を考えるとこんなことくらい当たり前でしょう?」 丁寧な言葉遣いとは裏腹に、刺すような視線を向けるユイ。 「うっ!わ、分かった!乗る!いや、乗らせてください!」 すっかり卑屈なゲンドウ。泣く子も黙るどころか怯えて後ずさる彼もユイには弱かった。 「よろしい。では他に質問は?」 「あ、ああ、それでは・・・。ここは初号機とやらの中なのか?なぜ君が此処に?」 「ん―――、そのへんの事情は後でシンジに聞いて頂戴。久しぶりなんだから二人でゆっくり、ね」 それを聞いて露骨に嫌そうな顔をするゲンドウ。 「シ、シンジと二人で・・・か?」 「・・・当たり前でしょう?あなたたちは実の親子なんですよ!  私が直接会えない分あなたにはシンジに親として接してもらいますからね!」 「だ、だが、いまさら私がシンジの親である資格など・・・」 「あ・な・た?(にこにこ)」 ゲンドウのセリフを遮るかのようにニコニコと微笑むユイ。 しかし目が笑っていないその笑顔はゲンドウを心の底から恐怖させるに必要十分であった。 「わ、分かった・・・。問題、無い・・・」 「わかってくれればそれでいいんです。それから、今後シンジに冷たくしたりエヴァに乗りたくないなんて我侭言ったら  初号機暴走させて踏み潰しに行きますからね(にっこり)」 笑顔でとんでもない宣言をするユイを前に、ただただ諦めきった表情でうな垂れるしかないゲンドウ。 それを見て満足げに頷くと、ユイは何処へともなく消えていった。 後には、背中に鬱陶しいくらいの哀愁を背負ったゲンドウがぽつんと佇むだけだった―――――――――。 続く・・・ あとがき さて、Volume2です。 ・・・なんだかシリアスなのかギャグなのか分からなくなって来ました。 いいのかなぁ、こんなんで・・・。 ま、まあこれからもがんばりますので、一つよろしくお願いします。 integralでした♪

 

 

 


管理人のコメント
 integralさんからG-Impact!の第2話を頂いてしまいました。
 いよいよ我らがゲンちゃんの出撃です。
 そして早くもユイさん登場♪
 う〜む、読めば読むほど不思議な世界。
 続きが楽しみです。
 integralさん、ありがとうございました♪
 
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