どらこさんの
KISSの温度「H」Edition


 午後7時過ぎの 洞木家
 夕食も終わり みな くつろいでいる時間・・・の筈なのだが
 家事担当である 次女は、晩ご飯の後片付けをしていた
 流し台で聞こえる 水の音
 キュッ キュッと 小気味良い音は、洗った皿をフキンで 拭いているのだろう
 やがて 皿や鍋を 元通りに片づけると、少女は フゥ〜♪と ため息を洩らした
 まとめられた長い黒髪が フゥワリ と揺れて
 そばかすが 散らばった愛らしい顔が、満足げに 輝く
「 ・・・さてっと♪ 」
 もう一度気合を入れて 取り出したのは ・・・4つの弁当箱
 赤くて 2段になっているのは、長女 コダマのモノ
 白い小さなのは 自分の弁当箱
 ピンクのクマさんが 描かれているのは 末っ子 ノゾミ
 そして・・・
 黒い3段重ねは・・・とある少年の為に
 彼女が 密かに心を寄せている 同級生の男の子の為に・・・
 『 余りモノ 』 と 称して作っていた。
 
 事実は もはや 逆となっていた
 彼女が 一番 力を注いでいるのが その 黒い弁当箱
 姉や妹のは もはや2の次と化している
『 いつも すまんな。いいんちょ・・・』
 ちょっとだけ 紅くなった顔と そう言う 彼
 男くさいけど、どこか 不器用な 笑顔
 その笑顔を見る為 だけに、彼女は 丁寧に 調理する
 ・・・恋する 乙女の顔をして
 
「 ・・・さてっと♪」
 取り出した弁当箱を 次々と 開けていく
「 もぉ〜、お姉ちゃんたら〜 」
 赤い長女の弁当箱には 海苔を俵に巻いたご飯が 1/3程 残っていた
 ブツブツ言いながら ゴミ箱に捨てていく
 ご飯の量も おかずの量も キチンと 計算して 詰めているのだ
「 又、ダイエットなのかな? それとも・・・お菓子の食べ過ぎ?」
 多分 両方であろう
 休憩時間に 友人と ペチャクチャ 喋りながら 摘む スナックは、知らないうちに かなりの量となっていく
 食べ過ぎた分を カバーするには 昼飯を減らすしかない
 明日は 少し減らそう と 思った 少女は、 次のピンクの弁当箱を開いた
 食べ盛りなのだろう
 すっかり 空になっていたのだが・・・
 プラスチックの醤油注しの 影に隠れていたのは
 ・・・花型に飾られたニンジン
 思わず ため息を洩らす 少女だったが
 3つ入れたニンジンのうち、2つは 食べたようなので とりあえず 諦める
『 明日は ピーマンね。』
 なんとか 妹の好き嫌いを 無くそうとする 次女だった
 自分の弁当箱を開ける
 そこは いつも通りに からっぽ
 残すなんて もったいない と 感じる 彼女である
 最後に手にするのは 少年の黒い弁当箱
 優しく そっと 開けると
 見事なくらいに 空っぽ
 ご飯粒 1つたりとも 無い
「 もぅ・・・鈴原ったら・・・」
 クスクスと 微笑む
 しかし、自分の作った料理を きれいに 食べてくれるのは 嬉しいのだ
 丹精に 心を込めて 作った 弁当
 少年の為に 作った 料理
 それを 何も残さずに たいらげてくれる 彼
 彼女の顔が 見る見るうちに 優しくなっていく
 そして 流しの水槽に 漬け込もうとした瞬間
 何故か 少年の箸が ポロリッと こぼれた
 思わず 彼女は 掴み上げる
「 危ない、危ない・・・」
 そのまま 箸を 流しに入れようとしたのだが
 どういう訳か その手が 止まった
 そっと 後ろのリビングの方を見る
 妹は テレビのアニメに 夢中
 どうやら 姉は お風呂のようだ
 彼女は手にしていた箸を ゆっくりと 持ち上げた
 そして・・・
 ・・・そっと
 ・・・唇に・・・
 
 
 
 
 
 彼女のファーストキスは 醤油くさい焼き魚の味だった・・・
 
 
 
 
 ちゃん ちゃん(笑)
 ・・・って 事で ヒカリの 初 間接 キスです
 
 

seiriyu@e.jan.ne.jp

なおのコメント(^ー^)/

 彼を想う気持ち。誰も知らない、少女だけの、想い。
 甘酸っぱい、それでいて切ない気持ちが、心に残ります。
 これが本当に「G」Editionと同一の作者だろうか?(爆)
 (なんて失礼な(汗))


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