どらこさんの
KISSの温度「G」Edition 13th

 深夜の第3新東京市
 人が居ない筈の倉庫街
 だが
 いくつもの高らかな靴音が響く
 
 カンカンカン♪
 
 錯綜する男達の声
「 居たか?」
「 こっちには居ない!」
「 ちっ! どこに逃げやがった 」
 黒い影が走り回る
 切迫した声は ただ事ではない
 やがて影は 一人の男の元に集う
「 どうだ?」
「 申し訳ありません、少佐。 まだ見つかりません 」
「 せっかく ここまで追いつめたんだ。逃すな!」
「 はっ!」
 黒い影は一斉に 敬礼すると 再び 散らばっていく
 少佐と呼ばれた男は 傍らにたたずむ副官に向かって言う
「 ここで逃がす訳にはいかんのだ・・・戦略自衛隊の名にかけて 」
 
 
 狭く暗い路地
 数人の男達が 駆け足に進んでいく
 やがて四つ角に差し掛かると、二手に別れた
「 軍曹、2人連れて向こう側に! 残りは こっちだ!」
 しかし 彼等の進んだ道は行き止まりだった
 仕方なく元の路地に戻る途中、先程別れた方向から 短い悲鳴が聞こえてくる
「 ぎゃ!」
 思わず 立ち止まる
「 聞いたか?」
「 はい、中尉殿 」
 一斉に武器をかまえた
 今度は注意深く進む
 やがて 彼等の目は 路地に横たわっている男の影を捕らえた
 さっき別れたばかりの仲間
 急いで抱きかかえる
 ・・・意識がない
 不思議に外傷もない
「 一体、どうしたんだ?」
「 完全に失神してます・・・何にやられたんでしょう?」
「 奴か?しかし 軍曹は3人なんだぞ 」
 怪訝に思う彼等の耳が かすかな音を聞き分けた
 チャリ♪
 靴が石を踏む音
 瞬間 路地に武器を向けた
「 誰だ?」
 鋭い誰何の声
 緊張で兵士達の体が強ばる
 ゴクッ♪
 喉が鳴り、冷たい汗が背中を伝っていった
「 誰だ、軍曹か?」
 暗闇に再び叫んだ
 何やら不思議な圧迫感が襲ってくる
『 ・・・何だ、この感触は・・・』
 声にならない疑問が浮かんだ時
 路地の向こうの 深い闇が崩れて 一つの影が歩いてきた
 武器を握る手に力が入る
 彼等の脳裏に 原初の恐怖が伝わってきた
『 この奥に 何か 居る 』
『 触れてはいけない 禁じられた存在が・・・』
 脂っぽい汗が 全身を濡らしていく
 堪えきれずに 発砲しようとした瞬間
 ・・・闇が笑った
 
「 ・・・ふっ、問題ない 」
 
 そして立て続けに 男達の短い悲鳴が あがった
 ・・・まるで 何かに口を塞がれたかのように
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「 はぁ、はぁ、はぁ・・・」
 少女は荒い息を闇の中に吐いた
 額に流れる汗を拭う
 走りずめの足は、ガクガクと震えていた
 遠くで追手の走る音が聞こえる
 やがて ここにも来るだろう
「 ・・・これまでかな 」
 自嘲めいた ため息
 もう 逃げられないという絶望が 彼女を追いつめていく
 力尽きるように 壁にもたれた
 そのまま ずるずると腰を下ろす
 追いつめられて 疲れきっている少女
 数ヶ月前まで 彼女は 『霧島マナ』と 呼ばれていた
 
 そもそも 彼女は あの事件の後
 とある男によって 匿われて ひっそりとした田舎町に隠れ住んでいた
 戦自からの 逃亡者
 こそこそと 隠れる毎日
 覚悟していたとはいえ、14歳の少女には 過酷な日々だった
 ところが ある日 後見者たる男からの連絡が途絶える
 定期的な連絡が無くなり、いっさいの生活援助も止まった
 こうなると たちまち 彼女の生活が立ち行かなくなった
 働くとしても 彼女の年齢では 難しいモノがある
 無理をすれば 追手の目に止まるだろう
「 ・・・どうしちゃったんだろ、加持さん 」
 思案の結果、決死の思いで少女は 第3新東京に侵入した
 男の身を案じて
 そして自分の今後の生活の為に
 
 第3新東京市
 特務機関 ネルフの街
 それゆえに この街には 様々な目が張り巡らされている
 ネルフだけではない
 ゼーレの監視、世界各国の諜報部
 そして 当然 戦略自衛隊からも
 彼女は侵入早々 彼等に捕捉されて 人気のない倉庫街まで 追いつめられていたのだ
 
 
 この街に来れば 加持の消息も判るだろう
 そんな思惑の中に かすかな思い
『 ひょっとしたら あの少年に会えるかも・・・』
 傷つけてしまった少年
 騙してしまった 彼
 芦ノ湖での デート
 触れ合った唇
 温泉での温もり
 真っ赤に染まった少年の顔
 会える訳がない
 今更 合す顔もなかった
 それでも 心のすみに残る かすかな希望
『 ・・・シンジ 』
 今だに 少女の心に残る刺
 それは どこか甘い傷だった・・・
 
 
「 ん!?」
 ふと気がつくと 辺りはしんと静まり返っている
『 あれ? どうしたんだろ・・・』
 先程までの 喧騒が どこにも残ってない
 男達の声も音も まるで消えてしまったかのようだ
 ただ 虫の音だけが 夜に響いている
『 諦めたのかな?』
 そんな筈がない
 彼女は 脱走兵となっている
 それも 寝返ったスパイなのだ
 戦自の面子にかけても 諦めるとは 思えなかった
『 隠れるか、逃げるか?』
 どこかの倉庫の中に潜めば 後2,3日は隠れられるかもしれない
 しかし 彼女には 食料も水もなかった
 これでは 隠れても 自殺行為である
 上手く隠れても 結果は袋の鼠
 赤外線探知器でも使われたら お終いだった
 となると 残りは・・・
『 この隙に 別の場所に・・・』
 しかない
 幾分かの休息の後
 彼女は そろりそろりと歩き出す
 注意深く
 密やかに
 闇の中を
 
 
 
 ガクッ
 何かに躓いた
 声が出そうな口を 思わず押さえ
 彼女は体を屈めた
 躓いた原因
 それは・・・戦闘服の男だった
『 う、嘘・・・何で?』
 さっきまで 自分を追っていた兵士
 白目で 口から泡を吹いて倒れていた
 生きてはいるが しばらく 起きそうもない
 彼女にとって 幸運な事だが・・・
『 一体、どうして?』
 胸の中の疑問が膨れ上がる
 闇の中をよく見ると、何人もの兵士達が ゴロゴロと転がっていた
 手にしている武器を使った形跡さえない
 相手は訓練させた軍隊なのだ
 それが 抵抗したそぶりもなく、倒されている
 ゾクッ
 背中に恐怖が走る
 身を屈めたままで その場を後にしようと後ろづさる
 そして 振り向いた彼女の目前に
 黒い影が 立ちふさがっていた
 
「 ・・・誰?」
 震える口調
 影は 笑みを洩らした
「 ・・・ふっ 」
 闇に目が馴れる
 それに随い、影の正体が見えてきた
 男
 背の高い男だった
 顔面に光るモノがあるから 眼鏡かサングラスでもしているのだろう
 冷たい そしてどこか傲慢な態度
 そして 邪悪な笑い
 彼女の知っている存在だった
 あまり 良い印象のない男
 国連非公開組織 そのトップ
 ・・・総司令 碇 ゲンドウ
 あの少年の父親
 そして 彼女を一度は捕らえた男だった
 
 思わず 苦い顔になる
 目の前の男に 酷い目に合わされた
 息子である 彼をも 踏みにじった男
 正直 会いたくもない
 しかし その男から 声をかけられる
「 ・・・大変そうだな?」
「 ・・・」 無言で答えた
「 追われているのか?」
「 ・・・見ての通りです 」
 男は 少女を見て にやりっと笑う
「 ・・・助けてやろうか?」
 思いがけない言葉
 きつく撥ね付けようとした 時
 少女の頭に 一つの打算が動いた
 ・・・相手は ネルフの司令
 正直 頼りたくないが、その権力は絶大だ
 多分 戦自をも 凌駕するだろう
 上手く この男の庇護を受ける事が出来たら・・・
 その奥に隠れる 小さな願い
『 又、シンジと・・・』
 少女の頭の中で 冷たい計算と ちっぽけな希望が一致する
 
「 我が力・・・貸してやろうか?」
 ゴクッ
 唾を飲み込むと 彼女は答えた
「 はい、お願いします・・・」
 それが 悪魔との契約書になるとも知らずに・・・
 男は にやりっと微笑むと、ゆっくりと 少女に近寄った
 震える体を 必死に押さえる マナ
 そんな 彼女の肩を掴むと 唇を寄せる
 そして・・・
 
「 ふっ、問題ない・・・」
 
 
 
 
 
 
「 ・・・それで?」
 数時間後
 とある基地で 兵士が喚問を受けている
 ずらりっと目前に並ぶ 戦自の幹部達
 兵士は緊張しながら 自分の目にした光景を 説明した
「 はい、その・・・自分が気がつくと、ネルフの司令と あの女が・・・接吻しておりました!」
 最後は 自棄糞のように 叫んだ
「 間違いないか?」
「 はい、確かに 碇ゲンドウと 霧島マナであります!」
「 わかった。退室して宜しい 」
 兵士が立ち去ると、彼等は疲れた様な顔を見合わせる
「 あの二人、いつのまに 出来上がっていたとは・・・」
「 碇は あの 加持と 出来ていたのではないか?」
「 ふん、あの男のやる事だ。男だろうが 自分の子供ほどの女だろうが、構わんだろう 」
 苦々しく肯く
「 ところで その脱走兵は どうする?」
 肩の襟章に星が並んでいる男が 尋ねる
「 どうしょうもないだろ 」
 星が更に並んだ将軍が 吐き捨てるように答えた
「 今、ネルフを敵にする訳にもいかん。どうせ小娘だ。放っておけ!」
 
 
 こうして少女は 安全に過ごせる事になった
 彼女が 再び シンジのクラスに転校して 騒ぎを巻き起こすのは 別の話である・・・
 
 
 
 
 という事で13人目
 ちょっち 雰囲気を変えてみました(爆)
 
 
 

seiriyu@e.jan.ne.jp

なおのコメント(^ー^)/


 どらこさんから、13人目の「G」の被害者…いえいえ、救われた人のお話をいただきました。(笑)
 今回はサスペンス調で、またもや加持が出てくるのかと思ったら……マナちゃんでしたか。(汗) でも、マナちゃん……もしかして、初めてKISSに同意した被害者…ではないでしょうか?(汗)


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