どらこさんの
KISSの温度「G」Edition 8th

『 ねぇねぇ、ヒカリ。こんな噂 知ってる?』
『 なに、御姉ちゃん?』
『 あのね、最近 この街で ”悪魔”が出るらしいの
 何でも 願い事をかなえてくれるんだけど・・・その代わりにね・・・』
 
 
 
 
 高台にある公園
 街を見下ろせる 絶好のポイント
 当然、ベンチなんか 用意されている
 そんなベンチに、一人の少女が ぼんやり 座っていた
 制服から見ると どうやら 中学生
 長い黒髪を両端で束ね
 ソバカスを散りばめた 愛らしい顔立ちの 少女
 しかし、その顔は 何故か 憂いに満ちていた
「 ・・・はぁぁ〜 」
 深いため息を洩らした彼女の視線の先は、右に置かれたカバン
 その中にあるのは 2つの弁当箱
 一つは、彼女自身のモノ
 そして もう一つは・・・とある少年の為に
 少女のソレの3倍ほどもある弁当
『 余りモノ 』と 称して渡しているモノ
 今日も空っぽなのだが・・・
「 ・・・鈴原・・・」
 そっと つぶやいた
「 はぁぁぁ、なんで 私の思いが 伝わらないんだろ?」
 原因はわかっている
 確かに 彼自身の 鈍さ にもあるが
 最大たるモノは・・・彼女が 素直になれない事
 彼の前に出ると、どうしても 態度が キツクなってしまう
「 ・・・他人(ひと)の事、言えないよね・・・」
 ふと、頭によぎるのは 蒼い瞳の親友
 結局 自分達は 同じなんだな、と 納得せざるを得ない
 大きな息を吐くと、そのままうなだれた
 そんな彼女の周りを ある影が覆う
 視界が暗くなった事に気づいて ふと 頭を上げる・・・と
 そこには 妖しい男が佇んでいた
 
 背が高い
 スラリッとした長身は それだけで 威圧感がある
 顔の上半分を占めているのは 赤い眼鏡
 そのおかげで 男の瞳が よく わからなかった
 下半分を覆っているのは むさ苦しい ヒゲ
 その中で ポツンと 自己主張しているのは・・・ピンクの唇
 その唇が グニャリと 歪んだ
 
「 ・・・その願い・・・かなえてやろう・・・」
 
 
 
 その瞬間
 少女の脳裏に浮かんだのは、2日前の 姉との会話
『 ・・・その悪魔はね、真っ赤なサングラスをして ヒゲもじゃで、見上げるくらいに背が大きいんだって
 そして 願いを聞く代わりにね・・・』
 目の前の男を見る
 ・・・条件はあっていた
 ( そ、そんな・・・よくある バカ話だと 思ったのに・・・)
 口裂け女や人面犬
 まことしやかに 流れる 都市伝説 というモノは いつの世にもあるものだ
 いつの間にか 生まれて 消えていく たわいもない 噂
 しかし 今 ここにある 現実は・・・
 目の前の男は・・・悲しいが 本物だった
 姉の声が聞こえる
 
『 ・・・その代わりに キスするんだって 』
 
 
 
 足が ブルブル震える
 まるで接着したかのように、体がベンチから離れない
 ( 動け、動け、動け、動け!)
 必死に念じるが、少女の体は ピクリッ とも動かない
 ( 動いてよぉ、今 動かなきゃ・・・)
 恐怖で歪む瞳に、だんだん 大きくなっていく唇
 毒々しいピンクのソレは、プクッと丸く 拡大した
 視界一杯に広がる オヤヂの顔
 そして 男のヒゲが 少女の頬に触れた
 
「 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ 」
 
 
 
 
 
 
 バタンッ♪
 教室のドアが 勢いよく開かれる
 ギョッとする2人の少年
「 なんや、いいんちょうやないか?」
「 どうしたの、洞木さん?」
 彼等が見たのは・・・真っ青の顔をしている少女
 荒い息を吐いて その瞳は 宙を泳いでいた
 ・・・が
 ある少年の姿に ピタリと停止した
「 ・・・どないしたんや?」
 心配そうな声
 すると 少女の瞳から 大きな涙の雫が 次々とあふれる
「 すずはらぁぁぁぁ〜〜 」
 そして 少年の胸に 飛び込んだ
「なんや、なんや 」
 うろたえた彼だったが、やがて胸の中で泣きじゃくる少女の髪を優しく撫で始める
「 ・・・大丈夫や。大丈夫やで、いいんちょう・・・」
 
 
 
 
 
 結局
 彼等の関係は 『 恋人同士 』と呼べるモノに変化していた
「 いきなり 泣き出すんで びっくりしたで、いいんちょう・・・」
 なれそめを思い出して 真っ赤になる 純情なカップル
「 ・・・で、一体 あの時、何があったんや?」
 少女は首を振った
「 ・・・ごめん。よく憶えてないの 」
 確かに ショッキングな事があった
 だが、彼女の魂は 叫ぶ
『 思い出しては駄目!』
 少年は、うつむく彼女の肩を そっと抱く
「 まっ、ええわ♪ 」
 
 それを物陰から見ていた ヒゲオヤヂは 一言 つぶやいた
「 ・・・全ては 計画通りだ 」
 
 
 

seiriyu@e.jan.ne.jp

なおのコメント(^ー^)/

 結果的にうまく言ったとはいえ……イヤ過ぎる(爆)
 ヒカリちゃんの心に、心的外傷トラウマが残らないだろうか……(汗)
 
 このままでは、あの娘も「G」の魔の手に……(泣)
 だれか、退治できる勇気の在るヒトはいないのか……(汗)


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