どこらさんの
KISSの温度「」Edition


 ネルフの通路
 自動販売機の前で部下のひとりが飲み物を飲んでいた
 
 
「 やぁ、日向くん。今日はもう 上がりかね? 」
 
 私がそう声をかけると、彼は飲みかけの缶コーヒーを喉につまらせて振り返えると姿勢を正した
「 あっ、副司令! 」 ビシッ!
 
「 あぁ、別に敬礼はいらんよ 」
 
「 はぁ、しかし・・・」
 
 胸元には飛び散ったコーヒーの黒い染み、左手に缶を握ったまま敬礼されても、正直 苦笑しか出ないんだがね
 それでも、準軍事組織であるネルフ。彼の行動は間違ってはいないだろう
 
「 今日は大変だったな。ゆっくり休んでくれたまえ 」
 
 私が労いの言葉をかけても、若者はただ身体を硬くするだけ
 
「 はい、日向二尉。失礼させて頂きます!」
 
 彼はもう一度敬礼すると駆け足で去っていく
 角を曲がれば きっと 大きな息を吐いているだろう
 まぁ、下の者に煙たがれている事は知っていたが、役目上彼等にうるさく小言を言わなければ 組織として成り立つ事は難しい
 おかげで すっかり 嫌われ者だ
 ・・・ふむ、声をかけない方が良かったかな?
 
 自動販売機に自分のカードを認識させ 『緑茶』のボタンを押す
 ガコン と出てきた冷たい缶を手に取り、フタを外す
 かすかに薫る お茶の香り
 ふむ。やっぱり日本茶は直接煎れたモノの方が数段香りが良いな
 それでもわざわざ人に頼んで煎れてもらうのも煩わしい
 くいっと缶を傾けると喉を冷たいお茶もどきが通過していく
 ふぅ〜
 大きなため息をつくと 私は側にあったベンチに腰を降ろした
 
 
 ・・・疲れた
 突然の使徒の襲来
 今日も何とか勝つ事は出来た
 毎度、毎度 胃が痛くなる状況だったがな
 今頃皆 後始末や撤収に大騒ぎだろう
 私にしても 後で何枚も書類を書かなくてはならない
 おまけに 碇の雑用も残っている
 全く、年寄りをこき使いおって・・・
 
 
 もう、碇と一緒に働いて15年か
 過ぎて見ればあっという間だが、人生の三分の一は奴と過ごした計算になる
 ゼーレとの折衝、エヴァの建造、そして・・・ユイ君の消失
 振り返れば 様々な事があった
 一介の助教授だった あの頃が懐かしい
 それもこれも 碇の誘いに乗ったため
 
 ・・・総ては 『 計画 』の為
 
 おかけで何とか計画も進行している
 しかし 最近になって ふと思う
 
『 本当にこれでよかったのか? 』
 
 学者という人種はある意味 度し難いモノだ
『未知のモノ』 『真理』を追い求めるあまりに すべてを崩壊させてしまう時がある
 果たして、私のこの15年は これでよかったのだろうか
 人類の為 未来の為と言いながら、自分を誤魔化していたのではないだろうか
 使徒と戦う子供達の姿。とりわけ シンジ君の悲壮な顔を見ていると 決意が揺らぐ
 私の行動は 正しかったのだろうか
 15年前のあの日。すべての情報を全世界にぶちまけた方が良かったのではないだろうか
 若い頃の自分だったら 必ずそうした筈だ
 これが『成長』なのか
 年をとった私は『臆病』になっただけではなかったのか
 今更引き返す事など出来ないくせに、どこかに別の道を探している
 結局 私は・・・『卑怯者』なんだろう
 やり直す事など出来る訳がないのを 知っているのに・・・
 
 
 瞳を閉じると 脳裏にいろいろな情景が浮かんでくる
 
『真実と事実』 『呪われた補完計画 』そしてこれからの『未来』
 身体がなにかに押しつぶされそうだ
 
 ・・・疲れた
 
 ・・・とても疲れた
 
 ・・・身体より 『こころ』が疲れた
 
 今の私は精神が擦り切れて磨耗している
 
 こうして座っていると、自分がベンチと同化してしまいそうだ
 
 ・・・助けてくれ
 
 ・・・誰か私を助けてくれ
 
 ・・・誰か私を救ってくれ
 
 必死に救いを求める
 
 閉じた目の上に浮かぶのは・・・
 
 まだうら若い女性の姿だった
 
 
「 ・・・ユイ君 」
 
 
 
 
 ちゅっ
 
 
 
 
 
 その瞬間
 
 唇に感じた温かい感触
 
 心が和むふれあい
 
 恐る恐る眼を開く私が見たモノは・・・
 
 
 
 
 
 モップを担いだ掃除のおばさん
 
 ・・・というより 『お婆ちゃん』
 
 
 
 
「 な、な、な、な・・・」
 あまりの出来事に言葉を失っていると
 目の前の老婆は皺だらけの顔を歪ませて にやりっ と笑った
 
「 ふっふ。わだし アンタの事 ずっと狙ってたんだわ〜 」
 
 そう言えば経費削減の為に一部人員を変えるといった事を 碇が言っていたな・・・
 
「 老人組合の紹介でこげな場所来てみだら、居るのは小便臭い若いのばっかし。まさか孫みたいのに手出す訳にもいがなくで しょんぼりしでだら こんなナイスミドルが居たとはなぁ〜〜 」
 
 どう見ても、私より10歳は上だ。下手すると私の母親より上かもしれん
 多分黒く染めたであろう頭には頭巾を被り、両手は秘事までるゴム手長。紺の作業着に白い長靴
 典型的な『掃除のお婆ちゃん』
 
「 ん、アンタ 疲れているんだろ。わだしが慰めでやっから こっちゃ 来い 」
 
 ゴム手長がむんずと私の制服を掴む
 くっ、本当に老婆か?
 このもの凄い力は一体何だ
 
「 女と産まれて78年。男の喜ばせ方はよ〜く知っているから、楽しませてやっぞ♪ 」
 
 皺だらけの癖に何故か真っ赤な唇が淫靡に歪む
 自動販売機コーナーの隣にある便所に 『 只今 清掃中 』の札を掲げると
 そのまま私を引きずっていく
 
「 うわっ、うわ〜、離してくれぇ〜〜 」
 
「 ん?。あの髭オヤジとはちゃんと話がついていっぞ。給金の半分の代わりだって♪」
 
「 いっ、碇〜〜!私を売ったなぁ〜〜〜 」
 
「 んだ。約束だっから キミコ婆とトシエ婆も呼ばんとならないなぁ 」
 
「 だ、だ、誰か 助けてくれぇぇ〜〜〜 」
 
「 そんなに嫌がらなくでも・・・一生 忘れられない思いにしてやっぞ 」
 
 
 
 
 そして 私は便所の中で三人の老婆に・・・
 
 
 もう、後悔はしない
 私は あの『計画』を推し進めるだけだ
 
 
 
 
「 おっ、冬ちゃん。又 どうだ?」
 
「 止めてくれぇぇぇ〜〜〜 」
 
「 遠慮しなくてもいいからよぉ♪ 」
 
 

 

 

 

 

 


管理人のコメント

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 はっ?
 す、すいません。
 あまりの展開に意識が飛んでしまったようです。(笑)
 
 すごい、凄すぎる。
 ある意味、『G』に匹敵するかも……
 
 匹敵してもイヤだけれども。(爆)
 
 なんとコメントをして良いものやら。(笑)
 
 よし。
 ここは一つ。
 
 
 
 冬月先生、お幸せに♪
 
 
 
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