ゲンドウで 『うぐぅ

written by どらこ

 

 
 
「 ・・・又、雪か・・・」
 歩き出した足を止め、男は空を見上げる
 チラチラと降り出した粉雪
 既にこの街・・・第3新東京は 真っ白になっているというのに・・・
「 ・・・今夜も冷えるな 」
 男はそうつぶやくと 再び歩き出す
 彼の息子が待っている マンションまで
「 ・・・シンジに合うのも 久しぶりだ・・・」
 
 
 
 
 既に使徒との戦いから数年後
 世界は再び『四季』を取り戻した
 元々 長野の山中・・・セカンド・インパクト以前には豪雪地帯・・・に造られた 第3新東京市
 季節が帰ってくれば 街が雪で覆われるのは 予想出来た事である
 しかし、『冬』を忘れてしまっていたこの日本では、まだまだ対策に不備があったようで
 雪の襲来に 住民は アタフタしていた
 50cmも積もった雪の中、あちこちで滑ったり 転ぶ人影が見える
 除雪車がなんとか 雪を道路上から かき出す
 しかし そのよけた雪が 逆に 歩行者の通行を妨げていたりする
 いたる所に貯まった雪を、住民がため息混じりにかき別けていた
 歩道は、人が踏みしめて作った細い道となり
 逆に踏みしめられたおかげで、雪は圧縮されて ツルツルになっている
 一歩 足を踏み違えれば 膝下まで雪の中に埋まり
 ぼやきながらも その足を持ち上げる事になっていた
 
 そんな街の中
 ゲンドウはひとりで歩いていた
 
 実は2年ぶりの帰国であった
 ゼーレが消滅したとはいえ・・・いや、それゆえに ネルフの存在意義は大きなモノになっていた
 そのトップであるゲンドウも 又 活動場所を全世界に移さねばならず
 とりあえず 拠点をアメリカのニューヨークに移動されると 世界各国を飛び回る事になった
 なんとか 世界が落ち着きを取り戻したのは つい 最近の事である
 それで 休暇を兼ねて 日本に戻ってきたのだった
 日本に着いて 早々 疎遠になってしまった 息子に連絡
 そして 久しぶりの再会をする為に この街にやってきた
 ・・・家族の絆を より戻す為に
 
 
 ザクッ、ザクッ
 靴の裏が 雪をかむ
 この大雪の所為で 地上の交通機関は すっかりと 麻痺
 今では 一般市民として暮らす シンジの家に、まさか 軍用ヘリで乗り込む訳にもいかず
 彼は地下鉄を降りると 徒歩となった
 歩きながら ゲンドウは ふと 思い付く
『 むっ、何か 手土産を持っていった方が良いかな?』
 久しぶりに合う 息子
 孫娘も産まれてから もう 一年経つ筈だ
 何か 食べるモノでも 持参する方が良いだろう
『・・・となると、暖かいモノの方が良いな・・・』
 辺りを見回すと 丁度いい店が 一軒
 それは・・・屋台のたい焼き屋であった
 
『 大矢 キイチ 』
 この店の主人である
 たい焼き 焼いて15年のベテラン
 密かに自分の腕に 自信を持っていた
 さて そんな彼の今日の仕事は・・・雪かきから始まっていた
 なんせ 客商売
 お客さんの出入りする場所を確保せねばならず
 スコップ片手に 奮戦中
 顔面汗だらけとなり、身体から かすかな 湯気が昇っていた
 そんな彼の耳に ある男の声が届く
「 ・・・すまんが、たい焼き 貰おうか・・・」
 ・・・お客だ
「 はい、お待ちを 」
 愛想よく返事をすると 顔を上げた
 そこに居たのは サングラスの怪しいヒゲ親父
『 ・・・うっ 』
 内心たじろぎながらも、ニコヤカに応対する
「 お幾つでしょうか?」
 そのヒゲは屋台の中を見渡した
「・・・そこにあるだけ、全部 」
 前もって 来客用に作ってあった 10個程のたい焼きに 指差す
「 はい、ありがとうございます 」
 微笑みながらも 男の顔を見た主人は 確信した
 
『 ・・・悪人顔だ。絶対 ただもの じゃない 』
 
 
 
 幸か 不幸か ゲンドウの顔は世間には知られてない
 ただでさえ ネルフは『 裏でなにやっているか 判らない 怪しげな組織 』との認識をされている
 そんな中で 組織のトップとして ゲンドウが顔を出せば、より イメージが悪くなるだけ
 冬月達 ネルフ幹部の努力の結果、ネルフ総司令の素顔は謎に包まれているのが現状であった
 
 
 一方、店の主人が神経質になるのにも 理由があった
 この一年、何故か 『食い逃げ』が多発しているのである
 下は高校生ぐらいのから 上は30過ぎの立派な大人まで
 変なリックを背負ったり、『うぐぅ』とかの掛け声をする 男達が ふと 隙を見せたりすると 金も払わずに 逃げるのだ
 特に 8月と12月に それは集中した
 ・・・勿論、一般人の彼にとって それが何を意味しているのか 判るばずもない
 まさか 前世紀に流行ったアダルトゲームが つい最近 リバイバルされた事など・・・
 
 ゲンドウの顔を見つめながら 彼はスコップを握り締める
『 ・・・この野郎、ひょっとして・・・』
 
 
「 はい、1200円になります 」
 財布を取り出したゲンドウの動きが ふと 止まる
『・・・しまった、足りない 』
 財布の中にある日本円は数百円ほど
 なんせ 帰国したばかり
 アメリカドルなら10万ほどあるのだが、さすがに 受け取らないだろう
「 ・・・すまかんが、『カード』で良いか?」
 クレジットカードを差し出す
 しかし、それは ネルフ高官限定の スペシャルカード
 当然 世間に出回ってない
「・・・お客さん、ふざけてるんですか?」
 カードを投げ返すと なにやら 剣呑な声。目がキュッと細くなる
「 い、いやだな・・・」
 財布の中身から あるはずのない 円を探し出そうとして 焦る ゲンドウ
 足元が滑り、転びそうになる
 ついでに 致命的な 一言
 
「 うぐぅ」
 
 主人の目の前で ヒゲが消える
 そして あの言葉
「うぐぅ」
『 やっぱりだ! この食い逃げ野郎 』
 スコップを握り締め、表に飛び出すと あの男は まだ そこに居る
 彼はスコップを大きく振り上げた
「 逃がすもんかっ!」
 
 ヒュンッ
 風斬る音と共に ゲンドウの顔の脇を凶器が通り過ぎる
「 ま、待てっ!」
「 うるせいっ! さてはお前が今までの食い逃げ野郎どもの親玉だな、覚悟しろ!」
 すっかり 頭に血がのぼる 主人
 無理もない
 1000円の損失を補うには 1000円の売り上げでは駄目なのだ。その数倍売り上げて やっと埋める事になるのである
 彼にとってこの一年は最悪だったのだ
 おまけに 馴れない雪かきで ストレスが溜まっていた
 我を失ってしまった主人は 再び 凶器を振りかざした
「 待てぇ〜、この野郎!」
 
 ゲンドウは走る
 最早 話しても無駄
 ツルツルの雪道を転びながら 彼は逃げた
 すぐ後ろには スコップを振り回す たい焼き屋の主人
「 ヒィーー 」
「 待ちやがれっ!」
 雪に足を取られ、滑り転びながら 必死で走った
 幸いな事に追手は スコップという荷物があり、更にそれを振り回しているおかげで さほど早く走れない
 何度か 身体のすぐ後ろを スコップが飛来するというアクシデントが起きたが、やかで2人の距離は開いていった
 やがて 曲がり角
 そのすぐ側にあった 細い路地の中に ゲンドウは逃げ込む
 店の主人は どうやら気づかなかったらしく、そのまま通り過ぎた
「 はぁ、はぁ、助かった・・・」
 息荒く よろめく
 足元は深い雪
 所々 踏んだ跡で滑りやすくなっていた
 ツルッ♪
 そして・・・
 
 ゴチンッ!
 
 路地の中に 鈍い音が響く
 
 奥には 頭から血をダラダラと流し、雪の上に倒れている ゲンドウの姿があった
「 うぐぅ 」
 そして身体が2,3度 痙攣したかと思うと そのまま 動きを止める
 
 男の身体は 次第に白い雪に 覆われていった・・・
 
 なにもかも 埋め尽くす 純白の雪が・・・
 
 
 
 
 
 
 ・・・雪が降っていた
 
 ・・・路地の中を、真っ白い結晶が埋め尽くしていた
 
 ・・・2年ぶりに訪れた白く霞む街で
 
 ・・・今も降り続ける雪の中で
 
 ・・・彼はひとりの男と出会った
 
 ・・・”思い出”に環る物語−−−
 
 
 
 BGM<Kanon (笑)
 
 
 
 
 
 
 


管理人のコメント
 
 ううっ。ええ、話や。
 思わず『KANON』を思い出してしまいます。(ToT)
 
 ん?(・。・)〃
 と、いうことは……ヤレ?(笑)
 
 違っ!(笑)
 
 しかし、『KANON』をこう持ってきましたか。
 タイヤキのおぢさんも、さんざんやられて、参っていたのでしょう。
 しかも、ゲンドウ、悪人にするにはこれほどうってつけの面構えの人はいないでしょうから。(笑)
 でも、一体ダレがタイヤキ、盗むんだ?(汗)
 一読して、爆笑してしまいました。(^^;
 
 どらこさん、ありがとうございます。m(_ _)m
 
 
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