キスの温度 X’mas Edition


















「浮気なんかしたら殺すからね」


「そんな事するはずないだろ?」


アスカは目に涙を浮かべながらも、強がって僕を送り出してくれた。

アメリカの高校との交換留学。
何で僕が選ばれたのか分からないけど、いい経験だと思って僕は快く承諾。

でもアスカは・・


『アタシも一緒に行く!』


と強硬に主張して周囲を困らせた。
出会って以来ずっと一緒にいた僕達。

一緒にいるのが当たり前になり、例え二ヶ月でも離れて暮らすなど考えられない
ほどに僕達の関係は深くなっていた。

それでも僕は行く・・アメリカへ。

一度、アスカから離れてみるのもいいかもしれない。
そして、彼女への思いを再確認するのも・・


「じゃあ、行ってくるよ・・・アスカ」


「いってらっしゃい、シンジ」







二ヶ月後・・


着陸態勢に入った旅客機から見下ろす夜景は美しい。
人の英知と美意識が一体化したような風景は、闇を征服した喜びに満ちあふれているかのようだ。

三年前のあの時・・

一歩間違えればこのような風景も全て消え去っていた。
でも僕は生きてここにいるし、人の世も変わらずに日々の営みを続け進化も続くのだろう。

生きるために争い、誇りのために争い、欲のために争う・・・人は変わらない。
あれは、人が争いを放棄する一つのチャンスだったのかもしれない。
生物の頂点に上り詰めて尚、争いをやめることの出来ない人。

だけど全てを託された僕は、そんな事よりもアスカと生きることを望んだ。

争いは確かに破壊と哀しみをもたらす。
でもその後に、創造と喜びも生み出す。

人は生まれながらに個性があって、能力にも差があって・・
決して平等に生まれてくるわけじゃない。
だからこそ争いも生じる。

大袈裟に言えば、それが世の理・・仏教では無常って言うんだったかな?

難しい事は僕には分からないけど、この世から争いが無くなるなんてまずはないと思う。
人が人である限り・・

今の僕の立場から言っても、いずれ本当の戦場に出るのかもしれない。

その時になっても僕は、躊躇わずに戦う気持ちでいる。
それが、世界を再生した僕に負わされた責任でもあるから。

僕に逃げることは許されないんだ。


そう・・
これから空港のロビーで起こることからさえも。







アイツが交換留学でアメリカに旅立って二ヶ月・・

今日、アイツは帰ってくる。
クリスマスイブに帰ってくるなんて出来すぎ。

ミサトかお義父様のお節介かとも思うけど、そんな事はどうでもいい。
今は、シンジと会える事だけが嬉しい。


アイツがいなくなってから・・
毎日のようにメールして、三日に一回は電話して、一週間に一回は泣いた。

この心の渇きを癒すなんて誰にも出来ない。
シンジ以外無理・・

付き合ってから初めて経験した別離。

本当の別れじゃないけど、シンジと離ればなれに暮らすのがこんなに苦痛だなんて
思いもよらなかった。

思えば、会ってからずっと一緒にいたんだよね・・アタシ達。
それが当たり前になってたから、こんなに辛く感じるのかもしれない。

一度離れてみるのもいいってアンタが言ったとき・・
アタシ、アンタを問いつめたわね。

愛が冷めたんじゃないかって。

でもアンタが顔を真っ赤にして怒った時、それが間違いだって気付いたの。
あんなに怒ったシンジって初めて見た。


夫が出張に行った新妻って、こんな心境なのかしら・・

こんな思いなんてしたくない。
アタシはいつもシンジの傍にいたい。
いつも、アイツを感じていたい。

シンジだって、そう思ってるはず。

何しろアタシは、世界と天秤に掛けられたほどの女。
自惚れてもいいわよね。


アタシはアイツに愛されている。
世界で一番・・なんて、陳腐な言葉じゃ表現しきれないくらいに。

だからアタシは、いつでもどこでもそれに応えてあげるの。

それはアタシに課せられた義務。
誰が何と言おうと、アタシは義務を果たす。

場所なんか、関係ない・・







「アスカ!」


今や金髪に染めた髪など珍しくもないこの地でも、彼女の髪の毛は一目で分かる。
いや、髪の毛だけじゃなくて・・

彼女の存在そのものが、僕には分かる。

例えどんな人混みの中からでも、彼女を最初に見つけだすのは僕だ。
誰にだって負けない。


「シンジ!」


どんなに遠くからでも、アタシはアイツを見つけてみせる。

歩く姿?・・癖?

違う、シンジがいるってだけで分かるの。
アタシとシンジは、体は離れていてもどこかが繋がってる。

非常識と言われようと、アタシはそう確信してる。


「会いたかった!」


ここがどこであるかなんて、忘れてしまった。

アスカの顔を見たら、思わず抱きしめてた。
人前でのキスや抱擁を嫌がってた自分が信じられない。

僕はこんなにも、アスカが好きだったんだ。


「あ・・・」


声が出ない。

言いたかったことが山ほどあったのに。
すぐさまキスして、またアイツを困らせてやろうと思ったのに。

ただ涙が出るばかり・・

アタシはこんなに、シンジが好きだったんだ。




アスカの涙を見たら、その唇を奪わずにはいられなかった。
それ以外、考えられなかった・・


アイツが唇をつけた瞬間、アタシの体は官能に震えた。
すぐにでも、シンジに抱かれたいと思った。


「珍しく強引ね、シンジ」


「開き直っただけさ」


「いつもそうならいいのに」


「じゃあ、これからはそうしようかな」


「調子に乗るんじゃないの、バカシンジ!」


「いて!」




アスカ、君と会えて良かった。


シンジ、アンタとアタシの出会いは必然よ。




「アスカ」


「何?」


「愛してるよ」


「アタシも・・愛してる」

 

 

 

 


管理人のコメント
 でらさんからクリスマス記念に、『KISSの温度 X'mas Edition』を頂きました。
 ありがとうございますですぅ♪
 
 テーマはシリアスですが、なんともいえない暖かさを感じますね。
 短いながらも『エヴァンゲリオン』のエッセンスがぎゅっと凝縮されたような作品。
 すばらしいです。
 
 シンジ君とアスカさんのシアワセを祈って。
 メリー・クリスマス♪
 
 この作品を読んでいただいたみなさま。
 のあなたの気持ちを、メールにしたためてみませんか?
 みなさまの感想こそ物書きの力の源です。

 でらさんのメールアドレスは dla@nifty.comです。

 さあ、じゃんじゃんメールを送ろう!

△INDEX