キスの温度 K Edition













真実の追求・・

そんな青臭い夢は、あの日に潰えた。


自分の欲望に従った訳じゃない。
全ては、愛する女のため。

セカンドインパクトで受けた心の傷を引きづり、父の面影を忘れられない葛城。
その彼女を少しでも助けたくて、俺は敢えて危険な道に踏み込んだ。

結末は粛正。

だがすんでのところで命だけは助かり、俺はいま生き恥を晒している。


これも一つの罰なのかもしれない。

一時は俺を心の支えとしていたアスカを裏切り、兄と慕ってくれたシンジ君をも裏切った
俺に対する罰。


全てを知り尽くした大人のようにふるまい、事あるたびに説教した俺を二人は信頼してくれた。

だが実際俺のやった事と言えば、戦場からの逃避と三重スパイという愚行。
とても人に説教できるような人間じゃない。
それどころか、子供を守るという大人としての社会的責任をも放棄した人間。

俺はあの子達より葛城を選んだ。

ところが・・


『僕達よりミサトさんを選んだ加持さんの気持ち、今なら分かる気がします』


『加持さんに頼ろうとしたアタシが間違ってたのよ。
本当に頼りたかった人は、もっと身近にいたのに・・』



二人は誰の助けも借りず自分達の力だけで全てを乗り越え、人生のパートナーを手にした。

そして彼らは、誰にも恨み言一つ言わない。
あれほど大人達に利用されながら、精神崩壊の瀬戸際にまで追い込まれながら・・

あの二人は全てを受け容れたのだ。


俺は自分が恥ずかしい。
己の都合を最優先させていた自分が・・

この償いはしなくてはならない。
それがどんな形であろうと。











「で、どうなんだ?シンジ君とは。
うまくいってるのか?アスカ」


「当たり前じゃない。
ミサトから何を聞いてるの?」


俺には、この二人の幸せを守る責任と義務がある。
だからこうして、二人の様子を窺いに遊びに来たりもする。

しかしアスカのやつ、綺麗になったな・・


「そりゃ良かった。
君達の幸せは俺の幸せでもある。
いや、俺とミサトの幸せ・・・かな」


我ながらくさい台詞だとは思うが、これが俺の本心。
二人の幸せのためなら、俺は命さえ惜しくない。

特にアスカ、君のためなら。

しかし・・
こんなに綺麗になるなら、もう少し対応を考えるんだったかな。
ミサトも美形だが、現実問題これからは衰えるばかり。
それに引き替えアスカは・・

ははは、何を考えてるんだ俺は。

俺が愛するのはミサト唯一人。
たまに寄り道はするが、それは単なる遊び。
男としての本能の発露。


ん?本能の発露・・・


本気でなければいいじゃないか。
アスカだって、シンジ君にばれなければ浮気の一つや二つ・・

そうさ、これも一つの幸せの形さ!

お互いが肉体的に満足感を得るんだ。
精神的な結びつきは別にしても!

いくらシンジ君が強くなったといっても、女の扱いなら俺の方が上だ。
その豊満な肉体を満足させてやるぞアスカ!


「ところで、シンジ君遅いな。
まだネルフかい?」


「ええ、今日は日向さんの講習です。
もうじき帰ってくると思うけど・・」


シンジ君は幹部候補としての専門教育を受けている。
連日ご苦労な事だ。

ミサトの話によると飲み込みも早いようだし、順調にいけば将来は間違いなく
ネルフをしょって立つ人物になるだろう。

だが、その疲れた体でアスカを満足させているとは思えん。

ふっ、安心しろシンジ君。
そっちはこの俺が責任を持って面倒見てやる。

これも君達の幸せを思ってのこと・・悪く思うな。


「アスカ、これから話すことを誤解しないで聞いてくれ。
これは真面目な話なんだ」


「何ですか?急にあらたまって・・」


「君とシンジ君が深く愛し合っているのは俺もよく理解している。
だが体は別だろう、シンジ君に不満があるんじゃないか?
君達の間に割り込むつもりはない。俺もミサトを愛しているしな。
だが肉体的な欲求不満があったら遠慮無く俺に相談するんだ。
俺はいつでもいいんだぜ」


「・・・・・」


ほら見ろ図星だ。
アスカはその若い体を持て余してる。

さあアスカ、俺と官能の世界に


「・・・加持さん、バカ?」


なに?俺がバカだと。
どういう事だ!


「本当にミサトから何も聞いてないのね。
アタシとシンジの間にそういった問題は一切存在しないの。
逆にアタシが休ませてもらいたいくらいよ」


「アスカ・・俺の前で気を張る必要はないんだ。
素直に事実を認めることも必要だぞ」


そうさ、アスカは恥ずかしがっているだけさ。
強引に抱いてしまえばすぐに・・


「何やってるんです?加持さん」


シ、シシシシシシ、シンジ君!!

な、なぜここに・・

はっ、そうだ!じきに帰ってくるってアスカが言ってたっけ。
すっかり忘れてた!!

ま、まずい!!

今のシンジ君は俺ではとても歯が立たない。
場合によっては死ぬぞ!


「加持さんが来てるって言うから驚かせようと思って密かに入ってきたんですが・・
アスカを口説くなんていい度胸ですね」


「シンジ、ダメよ!」


やっぱりアスカは優しい子だ。
俺を庇ってくれるのか、嬉しいぞ。


「殺人はいけないわ・・殺さなければいいんだけど」


なに〜〜〜!!

そ、そ、そういうことなのか。
君って子は・・


「よく分かったよアスカ。
さて加持さん、あなたには選択肢が二つあります。
床とキスするのと僕の拳とキスするのと・・・どちらを選びますか?」


「ど、どっちも遠慮したいんだが・・」


「却下、僕の独断ですが床とキスしてもらいます。
一応あなたもミサトさんの婚約者ですから、顔に傷つけるのは勘弁してあげましょう」


「ま、待ってくれ、話せば分かる!
俺はお互いの幸せを思ってだな」


「問答無用!!」









ゆっくりと沈んでいく自分の体。
そして冷たく堅いフローリングの感触を、俺は唇で味わう・・

そこで俺は思う。




ミサト・・・

浮気はもうやめるよ。

 


管理人のコメント
 でらさんから5つめのKISS、加持さんバージョンを頂きました。
 二人を見守るはずの加持が……、あれあれ?
 浮気の癖は直っていないみたいです。(^^;
 
 KISSはKISSでも床にKISS。
 シンジ君、いつの間にか立派になって……(T-T)
 
 でらさん、ありがとうございました♪
 
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